白海染まれ   作:ねをんゆう

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30.先輩

「アイゼンハートさん、まずはですが……何処から何処までが本当の話なんですか?」

 

「え、えと。屋外で私がリヴェリアさんに、その、襲われた?というのは、強ち間違いでは無いと言いますか……あ!で、でも!別に私は嫌ではありませんでしたし!合意もしましたし!その次からは私も……ぁぅ……」

 

「……ということは、貴女とリヴェリア様が恋仲であるということも?」

 

「す、少なくとも私は、そう思って、います」

 

「なるほど……」

 

 

 

 

 

『何をされているのですかリヴェリア様ァァアア!!!!』

 

 

「ひぅっ!?」

 

普段は大声で話すことすらも滅多に無いリューが、頭を抱えてそう叫んだ。

 

「り、リューさん……?そ、そのですね、リヴェリアさんは本当に何も悪くなくて、どちらかという私のことを心配してくれてですね?」

 

「分かっています、分かっていますとも……貴女は賢明で奥手で鈍感な人だ。貴女からリヴェリア様に手を出したという事は間違いなく無いでしょう。反応からして、貴女の想いもそういった行いの後に芽生えた物のようですし」

 

「あ、あはは……」

 

「ちなみに、どこまで……?」

 

「へ?」

 

「どこまで、したのですか……?まさかもう肉体関係まで行ってしまっているのですか!?あの方の周りにユニコーンが近寄らなくなる段階にまで来てしまっているのですか!?答えなさい!!」

 

「ひぃっ!?た、たた、多分だだだ大丈夫です!!わ、私からリヴェリアさんに何かしたということはありませんし!そ、それにしたとしてもその、ふ、触れるだけの、キ、キキキ、キス……?くらいの、こと、ですし……」

 

「はぁぁぁ……貴女がそういった方で本当に助かった。その程度ならまだなんとか誤魔化せます。もし貴女がこれ幸いとリヴェリア様に手を出していたら……いや、むしろそういった考えが出来ない女性だからリヴェリア様の目に?というかリヴェリア様の方から手を出す可能性の方が高かったのでは?これ」

 

リューはユキのためを思ってか色々と頭を回す。

正直に言えば、リューはユキのことを気に入っている。

それは当然恋愛感情などではなく、ユキの人格や性格、価値観などを好ましく思っているということだ。

故に、仮に彼女とリヴェリアがそういった関係になっていたとしても、反対する気など毛頭無い。

どころか、リヴェリアがユキを選んだというのなら、どのような障害があろうとも応援したいとも思っている。

ただその前途が多難というだけで……

 

「……そういえばアイゼンハートさん、貴女は先程、"ほとんど"が事実であると言いましたよね。逆にお聞きしたいのですが、間違っている噂というのはなんなのでしょう」

 

なんの気なしに聞いたそんな質問。

特に何か意図があったわけではない。

気になったから聞いた、ただそれだけのものだった。

 

……だからこそ、想いもよらぬことだっただろう。

まさかそんな軽い気持ちで聞いた質問が、これまでの何よりも、全てをひっくり返す程の衝撃の情報に繋がるような重大なものであったということなど。

 

「……ここまで協力して貰っているのに、このことをリューさんに隠しているのもおかしいですよね。リューさん、これからお話しすることも他言無用でお願いします。これはファミリア内でも口止めされていることですので」

 

「……あの、待って下さい。今もしかして貴女は、私にとんでもない事実を突き付けようとしていませんか?私はただ間違っている噂を聞ければいいのですが」

 

「ですから、そのつもりですよ?……ええと、まずですね、リヴェリアさんは同性愛者ではありません」

 

「……?」

 

リューは本気で意味が分からなかった。

 

「リヴェリアさんは基本的にノーマルなお方です。事実どうなのかは分かりませんが、少なくともリヴェリアさんはそう自称しています」

 

「………?」

 

リューはやっぱり意味が分からなかった。

 

「貴女は一体何を……」

 

「ええと、ですからね……?」

 

 

 

 

 

「私、男なんです」

 

 

 

 

 

「………アイゼンハートさん、落ち着いて下さい。貴女はきっと、疲れている」

 

「なんとなくそう言われるのは分かってましたけど!本当の話なんですよぅ!!」

 

100人に言っても100人は信じない可愛らしい嘘だと、リューは本気でそう思った。

 

 

 

 

「……つまり、アイゼンハートさんは本当に男性で、それはリヴェリア様は勿論、ロキ様もミア母さんすらも知っていると」

 

「は、はい。私の性別が知られてしまうと神々に面白がられてしまうということで、ファミリア内でも隠す様に言われているんです」

 

「……やはり質の悪い冗談なのでは?」

 

「だから本当なんですよ!証明は出来ませんけど信じて下さい!!」

 

ユキから一通りの説明をされ、何度も何度も自分は男性であると説得されたリュー。

この話に入ってからもう20分ほどが経ち、ユキの説得は5分近く続いたものの……リューは全く信じる事が出来なかった。

 

「落ち着いて考えてみて欲しい。仮に貴女が男性だとすれば、この世界の大半の女性が男性ということになってしまう」

 

「いや、それの方がおかしいですよ!その理論は絶対に間違ってますから!」

 

「アイゼンハートさん、私とて女性だ。男性が私のどういった所に視線を向け、どういった意図を持って接して来るのかが少しは分かるんです。そういった意味で言えば、貴女の私への反応は間違いなく女性のものだ。確かにリヴェリア様との関係を維持する上で、貴女が男性だと偽れば少しは騒動も落ち着く筈です。……ですが、嘘はいけない」

 

「ほんとなんですよぅ、信じてくださいよぅ、今からミアさんに聞いてきてもいいですからぁ……!」

 

普段は女性として過ごしているのに、必要な時だけ男性を名乗るのは卑怯ではないだろうか?と、さも自分の中の男性の部分が抵抗しているかの如く信じて貰えない。

だが、リューとてある程度の嘘は分かる。

ユキほどの人間がここまで一つの嘘を押し付けてくるとは考えられない、そしてミアに聞いてきてもいいというくらいだ。

果たしてそんな直ぐわかる嘘を吐く必要があるだろうか?

だとすれば……

 

「……本当に、男性なのですか?」

 

「だから、さっきからそう言ってるじゃないですかぁ……」

 

「そんな馬鹿な……」

 

信じられないし、信じたくない。

なぜならこのユキという少女、いや少年からは、リューは一度だって男性的な視線を感じた事が無かった。

どころかスカートを着用しながら男性客の相手をしていたし、その男性客達から邪な目線を向けられていてもまるで慣れているかの様に気にしていなかった。

仕草だって歩き方だって違和感は無かったし、骨格は確かに服装故に分かりにくいが、それでも今の今まで分からなかった程に男性味を感じなかった。

 

それに、そもそも女性として完成され過ぎているのが何よりの問題だ。

リューがこの自称少年を自身の主神によく似ていると評してしまったように、彼はそもそも女性として筋金入り、経験も違う。

男性として見る事ができないのは、その辺りの年月の違いという理由もあるのだろう。

 

(だが……)

 

確かに彼はもしかして男性で、その自覚もあるのだとする。

だが、逆に言えばそれだけなのだ。

事実と自覚があるだけで、その2つを取り残して他の部分が全て女性側に引っ張られている。

10%の男性が残っていたとしても、残りの90%が女性ならばそれは女性だ。

性別は基本的に肉体を元に考えるのが普通ではあるが、それはあくまで男性的な要素が半分以上残っている場合のことを言うのだろう。

しかしここまで女性の割合に占められていてしまえば、たとえ体が男性でもそれは付いてるだけの女性だ。

いやむしろ、女性に付いていると言った方が正しいのかもしれない。

きっとリューがこれまでユキに対して男性味や触れられた時の嫌悪感を抱かなかったのは、そういった比率が理由に違いなかった。

 

「……理解はできませんが、納得はしました」

 

「信じて、貰えますか……?」

 

「いえ、信じることまではまだ。ただ、仮に貴方が男性であって、それでもそういった特殊な価値観を持っているのだとすれば……リヴェリア様が自ら貴方に手を出すことが出来たのも納得がいきます」

 

「……?」

 

「簡単な話です。異性という前提がありながらも、同性のエルフと同じ感覚で接することの出来る相手。加えてこれだけ人懐っこく、自ら問題を抱え込み易い奥手で控えめな性格の貴方だ。元は親愛なものでも、抱き、煮詰められ続けていた愛情が、何かの拍子で暴発してしまえば……そうなるのも仕方ないのかもしれません」

 

「な、なるほど……?」

 

「そして同時に、貴方がエルフに好かれる理由もなんとなく分かりました。特に貴方が男性であると知り、意識してしまったエルフは不味い。リヴェリア様ですらそうなってしまったのですから」

 

「……あの、あまり理解が進んでいなくて申し訳ないのですが、私のことについて知ってるエルフとなると、もう既に心当たりが2人ほどいるのですが」

 

「そういうことなので、私は貴方から極力距離を取る様に努力します。貴方も私に近付かないで下さい」

 

「言い方が酷過ぎて泣きそうになるんですが!?」

 

「下心を持っていないというのが本当に質が悪い。そんなもの、こちらの警戒心が薄れて当然だ。ただでさえエルフの中では女性同士の密かな同性愛が問題になっているというのに……」

 

人一倍警戒心の強いエルフの女性。

しかし一度その警戒心の壁を乗り越えてしまえば、意外にもそこからはチョロかったり惚れやすかったりしてしまう。

……なぜなら、そういった経験が無いから。

外の殻が強いほど中が弱いというのは、リヴェリアのユキに対する態度を見ても明らかだろう。

そしてユキは、エルフのその警戒心という壁を唯一素通りすることのできる男性だ。

……というか、世間的にエルフの女性が恋愛関係に陥っても許される同性だと表現した方がいいのかもしれない。

仮にユキにそういった気持ちが無くとも、硬い殻に閉じ込められていたエルフの女性としての本心が、彼というこの世界の例外を見つけてしまった時、一体どんな反応をするだろうか……

少なくともリュー・リオンは、鍛錬中にユキから触れられても嫌悪感は抱かなかったし、恐らくユキの性別を知った今でもそれは変わらないだろうと想像できる。

なぜなら目の前の男は女だからだ。

いくら口では男と言っていても……自分に少しの欲情も抱かない相手に警戒心が湧く訳がない。

 

「と、取り敢えず……リヴェリア様とはそのままで構いませんので、周りの目にだけは気を付けて下さい。それと、貴女はなるべく他のエルフに自身の性別を明かさないように。もう明かしてしまった方とはなるべく距離を取る様にして下さい」

 

「……しないと駄目ですか?」

 

「駄目です」

 

リューの言葉は強かった。

……だが、彼女は一つだけ忘れていた。

それこそ彼女が言っていたように、エルフの中では女性同士の同性愛が問題になってきているということを。

 




--おまけ--

「あー!ユキが変な客の相手してくれてほんと助かるニャー!本当にここで働いて欲しいくらいだニャー!」

「そこの馬鹿猫よりよっぽど動いてくれるから仕事も楽になるし、やっぱり何処かで働いてた経験あるの?」

「ええ、何をするにしてもお金は必要になりますので。給仕の仕方とかもその過程で」

「それにしても……ユキさん、以前に見た時よりも女性らしくなっていませんか?いえ、可愛らしいのは前から同じなんですけど、以前は少しカッコいい所もあって、えっと……」

「そう、ですか……?ううん、個人的には特に変わっていないつもりですが……」

「そういえば、シルはどこでユキと知り合ったのニャ?半年前って、何かあったニャ?」

「え?えっと……」

「あ、思い出した。半年前って言ったら、シルが1週間くらい休み取った時だ。突然の話でミア母さんもグチグチ言ってて」

「あー、なんかそんな事もあったニャ」

「あ、あはは……」

「と・こ・ろ・で……シルはどうしてユキの前だとそんなに余所余所しいのニャ?シルはあの良いお尻した少年にお熱だったんじゃニャかったのニャ〜?」

「そ、そんなことないよ!?」

「?」

「はは〜ん、シルあんたさては前にあった時のユキのそのカッコ良かった所が忘れられないんじゃな〜い?いけないんだ〜、二股なんて♪」

「ち、違うからぁ!ベルさんとユキさんの気持ちは違うし、みんなだってあの時のユキさんを見れば絶対に私と同じ気持ちになるに決まってるもん!」

「ほう、そこまで言うか」

「な、なんだか少し恥ずかしいですね……」

「それに最後にあった時にはそれどころじゃ無かったし、もう2度と会えないんじゃないかって私は……」

「なに?死に掛けたりしたの?ユキ」

「はい」

「サラッと言ったニャ!?」

「でも恩恵を持っている様な方は1度や2度くらい死に掛けるような経験をしているものですし。そんなに珍しい事ではありませんよね」

「「それはそう(ニャ)」」

「……みんな感覚壊れてるよ」

「神の眷属なんて軽々しくなるもんじゃないニャ〜……」
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