白海染まれ   作:ねをんゆう

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114.フタツミチ-2

リヴェリアは、今日までずっと泣いていた。

戻ったのに、知っていたのに、分かっていたのに、失敗した。

自分にはどうしようも出来なかった。

殺してしまった、彼を。

誰より自分の手で殺してしまった、この手で。

以前の死よりも、余程酷い殺し方をしてしまった。

英雄ではなく、悪魔にしてしまった。

英雄に倒されるべき魔王にしてしまった。

 

彼が街を破壊し始めた頃、彼女は周囲から強引に街の外へと引き離された。

けれど、そんなことは納得出来なかった。

だから自分を守るための包囲網を、レベルに任せて強引に突破した。

そして見てしまった。

自分が娘同然に育てたアイズと、後釜の弟子として育てていたレフィーヤが、その愛した人間の姿を被った怪物に殺される瞬間を。

 

膝を落とした。

足が崩れた。

命を落とした2人に何度も何度も呼びかけ、肩を揺すり、それでも2人の意識と呼吸が戻ることはなかった。

 

『キヒヒッ、マダイタ。強イ奴、マダイタ!』

 

「がっ、がふっ……!」

 

腹部を貫かれる。

腕をもがれる。

自慢の杖をへし折られる。

もうここには、戦える人間は居なかった。

この世界には、こいつを止められる人間は居なかった。

止められる人間など、居る筈も無かった。

 

せめて、せめて自分が止めなければと先走った。

冷静な思考など出来ず、

自分では足りないと分かっていても、

それでも隠れていることなど出来なかった。

 

血を吐き、膝を落とし、睨み付ける。

笑っている、笑われている。

心底憎い、怒りで頭がどうにかなりそうだ。

悔しさと悲しさで今直ぐにでも飛び掛かりたい。

自爆魔法の一つでも持っていれば良かったのに。

そうしたらここで一緒に死ぬ事が出来たのに。

 

「がっ、ごほっ…………ま、間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は……がぁっ!?」

 

詠唱も許されない。

詠唱が無ければ魔導士たるリヴェリアには何も出来ない。

並行詠唱など、これほどの力量の差があってしまえば、何の意味も持たない。

なぶり殺しにされる。

確実に何の成果も得られず殺される事になる。

分かっていた、そんなこと。

それでも納得出来なかったのだ。

誰しもがそうだったろう。

こんな結末、誰も納得していなかった筈だ。

誰一人として、望んでいなかった筈だ。

 

「……うっ、くっ……誰でも、いい……誰でも、何でもいい、んだ……止めて、くれ……ユキを、止めて、くれ……!」

 

もう、その言葉を聞く者は居ない。

もう、その言葉を成せる者は居ない。

誰しもが息堪えたのだから。

最強でさえも屠られたのだから。

そんな希望を持った英雄は、もう何処にも居やしないのだ。

………避難所からリヴェリアが脱走していた所を見ていた、未だLv.3の申告をしていなかった、彼以外には。

 

「ファイアボルトォ!!」

 

『ッ、ダレ……?』

 

「君、は……」

 

白い髪が、小さく揺れる。

涙に濡れた赤い瞳が、炎を宿す。

リヴェリアは彼を知っていた。

それは知っているとも。

知らない筈が無いのだ。

だって彼こそが、この役割を望まれていた人物だったのだから。

だって彼こそが、ユキが生前に自分の代わりに英雄として生きてくれる人間だと、そう期待していた人間なのだから。

 

「ベル、クラネル……」

 

「……手渡された破片はヴェルフに頼んで、武器にして貰いました。でもまさか、こんなにも、こんなにも早くあの約束を果たす事になるなんて、夢にも思いませんでした」

 

『強イ?強イ?君ハ、強イ?」

 

「……ここで必ず貴女を倒します、ユキさん。もう終わりにしましょう、こんなこと」

 

『ニヒヒッ、キヒヒヒヒッ。嬉シイナァ、楽シイナァ』

 

「神様達は、せめて今生き残っている人達だけは、僕が守ります。たとえ貴女と相討つ結果になったとしても……アイズさんの敵は、僕が取ります」

 

少年の右腕に、次第に光が集まっていく。

極大の鐘の音と共に彼のナイフに集っていくその光は、反対に怪物の右腕に収束していく黒色の光とは全くの逆の様にも見えた。

少年は泣く。

怪物は笑う。

彼の右手に握られた真っ白なナイフは、普段彼が使う物とは全く違う。

それは正しく、目の前の化け物を倒す為の武装だ。純粋な悪意を振り払う、正義の剣の破片の一部。

 

……リヴェリアは、もう止めなかった。

むしろ殺してやって欲しいと思っていた。

これ以上に殺させないで欲しいと。

これ以上に苦しませないで欲しいと。

もう、解放させてあげて欲しいと。

そう思っていたから、だから……

 

『キヒッ、キヒャヒャヒヤヒャ!!!』

 

「聖火の英斬/アルゴ・ウェスタ……!!」

 

黒色の極光と、本来とは異なる方法で放たれた英雄の一振りによって放たれた白色の閃光によって生じた爆風に瞳を閉じたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

「………?どうした、リヴェリア」

 

 

 

 

 

その声が聞こえたと同時に、リヴェリアの中で間違いなく、何か大切な物が砕け散った。

 

「………」

 

「リヴェリア?」

 

「……ぁ」

 

「リヴェリア……!?ど、どうシた……!?お、おイ!おイ!!リヴェリア!!」

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