白海染まれ   作:ねをんゆう

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また書き溜めて来たので一気に投稿していきます。
1日1話で145話くらいまで進める予定です。
よろしくお願いします。


119.続く闘争

「ベートさんが家出中なんですか……」

 

「ああ、どうやら今は元イシュタル・ファミリアのアマゾネスの1人と一緒に居るらしい。まあ遊んでいる訳でも無さそうなので放ってはいるが……偶にはそういった時間も必要だろう。私達としても闇派閥が今ここぞとばかりに攻勢を仕掛けて来ている現状を考えると、なるべく手分けて鍵を見つけ出したいというのもある」

 

「なるほど……まあ、私が昏睡してからまだ5日も経ってないですもんね。なんだか日にちの感覚が狂ってて、不思議な感じがしますけど」

 

「それは私もそうだ。というより、もう何ヶ月も何年も感覚がズレているようにすら感じている。記憶も大分入り組んでいてな、知らない筈の事を知っている様な気もして……まだ少し混乱しているのが実情だ」

 

「……リヴェリアさんは、私が過去に行っている間に、逆にあり得たかもしれない未来に行っていたんでしたっけ」

 

「ああ、どれも酷い物ばかりだった。しかもユキに関する情報以外は軒並み記憶から消されているというこの嫌らしさ。一体何者の仕業なのかは知らないし、感謝はするが、趣味が悪いとしか言いようがない」

 

団員達への報告を済ませた後、ユキはリヴェリアの私室にいた。

真面目な話をしているように見えるが、その実2人は一つのソファに寄り添い合いながら座り、ユキはリヴェリアの肩に頭を軽く乗せている。

互いに手と手をしっかりと握りくっ付いているのだから、それはもう本当に恋人らしい姿と言えるだろう。

まあこのたった五日間の間に2人が経験した事を考えれば、こうなってしまうという事も無理の無い話ではある。それくらいに2人はこの幸福な時間を掴み取る為に様々な苦難を乗り越えて来た。手と手で触れ合えるというだけで、それが何よりの幸福であるという事を今この瞬間にも実感している。今掴んでいるこの時間がどれほどの奇跡の上に成り立っているのか、それはこの2人こそが一番良く分かっている。

 

「そういえば、お前に植え付けられていた精霊の胎児の方はもういいのか?クレアの話では主人格権を奪われる可能性もあったらしいが……」

 

「あ、それは起きた時に取り込みました。なので私の身体にも精霊の血肉が混じりましたが、胎児の意識自体まだかなり希薄な段階でしたので、私自身は全く問題ありません」

 

「……今何かサラッと凄い事を言わなかったか?」

 

「まあ、クレアの様な力のある精霊を取り入れてましたからね、まだ力の無い子供くらいなら簡単ですよ。そうでなくともクレアの分の容量も空いて、私自身もずっと強くなりましたから」

 

「……そうだな、お前は確かに強くなった。私はクレアの犠牲を用いなければお前を救えなかったというのに」

 

「犠牲なんて言わないで下さい。一緒にクレアの事、助けてくれるんですよね?それなら犠牲なんかじゃありません」

 

「……ああ、そうかもしれないな」

 

クレアの事についても、ユキはもう聞いている。

怒ることはしなかった。

むしろ、少し悲しげな顔をしながらも納得し、いつかクレアを助け出す事が出来るのならと、リヴェリアにお礼を言ったくらいだ。

自分の憧れた英雄になるならば、姉の1人くらい救えなければ。

ユキはそうして、もう前を向いている。

少しだけカッコ良くなった、そんな横顔で。

 

「……お前は、少し男らしくなったか?」

 

「ふぇ?」

 

「すまん、気のせいだった」

 

「え、なんでそんなに直ぐ撤回するんですか……こ、これでも少しは男らしくなった筈ですよ!?クレアと同化する前の状態に戻ってる筈ですし!」

 

「具体的には?」

 

「か、神様が私の性別が分かる様になります!…………集中して見て下されば」

 

「変わってないも同然だな。他には?」

 

「お、男のオーラが出る様に……!」

 

「なっていない」

 

「す、少しだけ筋肉量が増したりとか……!」

 

「変わっていない」

 

「こ、骨格が男らしく……!」

 

「確認したがその様な事実は無かった」

 

「う、うぇえ……」

 

「ほら泣くな、カッコいい大人になるのだろう?心配しなくとも今のお前を私は一番に愛している」

 

「うぅ、リヴェリアさん好きれすぅ……」

 

「ふふ、全くお前は変わらないな」

 

まあ、むしろ変わってもらっては困るというのがリヴェリアの本音でもあろう。

いきなり恋人の姿形が変われば、当然に戸惑うのが人間という物だ。人は人の内面だけを見て愛する訳では無いのだから、外見も含めてその人間。好きになったその時のままで居てくれる方がいいに決まっている。

リヴェリアが困った顔をしつつも安心したのは、そんなことからも間違いなかった。

 

「……あ、そういえば」

 

「ん?なんだ、ユキ」

 

「多分、私の性機能も回復したと思います」

 

「え……」

 

「アストレア様がそう仰っていました。私自身そういう感覚は疎かったのですが、アストレア様が大事な事だからリヴェリアさんに伝えておくべきだと助言して下さいまして」

 

「………」

 

「リヴェリアさん?」

 

そんな風に突然カミングアウトされたユキの言葉に、完全にリヴェリアの動きが停止する。

リヴェリアの頭脳がフル回転する。

そして徐々にその顔が赤く染まっていく。

 

待って欲しい、いや待って欲しい。

急にそんな事を言われても困る。

急にそんな事実を突きつけられても困る。

だってそれはつまりそれは……

 

(今のユキとなら、子供が作れる……?)

 

もうそんなことを頭の片隅でも考えてしまった日には、お終いだ。

だってそうでなくともそこまで見た事すら無いのに。

それを意識した事はありはするけれど、

実際にそうなるとなると困るのだ。

なにせ性機能が再生したとなれば、それはもう普段のいつもの甘い行為ですらもそういう配慮というか思考をしなければならない訳でそれはもうつまり……

 

「きゅぅぅん……」

 

「えっ、リヴェリアさん……?リヴェリアさん!?なんでいきなり気絶したんですか!?リヴェリアさん!?」

 

忘れてはならない。

ユキも確かに初心であるが、それに負けず劣らずリヴェリアも恋愛に対して初心であるという事を。それこそ普段はあれだけユキを責め立てているというのに、いざユキとそういった行為に及ぶ妄想をするだけで頭がフルバーストしてしまうくらいには……

まあそれは同時にそれくらいユキのことを意識してしまっているという事の証左ではあるのだろうが、今のリヴェリアの姿は間違いなく年上の恋人としては恥ずかしいものであったに違いない。

 

 

 

 

リヴェリアがそんな風に気絶していた頃、ロキ・ファミリアの一部の団員達は元イシュタル・ファミリアのテリトリーで物探しをしていた。

目的は人工迷宮クノッソスの鍵となるもの。

ユキが何の偶然か彷徨い込んだ7年前の別世界では、アルフィアとザルド、そしてオッタルとリヴェリアによる超火力によって崩壊し、その被害によって絶命した信徒達から入手する事となったそれだが、今この世界ではそういった歴史は辿っていない。

クノッソスの鍵はまだ見つかっていない状態だ。

恐らくはイシュタルがそれを隠し持っていたであろうと予想して彼等はここをユキが昏睡している間も密かに探し回っていたが、なにぶん広い上に瓦礫も多い。そんな中から形しかわからない様な物を探し出すのは至難の業だろう。そして当然に、こうして探し始めて数日、手掛かりは何一つとして見つかってはいなかった。

 

「やれやれ。ユキの事が漸くいち段落したと思ったのだけれど、こちらの事については全く進んでいないからね……僕も素直に喜びたい気持ちはあるのに、そうも言っていられないのが悲しいところかな」

 

「悲しむも喜ぶもリヴェリアがすればよい、所詮儂等はあの子の為に何もしておらん身だしのぅ……その分こちらに集中するのが役目じゃろう」

 

「……間違いなく僕達に匹敵する力を持ったユキの今後も、考えておかないとね」

 

「儂等というよりは、かつてのザルドとアルフィアに匹敵すると言った方が正しいのではないか?奴等とも剣を交えたと言っておったしな、儂等とは強さの質が違う」

 

「英雄、か……恐ろしいね、自身を英雄と自覚したユキなんて。ステータスとスキルだけでは分からない強さとでも言えばいいのかな」

 

一見、目覚める前と何も変わっていない様に見えたユキ。しかし間違いなく彼の中で何かが変わっているのを、フィンは感じていた。……なんというか、儚さというのだろうか。そういったものが以前よりも薄くなった様に思える。守られる側の人間から、守る側の人間になってしまった様な、そんな変わりよう。

 

「なにより、それをリヴェリアが何とも思っていないのも不思議な話だね。この僅かな時間の間で、よりユキについての理解を深めたというか。きっとリヴェリアにしか見えていないユキの姿があるんだろう、こうなれば本当にユキの事はリヴェリアに任せるしかない」

 

「問題はなかろうて」

 

「さあ、どうだろうね。リヴェリアはまだしも、今のユキも僕は相当に恐ろしいよ。……何をするか分からない、何をしてもおかしくない。そして、どんな無茶な事もできる力が今の彼にはある」

 

「そうも心配する事か?あやつは根っからの善人じゃ、悪い事にはならんわい。それに、苦労するのは盤面に未知の駒が出来たお主くらいじゃろう」

 

「……ああ、そうかもしれないね。早く解決したいものだよ、彼が動くより先に」

 

夕日が沈んでいく。

今日の探索はこれまでだ。

今日もやはり鍵は見つからなかった。

元々扱いづらかったその強い駒が、操る事が出来なくなったどころか、未知であるどころか、今のフィンにはまず見えてすらいない。いくらアストレアの眷属に戻ったからと言って、果たしてそこまでになるだろうか。フィンのそんな抽象的な勘は、果たしてどの様な形で当たる事になるのか。

 

 

 

「あれ、ユキさん何処かに行くんですか?雨降り始めてますよ?」

 

「ええ、少し椿さんの所に行こうかと思いまして。大丈夫です、直ぐに戻りますから」

 

「そんな、まだ目を覚ましてから1日しか経ってないのに……」

 

「ふふ、身体の方はもう問題ありませんから。それよりリヴェリアさんが眠っているので、そちらをお願いしますね?レフィーヤさん」

 

未知が、動き出す。

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