白海染まれ   作:ねをんゆう

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64.後日談

カーリー・ファミリアとの抗争から2日。

街は平穏を取り戻していた。

 

ティオネとティオナは無事に戻り、ユキとレフィーヤもまた大怪我も無く帰ってきた。

何人か怪我人は当然居たものの、食人花がこの街に現れた理由も判明。

何もかもで負けたカーリー・ファミリアもまた、今は大人しくなっている。

 

「よ〜やく事後処理終わったわ〜」

 

「すまんロキ、殆ど押しつけてしまって……」

 

「ハッ、オラリオ最大派閥がまるでギルドの使い走りの様じゃのう」

 

「あん?ユキたんここに連れて来たろかクソチビ」

 

「そ、それだけはやめんか!アレのせいで何人のアマゾネスが剣を振れなくなったと思っとる!妾も流石に3度目は勘弁じゃ!」

 

「そ、そこまでなのか……」

 

「ま、別に今のユキたんなら問題無いんやけどなぁ」

 

そんな風にニョルズとカーリー、そしてロキの三神が机を囲みながら本事件について話している横で、各々のファミリアの者達が騒がしくしている。

ロキがチラと横目でそこを見ると、いつも通りの柔らかな笑顔でリヴェリアに引っ付いているユキと、そんなユキを恐れて壁に隠れながら覗いている一部のアマゾネス達。

具体的にはレフィーヤ救出に向かったクレアによってボコボコにされたアマゾネス達。

アルガナやバーチェを圧倒する程の敵という事を知っていたものの立ち向かったが、やはり手も足も出ない所か、何故か機嫌の悪いクレアの顔を見て本気で恐怖を感じた彼女達だ。その後も背中から恐ろしいオーラをこれでもかと出したクレアに片っ端から殴られ続けたのだから、こうなってしまったのも無理もない。

 

「もうテルスキュラは終わりじゃぁぁ〜、妾の楽園が色恋地獄になってしまった〜……」

 

「まだユキたんにボコボコにされた奴等が居るやろ、あれは別に色恋沙汰やないで?」

 

「……剣を持てないって言ったじゃろ」

 

「言うてもそれだけやないんか?」

 

「……戦闘を見るだけで吐く様になったわ」

 

「「は」」

 

「あの女子に向けられた不快感が頭にこびり付いたんじゃろ、まさかあんな副作用があるとは思わなんだ……」

 

「そ、それはウチも知らんかったわ……マジかユキたん……」

 

「今は共通語の勉強をさせておる……戦闘が出来んからと殺してしまえば、またあの女子に殺されかねんしのぅ……」

 

ユキのあの不快感に備えられた副作用。

それには少なくともカーリーもまた影響されている様に見える。

地上に降り人間の体になったとは言え、不変の神に対してここまで影響するというのは明らかに普通の事ではない。

その原因が原因なだけに理由は分かるのだが、知れば知るほどにその力があまりに強大過ぎる事をロキは考えてしまう。

果たして、そんな大きな力を普通の人間が1人で抱え込めるだろうか?

ウラノスがあれほど驚愕した理由もなんとなく分かって来た。

 

「なぁロキよ、あの女子は本当に何なんじゃ。あれは神罰の類じゃろうて」

 

「神罰?神がこの地に降りて来たこの時代にか?そんな力の使い方をすれば俺達だって気付くだろ」

 

「……はぁ。あんまこれを理由にしたくはないんやけど、ユキたんは数ヶ月前にウチの所に来たばっかりの新人さんなんや」

 

「なに、そうだったのか」

 

「それにしては他の団員と、具体的には九魔姫と仲が良いようだが……」

 

「それはまあ、別にええねん」

 

この2日の間の記憶が全く無く、目を覚ましてから何か不安を解消するかの様にリヴェリアにべったりとくっ付いているユキ。

そして一方でそんなユキを受け入れ、どころか何処か普段よりも一層ユキの事を愛でているリヴェリア。彼女もまた不安を解消するかの様に必死な様子が見て取れる。

 

「……ユキたんはな、元はアストレアと居ったんや」

 

「なっ、本当か!?」

 

「アストレア……あぁ、聞いた事があるのぅ。確か暗黒期に活躍した正義の女神の名前じゃな」

 

「せや、どうもアストレアと一緒にオラリオの外で旅をしとったらしくてな。そのどっかであの神罰を拾ってきたみたいなんや」

 

「なるほど、アストレアもまたトラブルに巻き込まれやすい体質だからな……」

 

「神罰などそう簡単に拾って来れるものでもないのだがのう……」

 

ユキがアストレアの眷属であったという事は、ユキが正義を求められる可能性があるのでなるべく話すべきではない。

それを分かっていてもなお、ロキはここで2人にこの話をした。

それは別に『オラリオの神々も既に知っているから』だとか、『オラリオの外の彼等ならそんな危険性が少ないから』とか、そういう理由では決して無い。

 

「そんでまあ、聞きたいんはその事なんよ。カーリーとニョルズはオラリオの外で活動しとるやろ?ユキたんの事とか、アストレアの事とか、なんか知っとる事があれば教えてくれんか?」

 

ロキの狙いはそれだった。

2人が旅をしていたのならば、きっと彼等の拠点辺りに来ていたとしてもおかしくはない。そうでなくとも、何かしら話が伝わって来ている可能性もあるだろう。

ロキはそれが知りたかった。

 

「そう言われてものぅ、妾は国の外に出る事自体がそうそう無いし」

 

「う〜む……そうだな。俺も彼女とアストレアについての話は知らないが、もしかすれば関係のありそうな話なら聞いた事はある」

 

「なに!ほんまか!?」

 

「ああ、これは街に来た旅人に聞いた話なんだが……どうもある村でモンスターが大量発生したらしいんだ。それもその周囲ではあまり見られない様な、歪な形をしたモンスター達」

 

「……もうなんや嫌な予感して来たわ」

 

「関わってそうじゃなぁ、あやつ」

 

というか、そうでもなければオラリオの外でレベルを上げるなど不可能に近い。

レベル2→3についてはスキルと例の事件の事もあって理由は分かるが、それでもレベル1→2までを数年で上げているのがユキだ。

確実に何度か死戦を越えているだろう。

 

「結論から言えば、どうもその周辺にあった魔獣の封印が解けていたらしくてな。本来ならあと数十年は大丈夫だった筈だからか、出元を探るのもオラリオに救援を要請するのも遅れて、初動を完全に失敗したらしいんだ」

 

「そこであの女子が登場か」

 

「いやいや、言うてもその時のユキたんはまだレベル1とかやないんか?流石に無理やろ」

 

「封印の元となった神剣を使って倒したらしい。神剣は粉々に砕け散って、それなりに被害も出たらしいが、オラリオに救援要請を出す前に収束したんだとか」

 

「し、神剣なぁ……なるほど、その手があったかぁ……それなら当時のユキたんでもイケるかもしれんなぁ……」

 

「末恐ろしいな、あやつは」

 

クレアは剣以外の武器も爆発させていたが、それでもユキの魔法は剣と相性が良い……というか、剣ありきの能力だ。

クレアの爆破でさえも剣の方が威力は遥かに大きかった。

その魔法を神の力が宿った神剣を用いて使用したとなれば、一体どうなるのだろうか。

基本的に封印に用いられる神具はその魔獣に対して効果的な物である事を考えれば、魔獣を倒したと言うのも強ち嘘では無いのだろう。

勿論、他に協力者は居ただろうが。

 

「そもそも、あやつはどこの生まれなんじゃ?容姿だけなら極東の生まれの様に見えるが」

 

「あー、それもよう分からんのよなぁ。辺境の村で育った言うとるけど、どうもユキたんのママは見た目は真っ白やったらしいし」

 

「白い、女……?」

 

「ん?なんや知っとるんか、カーリー」

 

そうして反応したのは、今度はカーリーの方だった。

どうもユキではなく、ユキの母親の方に心当たりがあるらしい。

 

「ふむ……妾の国には定期的に商人が出入りしているのじゃがな。昔ティオナの為に英雄譚を取り寄せた際に、そんな話を聞いた事がある。確か何処ぞの小国の話よ」

 

「そこにユキたんの母親が出て来るんか?」

 

「さぁのう……まあ話の内容としては簡単じゃ。ある時、赤子連れの白い女がその国の王の側室となった。本妻もまた同じ年頃の女子を産んでおったのじゃが、そこまではまあいい。問題はその男児が、その地に住う神々に祝福される程の素質に満ちていた事じゃ。一方で女児の方は平凡で、日に日に民の興味と期待は男児に集まっていく。本妻はそれ以上の子を産む事も出来ず、たとえ冗談だとしても後継者候補にその男児の名が上がり始めたりもした」

 

「……凄いな、この時点で嫌な予感しかしない」

 

「うむ。加えて、王はその病弱な側室の事をいたく気にしていた様でな。本妻とは異なる様な明らかな贔屓もあったらしい。嫉妬に染まった本妻は遂に暗殺を依頼し、側妻とその子を消そうと企んだのじゃ」

 

「ちょっと王様戦犯過ぎんか?両方を愛せんなら側室なんて取るなや」

 

「子と母は全てを捨てて国から逃げた。その後の行方は分からぬが、後に悪事がバレた本妻もまた、王の放った兵から子を連れて国を抜ける事になったという。結局、その国からは妻も子供も消え去った。ただそれだけの安い話よ」

 

「……何か、救いも何も無い話だな。誰も幸せになれていない」

 

「物語としては三流や。大して面白くも無ければ、大してスッキリする話でも無い。強いて言うなら王様へのヘイトが集まるだけやな」

 

「妾もそう思ったが、まあこの時代の外の世界の出来事などせいぜいがその程度。それに、よくよく考えてみればその側妻の子は男。あの女子には関係なさそうな話じゃな」

 

「白い女ってのが珍しいのは確かなんだけどな。それこそ、そんな容姿は男女含めてもオラリオにすら滅多に居ないだろう?」

 

「………せやな、うちも多分2人くらいしか知らんわ」

 

そう言う2人だが、ロキだけはユキの性別が本当は男性だと言う事を知っている。

ティオナが幼い頃に聞いた最近の話となれば、話の伝わる速さも考えれば、それはユキの話だと考えてもそうおかしくは無いだろう。

ユキの故郷がその小国である可能性は十分にある。

 

だとすれば、小国とは言えユキは一国の王となっていた可能性もあるという事だろうか?そうでなくとも、相応に高い地位を得られていたかもしれない。

それならエルフの王族であるリヴェリアとも身分的に上手いこと釣り合いが取れる……という程では無いだろうが、少なくとも今よりは周囲に受け入れられ易くなるかもしれない。2人の将来的な問題の解消にも少しは役立つ話になる可能性は十分にある。

 

(とは言え、ユキたんもリヴェリアもそんな事は望まへんやろなぁ。今更ユキたんにそない面倒な事に関わらせたくも無いし、これはウチの中にだけ秘めとくべき話やろつな)

 

なにより、将来は2人で旅をしたいと言っている彼女達だ。その夢を邪魔する要因など、リヴェリアの故郷の事だけで十分だろう。

これ以上2人の負担になる要因を増やすべきでは無い。

 

「ま、なんか分かったらまた教えてーや。お礼くらいはするで」

 

「ならばこの賠償金の一部を……!」

 

「それは相応の情報を持って来てから言うんやな」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ……」

 

オラリオの外の情報源は非常に重要だ。

その伝が出来たというだけでも、ロキにとって大きな事だった。

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