白海染まれ   作:ねをんゆう

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ミア母さん
珍しく可愛いくて常識のある娘っ子が来たと思ったら、とんでもない手紙持って来ていた。

リューさん
シルが居ない……ん、ミア母さんが驚いている?
いや、今はそれよりシルを探さなければ……

シルさん
クラネルさんが帰った後、なんかどっか行った。
リューさん捜索中。


03.事情聴取

 sideユキ

 

「取り敢えず、自分名前はなんて言うん?」

 

「私でしょうか?私はユキ・アイゼンハートと申します。主神である"アストレア"様から恩恵を頂いている、レベル3の只人です」

 

 豊穣の女主人にある個室の一室で、机を挟んで向かい合う様に座りつつ、私はロキ様に対し自己紹介を行う。

 ロキ様はそんな私の言葉に対して『……嘘は、吐いとらんな』と言うが、そもそも嘘をつく必要も無いのに、どうしてこれほど警戒されているのだろう?

 そんなに疑わしい格好をしているつもりは無いのだが、自分の格好はそんなにも怪しく見えてしまうものなのだろうか。

 オラリオのファッションはよく分からない、異様に露出の多い方も昼間に歩いて居ただけでもそれなりに居たものだし。ロキ様もそこそこ肌を出す様な服を着ているし。もしかしたら肌を出していないと怪しいみたいな常識が……?

 

「ロキ、手紙にはなんと?」

 

「あ〜、まあ……大まかに言えばアストレアの近況と、目の前のユキちゃんについてやな。なんや探し物があるから、その間この子をうちのファミリアに入れて面倒見て欲しいっちゅーことらしいわ。詳しいことはこの子のステータスを見れば分かるって書いとる。微妙に説明が足りひん気もするけど、この書き方やと向こうもなんや急いどるっちゅう感じやなぁ」

 

「えぇぇ……そんな話は聞いていませんよ、アストレア様」

 

 やらなければならないことがあるからと、先に私をオラリオに向かわせたアストレア様。

 だが、改宗をしてロキ様のファミリアに入れてもらうということまでは聞いていない。

 他でも無いアストレア様がこうして手紙に出してまでロキ様に頼んだのだから、断ると言う選択肢は既に無いのだが、せめて一言くらいは欲しかったというのが本音の本音。

 きっとそうしなければならないくらい、本当に大切な用事があるというのは分かるのだけれど……

 

「ふむ、女神アストレアの眷属となれば信用性は申し分ないだろうが……どうするつもりだ?ロキ」

 

「あのアストレアからの願い事やで?うち等が断れる訳あらへんやろ。何よりまだ街には自分の事は秘密にしといて欲しいみたいやけど、アストレア自身も後から来るって書いとったし、ここで恩も売っとける。

 ……それに、今のオラリオには片手で数えられるくらいしか本気で信用できる神なんておらへんからな。戻ってきてくれるんやったら、今のうちにとってこれ以上に好都合なこともあらへんわ」

 

 そう言ってやっぱり少しだけ嬉しそうな顔をするロキ様。

 神々は一筋縄ではいかないとは聞いていたけれど、そこまで言われてしまうほどにやんちゃなのだろうか。

 ちなみにそれを聞いているリヴェリアさんも何か心当たりがあるのか、なんとも微妙な顔をしていた。それでもやはりエルフなだけあって、彼女の容姿はそんな表情でさえも美しかったが。

 

「ええと……とりあえず、私はロキ様のファミリアに入れて頂けるのでしょうか?」

 

「おう、ええで!アストレアのお墨付きなら実力も問題ないやろ!その代わり、レベルの高いダンジョン初心者なんてウチでもそうそう居らへんから、ちっとばかしサポートが辿々しくなるのは堪忍な!」

 

「いえいえそんな、サポートして頂けるだけでも助かります!私とてレベルだけ高い冒険者にはなりたくありませんから」

 

 いくらレベル3に成って間もないとは言え、今の私はダンジョンの知識どころか、それに関連したルールや規則についても把握できていない有様。

 いくら実力があっても知識がなければ死亡率は上がるし、誰かとパーティを組む事なんて以ての外。

 そこをオラリオの二大ファミリアの1つでサポートしてもらえるのなら、これ以上に頼もしいことはないだろう。

 それにこれから先の生涯を冒険者として生きていくのならば、こうして最大派閥のロキ・ファミリアの一員として活動できる事はとても素晴らしい経験となる筈だ。

 一時的な眷属となる可能性が高いにも関わらず、こうして快く迎え入れてくれるのだから、もう本当にロキ様達には感謝しか無い。

 

「本当にありがとうございます、ロキ様」

 

「お、おおう……なんやここまで純粋に感謝されるとやり難いなぁ。前の眷属達と違って可愛げもあるし、容姿はどことなくアストレアの面影もあるし」

 

「ふっ、まあそう重く考えなくてもいい。ファミリアに所属する以上、そういったサポートをするのは当然のことだ。それは勿論君のためということもあるが、ファミリアとしての体裁のためでもある。特別に気にする必要はない。……それに、基本的にダンジョンのことについて教えるのはロキではなく私だからな。ロキは私に押し付けるだけだ」

 

「う、うちだってステータスの更新とかするし……!?」

 

「これは基本的には酒を飲んでセクハラをしている」

 

「ちょっ!言うなや!!ち、違うで!?ちゃんと他の神への牽制とかの仕事もしとるからな!?ほんまやで!?」

 

「ふふ、分かっていますよロキ様。あんなに大きなファミリアの主神をなさっているのですから、色々と苦労されているのも想像がつきます。アストレア様も日々忙しくなさっていましたし、ロキ様程になれば尚更でしょう」

 

「……どうしよ、リヴェリア。この子の比較対象がアストレアやと思うと急に自信なくなってきたわ」

 

「ならば明日からはしっかりと働くことだな。酒が欲しいと駄々をこねる姿など見せてしまった日には、あの純粋な笑顔を曇らせることになるぞ」

 

「くそぅ!くそぅ!アストレアのお気に入りやからセクハラすることも出来ひんし!どないせぇっちゅうねん!!」

 

 なにやらわちゃわちゃとしてきたが、あのアストレア様が信用できる神様と言っていただけあって、とてもユーモアに溢れた方だった。

 隣のリヴェリアさんも、エルフの女性ながらヒューマンの自分を対等に、そして尊重して見てくれている。

 そんな彼女達と話していると自然と笑みが浮かんでしまうのは、きっと仕方のないことだろう。

 そしてそんな私を見てなのか、会話も真面目な話から他愛のない話へと変わっていった。それは当然、私の出自やレベルについても……

 

「ああ、そういえばなのだが……君はレベル3だったな?ダンジョンに潜ったことはないのだろう?」

 

「そやそや!ウチもそれ気になっとったんや!オラリオの外やと一生かけてもレベル3が限界とか聞いたんやけど、どうやってそこまでレベル上げたん?」

 

「ええと、そうですね……まず、私は本当にダンジョンに潜った経験はありません。それと基本的にオラリオの外では大手のファミリアの団長レベルでもレベル3辺りが限界です。引退した高レベルの冒険者も自身のファミリアの為に働くので、オラリオの外に出てくることはまずありませんし」

 

「そもそも外でそんなレベルの高い奴は必要ないしな。精々オラリオから逃げ出した高レベルの犯罪者対策に必要なくらいや」

 

 ちなみにここで言う大手のファミリアとは主に、海洋の管理などを行なっているポセイドンファミリアなどのことを指す。

 オラリオの外にはダンジョンも無く、強力なモンスターも滅多なことが無い限りは現れない。

 そんな中で戦闘の経験など得られる筈もなく、レベルアップすら珍しいことだとされている。

 故に優秀なヒューマンの一生を掛けてもレベル3が限界、それが基本というか通説だ。

 

「……そう考えると、いくら神アストレアの眷属とは言え、やはり君のレベルの高さには思うところがあるな。だが、どれほど長く見積もっても君が恩恵を受けたのは5年以上前と言うことはないだろう?」

 

「そうですね、私がアストレア様から恩恵を頂いたのは3年と少し前のことです」

 

「……マジ?」

 

「ええ、大マジですよ」

 

「い、いや、だが待て。今の君はレベル3なのだろう?たった3年でレベルを2つも上げるなど、このオラリオでも滅多に無いことなのだが……」

 

 確かに事前に仕入れた情報では、このオラリオにおけるレベル2までの最短期間は一年ほどと聞いていた。

 一般的な冒険者でも3年以上はかかると言われているのだから、オラリオの外にいた自分の成長速度は確実におかしいだろう。

 だからこそ、自分の事情に関してはロキ様以外には伝えない様にアストレア様から厳命されていた訳で……

 

「ええと、そうですね。このことはアストレア様からはあまり話さない様に言われているのですが、私が最初のレベルアップに要した期間は大体2年半くらいです」

 

「なるほど、そうか。まあそれくらいならば普通に許容できる範囲……」

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 

「いや、いや待て!納得などできるものか!君は確か3年ほど前に恩恵を貰ったと言ったな!?」

 

「ちょいちょい!その計算やと、どんだけ遅く見積もっても一年未満でレベル3に上がっとる計算になるやんけ!」

 

「その、あの……実際には休養していた時期もありますので、大体半年くらいだと思っていただければ……」

 

「おおう……」

 

「アイズが聞いたら間違いなく荒れるな……」

 

 この後も根掘り葉掘り聞かれそうになったが、取り敢えずは時間も遅いということでとりあえず場所を移すことになった。

 後ろで手をワキワキさせているロキ様と、頭が痛そうにしてこちらを見るリヴェリアさんが印象的だった。

『アイズには絶対にそのことを言うなよ』とリヴェリアさんからは言われたが、一体どの子のことなのだろう?

 部屋から出てミアさんに声をかけられたが、この人にも今度何かしらお礼をしに来たいと思う。

 ……レベルに関しては事情が事情なので直ぐには納得して貰えないのだろうけれど、それはまあ仕方ないと諦める事にしよう。

 信じて貰えないならそれまで、この話は別に本当に信じて貰わなければならない様な話でも無いのだから。

 




ユキ・アイゼンハート 17歳
Lv.3 ヒューマン
所属:アストレア・ファミリア→ロキ・ファミリア
腰辺りまで伸びる長い黒髪と、黒い瞳が特徴的。
容姿はアストレアに良く似ているが、アストレアの様な垂れ目ではない。ちなみに胸もない。
旅の最中やダンジョン探索時には真っ白なコートを着ているが、宿に泊まったりしている際には割と色々な服を着る。足も出す。
美味しい食べ物を美味しそうに食べる事が出来る特技を持つ。

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