白海染まれ   作:ねをんゆう

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152.真っ白な

かつては商業都市アナンタ。

今は白桜の都アナンタと呼ぶらしい。

外から見た廃墟同然の姿は嘘の様で、白を基調とした大理石作りの美しい街並み。確かに区画自体は小さいが、その造りは見事な物だ。よくよく見てみれば外壁に関しても現在修復の真っ最中であり、男も女も関係なく、むしろ女達の方が声を出して勤しんでいた。

街の中央部にある噴水の設置された広場では子供達が駆け回っており、街を縦に走る道ではかつてのアナンタの様に商人達が客も少ないのに景気良く人を呼び込んでいる。……当然、彼等も殆どが女だ。けれどその勢いは、オラリオの若い商人達に全く引けを取らない。

 

「……すごい、まるで英雄譚に出てくる神の街みたいだ」

 

「材質も良い……徹底的に拘ってんな。多少叩いてもヒビすら入らねぇんじゃねぇか?」

 

「それに街の作りも。見て下さい、裏路地がありません。人の目に付かない部分が意図的に潰されているんじゃないでしょうか?」

 

「オラリオより、綺麗……」

 

「……子供達が自由に遊んでいて、それを周りの大人達も笑って見守っている。良い街だね、ここは。僕も気に入ったよ」

 

「………」

 

リヴェリアが別の世界でこの街に来た時も、これほど美しかっただろうか。そんな気もするし、そうではなかった気もする。あの時は既に街の大半が破壊されていたし、それよりも街並みに気を向けていられる余裕がなかった。それに最近はその記憶も朧げになっている、あまりうまく思い出すことが出来ない。

 

「嬢ちゃん達かい?あの子に会いに来たってのは」

 

「……貴女は?」

 

美しい街並みに気を取られていた彼等に話しかけて来たのは、何処にでも居そうな風貌をした中年の女性。しかし快活な笑みを浮かべており、先ほどの様に何かを疑われているという様子もなかった。

 

「入口にイカした男が居ただろ?ありゃアタシの旦那だよ。ユキちゃんの恋人が来たって聞いたからね、娘に店任せて飛んで来たのさ」

 

「なるほど……これは失礼をした。リヴェリア・リヨス・アールヴ、ユキの恋人をさせて貰っている」

 

「へぇ、こりゃまた美人を落としたもんだ。ユキちゃんにピッタリだよ!」

 

「……ふふ」

 

その言葉は、リヴェリアにとってなんとなく新鮮で、嬉しいものだった。世間的に見ればハイエルフであるリヴェリアに対して、一般人であるユキが相応しいかどうかが議論される。事実オラリオでも他のエルフ達がそういう会話をしていたことをリヴェリアは知っている。

しかしこの街では逆なのだ。

ユキに対して、リヴェリアが相応しいかどうかを議論される。それは確かに少しだけ怖いことでもあったが、それがあるべき本当の姿なのだとリヴェリアは思う。

 

「付いといで、遠慮する必要はないよ。……この街の人間はみんな、あの子に胸を張れる生き方をするって決めてんだ。あの子の恋人に友人ってんなら、きっと気に入ってくれる筈さ」

 

そう言って彼女は胸元にかけていた木彫りの丸い首飾りを示した。……ああ、知っている。女神アストレアとユキが背中合わせに掘られているそれは、この街の住人の大半が身に付けているとされる物だ。

 

「……ユキは、無事なのだろうか」

 

「さて、どうだろうねぇ。その辺り、私達は何も聞かされていないんだよ」

 

「そうなのかい?でもすごい戦いがあったんだろう?ほら、山が崩れてるし」

 

「ああ、ありゃただのオマケみたいなもんさ、女神さま」

 

「おまけ?」

 

「ま、それについてもアストレア様に聞くといい。ただあの子は生きてるし、祭りの準備も止めない様にって言われてんだ。だったらアタシ達はそれを信じて笑って踊る、それだけだよ」

 

踊る意味まではよく分からなかったが、取り敢えず彼女はそうして街長の家まで案内してくれた上に、街長の秘書という女性に事情の説明までしてくれた。

するとこれで自分の役割は終えたとばかりにさっさと帰ってしまうし、本当にサバサバとしている。そして話を聞くと直ぐに屋敷の奥に消えていってしまった秘書の女性。

遠くからパタパタと聞こえてくる足音は、歩いて行って彼女のものとは明らかに違い……

 

「リヴェリアちゃん!それにヘスティアも……!」

 

「女神アストレア!」

 

「アストレアじゃないか!久しぶりだね!」

 

その姿を見ただけで、果たしてどれほどリヴェリアの心が安堵しただろうか。彼女の無事は知っていたが、何よりその表情は決して絶望に染まっていない。つまりそれは最悪の状態にはなっていないということなのだ。

それだけで十分、いや、もう、本当にユキが生きているという事だけでもリヴェリアはその場で膝を突いてしまいそうな程には安堵する。それでも何故ユキ達が帰って来なかったのかは分からないが、それでもだ。

 

「神様?あの女神様は……」

 

「ああ、アストレアは僕の姪でね!神の中でもかなり誠実な神格の持ち主なんだ!自慢の姪だよ!」

 

「アストレア様と言うと……確か以前に闇派閥からオラリオを守っていたファミリアの女神様ですよね。既にオラリオから姿を消したと聞いていましたが」

 

「……あぁ!そうだリューさんの!!」

 

「ええと……ごめんなさい、ヘスティアの眷属達。悪いのだけど、私がここに居ることはあの子を含めてまだ内緒にしていてくれると助かるわ。少し状況が複雑なの」

 

取り敢えずこっちの部屋に。

通されたのは普段は会議などで使われていそうな大きな机のある部屋だった。

……確かに、アストレアの表情に絶望の色はない。しかしそれは決して何の不安もない表情かと言われれば全くそうではない。

 

(なにかが、起きてはいるのだろう。決して喜ぶことは出来ない、なにかが)

 

アストレアは側について来ていた使用人の1人に人数分の飲み物をお願いすると自分も遅れて椅子に座ったが、やはりその表情は何の憂いもないとは言い難いものだ。

マルクとユキ、タナトスの声も姿も見当たらない。アストレアがここに1人で居るということだけでも、状況は異質だ。

 

「まずは、ごめんなさいリヴェリアちゃん。連絡の一つも出来ずに長く待たせてしまったわね、心配したでしょう」

 

「貴女がしなかったというからには、相応の理由があると理解している。今は何より、その理由の方を聞かせて欲しい」

 

「そうね、そうよね……ヘスティアも、その眷属達も来てくれてありがとう。この件に関しては同じ神としてヘスティアの意見も聞きたいわ」

 

「そういってくれるのは嬉しいけど、あんまり期待されても困っちゃうぜ。僕だってそんなに頭が回る自信はないんだ」

 

「ううん、今は知識や思考よりも直感や思い付きが欲しいの。……全知無能の私達でさえ、分からないことばかりなの。あの子達のことは」

 

あの子達。

そう、あの子達のことにはロキでさえ大いに頭を悩ませていた。確かにこういう時には頭を回して思考するロキの様なタイプではなく、直感や閃きに長けたヘスティアの方がうってつけであるのかもしれない。

……少なくとも、きっとリヴェリアでは話を聞いても分からない。何をどうすればいいのか、いつものように、分からないはずだ。

 

「最初に、どうして私達がオラリオに戻らなかったのかから話すわ。……簡単に言えば、ユキを安定させるためにここを離れる訳にはいかなかったからよ。そして知らせを出す余裕もなかった」

 

「ユキを、安定……?」

 

それほどに体調を崩しているのか。

そう考えたが、もちろんそうではない。

それならばアミッドの居るオラリオに無理矢理にでも運んできた方がよっぽど安全なのだから。ここでなければ治療出来ない何かを患ってしまった、そう考えるのが妥当。

 

「アストレア、安定しないっていうのは、具体的に何のことだい?」

 

「……存在そのものよ」

 

「「!?」」

 

しかし語られた言葉は、リヴェリアの頭の中に浮かべていた何よりも衝撃的で。

 

「ユキの存在そのものが消えかけていたのよ、だからここを離れる訳にはいかなかった。アナンタほどユキの存在を肯定して、証明している場所はないもの。後は私が定期的に神血(イコル)を与えて、恩恵による結び付きを強くすることで確立させる……そんな強引な手段を取って、数日前に漸く意識を取り戻したわ」

 

「な、何故そんなことに……!」

 

「……アストレア、本当にいったい何があったんだい?子供達の存在そのものが揺らぐなんて、あってはならないことだ。言ってしまえばそれは、この世界にバグ(不具合)が起きたことになる」

 

「……そのバグが起きてしまったのよ、ヘスティア。そして少なくとも私には、そのバグが何故起きたのかすら分からない」

 

アストレアがそこまで話したところで、玄関の方で扉の開く音が聞こえてくる。そしてパタパタと誰かが走ってくる音。それに気付いたアストレアは慌てて立ち上がり、ドアの方へ向けて小さく駆けた。

扉を開け、走って来た人物を出迎える。

 

「あすとれあさま……!」

 

「ええ……おかえり、ユキ」

 

「ユ、キ……?」

 

蹲み込んだアストレアに抱き付くように走り込んできた黒髪の小さな少女。……そう、少女。けれど、アストレアが言わなくとも分かる。何も言わずとも、分かる。

そこに居る6〜7歳程度にしか見えない小さな少女は、何処からどう見たところで、間違いなく、間違いようもなく……ユキ・アイゼンハート本人だということくらい。

 

「ほんとうに、ユキ……なのか?」

 

「……ぁぅ」

 

「ユキ、大丈夫よ。みんな優しい人達だから」

 

「ぅ……」

 

「……ごめんなさいアリサちゃん、マルクくん、ユキをお風呂に入れて着替えさせて来てくれないかしら?ユキ、大丈夫?私が居なくてもちゃんとお風呂入れる?」

 

「……うん」

 

「そう、それなら行ってきなさい。ここで待っててあげるから、終わったら戻って来るのよ?」

 

「……うん。いって、きます」

 

そうして使用人とマルクに手を引かれて部屋から出て行くユキ。そんなユキの姿が見えなくなるまで見送ると、アストレアはようやくその場から立ち上がった。

……言うまでもない、これが現状だ。

これが今アストレアが直面している、どうしようもない現状。

アストレアが困惑しつつも受け入れるしかない、今。

 

「……女神アストレア。あれは、一体」

 

「見ての通りよ、リヴェリアちゃん。ユキは子供に戻ってしまってる。勿論、記憶もね」

 

「それがユキくんに生じたバグ、ということかい?確かにあれは、間違いなく、前に見たときの彼ではあったけど」

 

「さ、流石に信じられないというか……」

 

「ユ、ユキが……ちっちゃくなった……」

 

「……ちなみに、私の恩恵も消えていたわ。存在確立のために再度刻み直したけれど、スキルも魔法も無い上に、ステータスも完全にリセットされていた」

 

「!」

 

話を聞いていた中で、なによりヘスティアが驚いていたのがその恩恵の部分だった。恩恵が消える、その意味は子供達が考えるよりも遥かに重たい事実である。それを知っている彼女達だからこそ、通じ合うものもあった。

 

「あ〜、一応確認するけど、神の力(アルカナム)は使っていないんだろうね?アストレア」

 

「ええ……本当はね、状況次第では使うつもりだったのよ。その為に色々と準備はして来たし、あの子達の幸福の為なら私自身が消滅してもいいとすら思ってた」

 

「……」

 

「でも、気付いたらこんなことになっていて。私は何も出来なくて。誰より近くで見ていたのに、何も分からないし、何も知らない。……ただ確かなのは、ユキが子供になっていて、クレアはもう、完全に消滅してしまったということだけ」

 

誰も助けることなんて出来なかったし、見ようによっては誰も救われない最悪の結末に導いてしまった。

きっともう神の力でもクレアを元に戻すことはできない。彼女はその魂から完全に消失しており、アストレアには知覚することすら出来ない。存在そのものが消え失せた。それにユキがこんな状況になってしまったからには、アストレアはもう離れることなど出来やしない。

 

「……なぁヴェルフくん、君はヘファイストスのところから改宗した時、ステータスはリセットされたかい?」

 

「え?いえ、そんなことは」

 

「サポーターくん、例えば君のステータスが良くない成長をしたとして、それをやり直すことは可能だと思うかい?」

 

「無理だと思います。……たとえやり直せても、リリはきっと同じ道を辿るだけでしょうし」

 

「じゃあベルくん、神の恩恵は何処に刻まれていると思う?」

 

「え?そ、それは背中……ですよね?」

 

「うん、そうだ。けど、少し違うよ」

 

「え?」

 

「神の恩恵はね、君達の魂に刻まれているんだ」

 

「!」

 

アストレアは頷く。

恩恵は成長を反映するが、実際には魂に対して経験に応じた付加を与えるものだ。レベルが上がるほどに持ち主の魂はより強く大きくなり、それこそタナトスはそういった付加されたものも含めて取り除いて洗浄していた。しかしそれはタナトスがしていたように神の力を使わなければ不可能なことだ。

……恩恵のリセットをするには、魂を元の状態に戻すには、神の力(アルカナム)が必要。つまりまず間違いなく神の力(アルカナム)は使用されている。

 

「問題は……アストレアと僕も含めて、オラリオに居るあらゆる神が、神の力(アルカナム)の発動に気付く事が出来なかった事かな」

 

「……やっぱりそうなのね」

 

「タナトスが使った線はないのかい?近くに居たんだろう?」

 

「それが分からないのよ」

 

「?分からない?」

 

「ええ、確かにあの時タナトスは私の直ぐ側に居たわ。けど気付いたら消えていて、存在が不安定になっていたユキだけがそこに居た。その時は急いでマルクくんと運んだのだけど、存在が安定するに連れてユキは子供の姿に変わっていったの」

 

「……なるほど」

 

そこまで聞いた時、ヘスティアは既に一つの考えを出していた。常識的に考えればあり得ないことではあるが、短絡的に考えればこの可能性は十分に考えられる。

そしてもしそれが事実であるのなら、この状況にも説明はつく。

 

「なんとなく思い付いたことがあるよ、アストレア」

 

「え、もう何か分かったの?ヘスティア」

 

「簡単な話だよ、そんなに難しい話じゃない。……神の力(アルカナム)が2回発動された可能性だ。魂の洗浄と、世界の改変の2回ね」

 

「世界の、改変……!?」

 

ヘスティアがこの思考に辿り着いたのには、ベルがオラリオから出る前に話していた『何かが変わった』という言葉が切口だった。

なぜベルだけがそれに気付けたのかは分からない。しかしヘスティアは最初からベルのその言葉を疑ってはいなかったし、きっと何かが変わったのだと思っていた。

 

「具体的に何が変わったのかは分からない。けど僕達すらも気付けなかったというのはあり得ないだろう?だから僕達含めた全生物の記憶を改竄したのか、それとも……」

 

「世界そのものを改変して、書き換えた?歴史が変わっている?」

 

「さあ、たとえそうだとしても僕達にもうそれを知覚することは出来ないよ。その場合はどちらかと言えば世界そのものが別物に変わってしまったとか、移行したとか、そういうレベルの話になるからね。ただ……」

 

様子を見る限りでは、その変化はユキ・アイゼンハートを中心に起きている。それが世界に対して有害であるのか、はたまた彼個人のための変革であるのか。そこまではヘスティアには分からない。

 

「魂の洗浄が地上で、それも生きている生物に対して行われた。魂の記録は消え、恩恵も消失した。……分からないのは、なぜ肉体まで幼くなってしまったのかだ。魂の成長と肉体の成長の関係は、それほど密接なものじゃないし」

 

「単なる魂の洗浄ではない……ということよね。でも、だとしたら何が」

 

 

 

「……神子」

 

 

 

「「!」」

 

2人が揃って振り向く。

やはりアストレアもこの話はまだユキから聞かされていなかったらしい。というよりはこれだってリヴェリアが隠し事の多いユキから強引に聞き出したものだ。そしてそのパズルのピースが揃うことで、道筋が完成する。

 

「ユキは確か、そう呼ばれる一族の最後の生き残りだ。エレボスからそう聞いたと、ユキ自身が言っていた」

 

「そ、それはどういうものなんだい!?」

 

「3つの歳までに与えられた役割に必要な才を得ることが出来る、確かそういった話だった。ユキはそこで繋ぎの英雄と呼ばれるアイゼンハートの役割を与えられたそうだ」

 

「……確か、厄災を運ぶ男と呼ばれた英雄ですよね。将来の災厄を呼び寄せ、より少ない犠牲で治める。アルゴノゥトが現れるまでの繋ぎとして密かに貢献したとか」

 

「!知っているのかベル・クラネル!」

 

「え、あ、はい。お爺ちゃんに昔聞いた話に、そんなのがあったと思います。ただお爺ちゃんもそこまで詳しくなくて、僕もついさっきまで忘れてたくらいなんですけど……アイゼンハートではなく、繋ぎの英雄の方で覚えてたので思い出せました」

 

リヴェリアの話、ベルもまた知っているという英雄の存在。だがそこまで聞けば、2柱の女神は同じ結論に辿り着けた。

……変わったもの、消えてしまったもの。

これでもう、その原因は見えた。

 

「消えたのはユキに与えられた役割、アイゼンハートという役割……!」

 

「ああ、それはバグが起きるのも仕方ない。そんな特殊なこと、滅多に起きるものじゃないからね。つまり役割という基盤がなくなったことで、その遂行のために構成されていた才も消失し、更にその上に乗っていた記録や経験も消失したんだ。肉体的の成長もまた、その才有りきで進んでいた。そのまま残っていたら矛盾が生じるから、消滅させるか、巻き戻すしかない」

 

「でもヘスティア、その仮定だと今のユキの状態はおかしいわ。それなら役割を与えられる3歳時点までリセットされてる筈。今のユキは大体6〜7歳くらいよ」

 

「……そこまでは役割がまだ完全には定着していなかったんじゃないかな。もしくはまた別の理由かもしれないけど、そこはそれほど重要なことじゃないと思うよ」

 

「えっと、ヘスティア様?ユキ様の役割が無くなってしまったとして、同じ様にユキ様がこれまで成してきた事も消えてしまったという事ですか?」

 

最早ヴェルフもベルもアイズも話の内容に殆ど付いていけてないし、アイズに関しては殆ど無言で頭の上に?マークを並べ続けている。しかしその中でも、なんとなくでも理解していたリリは質問を投げかけた。

こうして見ていると、やはりヘスティアもまた神の一柱なのだと思わされる彼等だ。全知無能、それ以前にこの世界に対する理解力がそもそもの根底から異なっている。

 

「いや、それはないと思う。確かに世界そのものを改変すれば全てが矛盾のない正常な状態にはなるけど、それはあまりに効率が悪過ぎる」

 

「世界そのものを変えるより、多少の矛盾が生じてもユキ1人の改変で済ませておく方がいい。だからこそのこの奇妙な現状ね」

 

「まあ結局、その後にまた別の神力が使われて改変されてしまった可能性もあるけど。それでも天界が動いていないってことは、この件については放置が最善だと判断されたんじゃないかな。何より避けたいのは神の力(アルカナム)による神々の殴り合いだからね」

 

「……じゃあ神様、僕は何故それに気付けたんでしょうか?何かが変わった、なんて」

 

「う〜ん、それもよく分からないんだよなぁ……」

 

「……それは恐らく、君に与えられた英雄という役割が原因だろう」

 

「英雄の、役割……?」

 

それしかない。

リヴェリアは、常々その話を聞かされていた。

ユキは直ぐに分かったという。

彼にその役割があるということを。

 

「ユキは君から自分と同じ英雄の役割を感じると良く言っていた。ならば君もまた同じ様に他の英雄の役割を感じ取れても不思議ではない。成長して来た今なら尚更……」

 

「つまりベル君が感じたのは、世界の改変に対してではなく、ユキくんの英雄の役割に関してだったと」

 

「……じゃあもう、ユキは英雄じゃない?」

 

「そう考えるのが妥当ね……今はどんな役割を担っているのかは分からないけれど、少なくとも同じ様に育てても以前ほど戦闘が出来る様にはならないはず」

 

「……ああ、そういうことか」

 

「ええ……ここに来て漸く私も理解できたわ、リヴェリアちゃん」

 

まだまだ細かい所は分からない。

ただ、結末は理解できた。

そして、それが決して悪意によるものではないと。

 

そこにあったのは、ただ純粋な………愛だけ。

 

 

「全て……クレア・オルトランドが望んだ結果だ」


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