白海染まれ   作:ねをんゆう

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31.初めての遠征

各々が様々な場所で様々な者達と己を磨き、それまでとは異なる力や技術を身につけていれば、時間は容易く過ぎていく。

そうしていつの間にか、その日はやってきていた。

 

ロキ・ファミリア遠征の日。

ヘファイストス・ファミリアと合同で行う、深部への探索に出発する日だ。

 

「おお!剣姫、それにユキ!久しいな!……いや、ユキはそれほどでもなかったか?」

 

「あ……どうも、お久しぶりです」

 

「椿さん……!いえいえそんな、私も最近は顔をお出しできていませんでしたから」

 

ヘファイストス・ファミリアの鍛治師筆頭:椿・コルブランド。

彼女もまた、此度の遠征の参加者であった。

彼女自身もレベル5の冒険者、実力は申し分無い。

そんな彼女と一言二言交わし、互いに挨拶と軽い雑談を終わらせると、彼女は今度は忙しなくベートの方へと飛んで行ってしまう。

兼ねてよりロキ・ファミリアとの関係の深かった彼女には、上級の冒険者であるほど世話になっている者が多い。

そして、武器を作ってもらうという性質上、彼女に逆らえる者もそう居ないのだ。

ベートもまた彼女には頭が上がらないようで、グイグイと迫られながら最低限の抵抗をしている。

 

(……さて、一応先発隊に組み込まれたとは言え、今回の私は基本的に後方で見学扱い。もちろん戦闘には参加しますが、求められているのは後方からの攻撃支援ですから。その辺りの意識の切り替えは今のうちにしておかないと)

 

パンパンと顔を叩いて意識を切り替える。

いくら武器を新調しても、どちらかと言えば今回用いるのはこの大量の安物の剣の方だろう。

普通の魔法とは違い、時間をかけずに遠距離から射出、投擲できるのが自分の利点。

他の後衛が魔法を唱え終わるまでは自分がこの手数で時間を稼ぐのだ。

きっと周りに人も多く、普段よりも集中力が求められるだろう。

ここが腕の見せ所と言える。

 

「さあ、いこうか!」

 

フィンの掛け声と同時に、先発隊がダンジョンへと入っていく。

様々な人の見送りに手を振って答えながら、ファミリアの面々は歩き始めた。

このメンバーならばきっと、18階層程度までならば何が起きてもそう苦戦することは無いだろう。

それほどに安心感のある戦力だ。

 

……とは言っても、いつだって何が起きるのか分からないのがダンジョンというもの。

それはユキとてリヴェリアに耳が痛くなるほどに言われた。

例えば怪物の宴が頻発する可能性だってある。

例えばこの浅い階層に合わないミノタウロスのようなモンスターが現れることだって……

 

「ミ、ミノタウロスだ!ミノタウロスが現れたんだぁぁあ!!」

 

例えば突然変異したモンスターが現れることだって……

 

「大剣を持ってて普通のミノタウロスより強かった!変異種だ!そうに違いねぇ!」

 

例えば知り合いの冒険者が丁度その時に命の危機に遭っていることだって……

 

「白髪の餓鬼が今一人で戦ってるんだ!あれはもうマジで死ぬかもしれねぇ……!」

 

 

 

……いや本当に、ダンジョンは何が起きるか分からない。

どうしたらこんな上の階層でミノタウロスに2度も襲われる事が出来るのだろうか。

十中八九あの少年が襲われているのだろうと、ユキの頭には思い浮かんだ。

 

(私も人のことは言えないけど、少年くんも随分波乱万丈な人生送ってるなぁ……)

 

「おいアイズ!!」

「アイズ!?遠征中だよ!?」

 

もちろん、その白髪の少年が彼のことであると気付いたのはユキだけではない。

彼のことをここ最近、毎日のように見ていたアイズがここに居る。

そんな彼女が気付かない筈もなく、彼女は凄まじい速度でミノタウロスの叫び声のする方へと駆けていく。

勿論、動きを始めたのはユキも同じだった。

 

「フィンさん、リヴェリアさん、少し行って様子を見てきますね」

 

「ああ、僕達も後で合流する」

 

「アイズのことを頼んだ、ベート達も連れて行け」

 

「はい、行ってきます」

 

まだ浅い階層とは言え迷子になられては困る。

ユキは鞄を背負い直してフィンとリヴェリアに声を掛けて走り出す。

どうやらティオナやベート達も同じ事を考えていたようで、先を走るユキに続いて彼等も走り出した。

ここ最近、延々とリューと高速戦闘をし続けていたユキの移動速度はそれなりに早く成長しており、見劣りする事なく彼等と共にアイズを追いかけていく。

 

「っ!アイズの他に何か居やがるな」

 

「……そんなに悪い人では無さそうですが、これまた判断に困りますね」

 

「ベートはともかく、ユキはなんでそんなこと分かるの〜?」

 

「え、あ……か、勘みたいなものですよ!」

 

ミノタウロスの叫び声はダンジョン内に響き渡り、その正確な位置はなかなか掴み難い。

しかしアイズの残した風と、ベートの嗅覚は確かにその空間で生きており、かつユキの異質な感覚がアイズが対峙している何らかの存在を感じ取っていた。

音からして、アイズはその何らかの存在と剣を合わせている。

 

(少年くんを助けるのを妨害している……のかな?どうして?一体なにが目的で?)

 

ユキは考えるが、分からない。

分からないが、すべきことは分かる。

ユキは3人の先頭に立った。

そして、やるべきことを思考する。

 

「私が敵の気を引きます!その間にアイズさんを先へ!」

 

「あァ!?テメェなに勝手言ってんだ!」

 

「ベートさんはきっと一緒に残って私のことを守ってくれるので大丈夫です!」

 

「さっすがベート!かっこいぃ〜♪」

 

「あああァァア!?!?だァからなに勝手言ってんだテメェエ!?」

 

それでも、なんだかんだサポートの為にユキの後ろに着いてしまうのがこのツンデレ男。

アイズのためだと自分を無理矢理説得しながら、これから対峙する相手に集中をする。

 

「見えた!」

 

「アイズさん!先に行ってください!救いの祈りを『ホーリー』!!」

 

「っ、これは……!」

 

アイズと対峙している大男に対し、ユキは強烈な光で目眩しを与える。

これでどうにかなるとは考えていない。

これでどうにでもなるとは思っていない。

 

「オラァ!」「せぇぇい!!」

 

「ぬ……」

 

どうにかしてくれるのは自分ではなく、ベートとティオナの方なのだから。

 

二人は一瞬の隙を突いて大男の大剣を地面へと叩き落とし、アイズの逃走に手を貸す。

そして直後に全速力で走り出したアイズを止めることが出来ず、大男はその場に立ち尽くしたまま、剣を引き抜きながら彼等を見送った。

 

アイズとティオナは先へと急ぎ、残ったユキに付き添う形でベートがその前へと立つ。

なんだかんだで彼は残ってくれたのだ。

本当は彼もアイズを追い掛けたいと思っていただろうに。

 

「ふふ、やっぱり優しいですね。ベートさんは」

 

「チッ、馬鹿言うな。テメェじゃあの猪野郎の隙突いて向こう側へ行けねぇと思ったから残ってやったんだ。テメェの頼みを聞いてやった訳じゃねぇ」

 

「……いや、それどっちにしても優しいですよね。どっちにしても私の為ですよね?」

 

「……うるせぇ、いいから集中しろ」

 

ユキの言葉に反論を返せず、取り敢えず顔を逸らして相手を睨む。

対峙している大男、その体躯から放たれている威圧感は凄まじい。

普通の冒険者ならばその存在にさえも身が竦み、逃げることを考え始めてしまうだろう。

 

「……なんでテメェがこんな所にいやがる、猛者!」

 

「ロキ・ファミリアか。それと……」

 

オラリオ最強、レベル7、様々な呼び名を持つその男。

そんな男を相手にすれば、さしものベート・ローガと言えど余裕は見せられない。

いや、そもそも何をどうすれば勝てるのかすら分からない。

だからこそ、前に出たのだ。

こんなものの本気の殺意を受けてしまえば、レベル4程度の冒険者ならば容易に心を折られてしまうから。

人によっては再起不能になってしまってもおかしくないのだから。

 

……それなのに、

 

「あれ?その声もしかして、オッタルさんですか?」

 

「……ああ。久しいな、ユキ・アイゼンハート」

 

「やっぱり!オッタルさんでしたか!まさかこんな所で会えるとは思っていませんでした!」

 

「は?」

 

当の本人がそんな風に親しげに挨拶をし始めてしまったら、この男の意地は一体どうすればいいというのだ。

なにを首だけひょっこり出して嬉しそうにしているのだ。

レベル7だぞ、都市最強だぞ、そんな親しげにしていい相手では無いのだぞ。

ふざけるなお前。

 

「お、おい……テメェ、猛者とはどういう関係なんだ」

 

「猛、者……?オッタルさんのことでしたら、ええと、前に助けて貰ったことがある、という感じでしょうか」

 

「……あれはお前が自ら生き残っただけだ、俺は何もしていない」

 

「という様なことを何度か言われた仲です。当時はとある事情で目が見えなかったので、声だけしか聞いた事が無かったのですが……あの時は本当にごめんなさい。結局なにも言えないままお別れすることになってしまって」

 

「……気にするな、回復したようでなによりだ」

 

(意味が分からねえ……!)

 

最早ここに、先程までの一触即発の空気はない。

ユキはともかく、あの猛者ですら剣を収めて話し始めている。

なんなのだこれは、一体どういうことなのだ。

この行き場のない警戒心と闘争心はどこへ向ければいいと言うのだ。

疑問と困惑に包まれて、ベートはただ呆然と立ち尽くす。

 

「そういえば、オッタルさんがどうしてここに?アイズさんと戦っていたみたいですが……」

 

「……ただの散歩だ」

 

(絶対そんな雰囲気じゃ無かっただろうが!)

 

「散歩で、アイズさんと戦いを……?」

 

「……趣味だ」

 

「あ、ああ、なるほど。趣味、ですか……」

 

(なんでこいつそんな理由で誤魔化せると思ってんだ!?お前も納得すんなよ!)

 

「それよりもユキ・アイゼンハート、そこの冒険者を助けなくてもいいのか?どうやら怪我をしているようだが」

 

「え?……あ!この子は確か!た、大変です!早く治療してあげないと!」

 

「これを使え。エリクサーでは無いが効用は確かなものだ、礼は要らん」

 

「ほんとですか!?あ、ありがとうございます!やっぱりオッタルさんはそんなに悪い人じゃないんですね!」

 

(いやマッチポンプゥゥウ!!その冒険者の怪我間違いなく元を辿ればこいつのせいぃぃい!!確かにこいつは悪人ってより信者だが、間違いなく悪事は働いてる奴だっつーの!!)

 

以前から知っている相手だからだろうか。

なんとなく警戒心が緩めのユキと、何故かそんなユキに微妙に配慮しているオッタルの奇妙な会話に、ベートの内心でのツッコミが冴え渡る。

この男は女神フレイヤ以外に興味は無いと思っていたが、なぜここまでユキに対して配慮するのか。

ベートの疑問とツッコミは尽きない。

 

しかしそんなベートの元に、何故かオッタルが歩いて近付いてくる。

最初は何かをされるのかと身構えたベートだったが、今のオッタルは武装をしていない。

どころかこのタイミングで攻撃されるイメージがどうしても湧かず、むしろ彼はすれ違う様な角度でこちらへ来ているのだ。

それでも警戒心が抜けないベートの肩に猛者は静かに手を置き、一瞬だけ立ち止まる。

その行動にすら頭が?マークでいっぱいのベートの身長に合わせる様に屈みながら、オッタルは耳元でこう囁いた。

 

「ユキ・アイゼンハートに余計なことを吹き込めば……お前を殺す」

 

「………!」

 

突然の殺す宣言に停止するベートを置き去りに、オッタルは帰路を歩む。

 

「俺はもう行く」

 

「え?あっ、ありがとうございましたオッタルさん!また会いましょうね!」

 

「……機会があればな」

 

これもどうせ、きっと女神フレイヤの指示だ。

そうでなくとも女神フレイヤに関係した何らかの理由でオッタルはユキに配慮しているに違いない。

そう分かっている。

そう分かっているけれども……

 

(そンだけコイツに嫌われたく無ェンなら!最初ッからちょっかい掛けに来んなやァァアア!!)

 

ベートは突っ込まざるを得なかった。

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