「──というわけで、我が部は廃部を免れたという訳で。次に向けて課題を解消していこう。」
放課後、先日の帝国学園との試合を受けての反省会をすることにした。
幸か不幸か、皆あれだけボロボロになりこそすれど、チームとしての課題やら反省点は浮き彫りになった。マックスの「基礎体力無さすぎ。」という鋭い指摘には全員顔を俯かせることになったが。
「あのー、キャプテン、加賀美さん。この間の豪炎寺さん・・・呼べないんですかね?」
「ッ・・・」
宍戸がふと声に出す。
それに乗じて、他のメンバーも豪炎寺を褒め称える言葉を口にする。なあ、俺も一点決めたんだけど・・・?
と、その様子を見て染岡の眉間にしわが寄り出したのを俺は見逃さなかった。
「あんなのは邪道だ・・・俺が本当のサッカーを見せてやる!」
染岡がいきり立つ。全員驚きつつも染岡の方に自然反射で目線をやる。
「豪炎寺はもうやらないんだろ?」
「それは分からないけど・・・」
「円堂までアイツを頼りすぎだ。豪炎寺なんか居なくたってな、俺も、加賀美もいる!俺達にだってできるさ!もっと、俺たちを信じろよ!」
染岡の嘆きにも似た訴えが部室内に響く。
頼りすぎ、という訳でもないだろうが、全員心のどこかで豪炎寺を当てにしているところはあるんだと思う。
現に俺も、あいつが居てくれたらそれはそれで頼りになると思っているしな。
そこで、不穏な空気が漂う部室の扉が突如開かれる。
外から顔を出したのは秋。お客さん、とのことだが・・・はて、こんな所に顔を出すような人、いただろうか。
「・・・臭いわ。」
「開口一番でそれ言う?」
思わず口に出さずにはいられなかった。
人様の部室に入ってきて真っ先に「臭い」は些か失礼というものではないでしょうか、夏未お嬢様。
「・・・帝国学園との練習試合、廃部だけは逃れたわね。」
「お、おう。これからガンガン試合していくからな!」
夏未お嬢様は怪しげな笑みを守に向ける。
お嬢様って付けるのやめよ、なんか面倒臭いしどうせタメだし。
「次の対戦校を決めてあげたわ。」
部室内にどよめきが走る。何から何まで急ですこと・・・
曰く、相手は尾刈斗中、試合は1週間後とのこと。あの胡散臭い学校か・・・
「因みに、今度負けたらこのサッカー部は直ちに廃部よ。」
簡単に我々サッカー部の命運を決めないでいただきたい。
まあ、こいつ理事長の娘だし、この学校の運営任せてるから決定権こいつにあるんだけどさ・・・
でも冷静に考えて、中学生で学校の運営っておかしいよな。
「ただし勝利すれば、フットボールフロンティアへの参加を認めましょう。」
廃部というデメリットに対して告げられたメリットに、全員沸き立たずにはいられなかった。
いいね、燃えてきた・・・!
「こうしちゃいられない!皆、練習しようぜ!!」
気合いに満ちた声が、部室の中にも外にも響いたという。
今日はグラウンドのローテが割当っていないため、河川敷のグラウンドで練習である。
皆さっきの報せを受けてやる気に燃えているのだが、少し行き過ぎなやつが一人。
「おらあああああああ!!」
染岡である。
何を焦っているのか、見当はつくが、それにしたってラフプレーが目立ちすぎる。この前の帝国と何ら変わらない。
「落ち着け染岡。気持ち分からなくもないけどそのままじゃ何も得るものはないぞ。」
「クソッ、俺も必殺シュートを・・・!」
ダメだ、ムキになってる。
恐らく染岡は、俺や豪炎寺に自分を照らし合わせているんだろうな。
帝国の試合で、俺と豪炎寺は必殺シュートで点を取った。ストライカーとして。
だが染岡は、ストライカーであるにも関わらず、必殺技はおろか点を取れなかったことに負い目を感じているんだろう。それが豪炎寺へ負の感情を向けることにも繋がっている。
少し休憩にしよう。
ドリンクとタオルを取りにベンチに向かうと、先程までいなかった存在に気づく。
「あ、加賀美先輩!お疲れ様です!」
「ありがとう。確か・・・新聞部の音無さん、だったよね。この前は宣伝どうも。」
部員勧誘の時にインタビューをしてきた人だ。確か学年は一つ下。音無、というよりやかまし?なんて失礼なことを口にするはずもなく、そっと胸の内に閉まっておく。
「加賀美先輩は知ってますか?尾刈斗中の怖い噂。」
「怖い噂か。あれだろ?尾刈斗中と試合した生徒は全員3日後に高熱で倒れるだとか、そんな。」
「なんスかその噂・・・怖いっス。」
壁山、お前後ろいたのか・・・
すると、徐々に全員集まってきたので、ちょうどいいから音無に尾刈斗中について説明してもらう。
尾刈斗中に纏わるオカルトな噂の数々。それを聞いて主に1年組が震え上がる。壁山に至ってはトイレに行った。
「あの・・・やっぱり豪炎寺さん。」
「なんだお前ら!豪炎寺なんかに頼らなくても、俺と加賀美がシュートを決めてやる!FWならここにいるぜ!」
染岡が意気込む。
うーむ、いい心掛けではあるけど、そこまで豪炎寺にヘイトを向けなくても良いんだがなあ。
だがそれでも、1年達の不安は拭えず。皆豪炎寺の名を口にする。
「豪炎寺が凄いやつなのは異論ないさ。けど、今いるこのメンバーで戦わないことには何も始まらないだろう?」
「それはそうでやんスけど・・・」
「大丈夫だって。俺と染岡でバシバシ点取ってやるからさ。ほら、また帝国とやる訳でもないんだし。」
宥めるように声を掛ける。
事実、帝国以外のチームならそうそう遅れを取る気はしないんだけどなあ。
攻めの俺、守りの守。ここに他のメンバーが力を貸してくれれば、俺達はより強固なチームになれるはずだ。
豪炎寺がいれば攻めがもっと強くなる、ただそれだけの事だ。
「皆、人に頼りすぎても強くはなれないぞ!さあ、練習再開だ!」
空気を払拭するように守が練習再開の指示を出す。
走りゆく1年達の顔は、どこか曇っていた。
皆の気持ちが何処と無く晴れないまま、昨日の練習は終わってしまった。
豪炎寺を渇望する1年達、それを見て更に焦り、無茶をする染岡。
このままではチームとしての雰囲気も悪くなってしまう。どうにかしなければならないんだが・・・
因みに、今日も部活はあるのだが俺はその前に通院だ。
ローテの影響で部活開始まで少し時間があるからその時間を利用して来ている。
放課後になってすぐ来たから、まだ予約までに時間があるんだよなあ・・・と思いつつ、病院内を少しふらついている。
すると、だ。
「あれ、守に豪炎寺。こんな所でどうした?」
「加賀美。」
「柊弥、ここの病院だったんだな。」
「まあな・・・で、二人は何を?」
二人の様子を見ると、守はどことなくバツが悪そうにしていることが分かる。
「加賀美も入ってくれ。・・・少し、話をしよう。」
「ん?お、おう。」
豪炎寺に促されるまま病室に入る。
"豪炎寺夕香"・・・か。
中に入ると、ベッドに一人の少女が横たわっている。
「・・・妹さんか。」
「ああ・・・もうずっと眠り続けている。」
ずっと・・・か。
あまりに他人が干渉していい話では無さそうだが・・・豪炎寺本人が話を切り出したんだ。聞いても問題ないだろう。
そして豪炎寺から語られたのは、重く、苦しく、痛々しい話だった。
去年のフットボールフロンティアの決勝。木戸川清修の選手として参加するはずだった豪炎寺。そしてその試合を楽しみにしていた夕香ちゃん。
試合開始前に、豪炎寺に一つの報せが飛び込む。
それは、夕香ちゃんが試合観戦に向かう途中、事故にあったこと。
豪炎寺は試合を放り出し、病院へ向かった。が、夕香ちゃんの意識が戻ることは無かった。
それ以来、豪炎寺は夕香ちゃんが目覚めるまではサッカーをしない、と戒めのように決めたらしい。
だが、この前の雷門対帝国の試合。そう決めていたにも関わらず、身体が勝手に動いたそうな。
「・・・俺、何も知らないでしつこく誘って・・・ごめんな。このこと、誰にも言わないよ。じゃ。」
そう言って守は病室を後にしようとする。
去り際、豪炎寺が守に問いかける。
「サッカー部、あれからどうなった?」
「ああ、次の対戦校が決まったんだ。お前のシュートがきっかけでみんな練習頑張ってるぜ・・・ありがとな。」
と、伝えて守は完全に去る。
「そうか、上手く行っているようで何よりだ・・・」
「まあな・・・なあ、豪炎寺。」
俯いていた豪炎寺は、顔を上げこちらに目線を合わせてくる。
「あまり知ったような口は聞けないんだけどさ、この前の試合・・・勝手に身体が動いてたってことは、やっぱりお前はサッカーが好きなんだよ。その気持ちだけは、誤魔化さなくてもいいと思う。」
「・・・そうだな。」
「もしも、の話だぞ。お前がまたサッカーと向き合うつもりになったなら・・・俺達は歓迎するぜ。じゃあな。」
そう言って俺も病室を後にする。
豪炎寺にここまで重い事情があるなんて、思ってもいなかった。
あいつが背負っているものを少しでも軽くしてやれればいいが・・・下手に干渉するのはやはりよそう。
これは・・・あいつの問題だからな。
診察を終え、そのまま真っ直ぐ部活に向かう。
さっき携帯を見たら、大会前だから、とラグビー部が使わせて欲しいと頼んできたため今日も俺達は河川敷で練習するらしい。大会前なら仕方ないな。
荷物を部室に置き、用意をして河川敷へと向かう。
グラウンドと同時に、雷門イレブンが練習に励んでいるのが見える。
染岡が、昨日と同じようにムキになっているのも。
・・・少し、口出ししといた方が良いかもな。
「あ、加賀美君。」
「お疲れ様。・・・あれ、音無さん今日も来てたんだ。」
「加賀美先輩、こんにちは!実は今日からですね、サッカー部のマネージャーになりました!」
随分急だなおい。
まあ、部員も増えて本格的に活動し始めたし、秋一人では大変だろうし、丁度良いか。
「そっか。今日からよろしく頼む。」
「はい!よろしくお願いします!」
手を差し出すと快く握手に応じてくれる。
さて、俺も練習に参加しよう。
「よう染岡、頑張ってるな。」
「加賀美・・・へへっ、全然ダメだ。これじゃ、お前みたいなストライカーにはなれないな・・・」
「・・・少し、休憩にしようぜ。な?」
染岡を半ば無理やり連れ出す。
河川敷の傾斜となっている芝生部分に腰掛け、一対一で話をする。
「段々と俺らもサッカー部らしくなってきたよな。全員で足並み揃えて練習して、この前なんかは皆で試合してさ・・・俺、楽しかったんだよ。染岡はどうだ?」
「俺・・・羨ましかったんだ。加賀美や、豪炎寺が。」
「・・・というと?」
染岡はぽつりぽりと言葉を紡ぐ。
俺が先制点を決め、良い流れを作ったこと。豪炎寺がやって来て、崩れかけた士気を再び高めたこと。ゴールを決めたのが自分だったら、どれほど良かっただろう・・・と。
「俺はお前達に負けたくない。俺も、あんなシュートが打てるようになりたいんだ・・・」
「そっか・・・でもな染岡。お前じゃ俺や豪炎寺にはなれないぞ。」
染岡があんぐりとしてこちらを見つめてる。
ここまでストレートに言われるとは思っていなかったのだろう。だが、当然のことだ。
俺がこれから言うことも。
「お前は"染岡竜吾"だからな。お前が俺や豪炎寺になれないように、俺や豪炎寺もお前にはなれないんだ・・・自信を持てよ。お前はお前だ。お前自身のサッカーで戦えば良いんだよ。」
「俺の、サッカー・・・」
手をグー、パーと開きながら見詰める。その表情は、段々と軽くなっていく。
・・・もう、大丈夫そうだな。
「よし、やってやる!俺のサッカー、俺のシュートを!」
「いいぞ染岡、その意気だ!さ、行くぞ!お前のシュートを完成させるの、手伝うぜ!」
「おう!」
すっかりやる気になった染岡と共に再びグラウンドに入り、皆に交じって練習を始める。
次々と繋がれたパスはやがて染岡に渡り、染岡はそのボールを全力でゴールに叩き込む。
そのボールは蒼いオーラを纏いながら守の手の中に収まった。
あともう少し、だな。
「染岡!より強いイメージを、点を取るためのインスピレーションを具現化させるんだ!」
「インスピレーションて何だよ!」
「瞬時に思いつくような自分のシュートの形とか、そんな感じだ!」
「おうよ!」
守がボールを送り出し、再び振り出しに。
染岡は何度も、何度もボールを打ち込む。徐々にボールに込められる力は、想いは強く、より強くなっていく。
・・・そして!
「行け!染岡!」
「うおおおおお!!」
俺が打ち出したボールを、ダイレクトで染岡がシュートする。
その瞬間だった。ボールの蒼い輝きはより一層強くなり、先程まで見えることのなかった龍が現れる。
染岡の想いに呼応するように咆哮したそれは、ボールと共にゴールへ突き刺さる。
守は突如のことに反応出来ず、ノータッチでゴールを許してしまった。
「──すげぇ。」
誰かがそう呟いた瞬間、炎が広がるように歓声が上がる。
「染岡!すげえシュートだったな!!」
「これだ・・・これが俺のシュートだ!」
染岡を囲んで全員が賞賛の声を送る。
そして今度は、このシュートに名前をつけようということになった。
おい、誰だ竜吾シュートとか言ったの。
盛り上がる皆をよそに、俺は近づいてくるある人影に気付く。
「豪炎寺。」
全員の目線が一気に豪炎寺へ向けられる。
「円堂、加賀美・・・俺、やるよ。」
「───豪炎寺!!」
そう声を出さずにはいられなかった。
染岡の必殺シュートが完成し、豪炎寺が正式にチームに加入する。
これはいい流れだ。チームの攻撃力が一気に高まった。
これなら、次の尾刈斗中戦も・・・!
「おい。」
「・・・?」
染岡が豪炎寺に歩み寄る。
こいつまさか、まだ豪炎寺の事を快く思って──
「よろしくな、豪炎寺!」
「・・・おう!」
そんなことは無かった。
ストライカーとしての矜恃が損なわれて怒ってるものかと思ったが、俺がいるし今更感あったな。まあ、何よりだ。
「よーし!尾刈斗中との試合に向けて、仕上げていくぞ!」
『さあ遂にこの日がやって参りました、雷門中と尾刈斗中の練習試合!どのような試合を見せてくれるのでしょうか!』
雷門中にて、尾刈斗中との練習試合が始まろうとしていた。
この前の帝国との試合を見た観客がさらに噂を広めたのか、心做しか以前よりもギャラリーが増えている気がするな。壁山なんか完全に緊張している。
「ふう。」
「準備は万端か?染岡。」
「おう!俺のシュートでバンバン点を取ってやるぜ!」
染岡のやる気も十分だ。
勿論、俺と豪炎寺もだ。新しい雷門の攻め、見せてやるぜ。
「来たぞ!尾刈斗中だ!」
誰かがそう声を上げる。
現れたのは紫を基調としたユニフォームに身を包んだチーム。事前に音無が入手してくれたデータで見た選手達のままだな。
それにしても、メンバーの個性が強すぎる。キャプテンは目隠ししてるし、キーパーはジェイソンみたいな仮面をつけてるし、バンダナにロウソク突き刺してるやつもいる。・・・それでサッカー、できるの?
「不気味だ・・・」
「お前が言うなよ。」
ボソリと呟いた影野に半田がツッコミいれる。その通りである。何ならお前もあっちに混ざってても違和感無いからな?
「よし、行こうぜ!!」
守の一声で気合いを入れ直す。
両チーム揃って、センターで整列する。
すると、あっちの監督が守と豪炎寺と俺に声を掛けてくる。明らかに俺たち3人しか興味がない口ぶりだった。するとそれを聞いた染岡が、「お前らの相手は俺たち全員だ。」と口を挟む。それに対して相手の監督は、まるで興味無さげに流す。
「野郎・・・!」
「落ち着け染岡。その怒りは言葉じゃなくてプレーでぶつけようぜ・・・俺たちのサッカーでな。」
「・・・おう!」
チームメイトを軽視されて、俺だって内心苛立ってはいるさ。
けど、仮にも相手は目上の人だしな。試合結果で分からせてやるさ。
尾刈斗中開始直前まででした。
原作通りだと染岡は豪炎寺に突っかかったままなんですが、柊弥が述べた通りストライカーが染岡一人じゃないのは今更感あるので割愛です。
オリ主の加入による影響が出てた方が、小説としてのオリジナリティも出ると思いまして。