とあるエルフの里から取り寄せた睡眠促進なら効果を持つ茶葉。
本来は不眠に悩まされていたリヴェリアが個人的に取り寄せた物だったが、これが思いの外効果が強い事が発覚し、当時暴れ盛りであったアイズに投与した事がある。
なお、現在も度々リヴェリアやフィンが使用している模様。
sideリヴェリア
あの衝撃の告白から数時間が経った。
黒髪黒瞳の目の保養になる様な純正の美少女。
中背長髪で、こんな時期にも関わらず真っ白なコートを着て身体のラインが分からないとは言え、スレンダーなその体型と上品な仕草、口調から、一度はどこぞの令嬢ではないのかと最初は思ったものだ。
……本当に、心の底から性別を疑う要素など微塵も存在しなかった。
むしろあの女好きのロキが進んでナンパしようとしていたし、鼻の利くベートでさえも彼が男性だと気付けなかったのだから、彼が余程の筋金入りであるということは疑う余地もない。
きっと彼からのカミングアウトが無ければ、全く気づくことなく水浴びの時間までその状態が続いていたことだろう。
ロキはその事実を聞いて驚愕と落胆と疑問と好奇心が入り混ざった複雑な顔をしていたし、レフィーヤとベートはアイズ関連なのかキッと彼女のことを睨みつけていた。
……ああ、違う、"彼"だったか。
ちなみに肝心のアイズは驚いた様子はあったものの、特に変わった様子は無し。
特に面白かったのはアマゾネスの姉妹の反応だろうか。
強い男性に惹かれる傾向のあるアマゾネスの女性から見れば、あまりにも女性らしい男性という存在は衝撃的なものだったのかもしれない。
特にティオネがとても困惑していたのを覚えている。
あのガレスやフィンでさえも一瞬呆けていたほどなのだから、皆のこの様な反応は仕方のないことだ。
……一応私は、
まあ確かに、驚きはした。
こんなにも女性らしい彼女が、実は男性だったという事実に自分の中の価値観が疑わしくもなったりした。
が、それはそれとして彼への印象が特別大きく変わったわけではない。
むしろその事実を知って、何処か不思議で未だに分からないことだらけの彼との間にあった壁が一枚少なくなったようにも感じていた。
ところでそんな彼は今、私の目の前で机を挟んで眠り込んでしまっている。幸せそうに眠っている様で何よりだ、眠らせたのは私だが。
「……これが男性、なぁ」
寝息を立てている彼の顔に自分の顔を近付けて、静かに彼の容姿を確認する。
眠る前に恩恵の確認をしておこうという話になったのだが、何故か彼は私にも自分のステータスを見て欲しいと言ってきた。
しかしロキがその前に水浴びがしたいと言い出したこともあり、こうして2人で話をしながら待っていたのだが……どうにも彼は眠そうに何度も目を擦り始めるのだから仕方がない。
一応『別に眠ってしまっても構わない』とは伝えたものの、それでも『付き合って下さっているリヴェリアさんを放って、私だけ眠るわけにはいきません』等と頑張り始めたので、眠気を誘う茶葉を淹れてやったのだ。
スヤスヤとあどけない表情で眠る彼の寝顔はとても微笑ましい。
今日この街に着いたばかりで、見知らぬ街を一人で歩いていたというのだから、疲れも溜まっていたのだろう。
酒の入ったバカ共を相手にまともに話をしようとしていたのも、疲れの原因の1つだったのかもしれない。
(あの神アストレアの眷属なだけあって、生真面目で、誠実で、優しさに溢れた少女……いや、少年だ)
思い起こされるのはかつての勇敢な少女達の姿。
きっと彼の心の内にも彼女達と同じ正義の心は宿っているのだろう。
そんな事を思い出しながら彼を見れば、やはりなんとなくその雰囲気が垣間見えた気がした。
懐かしさと嬉しさ、そして少しの寂寥感がこの胸を過ぎる。
色々と分からないところもあるが、それでも私は彼に好感を持てている。
少々押しの弱い部分はあるが、誰に対してもしっかりと相手のことを敬うことができ、基本的に第一印象が最悪のベート相手でさえも、少しの不快感も出すことなく話していたくらいだ。
まだ出会って数時間と経っていないが、そんな風に相手をここまで信用させることができるのは一重に彼の人柄ゆえだろう。
(……心配事は、それこそ彼の恩恵くらいか)
そしてきっとこれに関して嫌な予感がしているのは自分だけではない。
ダンジョンのないオラリオの外で僅か3年でレベル3にまで到達した事実はもちろん、あの眷属愛に満ちた女神アストレアが探し物のためとは言え、彼をこのオラリオへ一人で向かわせたということからも、何かしらの問題がそこにあるということを確信させる。
神の恩恵に書かれたものがただのスキルであったり、魔法だったりするならば問題はない。
ただ、恩恵は時にその者の人生や生き方に由来するスキルを作成し、あまり好ましくない効果を発揮することもある。
それが原因となってオラリオやファミリアから追放された冒険者だって、過去には何人も居た。
『ステータスを見れば分かる』
女神アストレアの手紙に書かれていたというその一文は、そういったことを考えると、あまりにも重い一言だった。
「ん?ありゃ、ユキたん寝てまったんかいな」
「ロキか。まあ、あまりにも眠たそうにしていたのでな、強制的に眠らせた。この茶葉を他人に使うのはアイズ以来だな」
「隙を見れば夜でもダンジョンに行こうとするアイズたんを無理矢理眠らせて、怪我が治るまでベッドに縛り付けとったなぁ。懐かしいわ。ま、恩恵の確認くらいチャチャっと終わるし、別にええやろ」
「私にまで自身のステータスを見て欲しいというのはよく分からないがな……」
そう言って風呂上がりのロキと共にすっかり眠ってしまった彼を、私は空き部屋へと運んでいく。
他者に肌を触れさせたくないエルフの習性は自身にも残っているはずだが、不思議と不快感はそこには無い。
まあ勝手に眠らせたのはこっちなのだから、そこで不快感どうこう言うのは最低過ぎるとは思うので、そこは素直に良かったと思う。
「……さて、ぶっちゃけあんまり嬉しくない確認タイムや。リヴェリア、防護魔法かけてーや」
「なに?それは一体何の意味がある……?」
「アストレアが手紙で言うとったんや、恩恵を確認する時は気をつけた方がええってな。何を気をつけたらええんかは分からんかったから、とりあえずって話や」
「……ヴェール・ブレスで構わないか?」
「十分やな、頼むわ」
募る不安感を感じながら防護魔法第二位階ヴェール・ブレスを自身とロキに対して展開する。ダンジョンの外でこの魔法を使用したことなど今まであっただろうか……?
どちらにしてもホーム内で魔法を使うこと自体が珍しい経験である。
果たしてこれから、一体なにが起きるというのか。
「ほな、恩恵を表示させるで。覚悟はええな、リヴェリア?」
「覚悟も何も、何が起きるか分からないのだからしようが無いだろう」
「ま、そらそうやな。開放するで〜」
ケラケラと笑いながらロキは指に刺した針を使い、自身の血液を彼の背中へと垂らしていく。
神の血は拒絶されることなく浸透していき、既に改宗の準備がなされていた彼の恩恵はアストレア様のものからロキのものへと書き換えられ始めた。
そうして改宗が終わり、ステータスが表示されるその瞬間……異変は起きた。
「……ッ!ロキ!!」
「落ち着きぃや!これくらいならなんともあらへん!……なんやこれ、何がどうなったらこんなことになるんや」
ステータスが表示された瞬間、魔法に精通している者ならば誰であろうと感じ取ることができるほどの不快な感覚が部屋中に満たされる。
エルフの自分でさえも防護魔法をかけた上でこれだけの不快感を感じるのだから、神であるロキが素で受けていたら嘔吐や気絶などの実害にまで発展していただろう。
女神アストレアが何らかの理由で急いで手紙を書いていたというのは聞いていたが、こんなもの顔の知っているロキで無ければテロ行為だと捉えられても仕方のないレベルの問題だ。
主神に害を与えられている時点で笑い事では済まされない。
しかし自分よりも遥かに不快に感じているであろう当のロキは、目を薄く開いて真剣な顔をしながらステータスの更新を続けている。
普段は側にいる自分が恥ずかしくなるほどチャランポランしている神であるが、こういう所は素直に尊敬することができる。
そうしてロキがステータスの更新と写しを終えると同時に、部屋中を満たしていた不快感が一瞬で消失した。
まるで深海に閉じ込められて居たかのような息苦しさから解放され、私も思わず膝を突く。
「っぷはぁっ!あーもうしんどっ!!ほんまどないなっとんねんこれ!こんなもんただの子供が背負う様なもんちゃうぞ!!」
「……ロキ、一体なんなのだこれは。感覚的には呪詛の類に近いが、これほどのものは聞いたことが無いぞ」
魔法と同じく詠唱によって発動し、肉体や精神に致命的なデメリットを引き起こすものだ。防御と治療には専用の魔道具が必要であり、「耐異常」の発展アビリティでも防ぐことはできない。
強力な反面、様々な罰則を科せられるこの力だが、しかしこれはあくまで1個人が使用する力。いくら強力なものでも、被者以外にこれほどまで影響を及ぼすものなど存在する筈がない。
「まあ呪詛の類なことに間違いはないわなぁ、どっちかと言うと神罰に近いんかもしれんけど」
「神罰だと?あの英雄譚等によくある神からの罰のことか?なぜそんなものを彼が受けている?」
「せやから神罰に近いモン言うとるやん、本物やないで?そもそも神罰の本質は、神の力で行使する『
「……つまり、彼は神に近い何者かから呪詛をかけられていると?」
「それも有り得んやろなぁ、これは神の恩恵そのものから発生しとる訳やし。その辺の有象無象の神のならまだしも、アストレアくらい力のある神の血を穢すことができる奴なんかそうそうおらへん」
「ならば一体どういうことなんだ。神の力を使った呪詛に罹っているにも関わらず、他の神からかけられている訳でもない。まさか自然発生したなんてことはないだろう」
「……いや、ぶっちゃけその線が一番濃いわ」
「なに?」
「神の恩恵が汚染されとるんは事実や、けどアストレアの恩恵を穢せるほどの奴はそうそうおらへん。やったら自ら自然に穢れたっちゅー方がよっぽど納得できる。そもそも神の恩恵は眷属自身の経験と精神、それに外からの外的要因を受けて変化するもんや。恩恵が変質するほどの刺激を受けたんなら、可能性はある」
「恩恵という神の力が変質し、神の力による呪詛へと変わった、ということか。確かに可能性はあるだろうが、恩恵がここまで変質する出来事など、それこそ他の神に呪詛を掛けられるよりも可能性の低いものだと思うのだが……」
「確かに普通ならそうやろうな。けどなリヴェリア、世の中には例外っちゅうもんが常に存在するんやで?」
そう言って彼のステータスの書かれた紙を私へと手渡すロキ。
他人のステータスを見るというのは基本的にマナー違反とされるが、彼は何故か自分にも確認して欲しいと言っていた。
あまり気は進まないが、渋々と私はそれに目を通す。
そして次の瞬間、私は頭を蹴り飛ばされたような強い衝撃をその身に受けた。
ユキ・アイゼンハート
Lv.3
力 :F312
耐久:G225
器用:E410
敏捷:D523
魔力:D545
発展アビリティ : 剣士H、耐異常H
《魔法》
【フォスフォロス】
・
・光属性
・詠唱式「
《スキル》
【
・守る対象が多いほど全能力に超高補正。
・死に近いほど効果上昇。
・上記の条件下において早熟する。
【闍ア髮?「ォ鬘俶悍】
・謔ェ諤ァ繧呈戟縺、閠?→縺ョ謌ヲ髣倥↓縺翫¢繧九?∝?閭ス蜉帙?雜?ォ倩」懈ュ」
・ 遘√′驕?縺悶°繧
「ロキ、これは……」
「もしも仮に、や。恩恵に影響を与えるほどの強力な外的要因を受けながら、一つ目のスキルで極限まで急激な成長と変化を行なっていたとすれば……恩恵がこのレベルで変質してまう可能性も、十分にあるんやないやろか?」
そんなロキの言葉に、私は暫くの間反応することができなかった。
ユキ・アイゼンハート
Lv.3
力 :F312
耐久:G225
器用:E410
敏捷:D523
魔力:D545
発展アビリティ : 剣士H、耐異常H
《魔法》
【フォスフォロス】
・付与魔法(エンチャント)
・光属性
・詠唱式「救いの祈りを(ホーリー)」
《スキル》
【愛想守護(ラストガーディアン)】
・守る対象が多いほど全能力に超高補正。
・死に近いほど効果上昇。
・上記の条件下において早熟する。
【闍ア髮?「ォ鬘俶悍】
・謔ェ諤ァ繧呈戟縺、閠?→縺ョ謌ヲ髣倥↓縺翫¢繧九?∝?閭ス蜉帙?雜?ォ倩」懈ュ」
・ 遘√′驕?縺悶°繧