「ほんまに!ほんまに心配したでユキたん!せやけど、よう戻って来てくれたなぁ!!」
「あはは、ロキ様。そんなに抱き付かれてしまうと痛いですよ?」
「ユキ……生きてて良かった……」
「アイズさんアイズさん、それは普通に痛いです。完全に締まってますからこれ」
「うわぁぁあん!!ユキさんが戻って来ましたぁぁあ!!死んじゃうかと思いましたぁぁあ!!」
「レフィーヤさん、レフィーヤさん、私の服がべしょべしょになってますよ?その水分分泌量は普通に心配になるので、少し落ち着きましょう?ね?」
ユキが目を覚ました次の朝、ロキ・ファミリアの幹部陣は皆執務室に集まっていた。
ユキの完全復活、これは彼らにとって何より嬉しい報告だったに違いない。
この場にはベートだけは居なかったが、それでも皆の顔に久方振りの笑顔が灯っていた。
そんな彼等の様子を後ろから見守っているリヴェリアとアストレアもまた、呆れた様にしながらも笑顔を絶やすことは無い。
「ほんまにありがとうな、リヴェリア、アストレア。自分等のおかげでなんとかユキたんが助かったわ」
「いいえ、そもそもユキの事は私が貴女に頼んだ事だもの。むしろ感謝したいのはこちらの方だわ」
「……まあ、色々と大変だったことは否定しないが、何より戻って来れたのはユキ自身の頑張りがあった事も大きい。……それと、ユキの3人目の母親の事もな」
「え、リヴェリアさん知ってるんですか?」
「ああ、夢の中に出て来て私のことを引っ叩いて行った。だがまあ、奴のおかげでお前の事を救えたのは間違いない。不思議な現象も数多くあったがな」
「そうですか……ふふ、流石お母さんです。まさか世界の壁を超えても私の事を助けてくれるだなんて」
「「「「???」」」」
リヴェリアとユキのそんな意味の分からない会話にアストレアも含めて首を捻る。だが、それより何よりロキに自分の恩恵を確認する様にお願いし始めた。
ここには多くの人間がいるのだから……というリヴェリアの説得も虚しく、むしろ知っていて欲しい事があるからと強引にユキは押し切る。
知っておきたかったのだ、自分の状態を。
そして確認しておきたかったのだ。
自分が英雄を目指す為に、必要不可欠な学び得た知識や技術についてを。あの繋がりが今もまだ消えては居ないということを。
「全く、ほんまユキたんは変な所で強引な所があるからなぁ。……ほな、恩恵を開くで〜」
「はい、お願いします」
そう言ってロキはユキの背中に自身の血を一滴垂らす。
そうして5秒、10秒、15秒………何も起きない。
足りていなかったのかと思いもう一度垂らすも……やはり何も起きない。
周囲が突然ざわつき始めた。
あり得ないからだ、そんな事は。
想像もしていなかったからだ、そんな事は。
「ど、どういうことや!?なんでユキたんのステータスが開かんのや!?う、ウチは改宗の手続きなんてしとらんで!?」
「やっぱり、そうなっていましたか……それじゃあアストレア様、次に試して貰ってもいいですか?」
「え、ええ、それは構わないけれど……」
そうして、今度はアストレアが自身の血を一滴ユキの背中に垂らす。
そうすれば当然……ユキのステータスは開くに決まっていた。
そんな事は当然なのだ。
あの時の出来事は何一つ、ただの夢では無かったのだから。
「うぉぉおおい!!なんでや!なんでアストレアの血で開くんや!しかも改宗しとる事になっとるやんけ!ど、ど、ど、どういうことやアストレアぁぁあ!!」
「ま、待ってロキ!わ、私もよく分からないの!本当よ!?本当に私も知らないわ!」
「ん?……いや、待て!おいロキ!ユキのレベルが上がっている!上がっているどころかこれは……偉業さえ揃えばLv.7にまで上がれる程度にはステータスも育っているではないか!」
「「「「はぁぁあああ!?!?」」」」
ただ昏睡していた筈のこの数日間で、何故かレベルが1つ上がり、魔法が『2つ』も増えている始末。
片方の魔法はまだアストレアが操作していない為に詳細は浮き出て来ていないが、これは間違いなく異常だった。
文字化けしていた筈のスキルも文字が読める様になっており、その文章も変わっている。ステータスにもD評価のものがあり、伸び幅は少ないとしても偉業さえ揃えばレベルアップが可能。
間違いなく、ユキの中ではこの場にいる誰もが理解できない様な事が起きていた。
アイズやティオネでさえも呆然とし、離れた場所で静かに見守っていたフィンとガレスも苦笑いせずにはいられない。
「あ、アストレア!ちょいユキたんのステータスを更新したってくれへんか……?」
「え、ええ、任せて頂戴……い、一体何があればこんな事に……」
ユキ・アイゼンハート
Lv.6
力 :E416
耐久:I28
器用:G232
敏捷:D512
魔力:E449
発展アビリティ : 剣士F、耐異常F、精癒G、戦技H
《魔法》
【フォスフォロス】
・付与魔法(エンチャント)
・光属性
・詠唱式「救いの祈りを(ホーリー)」
【平穏の園(エデン・オブ・アタラクシア)】
・超短文詠唱魔法
・魔法消去、呪術消去、詠唱中断効果
・詠唱式「母の心音(ゴスペル)」
【ラスト・アウト】
・超長文詠唱
・光属性
《スキル》
【緑白心森(ミルキー・フォレスト)】
・自身の精神に超耐性の効果。
・対象の精神に改善の効果。
・エルフに対する魅了の効果。
【愛想守護(ラストガーディアン)】
・守る対象が多いほど全能力に超高補正。
・死に近いほど効果上昇。
・上記の条件下において早熟する。
【愛染の英雄(ユキ・アイゼンハート)】
・愛される程に全能力に高補正。
・愛する程に全能力に高補正。
・死が遠ざかる
「ば、バケモンや。完全なるバケモンが出来あがっとる……!」
「あの、ロキ様……?バケモノ呼ばわりは流石に酷いのでは……」
「そうだ、ロキ。2度とユキの事をバケモノなどと呼ぶな。次にその言葉をユキに向けた時には指を1本ずつ刃物で刻んでいく」
「リ、リヴェリアさん?流石にそれは過激過ぎるのでは……」
リヴェリアのその過剰な反応に冷や汗をかくユキだが、それ以上に冷や汗をかいているのは他でもないロキだ。
もうなんか、何処からツッコミを入れればいいのかすら分からない。
突然勝手に改宗されており、しかも知らぬ間にレベルまで上がっていたという事実。新たに追加された魔法の節々から感じられる、かつてオラリオを襲ったLv.7静寂の存在。そしてあれほど英雄を拒んでいたというのに、スキルにくっきりしっかりと現れた『愛染の英雄』の文字。
男子三日会わざれば……なんて言葉もあるが、三日会わないだけでこんな事になってたまるかと。
昨日までどうやってもアイズに勝てなかったユキが、突然フィン等の幹部クラスに手が届く程の実力を手に入れていたのだ。もう軽く目眩を引き起こしかけるのも仕方がない。
「ユキ、一つ聞いてもいいかな?君はこの気を失っていた数日間、いったい何処で何をしていたんだい?」
「え?えっと、7年前の世界に飛ばされていました」
「「「「「は」」」」」
「暗黒期のオラリオに飛ばされて、そこでアルフィアさんやザルドさんと沢山戦いました。エレボス様に私の出自も教えて貰って、過去のアリーゼさん達やリヴェリアさん達にもお世話になりましたよ。レベルアップとか改宗とかは、その時に色々とあってして貰いまして……」
「「「「……………」」」」
全員が「何を言っているんだこいつは」という顔をする。どころかそもそも、頭が少しおかしくなってしまったのかと考えた方が容易い。
……しかし、こんなふざけた話でも、筋が通っているのだから笑えない。仮にユキのその話を本当のことだと仮定すれば、これまで起きた全ての不可思議な事象に説明が付いてしまうからだ。
確かにそんな事が本当にあったのなら、過去の自分が勝手に改宗を施したという事で納得出来てしまう。
「ユキ、私の夢の中でアルフィアが言っていた3人目の母親というのは……そういうことか?」
「あ、はい。タナトス様の言葉で自殺を考えていた私を最初に助けてくれたのがアルフィアさんでして……ええ、たくさん助けて貰いました。何度も何度も衝突もしましたけど、最後には私の事を愛していると言ってくれて」
「………Lv.7と、戦ったのか」
「あと神獣の触手って言うのと、ジャガーノートとも戦いました。アリーゼさんや輝夜さん、ライラさんにリューさんにも、たくさんたくさん助けて貰いました」
「……そう、あの子達が」
ここまで来れば、もうその言葉は疑えない。
ザルドやアルフィアは分かる。
だがあの時にエレボスが勝手に名付けた『神獣の触手』という龍の名を知る物は、当事者である者以外にはいない筈なのだ。それをユキが知っていると言う事は、その体験が何より事実だと言う事を物語っている。
あのアルフィアがそんな風に誰かの母親になると言うことだけが、未だにどうしても信じられなかったが……
「……つまり、ユキたんは英雄への拒否感もその時に克服できたって事やな」
「克服というよりは、なりたい英雄の姿が出来たという方が正しいかもしれませんけどね」
「弱点が完全に無くなってまったと……」
「それでも、主役はもう決まっているので、あまり表立って動こうとは思いません。黒龍だけはいつか倒さないといけないと思ってはいますが」
「ユ、ユキたんが完全にゼウスとかヘラ側の人間になってまった……!ど、どないしよリヴェリア!」
「ええい、落ち着け面倒臭い。別にユキ自身は何も変わっていないだろう、今も変わらず愛らしく可愛らしい」
「あかん、これなんかリヴェリアの方も訳の分からん壊れ方しとる。ちょ、ほんま大丈夫かリヴェリア。なんか規模感とかおかしくなっとらんか?」
「問題ない、この程度の強さならば許容範囲内だ。焦るのはオラリオを単騎で崩壊させられるくらいになってからでいい」
「重症やないか……」
心が広くなったと言うか、常識の尺度がぶっ壊れてしまっている様に見えるリヴェリア。しかし本人は至って当然の様な顔をしており、彼女だけが以前と変わらぬ目でユキを見て、ユキを愛でている。
ユキが7年前に飛ばされていた様にリヴェリアにも何か不思議な現象が起きていたのではないかとロキは密かに睨んだが、とりあえず今はその疑問は心の隅に置いておいた。
今決めるべき事は、それではないからだ。
「取り敢えず……アストレア、自分これからどうするつもりや?当然、ユキたんについてもどうするつもりか聞いておきたいわ。大事な事やし」
「そうね……考えてはいたのだけれど、ユキがこうなると話も色々と変わってくるわね」
元のロキの計画ではユキの英雄嫌いに付随する様々な厄介から引き離す為に、アストレアには新たにファミリアを作って貰う予定だった。
しかしユキがそれを克服した今、そんな事をする必要はこれっぽっちも無い。
しかしかと言って、ユキを今ファミリアから引き離すのはロキとて嫌なのだ。
というか困るのだ。
現状、ユキにはなるべく近くにいて欲しい。
あまり戦場には出したく無いが、力を借りなければどうしようもない局面も出て来るかもしれない。
ヘファイストス・ファミリア関係の金銭のやり取りについても、今やユキの存在は欠かせなかった。
それにリヴェリアやアイズ、レフィーヤを筆頭とした者達の精神ケアの為にも離したくない。
出来る事なら、また改宗を行って欲しかった。
それをユキを自身の子供と認識しているアストレアが了承する筈が無いと言う事は、なんとなく予想はしていたとしても。
「……ねえロキ、一つお願いをしてもいいかしら?」
「うん?それはつまり、取り引きっちゅうことか?」
「取り引きという程でも無いのだけれど……言わなくても分かると思うけれど、こうなった以上はユキをもう一度改宗させるつもりは私には無いの。だからそこは諦めて欲しい。けど、ロキにも今ユキの力が必要なことはちゃんと理解しているつもりよ」
「つまり……どうして欲しいんや」
「貴女さえよければ私もこの館に住まわせて欲しいわ。そして、今のオラリオの現状とファミリアを回す術について学ばせて欲しい。勿論、その間は貴女の仕事の手伝いもする。知恵も貸すし、神として必要な役割も担う」
「……!なるほど、その間は当然ユキたんにも仕事の手伝いをお願いしてもええって事やんな?」
「ええ、私は暫くは人前に姿を出すつもりはないもの。闇派閥がまた活動を再開した今、私が動けば必ず大事になる。それは理解しているつもり。むしろユキはロキの所で動いていた方が都合がいいくらい」
「…………」
「どうかしら?」
ユキは戻って来ない。
だが、これなら確かに影響は軽微だ。
それに今こうしてファミリア内でアストレアとユキの存在を慣らしておけば、アストレアが独立した際にも橋渡しをし易くなる。
アストレアは言うまでもなく善神だ。
信用もできるし、個人としての人脈も広い。
偶にお転婆な所もあるが、それもまた良い影響に変えてしまうのがこの女だ。
繋いでおくメリットは大きい。
それに……今ここで援助する事によってアストレア・ファミリアが再び復興する事になれば、今回の様にロキ・ファミリアが率先して頭を悩ませている様な役をいくつか押し付ける事も出来るだろう。
それは大きい。
探索系のファミリアとして、それはあまりにも大きかった。他のファミリアの育成というのも大切だと、つい最近その身でよく知った。
この条件を呑む事は、それこそ本当にメリットしか無かった。
ロキの仕事が減るという意味でも。
最終的にはユキがファミリアから離れてしまうという点を除けば。
……まあ、そもそもユキはリヴェリアがファミリアを出る段階で居なくなる予定だったので、それもあまり意味がないことではあるが。まさかユキがファミリアを出た途端に余所余所しくなる筈もあるまいし。
「分かった、その条件で頼むわ。ユキたんの力、もう少し貸して貰うで。そん代わり、ユキたんとリヴェリアの式はファミリア総出で、そら壮大に仕掛けてやるからな!」
「ふふ、それはいいわね。私も乗ったわ♪」
果たして今ユキとリヴェリアの結婚式を執り行うとすれば、一体どの様な事になってしまうのだろうか……
金額の規模とエルフの過激派や他の(性的な)派閥による争いで、もしかすればオラリオが荒れてしまうかもしれない。それを想像して呑気に笑う事の出来る者など、相当な物知らず以外には居るまい。
……ただ。
(まあどんな反対があろうとも、私は誰にもユキを渡すつもりはないがな。たとえ全てのエルフの国を敵に回したとしても)
「?」
(仮に黒龍を持って来ようとも、私は次こそ打ち倒してみせる。それほどの心を持って、私はこの子と添い遂げよう。もう2度と、ユキを手放すことなどあってはならない)
リヴェリアの心は、やはり以前よりも過激になっていた。
より過激に、ユキへの愛が変化していた。
そしてまだ彼女は気付いていない。
ユキという英雄を救い出したという偉業の大きさを。
そして自分がまさかLv.7へと上がる為のチケットを、あのガレスやフィンよりも先に手に入れてしまっているという事など。
「えっと、リヴェリアさん……?」
「愛しているぞ、ユキ」
「!!わ、わたしも大好きですよ!リヴェリアさん!」
だが一先ずは、この喜びに浸ろう。
2人で目を合わせて愛を交わし会える、今この瞬間を。
書き貯めは一旦ここで終了です。
この先も多少書いてはいるのですが、個人的に納得出来ていないので、仮に投稿するにしても時間がかかってしまうと思います。
ダンまちのアニメ5期も決まりました。
是非原作の小説の方やアプリの方にも触れてみて下さい。
漫画の方も何度も見返す程に面白いです。
私の作品から原作の事を好きになって貰えるなら、それ以上に嬉しい事は無いと思います。
また、今後も自分の書きたい物を書いて、出したい時に表に出していくという気ままなスタイルで活動していくつもりです。評価やコメント、考察などをいただければ励みになります。
むしろネタを提供する感覚でコメント頂ければ嬉しいです。
以上です、よろしくお願いします。