都市最大規模の探索系ファミリア。
原作通り、過去にLv.7の化物達を打ち倒している。
ダンメモでアストレア・レコードが始まった頃、この2次創作はかなり佳境に入っていたものの、偶然にも設定が上手くハマっていたために、1人で勝手に感動していた。
side???
西のメインストリート沿いに建つ建物の中でも、一際大きな造りの酒場。そこが"豊穣の女主人"であった。
人通りの多いこの道でも遠目から分かるほどの存在感があり、出入りする人々がとても楽しそうな顔をしているのがまた印象的だ。
こういった血の気の多い若者のいる酒場というものは、基本的に喧嘩や諍いで騒がしいものだというイメージがある。
しかしここはなかなか平和なご様子で、しかも店員さん達が可愛いらしい女の子揃いだというのだから驚きしかない。これだけでもこのお店が人気な理由がよく分かるというものだ。
「これはなかなか良いところを紹介して貰っちゃいましたね〜♪……ん?」
そんなこんなで周囲の活気に嬉嬉と引かれ、そのまま鼻歌を歌いながら気分良く酒場へと入ろうとすると、何やら入り口の方から小さな白い影が店の飛び出して来るのが視界に入った。
タイミングが良いのか悪いのか。真っ白な兎の様な彼はどうにも周りが見えていないようで、止まることなく一心不乱にこちらへと向かって来る。なかなかに早い速度。
一瞬そんな彼の様子に思わず私も驚き動きを止めてしまったが、とりあえずは優しく両手を広げてそんな彼の事を受け止めることにしてみる。
こんなに人が多い中で走るのはとても危ない。
誰かにぶつかったりでもしたら、彼もまた嬉しくはないだろう。
怪我をする前に落ち着いて貰わないといけない。
怪我をさせる前にも。
「っとと……大丈夫ですか?」
「……うぁ!?え、ええ!?」
「ん?……こんばんは♪」
「っひぇ!?ご、ごごごごめんなひゃい!すっすすす!すすすいませんでしたぁぁぁぁ!!」
「あっ、ちょっと君……行っちゃった」
真っ白な髪に赤い瞳という特徴的な外見をした少年。
飛び込んで来た所をしっかりと抱き止めてあげたのだが、彼は何故か最初から泣き顔で、しかも直後に一瞬だけ私の顔を見て呆然とした後、今度はそのぐちゃぐちゃな顔を真っ赤に染め上げて何処かへ飛んでいってしまった。
色々と情緒が忙しそうな子だったのだが、本当に純粋な少年というイメージで強く好感が持てる。
そんな彼が何故あんな風に泣いていたのかは分からないが、またいつか縁があって会えるといいなと思う。
やはりああいう如何にも正しい成長ができた少年というのは、いつ見てもいいものだ。
彼には是非そのままの君で居て欲しい。
「……よし、行きますか」
それから暫くの間、彼の後ろ姿を見つめていた私だったが、そんな事をしていても何にもならないので、気を取り直して酒場の中へと足を踏み入れてみる事にする。
店の中はやはり本当に良い意味で活気に溢れており、中の光に照らされた時、思わず感嘆の声が漏れてしまった。様々な種族の者達が酒を片手に盛り上がっており、見目の綺麗な店員達もまた元気に愛想良く接客をこなしている。
治安もよく、清掃も行き届いており、食事もとても美味しそうだ。
確かにこれなら多少値が張っても何度も食べに来たいと思えるだろう。
あの門番さんの言った通り、このお店はどうやら本当に大当たりのようだった。また漂ってくる良い匂いがお腹の虫をくすぐってくる。
「ニャニャっ!なんか凄い綺麗な子が来たニャ!お一人様ですかニャ?」
私がそんな事を考えながら入り口でその雰囲気に浸っていると、店員の1人である猫人の少女が声を掛けてきてくれた。
とても活発そうな子だ、きっとこの酒場のムードメーカー的な子なのだろう。
そんな可愛らしい彼女に癒されつつも、私も笑顔で言葉を返す。
「ええ、残念ながら連れは居ないんです。この酒場へ来るのも初めてなもので、よければ案内をお願いできますか?」
「ふふん、任せるニャン♪丁度ミア母ちゃんの前の席がいつも空いてるニャン♪」
「……?よく分かりませんが、ありがとうございます?」
そう案内されて着いたのはカウンターの一席。恐らくこの酒場の主人であろうドワーフ族の女性が仕事をしている目の前の席だ。
雰囲気からしてとても強そうな彼女だが、きっと彼女がいるからこそヤンチャをする冒険者が居ないのだろう。
彼女の様なみんなの怖〜いお母さん的な女性は私も好きだ。
例え少しばかり見た目が怖そうでも、そういった女性は大抵が優しい人だからだ。
ちなみにそんな彼女は少し離れた所で騒いでいる1つの団体を睨み付けており、何かあれば直ぐに制圧するのだろうということが容易に想像できる。
ある意味ではこの席、このお店の中で最も安心して食事の出来る場所なのかもしれない。
「ミア母ちゃん!新規のお客さんだニャ!可愛い子ちゃんだニャン!」
「ん?……おや、こりゃまた珍しいタイプの子が来たねえ。今日は1人かい?」
「ええ、丁度今日この街に着きまして。訪ねた先でここの料理がとても美味しいと聞きましたので、早速こうして来てしまいました」
「はは!嬉しいこと言ってくれるじゃないか!たくさん食って、たくさん飲んで、遠慮なく金を落としていきな!」
「ふふ、是非そうさせていただきます♪」
集団を睨んでいた時とは打って変わって、快活に笑う彼女の姿に、私も自然と笑みが零れる。
メニューの中から値段的には中間位の魚料理と水で割った果実酒を頼み、私は改めて働いている店員さん達に目を向けた。
……やはりヒューマンからエルフ、猫人族にドワーフ族まで、様々な女性達が働いている。
他の都市では種族間の差別や対立なども未だに多く、場所によっては小さな抗争にまで発展していた所もあったので、この街に来てから見るこういった光景は非常に新鮮味があった。
特にミアさんと呼ばれる彼女が睨んでいたあの集団は、それこそエルフからドワーフ、小人族に狼人、アマゾネスやヒューマンまで、多種多様な種族の者達が一緒になって騒いでいる。
多少騒がしくはあっても、私はその光景がとても素晴らしいものだと思った。こうして見ているだけでも微笑ましい。
「すまないねぇ、五月蝿いだろうあいつら。私も注意はしたいんだが、あれでも一応は大口の常連でねぇ。ああして隔離もしているし、暴れでもしない限りは見逃してやってくれないかい?」
「いえいえ、かまいませんよ。むしろ私は好ましく思います。この街の外では、あんな風に色々な種族の方々が一緒になって騒いでいる光景なんてなかなか見られませんから」
「……外にはまだ種族の対立なんてものがあるのかい、嘆かわしいもんだねぇ全く」
「ええ、ですからこの街に来てからは驚きの連続です。エルフとドワーフが一緒のテーブルに腰掛けて笑って語り合っている光景なんて、私は初めて見ましたよ」
「ま、あいつらはまた別物さね。今でこそ落ち着いちゃあいるが、昔はそれはヤンチャな奴等だったもんだ」
「ふふ、それはそれで見てみたい気もしますね」
ミアさんとそんな会話をしながら果実酒と魚料理に舌鼓を打つ。
それなりの値段をする料理だが、味は聞いていた通り……いや、期待していた以上のものだった。
口に運ぶにつれて思わず上がる口角を止めることは、むしろ無粋というものだろう。
調理法だけでなく、素材にまで気を使っているのが良く分かる。
結局半分ほどまで食べ進める頃には私はニッコニコになっていたし、そんな私を見てミアさんも苦笑をしていた。
それだけは少し恥ずかしかったけれど、それでも私の手は最後まで止まる事は無かった。
「お!なんやなんやぁ!こんな所にめっちゃ可愛い子がおるや〜ん!!」
店に入って15分程が経った頃。
それなりの量のあった魚料理をペロリと食べ上げ、果実酒を飲みながらミアさんと他愛無い会話をしていると、そんな風に後ろの集団から抜け出して来た赤髪の女性が声をかけて来た。
異様に露出度の高い格好をしているのはさておき、相当なお酒を飲んだのだろう。それなりに酔っているように見えるし、とても強いお酒の臭いもしてくる。
……それとこの言葉遣いは、どこかの方言なのだろうか?
言っていることは分かるが、私にはあまり聴き馴染みのないものだった。
「ちょいちょいちょいミア母ちゃん!こ〜んな可愛い子がおるんなら少しくらい紹介してくれてもええんやないの!?」
「馬鹿言うんじゃないよ。こちとらあんたらが騒ぐせいで1人客に食い逃げされてるんだ、この子にまで迷惑かけるってんなら、遠征帰りだろうがなんだろうが追い出すからね」
「うげっ……じょ、冗談やん!ちょっとした!そないに怒らんといてーな」
そう言って睨み付けるミアさんに、赤髪の女性は顔を青くして後退る。
どうやら食い逃げをしたお客さんがいたらしい。
でもミアさんの言い方からするに、迷惑をかけられた末の食い逃げなのだろう。
私がこのお店に来た時にミアさんが彼女達をあれだけ激しく睨みつけていた理由が、ここに来てようやく分かった。
……それと、
(遠征?)
その言葉を私はどこかで聞いたことがあるような気がする。
「おい、何をしている"ロキ"。あれほど他の客に迷惑をかけるなと言っていただろう」
「えぇ〜だってこんな可愛い子がおるんやで?声を掛けん理由がないやん。そう思わんかいな、リヴェリア」
「思うわけがないだろう。お前は一応はうちのファミリアの"主神"なんだ。酒の席とは言え、少しくらい自重しろ」
「ちぇ〜っ、ほんま真面目やなぁうちのオカンは」
「だれがオカンだ、いいから戻るぞ。主神が自ら進んで他の客に迷惑をかけるな」
まるでいつものことの様に言葉を交わす緑髪のエルフの麗人と赤髪の女性。
……いや、そんなことよりも、そんなことよりもだ。果たして、こんな偶然があってもいいのだろうか。
私の耳が正常であるなら、リヴェリアと呼ばれるエルフの彼女は、目の前の女性のことを"ロキ"と呼んだ。
そして、"主神"とも言った。
そういえば彼女からはどことなく"あの方"と同じ不思議な雰囲気が感じられる気がする。意図的に自分の前では神威を隠してくれているのかもしれないが、流石にこれだけ近ければ分かるというもの。
もしこれが私の気のせいでは無いのならば、彼女はもしかして本当の本当に……!
「あ、あの……!もしかして貴女がロキ様ですか?ロキ・ファミリアの、主神の」
「うん?そうやな、うち以外にロキ・ファミリアの主神はおらへんやろなぁ……お、なんやなんや!?もしかしてウチのファンか!?」
「馬鹿なことを言うんじゃないよ、あんたのどこを見たらファンなんかになるんだい」
「ミアさんの言う通りだな、ファンどころか関わりたくないと思われる事の方が多いだろう」
「っかぁ〜!みんなしてそこまで言う事ないやん!ウチだってそれなりに……」
「ずっと探してました!!」
「「「ええ!?」」」
ずっと……というか探し始めて半日も経っていない程度ではあるのだが、まさか向こうから話しかけて来てくれるなんて夢にも思わなかった!
もしかしたら門番の彼はこれを見越して豊穣の女主人を紹介してくれたのかもしれない。
もしそうだとすれば、本当に彼には頭が上がらない。
帰り道にでももう一度立ち寄ってお礼を言いに行きたいくらいだ。
ミアさんも含めて驚く3人にも目をくれず、私は少しだけ興奮気味に言葉を続ける。
いつもより若干早口になってしまっているのは、少しくらい許して欲しい。
「実は私、主神様からロキ様への手紙を渡すためにこのオラリオに来たんです。勿論、冒険者になるためというのもあるのですが、優先事項はこちらだったと言いますか」
そうして懐から一通の手紙を取り出す。
主神様から言われて冒険者になることを決め、そのついでにこの手紙を知り合いのロキ様に渡して欲しいと頼まれてこの街へとやって来た。
後から来るという主神様のために環境を整えておきたいという欲もあったが、その前に頼まれ事をまず済ましておきたかったのだ。
こうして何事もなく無事に渡すことができて、本当にほっとした。
私はその手紙をしっかりとロキ様に手渡し、彼女もまた困惑しながらもそれを受け取ってくれる。
「て、手紙ィ?いや、そう言われてもウチ、この街の外に居る神の知り合いで手紙のやり取りする程の仲の奴はおらんで?」
「……いや、だがそれなりにしっかりとした手紙の様だ。何かしら頼み事の可能性もあるのではないのか?」
「なるほどなぁ、確かにそれならウチに頼むのも納得い……く……」
そんな風に話しながら内容を考察していた2人であったが、手紙を開け差出人の名前を見た瞬間に、ロキ様はその瞑っているのかと思うほど細い目を大きく見開いて静止した。
フルフルと手紙を持つ手だけが震えており、そんな異常とも言える状態を見てミアさんとリヴェリアさんもまた差出人の名前を覗き込み……固まった。
私はそんな3人の様子を見ても訳がわからず、ただただ首を傾ける。
「……ミア母ちゃん、悪いんやけど何処でもええから一部屋貸してくれへんやろか。それなりの金は払うで」
「はぁ……奥の部屋を使いな。その代わり、後で教えられる限りのことは教えて貰うよ。その名前の神はうちの従業員にも関わりのある奴が居るからね」
その言葉に一度コクリと頷いて、ロキ様は奥の部屋へと向かっていく。
私はその空気の理由はよく分かっていなかったが、とりあえず彼女の後を付いて行く事にした。
そしてそんな私の後ろを歩くリヴェリアさんは私のことを穴が空くほどジッと見つめており、本当に何が何やら分からず、私は部屋に着くまで終始首を傾げながら歩いていた。
ロキ
たくさんお酒を飲んでいる。
ガレス
たくさんお酒を飲んでいる。
フィン
たくさんお酒を飲まされている。
リヴェリア
たくさん頭痛を抱えさせられている。