オラリオへと帰るその日。
ユキは自身の宿の部屋の中で荷物の整頓などをしていた。
集合時間まであと少しあるが、忘れ物が無い事を確認した後も、部屋の掃除をしつつ時間を潰す。
何日もお世話になった部屋だ、汚いままにして帰るというのも違うだろう。綺麗にしたところで別にお礼を言われる訳でも無いが、それでもこれくらいは最低限の礼儀だ。
特に、この部屋はどうやらカーリー・ファミリアとの抗争で、窓が割れたりしてしまった"らしい"ということもあるのだし、お礼とお詫びはいくらしても余分という事は無い筈。
「ユキ」
「あ、ティオネさん」
そんな風に徹底的な掃除に移行し始めたユキの元に、1人の客人が訪れた。それは珍しくアイズでもリヴェリアでもレフィーヤでもなく、アマゾネス姉妹の姉の方こと、ティオネ・ヒリュテ。
聞いた話によると、今回の騒動で彼女も色々と大変だったということだが、ユキの記憶では街の中でアルガナというアマゾネスと戦っていた事までしか記憶に無い。
だが、こうして見る限りではその表情は明るいものだった。
何かに悩んでいたり悲しんでいたりする様にも見えない。
「うん、もう元気そうね。怪我は大丈夫なの?」
「はい、怪我をしていた自覚も無いので不思議な感じではありますが、もうなんともありませんよ。ティオネさんも元気そうでなによりです」
「ふふ、あれくらいの怪我、唾付けとけば治るっての。それに、団長にそう何度も情けない所を見せられないものね」
「なるほど……やっぱりかっこいいですね、ティオネさんは」
「そう?けど本当はもっとお淑やかな女になりたいのよねぇ……ユキみたいな」
「あ、あはは……」
そう言ってティオネはユキが綺麗に整えたベッドの上に躊躇無く腰を下ろす。
特に悪気は無い。
ユキも別に気にはしないし、それに続く様にして自らもその横に腰を下ろす。逆にそんな風に何の気なく隣に腰を下ろしてくるユキを見て、戸惑ったのはティオネの方だろう。
距離感など少しも気にしていないユキを見れば、むしろ性別を気にし過ぎているのは自分の方かと思わされてしまう。
逆に言えば無防備過ぎるとも言えるのだが……
「ねぇユキ?ユキのもう一つの人格って、どんな子なの?そのクレアって言う子のこと」
「!……クレアの事が聞きたいんですか?」
「うん、そう。ほら、私がアルガナと争ってた時に間に割って入って来たでしょう?だからちょっと気になってね」
「なるほど」
「そ・れ・と…………アリシア?扉に耳立てるくらい気になるならアンタも大人しく入ってきなさい」
『えっあっ……ば、ばれてっ!?痛いっ!?』
「アリシアさん……?」
ティオネのそんな指摘に、扉の外からドタバタと戸惑う声と尻餅を付くような音が聞こえてくる。どうやらティオネが部屋に入ったのを見て、アリシアが扉に聞き耳を立てていたらしい。
まさかバレているとは露ほども思っていなかった彼女は、ゆっくりと扉を開けると、ひょこりと覗き込むようにして頭を出す。
なんとも愛らしく見えるそんな彼女を部屋に入れてもいいかティオネは聞くが、当然ユキが断る筈もない。
「アリシアさんも、こちらにどうぞ。私は椅子に座りますから」
「は、はい……」
アリシアの思いや葛藤など全く知らないユキは何の邪気もなく彼女を部屋に招き入れる。そんな事にすらも何処か申し訳なさそうに歩いてくる彼女だが、今度はティオネが捉えて抑えた。
今日まであった事を僅かしか聞かされていないユキにとっては、当然ながらこの2人の意図はよく分からない。
「えっと、アリシアさんもクレアの事が聞きたいんですか?」
「えっ、あっ……そ、そうですね……」
「?もしかして私が眠っている間に、クレアが何か失礼なことでもしましたか?」
「そ、そんなことは!ただその、私の意思が弱かったと言うか、考え方が甘かったというか、情けなかったといか、自分の醜さに情けなくなったというか……」
「……?」
「ま、つまり興味を持ったってだけの話よ。聞かせてあげられるかしら?ユキ」
「ええ、構いませんよ。聞きたいというのでしたら、私は拒んだりしませんから」
様々な思いが渦巻いてあまり上手く言葉を発する事の出来ないアリシアにも、ユキは笑顔で了承した。
自身の深い部分に関わる事だ。
そうでなくともユキからしてみれば、アリシアは偶に会う程度の仲の筈だ。にも関わらず、こんな聞きたい理由も態度もはっきりしていないアリシアに、ユキはそれを教えてくれるのだという。
そんなユキの姿を見る度に、こうして接してみる度に、アリシアの胸には痛みが走るのだ。
自分の愚かさを突き付けられているようで。
「さて、どうしましょう。どんな事を知りたいとかありますか?時間もそうありませんし、質問に答えていく形にしたいと思うのですが」
「それなら、私とアリシアが交互に質問していきましょうか。……あ、別にユキの事を聞いてもいいのよね?」
「それはもう、私の事なんかで知りたいという事があるのでしたら」
きっとそれは、アリシアと同じように、ティオネ自身もユキの事を知りたいと思ったからこその言葉だった。
ティオネもまた知りたいのだ。
クレアが攻撃する対象に何故自分が含まれないのか。
そして、ユキからすれば自分がどう見えているのかを。
「それじゃあ……まず、クレアはユキとどういう関係なの?ただのもう一つの人格、とは違うわよね?」
「そうですね、クレアは元々はこの世界に実在していた人物ですよ。私が旅の最中で出会った少女でして、友人と言うか、親友と言うか、姉というか……本当に、私にとってはとても大切な人でした」
「現実に存在していた……?でも、それならどうして今はユキの中に居るのですか?それも人格だけの様な、不自然な形で」
「ある事件がきっかけで、暴走したクレアをどうしても私の中に封じ込める必要があったんです。長い話になるので省きますが、その時にクレアは酷い負の力に取り憑かれていましたので、今のクレアが元の性格よりも少しだけ乱暴になっているのはそのせいですね」
「少し、だけ……?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!負の力というものが何かは分かりませんが……ユキはそんなものを抱えていて大丈夫なのですか!?クレアさんもまた暴走していたのですよね!?」
「ええ、そうですね。だから最初はとても大変でした。全身の苦痛に身体の方が耐え切れず五感が閉鎖してしまったり、精神的な苦痛に自我が消えてしまいそうになるのを、自傷行為で必死に繋ぎ止めようとしたり。1月程まともに食事や睡眠も出来ず、それはもうアストレア様や町の皆様に大変なご迷惑をおかけしてしまいました」
「「……………」」
笑顔を絶やす事なくそんな風に話すユキを、2人は当然何か異常なものを見る様な目で見ていた。
身体が自動的に感覚器官をシャットダウンしてしまう程の苦痛とは何なのだろうか。自身の内外から溢れる苦痛を、自傷しながらでも繋ぎ止め様とする事の出来る精神力とは何なのだろうか。
しかもそれを一月?
想像するだけでも顔が青くなる。
「本当のクレアは、もっと優しい人なんですよ?それにクレアはとてもカッコ良かったですし。男性なのに女性の様な私とは正反対だと、周りからはよく言われていました」
「あ、そこちゃんと自覚はあったのね……」
「そ、それよりも私は今のユキの状態の方が気になるのですが……!ま、まさか今でも苦しかったりとか!」
「いえいえ、今はそんなでもありませんよ?6割くらいはクレアが押さえ込んでくれていますし、残りもアビリティの対異常や魔法やスキルの副作用などで軽減されていますから。クレアが表に出て来ている時は私が逆に引き受ける事で互いの負担を減らしたりはしているんですけど、やっぱりクレアの方が負担している割合は多いですね」
「完全に無いとは、言わないのですね……」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。まさかユキが激戦の後に大抵気絶してるのって……」
「私が裏に行くほど苦痛も強くなるので、そういう理由も確かにありますね。ただ、戦闘は疎かにはしていませんよ?クレアの意識も同時に浮上して来ている訳ですので、私の不注意もクレアがカバーしてくれますし」
「つまり、ええと……クレアが表に出てくると、ユキは苦痛を感じる。けどその時はクレアは苦痛から解放されるから、休息としてその機会はいつか必ず必要」
「ただ、そうなれば当然クレアさんは暴走してしまいます。それでも定期的に解放しなければクレアさんの精神が壊れてしまい、クレアさんという壁が無くなればユキもまた苦痛によって壊されてしまう……?」
「概ねその理解で大丈夫です。私とクレアは本当の意味で一心同体と言いますか……そもそもクレアが悪人を前にしないと出て来れない制限もありますので、相手が信頼できるクレアでなければこんなやり方は出来なかったと思います」
そんな話を聞いて、『リヴェリアが嫉妬しそうな話だなぁ』などと巫山戯た事を考える事など、誰にも出来やしないだろう。
だってそれはつまり、ユキは常に現実とは別の場所で命を落とす危険性を抱えていたという事なのだから。
にも関わらず彼は顔色一つ変えず笑って生活をしていたし、怖がったり、弱音を吐いたり、どころかそれを聞く側に回っていたのだ。
それはもう、普通の人間の精神性では無い。
クレア・オルトランドとの信頼?
それも確かにあるだろう。
だがそれでも……こんなもの、ユキの中の死への恐怖という大切な機能が壊れてしまっても仕方のない話だ。
むしろもう壊れてしまっている物があったとしても、おかしくはない。
「最近は状況が状況だけに完全に外に出す事を抑えてしまっていましたので、この2日間がクレアにとってお休みの期間になったのであれば良い機会だったのかもしれません」
「……!?まっ、まさかユキがこの2日間の記憶が無いと言うのは!」
「えっと、その………恥ずかしながら苦痛に耐えるのが精一杯で、外に目を向ける余裕が全くありませんでした。クレアは凄いです、あんなのに今この瞬間もずっと耐えているんですから」
「「…………」」
恐ろしいと、ティオネは率直にそう思った。
2日もの間、拷問と変わらない様な苦痛を感じ続けながらも、今こうして何事も無かったかの様にして笑っているユキ。どうしてそんな風に笑っていられるのかが、ティオネには全く理解できない。
そして一方でアリシアは、顔を真っ青にして俯いていた。
思い出したのだ。
ユキの人格が戻り、意識を取り戻した瞬間、彼女はこれでもかという程にリヴェリアにべったりとくっ付いていた事を。
あの時にはまだ少し『またリヴェリア様に……』という気持ちもあって、それを振り払って思い直したりもしたのだが、今の話を聞いて考えてみれば、その反応は当然のものだったのだ。
周囲に誰も居ない世界でいつ終わるかも分からない我を失う程の激しい苦痛を、2日にも渡って受け続けていた。誰にも助けを求められず、誰も救ってくれる事はなく、ただ1人でジッと我慢しているしかないその状況で。
もし自分がそんな場所から帰って来たとすれば、どうなるだろうか?
(私は、なんて馬鹿な考えを……!)
もっとしたい質問なんていくらでもあった。
クレアの話も聞きたかった。
ユキの過去の事だって聞きたかった。
けれど……もう、そんなことを聞ける様な精神状態でも無かった。
「……ユキは、解放されたいとは思わないのですか?」
「へ?」
「苦しいのでしょう?辛いのでしょう?怖いのでしょう?それなのにどうして……笑っていられるのですか?」
「………」
俯きながら発せられたアリシアのその言葉に、ユキは少しの間考え込む。
まるで予想もしていなかった事を質問されたとでも言うように。
「………クレアの事が大切だから、でしょうか」
「な」
「私がこうして抱えている限り、クレアが消える事はありません。私が苦痛を少しでも引き受ければ、クレアは私の中に居てくれます」
「………」
「確かに辛いです、苦しいです、それに怖いです。けど、それくらいでクレアを失わずに済むのなら安いものだと、私はそう思うんです」
「でも……」
「私はもう、自分の身体にクレアを抱え続ける事を決めています。逃げ道なんて、そもそも捨てる事なんて出来なくとも、決めたんです。そうでなければこの関係は続けていられません。……それに私が一度でも嫌だと言ってしまえば、きっとクレアはもう2度と表に出て来なくなってしまいますから」
「それ、は……」
クレア・オルトランドがユキの事を大切に思っている事なんて、そんな事は分かっている。もしユキが苦しいと、嫌だと言えば、確かにクレアはその全てを自分で引き受けようとするだろう。
たとえその先に破滅しか無くとも、あの優しい彼女はそうする筈だ。
「やっている事はいつもと変わりません。私はクレアを守っていますし、クレアは私を守ってくれています。それに……」
「それに……?」
「誰かを守っている時、私はとっても強くなれるんですよ?」
そうしてユキは、いつもの様に笑う。
そんな事情を知ってしまった今、2人にはその笑顔が凄まじく眩しいものに見えた。
そしてそれはとても美しいもので、尊いもので、綺麗で……
「リヴェリア様が貴女に惹かれる理由が……よく分かりました。レフィーヤが貴女にあれだけ懐いている理由も」
「アリシアさん……?」
アリシアはそれだけ言って立ち上がると、ユキに顔を見せない様に背を向け、ゆっくりとドアの方へと歩いていく。
けど、その顔色は決して先ほどの様に青くなっている訳ではなくて……
「ユキ……また、私とお話ししてくれますか?」
「え?ええ、勿論です!私も以前よりアリシアさんともっとお話ししたいと思ってたんですよ!」
「……そう、ですか」
そんな言葉にすらもまた胸を痛めながらも、それでもアリシアは笑っていた。これまでの自分の思いを謝罪するなんて事は、まだ思いの整理かわできていない自分では出来ないけれど。それでも……
「私も、もっとユキとお話ししたいと思っています」
前よりずっと尊重して接する事ができる、なんて今更言うのは、やはり虫が良過ぎるだろうか。
--おまけ--
「あーあ、結局なんの気分転換にもならん遠出やったわ……まさかあないな面倒に巻き込まれるとはなぁ」
「その分、収穫はあったろう?ティオネ達の因縁の解消に、アイズを含めた上位陣の指揮者としての成長。それに……」
「ユキたんの出自が分かった事と、クレアたんがうち等にユキたんの事を任せるって言うてくれた事か」
「まだ試験期間中みたいだけれどね」
ファミリアに帰ったその日の夜、ロキはフィンに対してそんな愚痴のような会話をしていた。休暇も込みで訪れた筈の場所で、より疲れるような目にあったというこの……
流石のロキでもこれにはゲンナリとなるものだ。
多少のイザコザくらいは予想していたが、まさかここまで大きな騒ぎになるとは夢にも思わなかった。
「ところでロキ。疲れている所に悪いのだけれど、一つ報告がある」
「うん?報告?」
「ああ。実はつい先程、ヘルメス・ファミリアの使いがここに来てね。神アストレアからの手紙を預かっているんだ」
「なんやて!?ちょ、そういう事はもっと早よ言ってやフィン!こ、これか!?」
「あはは……うん、まあ届けてくれた子も、そう急ぎの様子でも無かったからね。こっちの手紙だよ、ロキ」
「お、おおお落ち着きぃやフィン!まずは、まずは、ええと、何したらええんや!?」
「普通に中身を見ればいいんじゃないかな?ロキこそ落ち着くといいと思うよ」
待ちに待ったアストレアからの返信。
カーリー・ファミリアとの抗争の際にも冷静に対応していたロキがここまで慌てるのだから、どれだけこの時を待ち遠しく思っていたのか分かるというもの。
そうしてロキはフィンに手渡された手紙を2、3度取りこぼしかけながらも、中身を開いて食い入る様に文字を読んでいく。
ロキの顔色は決して悪いものでは無かった。
どころか、読み進めて行くにつれてその顔には歓喜の表情が浮かび上がり……
「フィン!アストレアがオラリオに戻ってくるみたいや!」
「っ、本当かい?……ああ、それは久しぶりに心から喜べる朗報だね」
「ほんまやで!神具の目星が付いたらしくてな、見つけたら直ぐにでもこっち来るらしいわ!ヘルメスの所の子も何人か協力する事になったらしいし、そう時間もかからへんやろ!」
「そうか……神ヘルメスが関わってしまった事はさておき、早速リヴェリアとユキに伝えてあげたい話だ。まあ、流石に明日の方がいいかもしれないけれどね。2人ももう眠っている時間だろうし」
「フレイヤにギルド、それにアストレアも関わっとる案件やし、今回ばかりはヘルメスを信用しても大丈夫やろ。ほんま、ようやっと肩の荷が下ろせるわ」
ユキが自らの身体に負のエネルギーを封じ込めた様に、今度は逆にユキの身体から負のエネルギーを引き摺り出す。
その為の神具が見つかったというのならば、ユキの問題の大半が解決される事になるだろう。
それに、なにより大きいのはアストレアの帰還だ。
ユキにとってアストレアはもう1人の親というべき存在。
そんな彼女が帰ってくるのならば、まず間違いなくユキの精神にも良い影響を与えるだろう。
必要ならばアストレアをこの館に住まわせたっていい。
それが出来るくらいに彼女は有益な存在なのだから。
ユキの為となれば反対する者だって誰も居ない筈だ。
「ただ、そうなるとオラリオはまた大騒ぎになるだろうね」
「あ〜……まあ、それはそうやろうなぁ。主に裏で悪いことやっとった奴等はビクビクしながら過ごす事になる筈やし」
「加えて、民衆はアストレア・ファミリアの復活を期待して盛り上がる。勿論、その盛り上がりが良い方に働けば良いのだけれど」
「アストレアの眷属として有力視されとるのが、今のところユキたんしか居らん現状ではなぁ……」
出来るのならば、誰にも気付かれる事なくアストレアを匿うのが1番良い。
だが、その辺りの事情はロキしか知らない。
ここはやはりヘルメスにも助力を願う必要があるだろう。
なによりユキの精神を守るために。
「……はぁ。本当に、はよアストレアに帰ってきて欲しいわ。アストレアにファイたんとか加えて、適当に飲みながら駄弁ったりしとりたい」
「流石のロキも、神同士の腹の探り合いは飽きて来たかい?」
「いい加減な……前はそんなにアストレアの考え方とか好きや無かったんやけど、無駄な事をする偽善者やとか思っとったんやけど、"やらない善よりやる偽善"やったか。毎日毎日アレと眷属達が糞真面目に小さな偽善をしとった結果、今のオラリオがある訳やしな。今ならもう少し普通に喋れると思うねん」
「……不変の神も、考え方は変わるものだね」
「それこそ、子供達のおかげやけどな。天界に帰る頃には慈愛の女神とかになっとるかもしれへんな、ウチ」
「それは是非地上でなって貰いたいものだね。天界に帰るにはまだ早過ぎるだろう?」
「ま、それもそうか」
まだ誰も気付いていない、アストレアが帰ってくる事に。
まだヘルメスは知らない、ユキが英雄と呼ばれる様な人種である事に。
そしてまだ、一部の人間以外は、それこそウラノスを含めた神々でさえも気付いていない。
ユキが男性であるという事に。
ようやくひと段落?
いや、むしろここからが波乱の幕開けだ。
クレア・オルトランドの言葉を忘れてはならない。
ユキを縛るものは、単に負のエネルギーだけでは無いのだから。