雷鳴は光り轟く、仲間と共に   作:あーくわん

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お待たせしました


第35話 狂気の代償

「本当にお前達は変わってしまったのか……」

 

 

 息を切らしながら佇む佐久間と源田に俺は問いかける。返事はない。あるのは途切れ途切れの息と噴き出す汗。

 皇帝ペンギン1号とビーストファング……強大なパワーと引き換えに1回使うだけでここまで身体に負担が掛かる。それゆえに禁断の技とされていたんだ。

 それをあの男(影山)は分かっていないはずがない。それなのに、それなのにヤツは2人にこの技を使わせた。

 佐久間、源田……何故なんだ? 

 

 

「鬼道、自由に動いてくれ。他のことは俺達に任せてさ」

「すまない一之瀬、皆……」

 

 

 雷門の皆には迷惑を掛けてしまう。ならば必ずそれに報いなければならない。

 この試合に勝って、影山を倒して必ず2人を助ける。それしかない。

 しかし、どうすれば源田にビーストファングを使わせずに点を取れる……

 

 

 "相手に反応する間も与えなければ良いんだよ"

 

 

 ふと、その言葉が頭の中に浮かぶ。

 そうだ。その通りだ。ヤツは……加賀美はそんなことを言っていた。そして加賀美がいない今、その芸当が出来るのは……

 

 

「吹雪」

「んあ?」

 

 

 吹雪に作戦を告げる。それを実行するためには染岡の力も必要であるため、染岡にも話をする。

 

 

「なるほどな。いいぜ、乗ってやるよ!」

「へっ、加賀美みたいなこと言いやがるじゃねぇか」

「実際、あいつの知恵だからな」

 

 

 そんな軽口を交わしてポジションに着き直す。今は加賀美との思い出に耽っている暇はない。

 

 

『さあ後半開始だ!』

 

 

 ホイッスルが鳴り響くと同時に、吹雪がボールを持って駆け上がる。

 

 

「そう簡単にさせるかよ!!」

「どけェェェェェェェェ!!」

 

 

 不動のスライディングなどお構い無しに吹雪は突き進む。ボールを取られこそしなかったが、ボールは弾かれてしまう。

 だがそのルーズボールを後ろから上がってきていた染岡が拾う。

 

 

「よく拾ったじゃねぇか!」

「ふん!」

 

 

 現雷門のツートップが颯爽とゴールへと向かう。DFが染岡の行く手を阻むが、不動がシュートを撃たせるように指示する。あの男、源田のことを微塵も気にかけていない……! 

 だが状況は深刻だ。シュートチャンスを作ったとして、シュートを撃てば源田はビーストファングを使う。

 が、不意にサイドから上がる影に目がいった。吹雪だ。

 よし、作戦通り……

 

 

ワイバーンクラッシュ!! 

 

 

 蒼の翼竜を携えたボールが一直線へゴールへと向かっていく。

 源田の正面、もちろんそれを止めるべく源田は構えを摂る。だが、その直前でボールの軌道は大きく逸れ、サイドから上がってきた吹雪へ。

 

 

ビースト──

「遅せぇよ!! エターナルブリザード……ラァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 吹き荒れるブリザード。

 吹雪に蹴りを叩き込まれたボールは源田の反応を許さずしてゴールネットを揺らす。

 予想だにしていなかったのだろう。これには源田も不動も唖然としている。

 

 

「すげえ……本当にビーストファングを出させずにゴールを決めちまいやがった!!」

「あの連携……使えるんじゃないか?」

「名付けて……ワイバーンブリザード!」

 

 

 吹雪と染岡。

 最初は水と油のような関係だったが……よくここまで連携が取れるようになったものだ。

 視線を向けると拳を突き合わせている。よし、この方法ならば……

 

 

「まだ同点だ!! もう一点取って勝つぞ!」

「「おう!!」」

 

 

 真帝国のキックオフから試合再開。すぐさま染岡がボールを奪い、吹雪と共に駆け上がる。

 

 

「もう一度決めてやるぜ!」

「喰らえェェェェ!!」

 

 

 不動のスライディングが染岡の脚を捉える。

 染岡は大きく宙を舞い、二、三回転がった後にその場で脚を押さえてうずくまる。

 ホイッスルが鳴り響き、審判が高く掲げたのは"イエローカード"

 

 

「染岡ァァァ!!」

「ぐぅぅぅ…………!」

 

 

 急いで染岡の元に駆け寄る。今の入り方は……かなり不味い。

 

 

「悪い悪い、こんなのも避けられないとは思わなくてよ」

「テメェ……今のわざとだろ!?」

 

 

 吹雪が不動に食ってかかるが、染岡がそれを制する。

 

 

「殴ったらお前が退場になるぞ……吹雪!!」

「そうだ……抑えろ」

 

 

 気持ちは分かる。

 俺も今すぐこいつに殴り掛かりたい。だが……この場において取るべき行動はそうではない。

 俺は冷静に立ち回らなければならない。

 仮にも俺はこのチームの司令塔。ここで崩れるわけにはいかない。

 

 吹雪と俺で染岡をベンチまで運び、木野の応急処置を受けさせる。

 

 

「これ以上は無理ね……」

「そっか……目金! 交代だ!」

「すみません! まだ脚の怪我が治りきっていません!」

 

 

 脚の怪我。

 漫遊寺で壁山の下敷きになった際に負った怪我だろう。

 しかし、このままでは染岡の交代先が……

 

 

「交代はなしだ……!」

「染岡!? 無理はするな!」

 

 

 立ち上がりよろける染岡の肩を支える円堂。

 額に汗を滲ませつつも、円堂の肩を掴み返し、必死に自分をピッチに残すように頼む染岡。

 ここまで来るとお願いと言うよりはもはや懇願。

 続行不可を言い渡されようと、周囲に止められようと、この男は止まるつもりはないだろう。

 しかし、染岡はこのチームの大事なストライカーの1人。吹雪の力を疑う訳では無い。だが、染岡が欠けるということは攻撃力の低下に直結するのだ。

 ……加賀美に豪炎寺、あの2人がいれば話は別だが。

 

 

 いけないな、ないものねだりをした所で何も変わらない。

 俺も染岡を説得しようと声を出しかけたその時。

 

 

「影山なんかに……負けたくねえんだよ!!」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、身体を銃弾で撃ち抜かれるような衝撃が走った。

 こんなことになったのは、俺の影山への大きすぎる怒り故のことだと決め込んでいた。

 しかし、ヤツにたいして怒りを覚えていたのは俺だけではなかったのだ。

 染岡もまた、俺と同じように影山を倒したいと、こんな所で負けたくないと切望している。

 そんな男の意志を遮ることは……俺には出来なかった。

 

 

「……円堂、染岡を続投しよう」

「鬼道……? でも」

「いいんじゃねえの? その分俺が動いてやらあ……アンタの作戦に乗ってやったんだ! それくらいはいいだろ? 監督」

 

 

 吹雪が監督に声を投げかける。

 監督は何も言わない。ただ頷いた。

 

 

「鬼道、吹雪……すまねえ」

「気にするな……だが、無理だと思ったらすぐに退け。お前も佐久間や源田と同じ大切な仲間なんだ」

「……おう!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「野蛮だねえ……まあ、邪魔者の排除には1番効果的だけど。ねえ? ネビュラ……」

 

 

 不動が染岡に怪我をさせたのを上から見てそう述べたグラン。

 隣にいたネビュラに同意を求めて視線を送る。

 その視線の先にいたネビュラは、立ち上がってグラウンドの方を見下ろしていた。

 機械のせいで目元が隠れているネビュラだが、それ以外の情報からグランはネビュラが置かれている状況を察知した。

 "怒り"だ。

 

 

「……ネビュラ、どうしたんだい?」

「……分からん」

(ふむ……この所ネビュラの行動が妙だな。今のもそうだけど、俺が最もそう感じたのはレーゼ……緑川のことをやけに気にかけていたこと。一切の感情なく任務を遂行するだけの人格に塗り替えるって話だったけど)

 

 

 グランとて鈍くはない。

 その行動がネビュラの身体の持ち主……柊弥の影響あってこそのことなんだろうと推察できた。

 仲間想いな柊弥ならば、任務に失敗しその役目を解かれた仲間であろうと相手するだろう。

 あるいは、仲間が悪意を持って傷付けられたとあれば大人しくはしていないだろう。

 そんな柊弥の人格と、冷たい機械のようなネビュラの人格。2つが混濁して曖昧な状態となっている。どちらかと言うと柊弥寄りな気もするが。

 

 

(けどまあ……今のところお父様の邪魔になるようなことはしてないし。いいか)

 

 

 グランは保留と結論付けた。

 何事もなければ柊弥……ネビュラは自分達に大きな利をもたらす存在であると思っているからである。

 わざわざ積極的に排除する必要は無いと判断した。

 

 

「さて、試合の方は……」

 

 

 再びグラウンドに目線を戻す。

 染岡がグラウンドに戻って試合は再開。残り時間はあと僅かである。

 ボールを奪った不動。そして佐久間にボールを渡すまいと立ち塞が一之瀬、土門。

 障害物を取り除くが如く乱暴に突っ切る不動により、一之瀬、土門の両名はボールによって弾き飛ばされる。

 勢いを失ったボールが転がる先は……佐久間の脚元。

 

 

「やめろォォォォォォ!!!」

皇帝ペンギン……1号!! 

 

 

 狂気。

 一度の使用で絶叫するに至ったその技を佐久間は躊躇うことなく繰り出す。

 狂気に眼を爛々と輝かせる深紅の魔獣が姿を現し、食い破るが如く佐久間の脚に喰らいつく。

 そして放たれる禁断のシュート。目指すは円堂待ち構える雷門ゴール。

 

 

「ぐああああああァァァァァァァァァ!!??」

 

 

 佐久間の絶叫がグラウンド内に響き渡る。その痛みは佐久間自身にしか分からないものだろう。

 が、そんな痛みに見舞われてもなお、佐久間は己の力に満足したような表情でボールを目で追う。

 

 

「ぐ……オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 圧倒的破壊力とスピード。

 恐らく、円堂のマジン・ザ・ハンドを持ってしても止められるか分からない。

 それ以前に、シュートが早すぎるせいで技の溜めが間に合っていない。

 このままでは無防備なまま円堂は皇帝ペンギン1号の毒牙に掛かることになる。

 が、それをさせまいとシュートとゴールの間に割り込む影。

 鬼道である。

 無謀にも、皇帝ペンギン1号に対してシュートブロックの形を取る。

 だが、鬼道とて皇帝ペンギン1号を止めるには至らないのは自覚している。

 だからこそ、鬼道は引き際を間違えない。

 シュートの威力を減衰させ、なおかつ円堂の溜めの時間を稼ぐ。その上自分の身体が壊されぬタイミング。それら全てを考慮して鬼道は自ら身を引く。

 

 

マジン・ザ・ハンド"改"!!! 

 

 

 黄金の魔神が顕現し、深紅の魔獣を正面から受け止める。

 鬼道の尽力あってか、円堂の消耗は避けられた。痛みに顔を歪ませるようなことはなく、シュートを止めて見せた。

 

 

「次こそ……次こそ決めるゥゥ……!!」

 

 

 息も絶え絶え。全身から汗が吹き出す佐久間。

 しかし、未だ彼の戦意は潰えていない。戦意というより、只の狂気だろう。

 鬼道の説得もやはりと言うべきか聞き入れるつもりなく、ポジションに戻ろうと足を踏み出す。

 その瞬間、佐久間の顔は苦痛に歪む。

 それでもやはり佐久間は止まらない。

 世宇子戦にて味わった無力感。そこから発現する力への渇望。

 それが第三者の手により増幅させられ、呪いのように佐久間の心を蝕む。

 その様を見て、悲痛な表情を浮かべる1人の少年。

 それは誰に悟られることもなかった。

 

 

 試合再開。

 ボールを受け取った塔子に不動が苛烈なスライディング。一瞬でボールを奪い、雷門のマークを潜り抜けてパス。

 それを受け止めるのは……佐久間。

 

 

「これで決めるッッ!!」

「やめろ佐久──」

 

 

 鬼道は佐久間の妨害に間に合う位置にいた。

 当然、皇帝ペンギン1号を撃たせないために動かないはずがなかった。

 だが、無情にも佐久間は皇帝ペンギン1号を発動する。

 何故鬼道の妨害が間に合わなかったのか。それは鬼道が動くのを止めたからではない。

 妨害を目論む鬼道を、不動が妨害したからである。

 

 

皇帝ペンギン1号ォォォォォ!! 

 

 

 三度目。

 皇帝ペンギン1号の使用に身体が耐えられるのは、二回。

 佐久間はそのボーダーラインを超えた。

 どうなるかは……他ならぬ佐久間がその身を持って証明していた。

 

 

「ガア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!??」

 

 

 それを聞いていた者は、それが人間の発する声だとは到底思えなかった。

 例えるなら、獣が死ぬ寸前に発する雄叫びのような……

 

 

「佐久間ァァァァァァ!!!」

「おっと……まあいいか」

 

 

 鬼道は不動の妨害を振り払い、佐久間へと駆け寄ろうとする。

 が、その焦りのせいで周りが見えていなかった。

 鬼道が足を踏み入れたのはそう、皇帝ペンギン1号のシュートコース。

 鬼道がそれに気付いた時には、既に遅かった。

 

 

「ぐッッッ!!!」

 

 

 シュートが鬼道を貫く寸前。そのシュートに脚を伸ばした者が1人。染岡だ。

 それは一瞬の事だった。

 鬼道とシュートの間に滑り込むように脚を伸ばす。

 シュートと脚が触れる。

 染岡はその勢いに耐えられず、弾き飛ばされる。

 と、同時にシュートコースが逸れる。

 あろう事か、染岡が差し出したのは……つい先程怪我をした右脚であった。

 

 

「残しといて……良かっただろ?」

「────ッ、染岡ァァァ!!!」

 

 

 そう言って、染岡はその場で気を失う。

 染岡を運び出す間もなく試合は続行。ボールはラインを越えてはいない。

 

 

「もう一度だ佐久間ァ!」

 

 

 佐久間にボールを渡す不動。

 が、佐久間は小刻みに震えたまま動かない。いや、動けない。

 そして倒れ込んだ。

 同時に、試合終了のホイッスルが響く。

 

 

「染岡、佐久間!! …………ん?」

 

 

 ポジションを離れ、2人に駆け寄ろうとした円堂は、何処からか視線を感じた。

 グラウンドを取り囲む無人の観客席を見回す。

 だが、そこには誰もいない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……戻ってきたのか」

「君があのままグラウンドに飛び込みそうだったからね」

 

 

 グランとネビュラは富士の樹海の基地へ戻ってきていた。

 染岡が気絶した辺りで再び立ち上がったネビュラ。今度は観客席からの転落を防ぐ囲いの部分に手を掛けていた。

 頃合と見たグランがエイリア学園お手製の黒いサッカーボールのワープ機能により帰還した。

 

 

(保留かと思ったけど……やはり1度研崎さんに相談してみるか?)

 

 

 と、ネビュラに懐疑の視線を向けた時には、既にネビュラはその場にはいなかった。

 ネビュラは、頭を抑えながら自分に与えられた部屋へと急いでいた。

 

 

(何だ、何だと言うのだこれは……先程から頭痛が酷い。あの試合が進むにつれてだ……意味が分からない)

 

 

 ネビュラは何処か困惑していた。

 正体不明の頭痛。

 コンピュータにも引けを取らないその頭脳を持ってしても、原因は解明できない。

 

 

 


 

 

 

「染岡、おい! 染岡!!」

「佐久間、佐久間!!」

 

 

 倒れた両名を雷門のメンバーが囲む。

 その内の1人……風丸は焦りにも似た感情を抱く。

 

 

(俺に力があれば……染岡も、佐久間も倒れることはなかったんじゃないか……?)

 

 

 自身の掌を見つめ、風丸は思案する。

 自分がもっと速ければ、強ければ、力があれば。

 染岡が不動に怪我をさせられる所に割り込め、佐久間の皇帝ペンギン1号を阻止し、こうはならなかったのではないか。

 倒れた染岡と佐久間を心配するその場の一同は、誰も表情を曇らせる風丸に気付くことは無かった。

 そして。

 

 

「ぐッ────」

 

 

 胸を抑え、苦悶の表情を浮かべる者が1人。

 此方も風丸同様、周りに気づかれることは無かった。

 

 

 人知れず、歯車は狂い始めている。




【原作との相違点】
・ジェミニストーム戦にて円堂がマジン・ザ・ハンドを進化させたことで、皇帝ペンギン1号を止めた際のダメージが薄くなる。
・雷門のメンバーの中の一人に異常発生。


ここから暫くの間投稿頻度が上げられると思います。
投稿できるうちに投稿してしまうのでぜひご覧下さい。
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