白海染まれ   作:ねをんゆう

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48.英雄の登壇

「嘘、だろ……」

 

「っ、直ぐに他のモンスター達も集まって来ます。早く彼等を回収しないと手遅れに……!」

 

「ボールズ!部隊を立て直して形勢の立て直しを……って、貴女は……!」

 

「っ、【万能者】か。この状況で無茶苦茶なこと言いやがって……」

 

「ええと……お久しぶりです、今はそれどころではありませんが」

 

地獄絵図染みた周囲の光景を見下ろして顔を歪ませる2人の元に、この衝撃の嵐を何とか生き残ったであろう青髪の女性が舞い降りる。【万能者】と呼ばれる彼女は2人の顔見知りであり、都市でも苦労人として有名な人物。アスフィ・アル・アンドロメダ、ヘルメス・ファミリアの団長を務める才女である。

……とは言ってもユキ自身は直接そこまで面識がある訳では無いく、互いに互いが実力のある冒険者だと言う事くらいしか知らないが。

 

「無茶を言っているのは百も承知です。ですが、今はやるしかありません。私とリオンでゴライアスを食い止めます!その隙に負傷者の回収と部隊の編成を!」

 

「私も手伝います!攻撃手段は乏しいですが、時間稼ぎの役には立てるかと……!」

 

「〜〜ああもう!わぁったよ!やればいいんだろ、やれば!女共に前線任せといて男の俺が弱音なんざ吐いてられるかっつぅの!」

 

「流石です!かっこいいですよ!ボールズさん!」

 

「だぁから、それを止めろつってんだろ!惚れちまうぞ本当に!こんちくしょー!」

 

今日のボールズは間違いなくイカしている。

緊急時でもあるが、なんとか心に宿る漢魂で自分を奮い立たせて頑張っている。

そんな彼の姿を見れば、同じように着火する者も増えるだろう。

 

そして、その最初の火種に火をつけたユキはと言えば、ボールズ達が捨て置いた使えない剣:計12本を浮遊させてその身を囲んでいた。

まるで円形の壁でも張っているかのようなその光景に、かつて24階層でユキの戦いぶりを見た【万能者】アスフィは一瞬嫌な光景を思い出すが、頭を振ってそれを打ち消す。

彼女は信頼できる。

それを確信した時こそ、その24階層での戦闘の時なのだから。

話す機会に恵まれず、なんと話しかけたらいいか分からない彼女だが、今はとにかくその力を借りなければならない。

会話をするなら後でだ。

彼女の人柄と性格は、その時にでも知ればいい。

 

「……!リオンが無茶をしています、急ぎましょう!」

 

「はい!まずは目を潰します!」

 

「分かりまし……え?」

 

「救いの祈りを【ホーリー】!!」

 

「え、いや、ちょっと待っ……速い!」

 

アスフィとて、自ら作った魔道具によってそれなりに空中を早く動くことが出来る。むしろ自由自在に空を走れるのは彼女の専売特許だ、なかなか同じ事をできる者は居ない。

……ただ、ユキに関しては浮かべた剣達を足場にすることで空中でも殆ど自由に移動する事が出来る。そして、これはそれまでの経験というか、能力故の性質でもあるのだが……ユキは特に階層主クラスの大型のモンスターを苦手にはしていない。

 

「まずは視界から潰します!再生能力を持つのなら、その大きな手では取れない程に深く剣を埋め込めばいい!……これが街の子供達から教わった蹴球遊びの必殺技、その名も"虎砲(こほう)"です!てりゃぁあ!!」

 

『オゴア……グゥォオァァア!!!!』

 

「えぇ、その体勢から蹴れるんですか……」

 

それは所謂、サマーソルトキック。

ただそれを空中の剣を足場にして高速で動きながら放つものだから、そのあまりの体幹の良さにアスフィは驚くしかない。

だが、ユキにとってはこんなもの当然だ。

なぜなら旅をしていた頃から街の子供達との色々な遊びに付き合い、その度に眷属特有の身体能力を活かして色々な事をせがまれるのだ。時には子供達が自ら創作した必殺技を実際にやって見せて欲しいと言われた事もあった。

そんなユキにとって、この程度の蹴り技は何のその。

眼鏡を掛けた子供から"空気摩擦で炎を纏ったボールを蹴って欲しい"と言われた時より100倍簡単だ。

あの時は結局、数多のボールを犠牲にして散弾銃の様にボールを粉々に吹き飛ばす事しか出来なかったのだから。

 

「ユキ!何て無茶をするのですか貴女は!」

 

「さっき拳を掠めていたリューさんの方がよっぽど危なかったですよね!?私ばっかり酷いです!」

 

「ああもう!私からすれば2人とも滅茶苦茶ですよ!死ぬ気ですか!」

 

「というか、本当にどうしましょう!?剣をたくさん持ってきたのはいいんですけど、質が悪いので一度に全部使っても魔石までは辿り着けそうに無いです!」

 

「斬れるだけマシでしょう、私の武器では貫通すら出来ませんし」

 

「私の魔法も期待はできません!あの怪物とは相性が悪過ぎます!」

 

「つまり?」

 

「やはり魔道士の砲撃しかない……!」

 

「ですが撃っても直ぐに回復されてしまうのでは!?」

 

「ならば相手の魔力が枯渇するまで削り取る……!」

 

「そんな無茶な……!!」

 

「一応、私が大怪我してみればスキルの効果で魔石まで攻撃が届いたりはするんですが……」

 

「「却下に決まっている(います)!」」

 

「ふ、ふたりしてそんなに怒らなくてもいいじゃないですかぁ……うぁ」

 

そんなことをするくらいならリオンの言った無茶な作戦をやった方がマシであるとブチ切れる2人。

そんな2人の凄まじい剣幕に、ユキは思わず泣きそうになった。

 

そもそも、リオンの事情はともかく、アスフィに至っては以前に本当にこの少女は自分の前で死にかけているのだ。

あの時は運良くアイズがエリクサーを持ってくるのが間に合ったが、それでもあの時に感じた悔しさを忘れたことはない。

特にこの2人は過去にあの7年前に起きたあの地獄の日々を生き抜いた者同士。

共に肩を並べて戦う者達が死へと足を踏み入れる事に対し、異様なほど抵抗感を抱いてしまうのも仕方がない。

ユキが怒られたのも当然の話だった。

 

「っ!今度は魔導師を狙って……!」

 

「明らかに学習している!ただ暴れ回るだけの化け物じゃない!」

 

「ですが、それ(ハウル)はもう見飽きましたよ!剣光突破/ソード・プロミネンス!!」

 

魔導師達に放たれようとする咆哮を、ユキが剣3本を使った剣光突破で相殺する。

魔導師を守るという点にかけてはユキは誰にも負けるつもりはない。

これでもロキ・ファミリアにおける後衛の守りだ。最大火力の2人のエルフを守る最後の砦。

ユキが居る限りはそう易々と攻撃は通さない。

 

……ただ問題は剣の消費量が凄まじいという事か。

もう既にここまでで6本も消費している。

12本も持って来ていたのに、半分まで来ているのだ。

剣が減るという事は足場と手数が減るという事であり、減れば減るほどユキのパフォーマンスは落ちていく。

どこかで補充が出来ればいいが、今はそれができる状態でもない。

 

「ん?あれは……」

 

しかしそんな中、今度はこの硬直した戦場の中に、1人の少年が飛び込んでくる。それが無謀なのか、無茶なのか、判断させる時間すらも無いほどに唐突に。

 

「皆さん離れて下さい!!」

 

「クラネルさん!?」

 

「まさか……!リオン!ユキ!離れますよ!!」

 

「え、何が起きるんです?」

 

「ああもう!いいから離れて下さい!世話が焼けますね!」

 

「わわわ!」

 

退避の指示に疑問符を浮かべて小走りするユキを、アスフィはわざわざ戻って来て抱え上げる。

ベルの力を知らない者からすれば多少は仕方のない事ではあるのだが、元々死にやすいのだからもう少し気を付けて立ち回って欲しいというのがアスフィの本音。

それは遅れて気付いて一瞬戻りかけたリューもまた同意見だった。

 

剣に乗る以外で空を飛び回った事の無いユキはアスフィの魔道具による飛行に新鮮味を感じたが、視線はそれよりもベルへと向く。

彼の手にあるのは白い光。

ユキのものとはまた違う、白い光の粒の様なものがいくつも彼の腕の周りを回っている不思議な光景。

ただ、それが何の意味もなく光っているだけの代物では無い事は誰にでも分かる。

 

『ファイア・ボルトォォオ!!』

 

『オオオォォオアァァア!!!』

 

『ぐっ、ぅ、あぁぁっ!!』

 

ベルの手から凄まじい光量の炎雷が放たれる。

それは完全に意図的に、ベルもそうなると分かっていて放ったものだ。

白い炎雷は至近距離からのゴライアスの咆哮(ハウル)と打つかり合い、相殺し、押し返す。

そんなもの、長文詠唱による高位の魔法でなければあり得ない。あり得ないが、事実ベルはそれを詠唱無しの魔法で成し遂げている。

それは明らかに普通では無いし、それは明らかに特別だ。

つまり彼は明らかに特別な何かを、その手に持っているということになる。

 

「うわぁ、またとんでもない威力を」

 

「なるほど、大物殺しにはお誂え向き……と言うと、なんだか感じが悪いですかね」

 

「っ!ゴライアスの頭が……!」

 

魔導師達の凄まじい連撃にも耐え、大きな損傷一つしなかったゴライアスが、その頭部を吹き飛ばされて溶解させられている。

ゴライアスは立ったままだ。

だが、その腕は力を失ったかの様に項垂れている。

頭を吹き飛ばされたのだ、普通の生物やモンスターならばたとえ魔石に傷が無くともその時点で消滅する筈だ。

この場にいる誰もがそう思っていたし、ベルでさえも勝利を確信して立ち尽くしていた。

 

……ただ、ユキだけは知っている。

それこそあの59階層で出会った、魔石を貫くまで再生を繰り返し続けた規格外のモンスターというものを。

そして、あの精霊が持っていた異常な再生能力に近いものを、このゴライアスもまた持っているという事を。

 

「駄目です少年君!その場から離れて!」

 

「えっ……?」

 

「ベルッ!逃げなさい!!」

 

「顔面が、再生して……ッ!」

 

体力を使い果たしたベルに、ゴライアスは顔を復元させながら容赦なく襲い掛かる。

それを見ていた3人では、その距離故に間に合わない。

 

「がっ、ぁっ……!」

 

ゴライアスの咆哮(ハウル)がベルの足元を吹き飛ばし、彼の意識を刈り取りながらその小さな身体を宙へと浮かせる。

そうして黒き巨人は畳み掛ける様に左腕を大きく振り被り、何の防御態勢も取る事の出来ないベルへと叩き込もうとしていた。

 

「不味いっ!間に合わない!」

 

「っ、ここからではどうしようも……!」

 

付与魔法を使用したユキの速度ならば、もしかしなくとも届くだろう。

だが、間に合ったとしても耐久力が極端に下がる付与状態では盾になる事すら出来ず、ベルを助けだそうと彼に触れたりした瞬間、吹き飛ぶのはユキの方だ。

ユキはあの状態では高速移動中に他人に触れる事すら出来やしない。

普段剣を振えるのもその強化された切れ味があるからこそだ、斬れずに止められてしまえば腕ごと消し飛ぶ。

 

例えばあのゴライアスの腕を切断するとしても、仮に奇跡が起きて間に合ったとしても、あの勢いだけは殺せない。

このままではベル・クラネルは救えない。

……だが、

 

「っ!ユキ!?」

 

「たとえほんの少しでも、少年君が生きられる可能性が上がるのなら……!」

 

何もしないで見ているだけなど、そんなことはあり得ない。

ユキはゴライアスの腕ではなく、ゴライアスの左足に向けて最高速度で迫り寄る。

今から彼を助けることは出来ない。

ならば死ぬ可能性を限りなく減らすしか無い。

ゴライアスは左腕で殴り付けようとしているが、踏み締めているのは右足だ。

それでも右足をそのまま切断してしまえば、ゴライアスの顔より低位置を飛ぶベルは、姿勢を崩したゴライアスの更に体重の乗った一撃を喰らわされてしまいかねない。

故に今出来ることは左足を切断して、少しでも身体のバランスを崩させること。

それだけでも受けるダメージは違う筈だ。

これで切断出来なければ付与魔法を全身に使用しているユキの両腕は吹き飛ぶ事になるだろうが、効果の程は命が試してくれている。

たとえ丸ごと切れなくとも、骨さえ断つ事が出来れば……!

 

「せぇやぁぁああ!!」

 

すれ違い様に両手の剣を交差する様に動かし、ゴライアスの肉を引き裂く。その一撃は確かに骨まで至ったが、それでもまだ完全に破壊出来てはいない。

故にもう一押しをする為に、ユキは全身から付与魔法を両手の剣へと移し、反対側から再び片手の剣を突き刺した。

そうして直後に砂の様になって霧散した剣の傷痕部分に、更に片手に残ったもう1本剣を突き刺す。

 

「これで……届いたっ!」

 

大きな切断面で半分まで斬り裂き、その反対側から掘り進む様にして破損した骨を断つ。

ゴライアスはその瞬間、踏ん張りの軸を失い、ユキの狙い通りに身体のバランスを崩した。

企みは成功した。

ギリギリなんとか間に合った。

これが無駄な事であったとは誰も思わない。

 

……だが、それだけで削れる威力はそう多くないだろう。そもそもベルが殴られるのも寸前の話だったのだ。そんな彼を助けるには、それこそ彼の前に入り込んで庇う以外に方法がない。

 

「させるかよっ!!」

 

「っ!桜花さん!?」

 

「うおおぉぉおっ!!!」

 

だから、その桜花の行動は、正しく今の彼を救う最後の希望と言えるものだった。

 

「……っ!アスフィさん!リューさん!今のうちに少年君達を!!」

 

「なっ、貴方はどうするんですか!?」

 

「時間稼ぎなら私の得意分野です!それより今はお二人を!私の心配をしていて彼等を死なせては何の意味もありません!」

 

「〜〜っ、リオン!私もここに残ります!この中では貴女が一番早い!彼等を任せます!」

 

「………すみません!」

 

2人を担ぎ上げ、リオンはその場から撤退する。

絶望的……というにはまだ早い。

 

そして既に足の修復を終えたゴライアスの前に立つのは、ユキとアスフィの2人。大した会話もした事の無い2人が、ここに来て漸くその手と手を取り合う。

 

「……勝算はあるんですか?」

 

「この剣が50本ほどあればなんとか。無いのでしたら、やっぱり時間稼ぎが精一杯ですね」

 

「一体なんの時間稼ぎを?魔導師達は倒れ、その攻撃も通用せず、我々ではどうやっても倒し切れない。何の為に時間稼ぎをするのですか?」

 

「ふふ。もう、そんなの決まってるじゃ無いですか」

 

ユキは剣に魔法を付与し、爆発させる様にして光を放つことでゴライアスの目を潰す。

これでもう剣は8本使った。

残っているのもまた4本。

既に半分を切っている。

……だが、まだ勝ちを諦めている顔はしていない。

 

「アスフィさんも見たでしょう?これを倒せるのは少年君しか居ません」

 

「ですが!くっ、あの怪我ではいつ立ち上がれるか……!」

 

「立ち上がれますよ、彼なら。……そうでなければ、わざわざこんなお誂え向きな状況、起こるはずがありません」

 

「……?」

 

他の冒険者達はここに近付いてこない。

それが無意味だと悟っているからなのか、それともユキ達の邪魔になると考えたからなのか。

恐らく、ボールズの指示によるものだ。

この場を見る事のできる彼が、きっとそう指示してくれているに違いない。

実際、それにユキ達はかなり助けられている。

見るべきはゴライアスとお互いだけ、精神的にもかなり楽だ。

彼の指示は間違っていない。

 

「アスフィさん、これが終わったら色々とお話ししませんか?きっと私達、仲良くなれると思うんです♪」

 

「それは同感ですが今言うことではありませんよね!?私はこうして避けているだけで精一杯なんですが!?」

 

「アスフィさんって仕草とか歩き方とか凄く綺麗ですよね、私もすごく憧れてしまうというか……あ、ゴライアスは可動域が人間と同じなので背部中央辺りを飛ぶといいですよ?」

 

「そのアドバイスはもっと先に欲しかったんですが!?」

 

「その代わり、今度は私が集中的に狙われ始めちゃうんですけどね〜♪」

 

「それじゃあ意味無いじゃないですかぁぁ!!貴女に死なれたら困るんですよほんと!お願いですから無茶しないで下さい!私だって【勇者】から貴女の事を頼まれてるんですから!」

 

「えへへ、ごめんなさい♪」

 

苦労人を自称しているアスフィ・アル・アンドロメダ。

ヘルメスの反吐のでる様な行動、リオンの特攻癖、他にもギルドからの無茶な依頼等で日々ため息をついて尻拭いをしている彼女だが、やはり今日も今日とて彼女は苦労している。

 

ロキ・ファミリアが地上へ戻る直前にフィンから頼まれた『地上に帰る間までのユキ・アイゼンハートの無事』という依頼は、当初は依頼内容に対して報酬が些か高過ぎると思ったものだ。

まさかレベル4の冒険者を地上に送り届けるだけで深層のドロップアイテムを1つ貰えるなどと……いやいや、そんな上手い話があるのかと再度フィンに向けて訝しげに尋ねてみれば、実は本当にただの過保護から来ている依頼だという事というのが判明するのだから笑うしか無い。

これは久々に美味しい話が来た。

ついでにユキという人物と交友する事もできる、ヘルメスさえ近付けなければ。

そんなことを考えながらニッコニコで依頼を引き受けたと言うのに、今ではもうこのザマだ。やっぱりこの世に美味しいだけの話なんてありはしないという事なのか。

……というか、前に見た時から思っていたが、このユキという少女の戦い方は本当に心臓に悪い。

よくもまあこんな戦い方で今日まで生きてこれたというか、こうして見ているだけでも本当にハラハラしてしまう。

こんなもの実際、リュー・リオンの戦い方よりもずっと酷い。彼女がリューを慕っている雰囲気はあったが、わざわざそんな所を似なくてもいいというのに。

 

「すみません!遅くなりました!」

 

「リオン!もう、本当に遅いです!私では彼女の手綱は握れませんよ!」

 

「ええ!?私そんなに迷惑かける様なことしましたか!?」

 

「ユキ、よく分かりませんが反省して下さい!」

 

「リューさんまで酷いです!!」

 

そうして、ようやくリオンがベル達の元から戻ってくる。

アスフィの目線の端では、ユキの言った通りに本当にベル・クラネルが立ち上がっていた。すぐ側にはアスフィの主神であるヘルメスもまたおり、また己の主神が何かをしたのであろうことは容易に予想がついた。

……だが、どんな手を使ったのであろうとも今が好機な事に変わりはない。全てを叩き込むなら今、ベル・クラネルがあの一撃を放つまでの繋ぎのために。

 

「ユキ!あそこで手の余っている冒険者達に街中の剣をかき集めさせています!50は無理でも、10や20は集まる筈です!急いでください!」

 

「ほんとですか!?流っ石リューさんです♪行ってきてもいいですか!?」

 

「「むしろ行ってください!というかもう戻って来ないでください!!」」

 

「2人とも本当に酷いですよ!?私だって悲しい時には泣くんですからね!?」

 

ぐすん、と目の端に涙を浮かべながらユキは古びた剣が集められている方向へと走っていく。確かにそこには28もの剣があり、それだけの数があれば特大のアレを放てるだろう。

それで消滅させる事は無理でも……今正に大剣を片手に歩き始めたあの少年が何とかしてくれる筈。

ユキもまた彼に期待を込めて、自分のやるべき事に目を向けた。

 

「おう嬢ちゃん!集めといたぜ!大好きな使えない剣達をよ!」

 

「流石ですボールズさん!……大丈夫ですよ、使えない子なんてどこにも居ません。この子達を光らせて最高の働きをさせるのが、私の役割ですから!」

 

「うおっ……!」

 

ユキは28全ての剣に魔法を付与し始めた。

それだけの数が浮遊し始めるという光景にボールズを含めた者達が驚くが、真に驚愕すべきはここからだ。7本の剣が刃を中心に向けた円形を作り出し、その集団が4つ重なる様にしてユキの前に並んでいく。

こうして見ると砲台の様にも見えるそれは、各々に凄まじい速度で回転し始め、その中心に光の球体達を生み出し始めた。

そんな異様な光景は、きっとこの場にいるどんな冒険者でさえも見た事がないだろう。

 

……一方で、リューの方も長文の詠唱をし始め、異なる場所でもまた命やヴェルフが何かの用意をし始めていた。

ここが勝負所だ。

ベル・クラネルもまた一本の大剣を片手に立ち上がり、目を閉じながら身体に光を溜めている。

あれを放てる瞬間まで、この攻撃は絶やさない。

 

『ーー来れ さすらう風 流浪の旅人 空を渡り荒野を駆け 何者よりも疾く走れ 星屑の光を宿し 敵を討て 【ルミノス・ウィンド】!』

 

リューの魔法が放たれる。

複数の特大の風の弾丸。

普通の階層主ならば致命的な打撃を受けるほどの魔力の塊。

しかし、今のゴライアスはそれでも止まらない。

明確な敵と判断したベルを見つけて、傷もお構いなく強引に突き進んでいく。

 

……故に、今度は命は隠し手を使いそれを止める。

 

『天より降り 地を統べよーー神武闘征【フツノミタマ】!!』

 

止まらないゴライアスに向けて、重量の檻が降り落ちる。

あのゴライアスが膝を突く程の強力な力、それはきっとレベル2の冒険者が行使する力としては最強クラスに位置するものだろう。

……だが、やはりそれでも止まらない。

ここまでその全てを力のみで突破して来たその化け物は、その程度の檻では抑え切る事が出来ない。

 

「お前等ァ!死にたくなかったらどけぇぇええ!!」

 

「「「!?」」」

 

そして、ヴェルフが間に合った。

自らの信念と仲間を秤に掛ける事をやめ、己の力を使う事を決意した彼が、この瞬間に間に合った。

もしかしなくともそれは、必然の事であったのだろう。

 

「うおぉぉおお!!火月ぃぃい!!」

 

振り下ろされた大剣型の魔剣から、街一つを飲み込むほどの凄まじい業火が放たれる。

クロッゾの魔剣。

魔法を超えた規格外の力。

かつてエルフ達を屠ったその力が、今誰かを守る為に振るわれる。

ゴライアスの皮膚が焼け落ちる。

肉が焦げていく。

顔面を覆う表情が溶けていく。

 

……そして、この時を待っていた。

ゴライアスがダメージを受け、動きが鈍り、確実に当てる事が出来るようになるこの瞬間を。

 

「さぁ!魂込めて産み落とされた、可愛く強い子供達の、最後の最期の大花火!使えない子なんて何処にもいません!彼等は英雄の一助となって、終わりの時まで人々を守りぬくんですから!……行きますよ!

 

ーー剣光突破・連装/ソード・ウェーブ・プロミネンス!!」

 

持ち主に捨てられた物。

持ち主を守れなかった物。

持ち主を得られなかった物。

倉庫の隅や店の端で、もう決して光を浴びる筈の無かった物達が、自ら光を発して輝き始める。

 

人々を守る為。

自らの役割を果たす為。

己の存在価値を示す為。

剣達はその質とは圧倒的に掛け離れた凄まじい化け物を、本気で打ち倒そうと輝いている。

大物殺しは決して英雄だけの特権じゃ無い。

英雄が武器を持つならば、武器だって大物殺しを成し遂げる。

たとえ殺し切る事が出来なくとも、あれほどの化け物……深傷を負わす事が出来るだけで大勝利だ。

 

『カッ……がァァアァァア!!?!?!?』

 

 

「っ、まさかこれ程とは!」

 

「これが、あんな剣を大量に使うだけで……!?」

 

「……は、はは。魔剣と仕組みは似てるが、あれを魔剣と一緒にしたくは無ぇなぁ」

 

放たれた光の光線は凄まじい熱量を持ってゴライアスの右上半身を焼き始める。

今の状態では完全に避ける事など出来ようの無い速度で迫り来たそれを、ゴライアスはなんとか受け止める場所をズラして、踏み止まった。

魔石のある場所への直撃だけは回避できた。

光線も今はまだ体表を焼く程度の物。

その見た目とは裏腹の威力に、ゴライアスは一瞬余裕の表情を見せた。

……だが、28もの剣の命を費やしたこの一撃が、たったそれだけで終わる筈がない。

 

最初に一度目の波が伝わると、その硬い皮膚と肉を抉り始め、光線の太さが増していく。

そして二度目の波が伝わると、光線は勢いを増し始め、遂にゴライアスの身体を突き破る。

加えて三度目の波が伝わると、ゴライアスの肩から腕にかけてをその熱線で溶かし始めた。

最後に四度目の波が伝わると、その奥の壁面すらも焼きながら大穴を空け始め、ゴライアスは必死になってその場から逃げようとし、遂に得意の再生すらも全く進まなくなってしまう。

 

酷く焼け焦げた上半身の大穴の淵には、今も赤い熱を持って周辺の細胞を焼こうとする炭と化した肉片が存在している。

ゴライアスはそれまで聞いたことのないような苦痛の声を上げ、ベルの事など忘れて必死になって傷痕に残った赤熱を振り払うことに専念し始めていた。

 

……だからこそ、ゴライアスは気付く事が出来なかった。

溶け始めたその大穴から、密かに自らの魔石が見え始め、弱点を周囲に晒してしまっていると言うことに。

 

「……これで私達のお仕事はおしまいです。あとは少年君、任せましたよ」

 

膝を突き、肩で息をしているユキはそう言って鐘の音を鳴らす少年の方に目を向ける。

 

己を白く染める程の凄まじい力を纏い、真っ黒な大剣を持って立つベル・クラネル。彼は目を開けて一度苦しむゴライアスの方を向くと、一気にその距離を縮め始めた。

走り、振り被り、大穴から見えている魔石を狙って振り下ろす。

 

……たったそれだけ、それだけだ。

 

たったそれだけの行動であったにも関わらず、先ほどユキが放った光に匹敵するほどの凄まじい光撃が発生し、消し飛ばした。

 

ゴライアスの中央部。

頭と足だけを残し、魔石のある体部分だけを。

その余波と共に魔石は小さく粉々になって飛び散り、世界を光が照らしていく。

 

そうしてベル・クラネルはこの日、本当に……英雄となる一歩を、歩み始めた。

 

「……これはもう何回も言いますけど。やっぱりこれから大変ですよ、少年君」

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