白海染まれ   作:ねをんゆう

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諸々と忙しいせいで誤字修正と感想読みくらいしか出来ていませんが、いつもとても助かっています。
基本的に原作通りに進行していく予定ですが、そのうちアストレア・レコード編にも入っていくので、その辺りもご注意下さい。
一応ダンまちもソード・オラトリアも最新刊まで読んでおり、アプリのダンメモの方も全部は読めていませんが触れてはいます。
今後も評価や感想を頂けると励みになりますので、よろしくお願いします。


25.ヤッてはいない

ザワザワ ガヤガヤ

遠征まであと残り少しと迫った今日この頃。

ダンジョンに向かったベートやアイズ、レフィーヤにユキと、ロキ・ファミリア生粋の実力者達が大怪我をして帰ってきたという話題で食堂は大騒ぎになっていた。

この場にアイズ以外の3人が居ないこともその証明となっていたのもまた大きい。

そしてそんな周囲の反応を無視し、黙々と朝食を食べ進めるアイズ。

何処か落ち込んでいる様な、けれど何かを考えている様な少し雰囲気の違う彼女に中々声を掛けられないティオネとティオナのアマゾネス姉妹は互いに顔を見合わせ、感じていた違和感について話していた。

 

「……ティオナ、あんた本当に昨日何があったとか聞いてないわけ?」

 

「聞いてないよー。レフィーヤはマインド・ダウンで寝込んでるし、ベートは治療院でしょ?ユキはリヴェリアの部屋に居るらしいけど、リヴェリアが絶対入れてくれないしー」

 

「アイズもあの調子だものね……朝から真剣な顔して悩み事してるみたいだけれど、一体何を考えてるのかしら」

 

「後でフィンに聞きに行こうよ」

 

「そうね、そうしましょう。そうするしかないわ、それ以外にあり得ないもの」

 

「あはは……」

 

姉のいつも通りの微暴走に顔を引きつらせつつも頷くティオナ。

こう話してはいるが、実際のところ彼女達2人はそこまで深刻に今回の件を捉えては居なかった。

なぜなら結果として全員が無事に帰り、次の遠征が中止になるなどのような大袈裟な話も出てこない。

幹部達がいつも通りにしていることが、何よりも今回の件が後に引くような事象にはならないことを物語っていたからだ。

それよりも……

 

「……まあ、ぶっちゃけ一番問題なのはあっちの方よねぇ」

 

「うん、まあ、朝から変な噂も聞くし……絶対なんかあったよね〜、アレ……」

 

チラリと2人が視線を向けた先に座っているのは、ファミリアのママことリヴェリアである。

先程、『幹部達はいつも通りにしている』と言ったが、正しくは彼女を除いた幹部達が、だ。

 

朝食の席に座っているものの、一向に食べる気配を見せず虚な目で虚空を見つめ、ファミリアの者達が気遣っても機械的に『大丈夫だ、問題ない』としか言わない。

早朝にアマゾネス姉妹が彼女の部屋を訪ねたところ、彼女は中にいるはずのユキに頑なに会わせようとせず、どころか彼女にしては有り得ない程に焦っていたのが記憶に新しい。

最初はユキの容態が本当に悪いのかと心配した2人だったが、どうにもそういうわけでもないらしく……今はロキが彼に付いているらしいが、それすら断ろうとしていたのは一体どういうことなのだろうか。

 

「ねぇ、あの噂本当なのかな?」

 

「いや、あのリヴェリアよ?確かに朝から怪しい態度だけど、流石に信じられないわ」

 

「だよねぇ」

 

『あの噂』

それこそが今この食堂がこれほどに騒がしい原因の一端となっている。

確かに昨日の事件がこの騒ぎの大元の原因ではあるのだが、朝からその"噂"によって何人もの者達が血の噴水を撒き散らしていれば、その事件の話に取って代わるほどの騒ぎになるのも当然の話だろう。

 

「深夜のテラスでリヴェリアがユキを襲っていた、ねぇ。作り話だとは思うけど、描写が妙に生々しいのが気になるのよねえ」

 

「ユキがリヴェリアを、じゃなくて、リヴェリアがユキを、って所が逆に現実味あるよねー」

 

「まあ、普通ならあの堅物ママがそんなことする筈が無いって思うもの。ある程度知ってる人間ならユキの方が有り得ないって分かるんだけど」

 

「ユキってば私達がどんな格好してても顔色一つ変えないからね〜、アイズなんて偶にユキの部屋で着替えてるくらいだし」

 

「……ねえ、まさかリヴェリアってば本当に?」

 

「い、いやいや、それこそまさか。だってユキってば昨日は大怪我して帰って来たんだよ?いくらなんでも帰ったその日にそんなこと……」

 

苦笑いをしながら噂の彼女の方を見れば、未だ焦点の定まならない目でどこか遠くを見つめている。

そんな姿を見れば見るほどに2人の中での疑いが強くなり……

 

 

 

『ユキたんレベル4キタァァァァ!!!!』

 

 

 

ズガシャァッと、リヴェリアは顔面を料理に向けて叩きつけた。

 

「リ、リヴェリア様ぁぁぁ!?」

 

「「うわぁ……」」

 

驚愕は分かるが、それでも過剰すぎるその反応。

あまりにも酷い取り乱し方にティオネとティオナはドン引きした。

その後、汚れた顔を拭くこともなく食堂を飛び出していった彼女の姿には、あのフィンですら明確な反応を示すことが出来ず見送る羽目になったという。

 

 

 

 

「あ〜、臭かった。リヴェリアに予め魔法掛けといて貰って良かったわ。……いやでも、ユキたんほんまに成長早いな。スキル一つでここまで変わるもんなんかいな」

 

「あはは……そうですねえ、それまで本当に1単位でしか上がらなかったステータスが数日でカンストですし。日頃の鍛錬が馬鹿馬鹿しく感じてしまうという悪い点はありますよね」

 

「そんでも、アイズたんとかは羨ましがると思うで?伸び悩んどる冒険者も多いからなぁ、バレへんようにせんとアカンで?」

 

「ええ……まあ、私のスキルには気軽に見せられるものがありませんから。1つ目はともかく、2つ目も違う意味で話せませんよね」

 

「せやろなぁ……お!取得可能発展アビリティに精癒があるやん!やっぱ2人ともリヴェリアに似るんやなぁ」

 

「ほんとですか?えへへ、嬉しいなぁ」

 

リヴェリアの部屋で背中を晒すユキは、恥ずかしそうに服を着直す。

なんだかその様子すらも艶めかしくて、ロキは目をそらす様にしてステイタスを写した紙に目を向けた。

 

ユキ・アイゼンハート

 Lv.4

 力:i0

 耐久:i0

 器用:i0

 敏捷:i0

 魔力:i0

所属:ロキファミリア

武器:オールチェイン(貴方の鎖)

発展アビリティ : 剣士G、耐異常G、精癒H

 《魔法》

【フォスフォロス】

・付与魔法(エンチャント)

・光属性

・詠唱式「救いの祈りを(ホーリー)」

 《スキル》

【愛想守護(ラストガーディアン)】

・守る対象が多いほど全能力に超高補正。

・死に近いほど効果上昇。

・上記の条件下において早熟する。

【闍ア髮?「ォ鬘俶悍】

・謔ェ諤ァ繧呈戟縺、閠?→縺ョ謌ヲ髣倥↓縺翫¢繧九?∝?閭ス蜉帙?雜?ォ倩」懈ュ」

・ 遘√′驕?縺悶°繧

 

 

(そろそろ2つ目のスキルについて調べなあかん時期やろうな。せやけど、こんな文字読める様な奴に心当たりなんか……あいつしか居らへんか)

 

心底嫌そうな顔をしてロキがそう物思いにふけていると、真っ白な大きめのTシャツと極端に丈の短いズボンに着替え終えたユキがゆったりとベッドに腰掛ける。

普段の行いとはギャップの強いその非常に痴女痴女しい姿。

普通に目の毒である。

目を引く様な美脚だけではない。

大きめのシャツから見える首元の露出はあまりにも性的な魅力に溢れていて……

 

「うん?ユキたん、首元のその赤い痣どうしたんや?エリクサー使ったのに治らんなんてことは無いと思うんやけど」

 

「ふぇ?……………あっ!こ、これは、違うんです!ほんと何でもないので!き、気にしないで下さい!!」

 

「ん?ま、まあユキたんがそない言うなら気にせんけど……ほんまに大丈夫なんか?」

 

「リ、リヴェリアさんもこの事は知っているので問題ありません……!」

 

「なんや、それならええわ。……けど、なんでそんな顔赤いんや?」

 

「なんでもないです!なんでもないですから!ほんとに!」

 

「お、おお……」

 

これまで見せたこともない様な慌て様、多少のことでは少しも照れを見せない筈の彼の赤い頰。

それにも関わらず肝心の赤い痣には手を当て、優しげに、何処か愛おしげに摩るその様子。

よくよく見てみればそんな痣が首元にいくつかあることにロキは気付いてしまって……

 

(あぁ〜………ついにやりおったな、リヴェリア)

 

リヴェリアの様子が朝からどうにもおかしかった事に、この時説明がついてしまった。

 

「ユ、ユキ!レベルが上がったというのは本当か!?」

 

「リ、リヴェリアさん!?なっななっなんでここに……!?」

 

「なっなななな!なんて格好をしているのだお前は!?下くらい穿かないか!!」

 

「は、穿いてますから!ほ、ほら!ちゃんとこうやって下に……!」

 

「ばば馬鹿者っ!そんなはしたない事をする奴があるか!ここにはロキもいるのだぞ!!」

 

「ウチがおらんかったらええんか」

 

「「あわわわわ!」」

 

ここまでされてしまえばロキでなくとも察することができてしまう。

 

ああ、こいつらヤッたな。 ……と。

 

「「なにもしてません(いない)!!」」

 

「言うてもキスくらいはしたんやろ?」

 

「「………」」

 

「よし、ウチから言う事はもうなーんもあらへん。くれぐれも風紀だけは乱さんように!ほな!」

 

バタン!と大きな音を立ててロキは部屋から立ち去った。

目の前で繰り広げられる無意識のイチャイチャに、これ以上は耐えきれなかったからだ。

あのリヴェリアがあれほどに取り乱しているのは見ていて面白いものもあったが、あの空間に自分の存在が必要か?と考えると、さっさとその場を離れたかった。

こういう時には酒でも飲んで鬱憤を晴らすに限る。

 

「……くくっ」

 

しかし、そんな不満気な感情と同時に、何処か安心感と嬉しさ、そして少しの興奮がそこにはあった。

 

これまで、放っておけば消えてしまいそうなユキという新人、自分の予期せぬ未知の敵、そして数日後に行われる遠征への嫌な予感など、様々な不安要素に苛まされていた。

しかし、ここに来てのユキとリヴェリアの急接近は、ロキにとって久々の非常に喜ばしいニュースと言える。

少なくともユキの問題に良い影響を与えるのは確実な上に、いつまでたってもそういった話に縁の無かったリヴェリアにようやく春が来た。

きっと彼女達を取り巻く環境の全てが、これをきっかけに少しずつではあっても確実に前へと向いていくだろう。

 

それどころか……

 

「やっと未来が楽しみな話が出てきたな……ぐふふ、待っとれやリヴェリア。明日から存分に揶揄ったるからな」

 

とりあえず、明日からのリヴェリアがこれまで通りの生活を送ることが非常に困難になったことだけは間違いない。

 

 




--おまけ--

ある日のこと。
その日もベルは変わらずダンジョン探索の為に廃教会の地下室を出た。
リリとの和解を経て、ヘスティアにリリの事を認めて貰い、落とした防具をアイズに届けて貰った事で2人っきりの鍛錬の約束を取り付ける事も出来て……
ベルの最近は嬉しい事ばかりだ。

今日からの探索にもリリというとても頼もしいサポーターがついて来てくれるという事で、きっとそれまでとは違ったまた楽しい探索が出来る様になるだろう。
心から信用できる相手と共に行うダンジョン探索というものは、自身の力をより引き出す事が出来るに違いない。

そんな風に少しウキウキとしながら教会の出口へと向かっていくと、ベルは何か少しの違和感を感じた。
それはこの廃教会のどこかから感じる感覚。
いつもとは違う、確かに感じられる人の気配。

「……あの、誰か居るんですか?」

「え?」

ベルが適当に投げかけたその言葉に、やはり反応する声があった。
声からするに、その主は女性の様だ。
そしてその声はついこの間、ベルが聞いたばかりのもので……

「え、あ……ユ、ユキさん!?ど、どうしてここに!?」

「少年くん……?少年くんこそ、どうしてここに?」

ユキ・アイゼンハート。
以前リリと共にダンジョンに潜り、その後もアイズから聞いた話によれば、リリが危機に陥った時に彼女もまた自分達を探すのを手伝ってくれていたという。
美人で、優しくて、面識はそう無いが、間違いなく信用のできる優しい女性。
それがベルからしたユキの評価だった。
……勿論、少しばかりボディタッチが多かったり距離感が近かったりで戸惑う事もある、という前置きがある上でだが。

そして、そんな彼女が今日はどうしてかベル達の住んでいる廃教会で佇んでいた。
柱の影から出てきた彼女は、どうやらベルがここに住んでいた事すらも知らなかったらしい。

「あ、えっと、僕と神様は実はここの地下室に住んでいまして……ユキさんはこの教会に御用なんですか?」

「なるほど、そういう事だったんですね。私は用と言いますか、買い物の途中で見かけた場所に寄ってみただけですよ?神様の多いこの街にも教会が残っているとは思っていませんでしたので」

「ああ、確かに珍しいですよね。神様の教えを広める為の施設が、神様そのものが居るオラリオにあるなんて」

「ええ、そうですね……それに、個人的に思い入れのある孤児院が元々は教会だった場所を使っていましたので。それを思い出したらついつい立ち寄ってしまいました」

「へぇ、孤児院ですか。それはオラリオの外の話ですか?」

「ええ、そうです。……そうでなくとも、なんとなくこの教会は居心地がいいと思ってしまうんですけどね。こんなに寂れているのに、何故なんでしょう」

「ああ、それは僕も分かります。ここ、いいですよね。落ち着くというか、なんというか……僕もいつかお金が貯まったら、お世話になったお礼に綺麗にしたいなぁと思ってたりしてます」

「あっ、それはいいですね!その時はぜひ私にもお手伝いさせて下さい♪」

「は、はい!勿論です!是非やりましょうよ!その時は絶対お声掛けしますよ!」

そんな感じに、何故か教会の話で盛り上がる2人。
2人ともどちらも今はお金に余裕のある立場では無い為、こんなものはただの妄想でしか無いのだが、こんな妄想をしている時が一番楽しいというのもあるだろう。
そうでなくとも、2人は互い好印象を抱いているのだから、ベルの方に多少の照れがあるとは言え、適切な距離感で話しているのならば何も問題は無い。

「……少年くん。私はもう少しここで静けさに浸っていたいと思っているのですが、よろしいでしょうかね?」

「え?ええ、構わないと思いますよ。僕も神様もお借りしているだけですし、神様ももうバイトに向かいましたから」

「そうですか、それならお言葉に甘えて。……少年くんは今からダンジョン探索なんですよね?お裾分けにこれを差し上げますから、頑張って下さいね」

「これって……いいんですか?結構いいポーションですよね、これ」

「構いませんよ。その代わり、また偶にここに来ても良いでしょうか?」

「それはもちろん!……それじゃあ、僕はもう行きますね!またいつか!」

「ええ、お気をつけて」

ベルはそう言って教会を飛び出して走って行く。
それを見送ったユキは再び教会の正面の方に目を向けた。
床や壁に破損傷等もあり、ここで戦闘が行われた事もあったのだろうと想像できる。
そうでなくとも、この教会は様々な者達の人生や遣り取りを見届けて来たのだろう。

「……もう少し、ここに居てもいいでしょうか?」

誰に言っているのかわからない様なそんな言葉を残して、ユキは瞳を閉じた。

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