-リヴェリアの部屋にて-
リヴェリアが部屋に戻り書類をまとめていると、静かに三度のノックがされる。
このノックの仕方が誰のものであるのか、音やリズムからもうなんとなくでも分かるというものだ。思わず顔が緩む。
静かに"入っても問題ない"ということを伝えると、そこには顔を真っ赤にし、もじもじとこちらへ歩いてくるユキが居た。
ガチャリと後ろ手でドアの鍵を閉めた意味は分からないが、取り敢えずユキの様子は普通ではなく、リヴェリアは立ち上がってペンを置く。
「ユキ?どうした、レフィーヤとダンジョンへ向かう準備をしていたのではないのか?」
「え、ええ。その、1時間後に出ることになりまして。でも準備ももう終わってしまったので、時間が空きまして……」
「ん?そうなのか……どうした?珍しく歯切れが悪いな」
「い、いえ、その……」
首を捻るリヴェリアはソファに腰掛け、ユキにも座る様に促せば、彼は何故か目の前ではなくリヴェリアの真横に座った。
異様に顔を真っ赤にさせて、何度も髪をかきあげて首元を見せつけてくるその仕草はあまりにも色気に満ちていて。
そんな姿を見てか、腹の下の方から込み上げてきた熱情にリヴェリアはゴクリと喉を鳴らす。
「ユ、ユキ……?一体どうしたと言うのだ?な、何かあったのか?」
「………リヴェリアさん。私、リヴェリアさんのせいで、おかしくなっちゃったみたい、です」
「わ、私のせいでか!?」
これだけ動揺するリヴェリアの姿もなかなか見られるものではない。
そんな彼女を更に追い詰める様にユキはリヴェリアに迫る……事は無く、近付きはしつつも背中を向けて、彼女の身体にもたれる様にしながら自身の服の胸元を開けた。
「な、な、なっ……!!」
「わたし、あの夜以来、時々すごく辛くなる様になって……首とか、胸とか、私、むずむずして、リヴェリアさんと一緒にいると、特に耐えられなくなるくらい苦しくて……訓練中も、雑念が混じってしまって大変で……」
「っ!?」
リヴェリアの手を自分に巻きつかせる様に取り、その手を自分の指と絡ませる。
こんなことをユキの方からされたことは初めてで、その衝撃はリヴェリアにとってあまりにも強過ぎて。
「………リヴェリアさん、お願いです」
「な、なんだ……?」
「また、私のこと……めちゃくちゃにして、欲しい、です……」
涙を溜めた上目遣いでそんなことを言ってくるユキの姿を見て、プツリと、リヴェリアの中で何かが切れた。
長い髪を退かし、服のボタンを外し、見せ付けられた白く美しいユキの首筋。以前に付けた赤い跡は既にすっかりと元に戻っており、自分のものだという証は消えている。
扇情的で、魅惑的なその光景に自身の独占欲まで刺激されて、リヴェリアの理性はユキによって容易に弾き飛ばされてしまいった。
「ユキ、このっ……!」
「はぐっ……ぅ、ぁ……あぁぁぁぁ……」
ガブリとその雪のような白色の薄皮に歯を立てる。
髪を抑えていた彼の手すら自分のものだと奪い取り、全身でユキを締め上げる。
歯を立て、何度も何度も甘噛みながら吸い上げれば、その度に甘い声と共にふるふると全身を震わせて自分に縋り付いてくる。
そんなユキの姿は、止まることのない自分の欲求を更に昂らせて……
「ぁ……ぁっ、あっ……!だ、だめです、りゔぇりあさん……!そこは、みんなに、ばれちゃ……ゃぁぁ……」
耳を擽る媚声。
理性を溶かす言葉選び。
鍛錬の後の少しの汗の匂いがそのままなのも、この子が相当の余裕も無くここに来た事を示している様で、むしろ自分の興奮を高めてくる様で。
首元からその対象を少しずつ上げていき、ユキの全てを貪るようにリヴェリアは彼の体を自身の唾液で染め上げる。
「んっ、ゅっ……ゃ、ゃあ、そんなに、なめたら……」
「ちゅっはぁ、はぁ……やめても、いいのか?」
「ぁ……う、うぅ……や、やめちゃだめ、です……」
「それなら、どうして欲しいんだ?」
「もっと……もっと私のこと……食べて、欲しい、です?」
「……このっ!!」
煽られる、この黒い感情を。
その言葉を聞いた途端、目の前が真っ赤に染まる。
爆発した勢いのままに一気にユキの胸元を晒すと、リヴェリアは血が滲む程の強さで彼の胸と首の境目に向かって思いきりに噛み付いた。
奪う様に、貪る様に、捕食する様に。
「……がっ、かっ、っは!?」
リヴェリアは知っている。
ユキが一番求めている場所を。
ユキのどこに刺激を与えれば彼を破壊することができるのかを。
吸い上げられただけでここまで反応してしまうほどに敏感なユキが、最も刺激に弱く、かつ最も強く壊して欲しいと思っている場所、それがそこだ。
噛み付かれた瞬間に拘束された全身を跳ね上げ、それでも締め付けられた身体をピンと伸ばし、リヴェリアの顔横へと自分の頭を仰け反らせる。
それでも暴れる彼を押さえ付けて、噛み、吸い、舐め上げるリヴェリアはあまりにも容赦が無い。
どれだけ暴れても、どれだけ嫌がっても離す事はない。
徹底的に逃げ場を封じて、動きを封じて、泣いても謝っても喰らい壊し続ける。
容赦なんてしない、手加減なんてしない。
絶対に離さないし、自由にはさせない。
自分で無くては満足できない様に、躾ける様に、徹底的にその身体に自分という存在を刻み付ける。
そうしてそのまま20分ほど。
殆ど意識を無くしてしまった彼を徹底的に弄び、漸く自身の欲求が静まり始めた頃、リヴェリアは腕の中で力無くぐったりともたれ掛かり、唾液と涙を流しつつもヒクヒクと痙攣しながら気絶しているユキの姿を見て、そこで漸くハッと我を取り戻した。
「……また、やってしまった」
未だにこの衝動は抑えられそうにない。
元よりそういった欲求の薄いエルフという種族の中でも、リヴェリアは特に血の濃い王族出身である。
彼女もこれまで長く生きてきたが、そういった欲を覚えたのは数えるほど有ったか無かったか。
あったとしても既に記憶の彼方、今では気のせいだったと思えてしまう。そんな彼女だ。
この有様では故郷の森のユニコーンだって手懐けられないだろうし、そもそも自分より何倍も年下の少年を襲ったとあれば仲間や家族にも見せられる顔が無い。
「い、いやまて、今回は私は悪くない……!今回はユキが私を誘惑してきたからだな……!」
"今回は"そうであっても、"前回"が無かったことになるわけではない。
背後から襲い掛かり、半ば無理矢理自分の気持ちを押し付けた(様にも見えた)行動は決して言い訳できるものではないのだ。
というか、そもそも彼に誘惑させてしまう程の衝動を植え付けてしまったのはリヴェリアでもあるのだし。
「ぐっ、許してくれユキ。せめてこの責任だけは必ず取ってみせる」
「……えへへ、やった……」
「え?」
「………」
「……?気のせいか」
ぐったりとしているユキの表情に少しだけ笑みが浮かんでいたのもまた、気のせいだったに違いない。