白海染まれ   作:ねをんゆう

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13. 剣光突破

「ユーキたんっ♪ちょっとええか?」

 

「ひゃっ!もう、突然抱き着いてきたら危ないですよロキ様?少し待っていて下さいね……はい、これでよし。さてさて、今日は一体どのような御用件ですか?」

 

本拠の中庭、そこで何故か洗濯物を干していたユキ・アイゼンハートはいつもの様にロキのセクハラに動じない。

どころか嫌がるそぶりすら見せずに笑顔で対応してくれるユキに対して、やはりいつもの様にロキは若干の罪悪感を抱かされる。

少しは困ったり怒ってくれたりする方が、むしろリヴェリアの様に殴ってでもくれる方が、ロキにとってはやりやすいというものだ。

敬って貰っているというのは分かるが、この無防備さは色々な意味で心配になってしまう。

 

「う……あ、あんな?休養中の所悪いんやけど、ちーっとばかし調べ物に付き合うて欲しいんよ。ベートにも頼んだんやけど、今は忙しい言うて書類と睨めっこしとるし。せやから頼めんやろか?一応何が起きるか分からへんから武器も持ってきて欲しいんやけど」

 

「ふふ、もちろん構いませんよ?今準備してきますから、少しだけお待ち下さいね」

 

「そ、そか。ほな頼むわ」

 

一瞬の悩む余地もなく、にっこり笑顔で即了解。

リヴェリアに与えられた怪我明けの休養日にも関わらずファミリア内の雑用を行い、その挙句にこれなのだからロキの思考は当然こうなる。

 

「け、汚せへん。男の子の筈なのにヘタな女の子より汚せへん!どないなっとるんやユキたんは……!」

 

最低である。

 

 

 

綺麗な中庭から一転変わって、そこはジメジメとした地下水路。

ここでは細長い支水路の溝に並べられた魔石製品の浄化柱によって、汚水を清潔な水へと変えている。

正にオラリオにとっての重要機関とでも言うべき場所であるが、その重要性に反して管理は非常に杜撰であった。

 

定期的に検査自体はしているのだろうが、誰にでも容易に侵入できるほど警備は緩く、恐らく表には出せない犯罪行為もされていることが容易に想像できる。

いつ毒を撒かれてもおかしくないことを考えると、ここも早めに管理を見直すべきだろうに、人手の関係からかほったらかしにされている様にも感じてしまう。

 

(その辺りのことも今度調べておかないと……)

 

そんなことを考えながら歩いているのは、剣を6本携えて、ロキを背負いながら水路を歩くユキ・アイゼンハート。

長い黒髪を濡れないように横で纏め、珍しくショートパンツを穿いて外に出た彼の姿が、街行く人々の目線を大きく集めていたのは言うまでもない。

 

ちなみにロキがおぶられているのは決して自ら頼み込んだからではなく、ユキが自分から申し出たからである。

むしろロキは『い、いや!ええって!別にちっとばかし濡れるくらいなんでもあらへん!』と断ろうとしたのだが、無理矢理押し切られた形で。

恐らくこれがベート相手ならまだ変わっていただろうが、ユキに対しては既にロキには勝ち目が無かった。

ある意味でリヴェリアよりも頭が上がらない相手なのかもしれない。

 

「……なあユキたん、怪我はほんまにもうええんか?偶に街に一人で出歩いとるみたいやけど、流石に気になるで」

 

「ええっと、リヴェリアさんにも言いましたが、そちらはもう本当に問題ありませんよ?本音を言えば私もダンジョン探索に連れて行って欲しかったくらいです、18階層はまた今度と言われてしまいましたが」

 

「いや、そら当然やって。あないな大怪我しといてまだ2日目やで?いくらエリクサー使った言うても心配くらいするやろ」

 

「その割にはこうして駆り出されてますけどね♪」

 

「うぐっ!!……うぅ、ほんまダメな主神で堪忍なユキたん、頼むから見捨てんとってくれな」

 

「じょ、冗談ですからロキ様!泣かないで下さい!私はロキ様のこと見捨てたりしませんから!」

 

ちょっとした冗談のつもりが思いのほか深々と突き刺さってしまうという事故は生じたが、他には特に何の問題もなく2人は進んでいく。

ユキが見つけた侵入の痕跡や、ロキの直感、様々なものを利用すること数十分。

 

ようやく変化は訪れた。

 

「っ!……ロキ様、少しの間降りて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「うん、ウチは最初からずっと降ろして言うとったんやけどな?……ユキたん、気ぃつけるんやで。何が起きるか分からん、撤退も考えとき」

 

「はい、分かっています。……来ます!」

 

水と瓦礫を跳ね上げるような衝撃。

身体ごと揺らす様な轟音。

狭い空間に響き渡る異形の叫び声。

そして同時に、そこには見覚えのある5体の植物型モンスターが姿を現した。

 

「これは……!」

 

中央の一体は特に大きく、恐らくなんらかの変異を起こしたものではないかとユキは考察する。

幸運だったのはあの人型が居ないことか。

しかしそれでもあの巨大な変異体が見た目にあっただけの戦闘力を持っていることは間違いない。

この規模となれば、まともな戦い方ではロキにまで被害が及んでしまうかもしれない。

 

(それに……)

 

以前は本命の武器であったからこそ容易に倒すことができた相手だが、今回は普通の剣を6本持ってきただけだ。

鎖を使った戦法も使えなければ、削り取る様な長時間戦闘も取ることができない。

あの時の様な一撃必殺や斬撃など、この剣でやれば振り下ろす前に粉々になるだろう。

今までの様な方法では決してこれらを倒す事は出来ない。

 

(それなら、)

 

故に、取るべき行動は1つ。

武器の破損など完全に無視して最初からぶっ放す。

全力全開の攻撃で短時間で戦闘を終わらせる。

それで無理なら退散だ。

幸い、ここは通路が狭い。

例え倒せなくとも、重症を負わせて動きを鈍らせることを考えればいい。

そうするだけできっと被害を減らすことが出来るのだから。

 

「救いの祈りを『ホーリー』!!」

 

ユキは方針を固めると直ぐに行動へと移した。

 

ロキを捕まえて細い通りまで全力で後退する。

アレを相手に大広間で戦うほど余裕はないだろうということは、以前の戦いから学んでいた。

本来なら1対1でも油断できない相手だ、レベルの足りない自分では周囲の環境でその差を埋めるしかない。

 

5体のモンスターが狙い通りに通路へと殺到するのを見て、ユキは少しだけその口角を上げる。

そうして携えていた6本の剣の内の5本を取り出して、軽く宙へと投げ捨てた。

武器を投げ捨てるというそんな突飛な行動に一瞬目を疑ったロキであったが、直後に更に目を疑う様な光景が目の前に広がることとなる。

 

「さて、久々ですし気を張っていきましょうか。モンスター相手ですからね、ほんの少しだって手加減してあげませんよ……!」

 

宙に舞った五本の剣の1つ1つに光の魔法が付与されていく。

するとどうしたことか、重力に従ってそのまま落下する筈だった剣達はまるで意思を持ったかの様に空を漂い始め、ユキの前方に様々な軌道で展開され始めたのだ。

 

「なっ」

 

一体何が起こっているのか想像することも出来ずポカンと惚けているロキを他所に、ユキは今度は円状に回り出した五本の剣の中央に手をかざし、魔力を最大限に開放して付与し続ける。

剣の回転は益々に早まり、その中央部に収束する光の魔力は、次第に超高密度の光球を作り出し始める。

 

そうして五体のモンスターが狭い通路を押し広げながら寸前にまで迫り切った時、ユキはその場から一歩踏み込み、まるで押し込む様にして光球へと手を伸ばして言い放った。

 

『剣光突破/ソード・プロミネンス』

 

『ッ!!』

 

瞬間、水路一面が白に染まり、耳をつんざく様な高音と共に光の波動が放たれる。

避けることなど決して許されない速度で放射された光の束は水路の表面ごと植物型モンスターを焼き払い、更に大広間の奥壁を乱反射しながら深く削り取ることで隠れていた者達まで炭へと変えていく。

それは正に必殺の一撃。

単純な威力だけならばレフィーヤの魔法の1発にも匹敵するだろう。

 

水路内に響く轟音と高音に加えて、床壁を震わす振動はしばらくの間反響し続ける。

そうしてユキが戦況を確認し一息をついたと同時に、宙に浮いていた五本の剣はまるで砂か灰にでもなったかの様に崩れ去ってしまった。

まるで鉄という形を保つ力さえも失われたかの様に、彼等はこの瞬間に命を終えた。

 

そんな剣達に感謝と謝罪を込めて手を伸ばしたユキは、少しのカケラを手の中に握り締めて布袋の中へと仕舞い込むと、何事も無かった様にロキへと向き直る。

 

「……さて、もう少し調査したら帰りましょうかロキ様。あれを相手に私も剣1本では心許ないですし」

 

「せ、せやな」

 

額に汗を垂らしながらもにこやかにそう言うユキ、だがそれを見ていたロキが純粋な笑顔で言葉を返せるはずもなく。

 

(マジかユキたん!こんな魔法があったなんてリヴェリアからも聞いてへんのやけど……!)

 

未だにその正体も実力も底の知れない彼という存在を理解するには、ロキも含め踏み込みが浅過ぎると言わざるを得ない。

そして、それが原因となって起きる未来をなど想像出来る筈も無い。

 

 

 

 

水路の探索を一旦終えると、2人は数時間ぶりに地上へと戻ってきた。

収穫こそあったものの、それが意味していることを纏めるには情報が足りないということで、今後も調査は続けるという方針だけを固めて今日は帰還することとなる。

ここについての調査は、もう少し体制を整えて、ギルドも含めて行った方がいいかもしれない。

犯罪の隠れ蓑にもなっていそうであったのだし。

 

「やあロキ、久しぶりだね」

 

「ん?……おお、なんやデュオニソスやないか!久しぶりやな!」

 

そんな折に偶然、2人は神デュオニソスとその眷属であるフィルヴィス・シャリアに声を掛けられた。

如何にも女性に人気がありそうな優男風の男神であるデュオニソス、そしてレフィーヤやリヴェリアとはまた異なった印象を受ける美少女エルフのフィルヴィス。

なんとも人目を引きそうな2人組だ。

 

そんな神の中でも比較的まともな彼との再会にはロキも少しばかりテンションが上がっており、なにやら嬉しそうに絡みに行ってしまう。

……とは言うものの、もちろんこの2人とユキは初対面であり、2人もまたユキのことは知らないという立場ではあるので、ユキは頭を下げてロキの後ろに立っているしか出来ないのだが。

 

「いやはや、本当に久しぶりだね。ロキも相変わらずのようで何よりだ。……おや?見かけない子だ、もしかして新入りかい?」

 

「んお?せやせや、デュオニソスにはまだ紹介しとらへんかったな。期待の新人、ユキたんやで!仲良うしたってな!」

 

パンパンと嬉しそうに背中を叩くロキに対して、苦笑をしながらもユキは丁寧な所作でデュオニソスに対して自己紹介を行う。

これがいつもとは違う若者的な髪型に、露出の高いショートパンツ姿で行うものだから、とてつもないギャップが発生していることは言うまでもない。

今頃になってもう一度言うが、今のユキの姿は間違いなくこの街の男達にとって目の毒だ。

フィルヴィスの目も何となく睨んでいる様な形になっている。

 

「お初にお目にかかります、ユキ・アイゼンハートと申します。お二方とも、どうぞよろしくお願い致します」

 

「おお、これはまたロキのお気に入りにしては常識的な女の子だね。私はデュオニソス、そしてこっちがうちの団長をして貰っているフィルヴィスだ。こちらこそ、どうか仲良くしてやって欲しい」

 

「……フィルヴィス・シャリアだ」

 

「はい、よろしくお願いしますね、フィルヴィスさん」

 

「………」

 

いつもの様にそうして笑いかけるユキに対して、フィルヴィスはぷいっと視線を背ける。

そんな2人の様子に、ロキとデュオニソスはまるで不器用な子供を見るような表情で笑い合った。

 

「そうだロキ。詰まる話もあることだし、久しぶりにお茶でもどうかな?もちろん、ここは私が奢らせて貰おう」

 

「お、ええやん。ええ店知っとるから早速行こうや。ほれ、ユキたんも行くで。いつまでも女の子のことジッと見つめとったらアカンからな」

 

「えっ!?も、もう、人聞きの悪いこと言わないで下さい…….!」

 

何も言わずにずっとニコニコと見つめていたらそう思われても仕方がない。

証拠にフィルヴィス・シャリアがその白い肌を赤く染めて始めてしまっている。

それが怒り故なのか照れ故なのかはともかく、状況証拠があるのだから言い逃れはできない。

……ただ、ユキが実際に見つめていたのはフィルヴィスの少し上の辺りだったりするのだが。

 

 

「なんや!ってことはデュオニソスも地下水路行ったんか!?」

 

「ああ、残念ながら私達は撤退を強いられてしまったのだけどね。ロキ達はどうだったんだい?」

 

「あー、実はユキたんがとんでもないことやらかしてな。一応全滅はさせたんやけど、特に目星いもんは見つからんかったわ」

 

「……もしかして、彼女も例に漏れず特徴的な子なのかな?」

 

「ぶっちゃけベートやアイズたんくらい問題児やで、常識的なのは性格だけや」

 

「なるほど、それはまた大変そうだ」

 

「あの、お二人とも流石に酷過ぎませんか……?ご迷惑をおかけしている自覚はあるので反論はできないのですが……」

 

日も暮れ始めオレンジに照らされた店内で向き合う2組は、適度にユキをイジリながら地下水路での情報を交換し合っていた。

そして今度はそんなあうあうと落ち込むユキの様子をフィルヴィスが見つめる番であり、それでもユキは興味深そうにデュオニソスとフィルヴィスの少し上の方を見ている。

何とも言えない表情だった。

 

「……にしても、なんや臭い話やな。地下水路でモンスターを飼ってただけやなく、目撃した冒険者も容赦なく始末する。どう考えても組織的なもんやし、あないなモンスターが大量に暴れ出したら最悪オラリオは半壊するで?」

 

「ああ、これは最早1ファミリアでどうにかできる問題ではないだろう」

 

「せやったらどうして他のファミリアに情報共有せんのや?ギルドに通報するくらいしてもええんやないか?」

 

「……そのギルドを疑っているからだよ、ロキ」

 

「……マジで言うてんのか?」

 

2人の声は徐々に小さくなり、あまり外には出せない話を進めていく。

一方でユキは、やはり何故かフィルヴィスとデュオニソスの少し上辺りを見ていた。フィルヴィスも視線の先に何かあるのかと後ろや上を見てみるのだが、そこには特に何も無い。

本当にそこには、ただ壁があるだけで。

 

「君達はこれと同じものを深層でも見つけたのだろう?地上からダンジョンの深層まで、加えて怪物祭にまで手を回せる存在……そんなもの僕はギルドくらいしか思いつかないけれどね」

 

「まあそら確かにな、早計やとは思うけど一理はあるわ。そんで、そっちはこれからどないするつもりなんや?まさかギルドに直接殴り込み行く訳やないやろ?」

 

「それこそまさかさ、とりあえずは大人しく情報収集は続けるつもりだよ。あまり大きく動いて目を付けられても困るからね。ロキこそどうするんだい?」

 

「ウチもウチで忙しいからなぁ、むしろこの件については手を付けられる余裕が無いって思っとったんや。デュオニソスがやってくれるんなら都合ええわ」

 

「そうかい、それは良かった。出来れば何かしら起きた時に戦力を貸して貰えると助かるのだが、それはどうかな?」

 

「ん、まあそれくらいなら構へんで?時期と場合にもよるけどな」

 

そうしてデュオニソスは釣られて上の方を見ているフィルヴィスの肩を叩き、ロキはユキの頭を叩いて視線を元に戻させる。

流石に限度というものがある。

気になって仕方が無い。

そこには本当に何も無いのだから、滅多な事はやめてほしい。神と言えど背中に寒気が走ってしまう。

 

「まあ、気ぃ付けぇやデュオニソス。緊急時にウチら神が死んだら、子供達だって死ぬも同然なんや。地下水路行った時に思ったんやけど、なんやかんや言うてもウチらはあんまり表に出るべきやない。調子に乗ったらアカンで」

 

「……忠告、心に留めておくこととしよう。私も足手纏いになるのは本意ではないからね。それではこれで、また何かあれば連絡させて貰うよ、ロキ」

 

「おお。またな、デュオニソス」

 

決して何かが分かった訳ではない。

けれど意外にも特に大きく荒れることもなく終わった話し合いは、両者にとって満足のいくものとなっただろう。

2柱がどこか余裕を持って会話を続けることができたのは、久しぶりの再会故なのか。

 

ただ、結局ユキが終始何を見ていたのかは分からなかった。

 

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