白海染まれ   作:ねをんゆう

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オラリオから遠く離れた山の奥深く。

誰も足を踏み入れる様な事のないそこに、小さな集落が存在していた。

そこはとある一族が長として民を纏めており、神々すらも足を踏み入れる事は許されない特殊な場所だ。

彼等は極東より移り住んできた者達であり、皆がその一族を崇め、敬い、一族もまた彼等を愛し幸を授けた。

 

当然その様な場所だ。

モンスターの襲撃等も度々あったが、彼等は神々の恩恵無くとも罠や武術等の技術で追い返す。なによりそれが出来る程に優れた指導者がおり、その指導者こそがその一族の長だった。

正に理想的な集落と言っていいだろう。

 

しかしそんな集落にも1つだけ禁忌があった。

それは一族の子供には4度目の生まれ日に至るまで、決して近付いてはならないという堅い掟だ。これは村の中で何よりも優先すべき事柄とされ、破った者には死罪を含めた厳しい罰が与えられていた。

それはその子供の為に一つの社が作られていた程だ。

 

……神子という言葉を知っているか。

神の子供、神の力を持つ子供、そんな言葉だ。

確か極東には『子供は7つまでは神のうち』という考え方や、『人の魂は3つまでに決まる』という考え方があるそうだな。

恐らくはその考え方の原点となったものが、この存在になる。

 

一族の子供はその神子と呼ばれる存在だった。

だが、本当に神の力を持っている訳ではない。

そうであれば俺達の様な神が知らない筈も無いだろう。

願いを叶えたりする力もない。

アルカナムを使える筈も無い。

 

一族の子が持つ力は単純、役割の遂行だ。

神の子供として、人間としての極点の一つの姿。

その一族の子供は3つの歳までに与えられた人としての役割を、生涯に渡って遂行するだけの力を得る。

一族の当主が指導者として優れていたのは、その男が集落を率いるという役割を持って育てられたからだ。

故に一族の子供は民から強く引き離される。

余計な役割を与えられないために。

故に一族は極東から姿を消した。

自分達の子供を欲望の道具にされないために。

 

……お前は分かるだろう、黒髪の娘。

あの朝廷は闇の巣窟だ。

その様な場所に一族が居れば、その子供達は間違いなく利用され、子産みの道具にされる。

 

ああ、ここまで話をすれば分かるか。

そうだ、ユキ・アイゼンハートはその一族の最後の生き残りだ。

アイゼンハートという名前は、そもそも名前では無く、お前に与えられた役割だ。過去に存在した繋ぎの英雄アイゼンハートとしての役割を求められた、名付けもまだの男児が唯一持っていた特性だ。

そしてそれこそがお前の周囲で災厄が活発化する原因の一つでもある。

 

 

 

そもそも、英雄アイゼンハートは始まりの英雄アルゴノゥトが出現する以前に活動していた人間だった。

だが、その活動はどの記録にも記憶にも残っていない。

理由は単純、英雄と呼ばれる程の偉業を成していないからだ。

その男を英雄と呼ぶのは彼の周辺に居たごく僅かな人間達だけであり、その伝承が正しく伝わっていたのは既に例の一族しか無くなっていた。

 

男が行く場所ではいつも必ず厄災が起きた。

山が崩れ、季節外れの気象に襲われ、地が揺れ海が荒れ、モンスターが現れる。

厄を運ぶ男。

その男はいつしかそう呼ばれ、何処へ行ってもその都度追い払われた。

けれどそれ等の厄災は間違いなく男の存在が原因で生じたものだった。

そしてその厄災に男は必死に立ち向かったが、その努力が報われる事は一度たりとも在りはしなかった。

男が現れた場所では当然の様に人が死んだ。

誰も男を迎え入れようとはしなかった。

野垂れ死のうとしていたとしても、手を差し伸べる事は決して無かった。

 

男が活躍したのはたったの一度きりだ。

それもそれが男の最期になる話だ。

行き場を失った男はある日、今は極東と呼ばれる場所へと辿り着いた。

出会ったのはとある一族の長だった。

長は非常に寛容な性格で、痩せ細った男を見るや強引に家まで引っ張って行き、食事を与えた。

何度も何度も男が断ろうとするのを、長は知らぬ存ぜぬとばかりに世話を焼いた。

 

長の周りにいる者達は皆同様に優しさを持っていた。

神が降り、朝廷が確立する以前の話。

それほど大きな村落では無かったが、それでも如何にも怪しいその男を村の者達は歓迎した。

故に男は苦しくなった。

自分が居れば災厄が訪れると知っていたからだ。

 

男がその村に滞在して3日目のことだ。

男は村を出る事を長に告げた。

長は引き止めようとしたが男の決意は固く、渋々と承諾するしかなかった。

だが、恐らく決意をするのが遅かったのだろう。

牛人の怪物。

今で言うミノタウロスだな。

しかもその中でもかなり力を持った個体が、突如として洞窟の封印を破り解き放たれた。

それまで封印が破られる兆候すら無かったにも関わらず。

 

男は走り出した、鎌を持って。

迷いなど無かった、責任を感じていたからだ。

既に何人かを喰らい立つ怪物に対し、たった一本の鎌で立ち向かう男。

全てが自分のせいだと。

自分の存在が間違っていたのだと。

泣きながらそう叫び、何度も何度も叩き落とされる男を見て、けれど責める者は何処にも居なかった。

村の者達全員が男に加勢し、牛人を討とうと奮闘した。

結果として討伐は成功した。

男と数多の命を引き換えにして。

 

『ありがとう』

 

全てが終わり命の尽きかけた男の耳に入ったのはそんな言葉だ。

しかしそんな言葉は受け入れられない。

この災厄を引き起こしたのは自分なのだから。

10年は破られない筈の災厄を起こしたのは自分なのだから、責められても礼を言われる筋合いは無いと。

けれど長は言った。

 

『もし10年後に起きていたら、もし君が誰よりも前に立っていてくれなければ、僕達は戦えなかった。君が居てくれたからこそ勝てたんだ』

 

それは何よりも事実だった。

実際、犠牲は数人だけだった。

命が失われた事は悲しくとも、10年後に出る筈だった犠牲よりもずっと少なくて済んだ。

少なくとも、封印が剥がれる日が近付くにつれて人々が逃げていくこの村の現状では、10年後のその日には間違いなく対処出来なかった。

男の存在が救ったのだ。

村も、人も。

 

『君は英雄だ、僕達は知っている』

 

行く先々で厄災を引き起こす男。

しかしその厄災は、後に長が調べてみれば村で起きた事と同じ様な条件下で起きていた。

それはつまり、もし予定時期に起きていればより多くの犠牲を出していたという事。その厄災を解決するのは、その男が現れ引き寄せた時期以外には不可能だったという事。

そして何より……民達が男に協力した場所ほど、犠牲が非常に少なく済んだという事。

 

男は災厄を引き寄せた。

だがそれは結果として犠牲は少なく済んだ。

男の存在によって死ぬべきで無い人間が死に、男の存在によって将来的に死んでいた筈の人間が生き残った。

それを罪と捉えるかどうかは解釈によるが、単純な数で考えれば男は大量の人間の命を救っていただろう。

 

……繋ぎの英雄。

最初の英雄が生まれるまでの繋ぎ。

繋がりを持つほどに救いを齎してくれる英雄。

なぜそんな力が男にあったのか、どうしてそんなこの世界、どころか時間軸自体にもリンクした様な異常な人間が生まれて来たのかは俺にも分からない。そもそも本当に存在していたのかどうかも疑わしいくらいだろう、少なくとも俺はそんな人間の魂の記録は見つけられなかった。

だが犠牲をゼロには出来なくとも、限りなく減らす事の出来る可能性を持った存在。

それこそが英雄アイゼンハートである事は間違いない。

 

まず、間違いなくお前に与えられた役割はそれだ、ユキ・アイゼンハート。

最後の英雄が現れるまでの繋ぎ。

最後の英雄が現れるまで、可能な限りこの世界の犠牲を減らすための存在。

 

龍に滅ぼされ、全てが潰え、最後に残ったお前という財産に、お前の親達が望んだ役割。だからこそ、俺はこの町でお前を見かけた時に計画が潰れる事を確信したんだ。

計画よりも酷い事になる事は間違いない上に、その上で想定していた犠牲者数よりも減る事も間違いなかったからな。

たとえ神であるこの俺がどれだけ可能性を考え、策を巡らしたとしても。

お前という存在が愛される人間である限りは、力の無いこの身ではどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー以上が俺の知っているユキ・アイゼンハートの全てだ。質問はあるか?」

 

誰もが言葉を発すことが出来ず呆然とする中で、エレボスはそう言って目をユキの方へと向ける。

肝心のユキは、色々と思考を巡らせている様だが、恐らくその答えは出ないだろう。

この話はただ受け入れるしか無い。

それ以外の出来る事など何もない。

 

「……一つだけ聞かせてちょうだい、エレボス。他の神々ですら見逃していたその事実を、貴方はどうして知っているの?」

 

「俺はこの計画を地上に降りて来る前より画策していた。どうすれば黒龍を打ち倒す事が出来るか、その力を生み出す事が出来るか……神々ですら知らないとは言え、それでも俺達は天界では全知全能の神だ。そして俺は原初の幽冥、地下世界の主。死者の記録を閲覧する事は容易い」

 

「つまり、英雄たり得る人間。その可能性を持つ何かの存在を、貴方は死者達の記憶を基に探していたのね」

 

「そうだ、俺はそこでアイゼンハートと神子の一族の存在を知った。故に地上に降りるその機まで、俺は天界よりその一族を監視していた。本当にその一族に世に平和を齎す程の力があるのかを見極める為にな」

 

それはエレボスが地上に降りる以前に成していた計画の一つに過ぎない。

過激な物から平和的な物まで、彼はこの世界を救済する為にあらゆる方法を模索していた。その上で最終的に出した結論が何よりも過激な物になってしまった事は皮肉としか言いようが無いが。

 

「……先にも言ったが、神子の一族は既に途絶えている。滅ぼされたからだ、俺が天界より目を向けている最中に。他ならぬ黒龍によって」

 

「なっ!?」

 

「未だ俺が一族の器を見極める以前に、新たに生まれた男児の深みを測る余裕すらなく。生き残ったのは厳重に隠された社の中に居たお前だけだった。……そしてそこで俺は選択を迫られた訳だ。お前という可能性を救う為に地上に降りるか、そもそも無かった物だと切り捨てて他の可能性を模索するか」

 

「……!なぜその様な事を!」

 

「理由は単純、一族の住む場所と他の可能性が眠る地域があまりにもかけ離れ過ぎていたからだ。神子を取れば他の数多の可能性に辿り着けない、地上に降りれば俺はお前達と変わらないからな。天界を降りる際に指定の場所に転送される力こそが俺達が最後に使える神の力、その使い道を間違えれば俺の目的は果たせない」

 

神々が地上に降りる際に隕石の様に光を纏いながら天より落下して来るという事は誰しもが知る事ではあるだろうが、彼等が大まかにではあるものの、ある程度は落下出来る位置をコントロールする事が出来るという事についての重要性を理解する者は少ない。

それ即ち、自身の近くに落ちた神は何かしらの思惑があったとしても、間違いなくその人物に興味を抱いているという事でもある。

彼等自身がそこで生きる事を選んだという事でもある。

更に言えばこの時だけは、彼等はあらゆる距離や地形条件を無視して望んだ場所に至る事が出来るという訳だ。個々によって多少のズレが生じる事があったとしても。

 

「それで、貴方はその子を見捨てた分の働きは出来たのかしら」

 

「……まあ言うまでもないが、こちらの俺はお前の事を策の一つとして切り捨てた。だがその結果は散々だった。なんとかアルフィアとザルドを見つけ出す事は出来たが、それだけだ。それ以上の成果は殆ど無いと言ってもいい」

 

「………」

 

「ああ、お前を見つけた時には心底後悔したとも。年齢からして間違いなく異物のお前が、十分な英雄としての器と役割を持って立っていたのだからな。俺の判断は間違っていたと、そう判断せざるを得なかった」

 

「……だとしたら、この世界のユキは」

 

「命を落としたその瞬間を直接見た訳では無いが、3つにも満たない子供がモンスターも多く生息する山の奥深くで生きていると思う方がおかしいだろう。少なくとも俺はそう認識している」

 

見捨てた。

自覚している。

たとえ無力な存在になったとしても、そこに誰かが居ればその子供は助けられた筈だ。

だがエレボスはそれをしなかった。

目を逸らして、見捨てて、他の可能性へと意識を向けた。

ありふれた事だ、子供が死ぬ事は。

モンスターに襲われ命を落とす事など、今こうしている中でも世界の何処かで必ず起きている。

故にその件で彼を責めるのは違う筈だ、彼にはもっと優先しなければならなかった事があったのだから。

……だがそうだとしても、その事実はあまりに重いものだったが。

元の世界にユキを返した後、この世界のユキを迎えに行くと決意していたアルフィアにとって。

この世界のユキと出会う事を楽しみにしていた者達にとって。

その事実はあまりにも受け入れ難い。

エレボスに対して恨言はあれど、しかしそれさえも原因は黒龍と弱者であった自分達に原因があると考えてしまうと、責める事すらも出来ず、ただこうして受け入れるしか無いという事も堪らなく心を蝕んでいく。

 

「……つまり、私はその時にエレボス様に救って貰った世界の私という事ですね」

 

「だろうな、その後にそちらの俺がお前をどうしたのかまでは分かりはしない。……だがまあ、アイゼンハートという名と役割をお前に与えたのは十中八九俺だろう。育てにまでは流石に関与していないだろうが」

 

「……私は、厄災を引き寄せるだけの存在では無かったのですね」

 

「ああ、言うなればお前のしている事は厄災の前狩りだ。将来的に起きる厄災を今の時点へと引き寄せ、本来生じる筈だった被害よりも少ない犠牲でそれを治める。そしてお前に協力する存在が多い程に、その犠牲は少なく済む」

 

「以前に、それこそ沢山の人が協力してくれたというのに、結果的には街の住民の大半が犠牲になった厄災を引き起こしてしまいました。それについてはどう思いますか?」

 

「本来ならば全滅、または将来的に長期に渡って犠牲が出る様な事柄、それとも放置しておけば世界に何かしら大きな影響を与える様な大災だったと考えられるだろう。街一つで済んで良かったな、それだけの話だ」

 

「仮に私が他者からの協力が得られなければ、どうなりますか?」

 

「厄災は本来の犠牲をその場に齎す。だが死人の数だけで言えばお前の存在でマイナスになる事はあれど、本来以上のプラスになる事などない」

 

「……私は、この世界にとって有害であると思いますか」

 

「だとしたら俺はお前を産む事など無かっただろうよ。有益だと確信したからこそ役割を与えた。どんな形であれ、たとえどれだけの犠牲を出したとしても、お前には最大の絶望を打ち消す可能性が存在している。……仮に最後の英雄が現れなくとも、現世人類の過半数規模の犠牲さえ覚悟すれば、お前には黒龍を打ち倒せる希望がある」

 

「………!!」

 

言葉を失う、その場に居る誰もが。

そして知る、エレボスがユキに目を付けていた理由が。

……いや、きっと彼はユキに目を付けていた訳では無い。

彼が望んでいたのはユキではなく、アイゼンハートという英雄だ。

その英雄の体質というか、運命の様な物を持つ人間を望んでいた。

それは全て、最後の英雄以外にも黒龍を打ち倒すという可能性を持つが故に。一つの個による終結ではなく、繋ぎ合わせた集団の力によって切り開くという正に人類の勝利とも呼べる未来へ運んでくれる可能性があるが故に。

 

「そちらの俺がお前に与えた役割は恐らくそれだ。最後の英雄が現れるまで潜在的な厄災による犠牲を減らし、仮に現れなければ救われた者達の命を費やしてでも黒龍を討伐する。……全てはゼウス達でさえも晴らす事の出来なかった絶望という闇を切り開くため」

 

真実、それは犠牲だろう。

費やす命の話ではなく、ユキという存在そのものが。

与えられた役割も、力も、運命も、全てがその為だけに与えられたもの。

ユキの人生はそもそも、その為に作られたもの。

 

「……エレボス、ユキの生まれた里が黒龍によって焼かれたのはいつだ」

 

「お前達が奴を取り逃した後だ」

 

「……つまり私達があの時に奴を確実に滅ぼす事が出来ていれば、ユキはその犠牲にならずとも済んだということか」

 

「それは意味の無い仮定だな、仮にそうだとしても幸福な人生を歩めたかどうかは別の話だ。もしかすれば、目の前に座るお前の娘が最も幸福な道のりを歩んでいる可能性もある」

 

「……ええ、そうですね。私は今十分に幸せです。もし私に英雄の役割を与えられていたとしても、私は周りの人達から十分に幸せを頂いていますから」

 

結局そんな事を気にしていたのはアルフィア達だけだった。

当の本人からしてみれば、たとえそんな道のりを決められた人生であったとしても、十分に幸福を感じているのだから。

……それに、最後の英雄たり得る人物をユキはもう見つけている。

そんな彼の成長している姿を知っている。

自分が多くの犠牲を出してまで討伐する必要がないと知っているのだ。

だから絶望的では無い。

その事実に悲しむ事はない。

その体質が厄介な物であるとは思っても、自分がただ悪性の存在では無いと知れただけでも、十分だ。

 

「……怒らないんだな、お前は」

 

「辛い事もありましたし、苦しい事もありました。でも、何度も言いましたが同じくらい私は人に恵まれました。自分の人生を嫌な事ばかりだったとは思いませんし、思いたくありません。だから怒りません。けど、感謝もしません」

 

「そうか……全く、お前の世界の俺は本当に誰に育てを任せのか。性別の方はさておき、思わず惚れそうになるくらいには良い女に育った」

 

「私は男に生まれてよかったなぁって思ってますが。男性の気持ちが分かるかと問われれば、そこは閉口するしか無いのも事実なんですけど」

 

呆れる様に、けれど感心する様に、エレボスはそういう彼女を見る。

彼の記憶の中にある小さな子供が、こうして目の前の立派な女(男)になったと考えると、少しの感慨深さもあったのだろう。

そしてユキが自らの事を受け入れているというのならば、アルフィアもリヴェリアもアストレアも、それ以上に何も言うつもりもない。

仮にそれが身内として許し難いものであったとしても、本人が幸福だと言うのなら、それを否定することは間違っている。

 

「?……まさかエレボス、ユキがこれ程に女性らしく育ったのはお前が与えた役割の影響では無いだろうな」

 

「いや、元のアイゼンハートは男だ」

 

「…………」

 

「そ、それならユキの一族が特別女性らしい容姿の子が多いなんて特徴があったとかは無いのかしら?」

 

「いや、少なくとも当主は屈強な男だった筈だ。そういった事実は恐らくない」

 

「……なあユキ、お前はこれまで急激に容姿が変わった事はあるか?何かこう、おかしな魔法を掛けられたりだとか」

 

「え、ありませんよ?記憶にある限りでは私、幼い頃からずっとこんな感じです」

 

突然、アルフィアの思わぬ一言から生まれたその疑惑。

しかしアストレア、そしてリヴェリアがそれに続いた事によって、徐々にそこに隠された深刻さというか恐ろしさの様な物が浮き彫りになっていく。

もしかしたらそれは、ユキの役割だとか一族だとか、そういった事実よりも周囲の者にとって驚愕すべき物なのかもしれない。

よくよく考えると、エレボスも何となく額に汗を浮かべ始める。

 

「え?つまりそれって……」

 

「貴女は、本当に何の明確な理由や原因もなく……」

 

「見た目も、性格も、仕草も全て……」

 

「女として完成しているということか……?」

 

首を傾げるユキに、一同は今日一番の深刻な顔付きで互いに目を合わせ始める。

むしろそこに何か理由が欲しかった。

そこに何かしらの原因があって欲しかった。

けれどそれは事実だ。

ユキはそれこそ男性気質な女性であるクレアをその身に封じ込める以前から、まあ大体こんな感じだった。

ユキの世界でアストレアが母子に出会った時、やはり何より驚愕したのはユキの母の存在ではなくユキの性別だった。

神ですらも見抜けないその性別。

それは呪いでも何でもなく、ただの天然だったのだ。

その事実にやはり今もアストレアが誰よりも衝撃を受けている。ロキと確認した時に知っていたとは言え、最低限そこには何かしらの理由が存在していると2人で話していたくらいだったからだ。ここまで来るとユキの本当の異常性は生まれでも体質でもスキルや魔法でもなく、その性別な様な気がしてきてしまうのだから、少しだけ恐ろしくもなる。

 

「……ま、まあ、これ以上話してても仕方ねぇしそろそろ帰ろうぜ。あんまり休んでてもフィン達に怒られちまう」

 

「ああ、そうだな……とは言え、そこの男神の言う通りならば上も勝敗は決し始めているらしいが」

 

「あ、そういえばユキ?……はいこれ、やっぱりレベルが上がっていたわ。スキルや魔法に変化は無かったけど、Lv.6昇格おめでとう」

 

「嘘でしょう!?せっかく近づいたと思ったのにまた離されてしまったわ!?」

 

「……そういえば聞いていなかったが、お前は恩恵を貰って何年くらいになるんだ、ユキ?」

 

「最初に頂いたのが14歳になる前なので、3〜4年くらいでしょうか」

 

「「「………………」」」

 

「やっぱりお前の娘も天才なのではないか、アルフィア」

 

「いや、お前の仕業だろうエレボス」

 

「英雄アイゼンハートは生涯でただの一度もモンスターを相手に一人で勝てた事が無いらしいがな」

 

「き、きっとスキルのせいね!うん、そうに違いないわ!」

 

「むしろたった3年で静寂のアルフィアと殺り合える戦闘技術の方がおかしくね……?」

 

「あ、でも、私の世界では1月半でLv.2になった方も居ましたよ?一人で強化種のミノタウロスを倒して」

 

「……未来は明るいな、エレボス」

 

「痛っ……あ、ああ、明る過ぎて眩暈がしそうになりそうだ。この小娘も含めてな」

 

「zzz……」

 

輝夜に後ろ手を縛られながらもリヴェリアの膝で眠り始めたアイズを見てそう笑うエレボス。輝夜の縛り方に妙に力が入っているのは、どんな理由があろうとも単純に彼が成した悪に対する怒りなのか、それともユキが極東を含めた権力の膝下には居られない立場であると知ってしまった故の八つ当たりなのか。

少なくとも、ユキに子供が出来た時にもまた一波乱がありそうだということだけは確定したので、リヴェリアはユキの世界の自分を少しだけ憐れんだ。そこに至るまでもまだまだ胃痛の案件は多くあるだろうにと。

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