白海染まれ   作:ねをんゆう

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アストレアへの信仰
アストレアはユキに生きていく術を教えた。
アストレアはユキに恩恵の力を与えた。
アストレアはユキに正義の深みを教えた。
アストレアはユキを形作った1人だ。
アストレアはユキの母親の1人だ。


04.自己紹介と晒し上げ

 sideユキ

 

 夜も日を跨ぐ頃。

 結局取っていた宿を1日も泊まることもなく引き払ってしまった私は、スキンヘッドの店主さんに1日分のお金を渡して何度も何度も頭を下げた後に、再びロキファミリアの本拠地:黄昏の館へとやって来ていた。

 そして今、私はリヴェリアさんから取り敢えずの紹介だと玄関に集まった約10人ほどのファミリアメンバーの視線に貫かれながら、ここに立たされている。

 もうなんか視線とかが色々と辛い。

 視線だけでも探られているという感覚がよく分かってしまう。

 そんなに見つめられると、本当に穴が空いてしまいそうだ。

 

「……ええと、本日からこのファミリアでお世話になることになりました。ユキ・アイゼンハート、Lv.3の17歳です。どうぞよろしくお願い致します」

 

 出来る限りの丁寧な仕草で彼等の視線から逃げるように頭を下げる。

 その直後に狼人の青年から舌打ちが聞こえた様な気もするが、きっと気のせいだと思いたい。

 そうでないと心が折れてしまう。

 

「おおー、すっごい可愛い子。ねえねえ、どこのファミリアから来たのー?この前の入団試験には居なかったよね?」

 

「ふむ、儂も覚えが無いのう。フィンはどうじゃ?」

 

「……そうだね、僕もそれなりに他ファミリアの高レベル冒険者のことは詳しいつもりだけれど、彼女のことは知らないかな。リヴェリアは何か知っているようだね」

 

「まあ、私はロキと共に話は聞いているからな。身元については大丈夫だ、信用できる人物だというのが私とロキの共通見解でもある」

 

 フォローしてくれたリヴェリアさんに1つ頭を下げて周りを見渡す。

 やはりまだ私のことを疑問に思っている人は多いみたいで、疑いの目を向けられているのがありありと分かる。

 ……金髪の少女だけは何を考えているのか分からないけれど、ぽへ〜っとしているのは眠いからなのだろうか?

 容姿も相まってとても可愛らしく見える。

 

「ええと、レベル3ではあるのですが、恥ずかしながらダンジョンは未経験です。以前はアストレア様という方の下でお世話になっていました」

 

「「「!?」」」

 

 この驚愕の意思が込められている視線を向けられるのも慣れて来たと感じる今日この頃。改めてアストレア様のこの街での影響力の強さを実感する。

 私がレベル3になったのも大体アストレア様のおかげみたいな所もあるので、是非このことは手紙か何かでアストレア様にお伝えしたい。アストレア様、やはり貴女は素晴らしい神様でした、と。

 具体的には、私に何の興味もなさそうだった狼人の青年と金髪の少女が同時に目を見開いてこちらを見てくるほどには影響力のお強い方でした、と。

 あっ、あっ、そんなに見ないで……

 

「……ロキ、それは本当なのかい?」

 

「嘘はついとらんで。アストレアからの手紙も確認しとるし、そもそもそんなファルナを見れば分かるような誤魔化し方せえへんやろ」

 

「実力はどうなんじゃ?リヴェリア」

 

「そこまでの確認はまだ出来ていないが……あの女神アストレアの眷属だ、レベルに合った実力くらいは持っていると見てもいい」

 

「ハッ!なら別にいいじゃねぇか、強けりゃ何の問題もねぇ。そもそも寄生のできねぇダンジョンの外で、2つもレベル上げるような奴が強くねぇ筈がねぇからなァ!」

 

「アストレア様の剣技、見たい……!」

 

 やめてください。

 そんな目で私をみないでください。

 そんなに私に期待しないでください。

 そんなに自信があるわけじゃ無いんです。

 むしろ日々ダンジョンで鍛えている皆さんと私が、どうして対等だと思うんですか。

 流石に無理があります。

 

 一転して目を爛々と輝かせる青年と少女に加えて、途端に探るような顔付きになってこちらを見てくる小人族の青年とドワーフ族の御老人。

 疑惑の目を向けていたアマゾネスのお姉さんですらもその口角が上がっており、本当に戦う事の大好きな人が多いんだなぁと思ってしまう。

 確かにアストレア様から剣技の基本や身体の動かし方は教えて貰ったけれど、私の特性と合わせるうちに全くの別物になってしまったので、こんなものは実際披露するのも恥ずかしく、烏滸がましいのだ。こんな剣がアストレア様のものだなんて絶対に広めたくない。

 

「ね、ね、どんな風に戦うの?どんなのが得意……?」

 

「え、ええと……基本的には剣を何本か使う、手数と速度を優先した近距離戦闘スタイルですね。付与魔法が使えますので、それで少し強化なんかしたりして中距離戦とかも」

 

「付与魔法……!今度、一緒にダンジョン潜ろう?それとも一回戦ってみる?」

 

「い、一緒にダンジョンに潜って頂けると助かります」

 

「わかった、任せて」

 

 ズイズイと迫ってくる彼女に壁まで追い込まれた私は、その綺麗な顔から目を逸らしつつ、なんとか言葉を返していく。

 そんな様子を見て今度はエルフの少女が何故か私のことを睨んでくるが、不可抗力にも程があると思うのです。

 というかそろそろ本当に助けてください。

 最早壁ドンという言葉すら生温いほどの密着。

 凄い力で逃げ場が1mmも無い。

 冗談ではなく本当に。

 

「アイズ、そのくらいにしておけ。彼女にはしばらくの間ダンジョンに関する勉強をさせつつ、上層で実際の空気感を体感して貰うつもりだ。お前はその時にでも同伴をすればいいだろう、急ぐ必要はない」

 

「えーアイズばっかりずるーい!私だって行きたーい!」

 

「ア、アイズさんが行くなら私だって……!」

 

「ふふ、それなら僕も立候補しようかな?彼女の実力と人柄には、僕も興味があるからね」

 

「なっ!!団長と2人きりなんて許さないわよ!私も行くわ!!」

 

「はっはっは!ならば儂も立候補しようかのう!神アストレアの子となれば、少し話をしてみたいと思う所もあるのでな」

 

「お前達な……」

 

 やんややんやと騒ぎ立てるロキファミリアの面々。

 そして頭を痛めるリヴェリアさん。

 きっとこの光景がデフォルトなのだろうと思うと、彼女がそのうち心労で倒れてしまわないか心配になってくる。

 こんな光景もまた平和な心温まる光景なのかもしれないが、その度にリヴェリアさんのフォローもした方がいいのかもしれない。

 みんなが平和で元気なのが一番だ。

 それで楽しいのなら、尚更良いことに違いはないのだから。

 

「あ、あの……」

 

 ただ、そんな心配をする前に1つだけ、今この場でどうしても訂正しておかなければならないことがある。

 こんなこと、もう正直いつものことではあるのだが。

 いつもいつも指摘するのがとても苦しい訂正だ。

 大体この訂正をするとその場の空気が死んでしまって、なんとなく私が全部悪いみたいな雰囲気で睨まれてしまうのだし……いや、多分実際に私が悪いのだろうけれど。

 私もできればこんな訂正はしたくないのだ。

 しないとならないからするだけであって。

 しなくて済むのなら、誰も傷付くことが無いのなら、それでいいと思うくらいなのに。

 

「……あの、リヴェリアさん」

 

「ん?なんだ、質問や詳細ならまた時間を取るつもりだが……」

 

「いえ、そちらも大変ありがたいのですが。1つだけ、この場で訂正しておかなければならないことがございまして」

 

「訂正?何の話だ?」

 

「いえ、酒場に居る時からずっと勘違いされていたのですが、指摘する機会がなかなかありませんでしたので。早めに言っておかなければと思ってはいたんですが……」

 

「いや、だからその訂正の内容が分からないのだが。それに君が不利益になることを黙って騙し続ける様な不誠実な女性だとは私も思ってはいない。安心して言ってくれていい」

 

「いえ、ですからね……」

 

 

 

「私、"男"ですよ……?」

 

 

 

「「「「「…………………………は!?」」」」」

 

 満場一致の当然の反応であった。

 





ユキは自分のことを男という。
だが、ユキはどこからどう見ても女だ。
果たしてそれは嘘なのか。
それとも思い込んでいるだけなのか。
または本当に男なのか。
それは脱がせてみるまで誰にも分からない。
というかそもそも、性別とは何なのだろうか。
それは大切なものなのだろうか。
知らなくてはならないことなのだろうか。
もしかしたら貴方の親しい友達も、男ではなく女なのかもしれない。

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