白海染まれ   作:ねをんゆう

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とってもアブノーマル


66.情事

月明かりだけが照らす闇の中に、少しの水音と衣擦れの音が響く。

灯一つ付けていないその部屋の中で、動く影は一つだけ。

けれどその一つは重なり合った2つでもあって、上は下を軋むベッドへと抱える様にして押さえ付ける。

水音と水音の間に漏れるその小さな喘ぎ声を、闇にすらも与えまいと貪る女の醜い執着心は、ドロドロに濁った嫉妬心すらも含んでいたのかもしれない。

 

「んぁ……あっ……やぁっ、はっ……ぇあ……っちゅぁっ」

 

「はぁ、はぁ……ユキ……」

 

「ぁ、また……りゔぇ、ひぁ、しゃん……んむっ……きょ、はげひ……っはぁ……!」

 

肌着だけになったユキの上に乗り、その顔を決して逃さない様に両手で押さえながら、リヴェリアはユキの柔らかで淫美に濡れた唇を一心不乱に貪り尽す。

何度も、何度も、何度も、唇を、歯を、舌を味わい、顔を赤くしながら流す一滴の涙でさえも残す事なく舐め取り食す。

彼女がここまで接吻を行う事は滅多にない。

行為の最中でも、相当に理性を飛ばしてからで無ければしない様な行いだ。それでも今日の彼女は最初からこうして、それを自らの意思で行なっている。

それはつまり……

 

「ユキ……今日の私はもう駄目だ。もう、お前以外の何も見えない」

 

「はっ、はぁっ……あっ、そんなに身体を撫でないでください……んぅっ」

 

「本当にお前は、敏感な身体をしているな。そう身体を動かすな、挑発しているのか?」

 

「そ、そんなこと……ひぃぁっ!?」

 

荒く息を乱すユキの身体をラインに沿わせる様にして撫で回す。肩に、腹に、腰に、足に、手を這わせる度に、ユキの身体は小さく跳ねる。

それでも"そんな事はない"と否定するユキの顔を横に向けると、今度は長い髪の間から姿を見せた小さく赤い柔らかな耳へとリヴェリアは口を付けた。

 

「あっ、あっ……そ、それ、やばっ、えぁっ……!」

 

「ぁっ……ユキ、もっと声を出せ。私にもっとお前の情に濡れた声を聞かせてくれ……んうっ」

 

「ひぁあっ!?し、舌入れちゃらめれす!!あっ、あっ、あっ……お、奥、たたかないれ……」

 

「ゆひ……ゆひ……にげうな、ここか?ここがいいろか?もっと、もっとひて欲しいのか?」

 

「うっ、うっ、うぅっ……ん、んぅぅぅ……!」

 

その小さな穴の中で暴れ回る柔らかなリヴェリアの舌に、ユキは身体を動かして抵抗する。

しかし一度突き刺されたそれを引き抜くのは難しく、力なく身体を押し返そうとするユキの抵抗も虚しく、頭を両手で固定されたまま更に奥へ奥へと突き進んでいく舌に、次第にユキの脳は焼かれていく。

 

「ひぅ……」

 

「……ここらな?」

 

「っ!な、なんで……!?」

 

「ここを……こうか……」

 

「やっ!やぁあっ!やめっ、はなしてくださいっ……!ぁっあぁっ……!」

 

そうして見つけた、一点の弱点。

全身性感帯と言っても良いほど身体を誰かに触れられる事に敏感なユキの身体にも、やはりその中でも一際大きな反応を示す弱点というものが存在する。

ユキの頭に響く生々しい水音と、ゾリゾリと削る様な淫猥な摩擦音。そして普段のリヴェリアからは想像もできない様な甘い吐息と熱は、その細かな快楽を余す事なくユキの脳へと刻み付けていく。

 

「耳の……奥の……かえのあはりを(壁の辺りを)……ひたの(舌の)ららららなぶふんれ(ザラザラな部分で)、こふりあげへ(擦り上げて)……」

 

「ぃ、ぃやぁ……リ、リヴェリアさん……し、した、舌、長いぃぃ……」

 

「ふ、ふふ………んぅっ」

 

「ひぃんっ!そ、そんないきなりっ……!」

 

それまでユキの耳を余す所なく愉しんでいたリヴェリアの細長い舌は、ユキにそれを指摘されると、どうしてかその勢いを増し始めてしまう。

個人的にはあまり気にした事のない特徴だが、今この状況でそれを言われてしまえば、感じるものもあるというもの。

 

「っちゅぁ…………はぁ、はぁ、なんて淫らな姿をしているんだ、ユキ」

 

「そ、そんなこと、ないれすぅ……」

 

「ほら、こっちに来い。抱き締めてやる」

 

「あっ……リヴェリアさん……」

 

「もっと強くがいいか?」

 

「……はい」

 

「仕方がないな……」

 

「んぅっ……これ、これ好きですぅ……」

 

あまりの愛おしさと扇情的な表情をするユキへの衝動を誤魔化すように、リヴェリアは身体を起こしてユキを膝の上で抱き締める。

しかし一方のユキはリヴェリアの膝上に乗せられたまま痛いくらいに抱き締められるながらも、甘い声を出しながらリヴェリアの腕の中でビクビクと幸福感に浸っているのだから、リヴェリアの情欲は余計に掻き立てられてしまうというもの。

 

「んぅ……ひうっ!?リ、リヴェリアさん……?」

 

「どうした?ユキ。私はただお前の腰をこうして叩いているだけだが」

 

「な、なんでそんな……んぅっ、んんっ……な、なんかこれ変です、リヴェリアさん……!」

 

「そうか。別に何も我慢する必要はない、ここには私とお前しか居ないのだから」

 

「っ……っ……うっ……」

 

「………もう少し強く叩くか」

 

「っ!?だ、駄目で……ぅぅんっ!」

 

腕の中で逃げ場を塞ぎながらリヴェリアはトントンとユキの腰を叩く。

ただ優しく叩いているだけなのに、ユキは唾液を溢しそうになりながら歯を食いしばってピクピクと身体を跳ねさせる。

リヴェリアがユキの何もかもに興奮を抱いてしまうように、今のユキはリヴェリアにされる何もかもに快楽を感じてしまっているのだろう。

よりユキの腰を叩く力を強くしてやれば、まるで仕置きをしているかの様な形になってしまうのに、ユキはよりリヴェリアに抱き付く力を強くしてくる。

まるで快楽から逃げる様に。

 

「うっ、うぅぅっ……」

 

「どうしたユキ?泣いているのか?」

 

「ご、ごめんなさい……嫌とか、そういうのじゃなくて……」

 

「うん?」

 

「そ、その……怖いんです……リヴェリアさんと、あの、気持ち良い事する度に、私、変になってるみたいで……」

 

「………」

 

「こ、これまでそんな事無かったのに、気付くと、リヴェリアさんとの時間が欲しくなってしまって……気持ち良い事、したくなっちゃって……あの、頭が真っ白になるの、怖いのに、好きになっちゃって……」

 

「………ほう」

 

「わ、分かんないんです。リ、リヴェリアさんを見ると……その、確かに他の人とは違う想いを抱いてるのは自覚してるんですけど……でもなんか、それだけじゃなくて……よ、邪な想いを、抱いてしまう時がある、というか……」

 

「邪な想いとはなんだ?ん?」

 

「そ、それは……」

 

「ユキ?」

 

「うぅ……」

 

ユキの言いたい事など分かっている。

ユキがリヴェリアに性欲を抱き始めている事など、ユキの中で確かに欲情が目覚め始めている事など、リヴェリアはちゃんと分かっている。

けれど、大切なのはそれをしっかりと自覚させる事だ。

ユキ自身が自分の性的な欲求を理解しなければならない。

それが男性的な欲求なのか、女性的な欲求なのかはさておき、そういった欲求は生物として本来あるべき必要なものなのだから。

ユキを人間として生かしていくためには、これは必要な事なのだ。

 

……いや、まあ実際にはユキがそう言って困って恥ずかしがる姿を見たいだけなのだが。リヴェリアの膝の上で腰をモジモジとさせながら顔を真っ赤にするユキを見ていたいだけなのだが。

ユキも本当はもうちゃんと理解出来ているお利口さんなのに、それを口に出すのに照れてしまっているというだけなのだが。

 

「ほらユキ、言ってみろ」

 

「い、意地悪です、今日のリヴェリアさん……」

 

「ユキ」

 

「っ」

 

「言ってくれないのか?ユキ」

 

「あ、う……」

 

ユキが困るのを分かっていて、リヴェリアはわざと目を合わせてそう尋ねる。

リヴェリアはただユキに言葉にして欲しいだけなのだ。

自分がユキにとって特別な存在であると、そう言って欲しい。

 

「わ、私、リヴェリアさんのこと……」

 

「私のことが?」

 

「そ、その、凄く好きで、大好きで……」

 

「ああ、それで?」

 

「リヴェリアさんに触れられるのも、嬉しくて……もっともっと、たくさん触って貰いたくて……それで……」

 

「うん」

 

 

 

「私も、リヴェリアさんのこと……触って、みたい、です……」

 

 

 

「っ……くっ……!本当に愛らしいなお前は……!」

 

「ひゃんっ!」

 

たったそれだけ、それだけを言うのにここまで恥ずかしがるのかと。

そんな事、今更断る訳が無いのだ。

恋人に身体を触られる事など、むしろどうして嫌だと思えよう。

ユキは恐らく自分がエルフである事を思ってなかなか言い出せずにいたのだろうが、もっと我儘を言って欲しいものだ。

むしろ今日までユキが密かに自分の身体に触れてみたいと思っていたと考えると……もうリヴェリアの愛おしさは天元突破してしまう。

 

ユキを押し倒し、その上に乗るのも慣れた光景だ。

だが今日のリヴェリアはそれだけでは終わらない。

いつもはユキだけ肌着まで脱がせて自分は着ている事の多い彼女だが、今日ばかりはその服に手を掛けた。

 

「リ、リヴェリアさん!?な、なにを……!」

 

「なにと言われてもな……触れたいのだろう?ならばこんなものは邪魔だ」

 

「で、でも……!」

 

「ふふ……よし。ほら、目を逸らすな。もっと私のことを見ろ。そこまで露出の多い肌着は身に付けていないつもりだ」

 

「あうあう……」

 

「なにか感想は無いのか?私のこんな姿を見た男は、この世界でお前が初めてなのだぞ?」

 

「き、綺麗です。凄く綺麗で、芸術品みたいで……」

 

「ほう、それで?」

 

「肌とか、凄く瑞々しくて、個人的にも羨ましいというか……」

 

「他には?」

 

「……お、男の人が女性の胸に拘る理由が、少しだけ理解出来た様な気がすると言うか」

 

「なるほど、そうきたか…………だがなぁ」

 

そう言いながらもリヴェリアはわざと自分の胸を押し付ける様にしてユキにのしかかる。

そしてそれに反応して咄嗟に顔を横に向けたユキの耳元に近付き、自分自身も顔を赤らめながら、ある一言をユキの耳の中へと吹き込んだ。

それはもうユキの脳を破壊するのには十分な威力で……

 

『これも全部、お前の物なのだぞ?』

 

「〜〜っ!?」

 

追い討ちを掛ける様にリヴェリアはユキの首筋を舌で撫でる。

ユキは何かを堪える様にして必死に目を瞑っているが、今日こそは一歩先へ進まなければならない。

まだユキはリヴェリアの身体に触れていないのだ。

せめてそこまでは……やらせなければ気が済まない。

 

「ユキ、目を開けろ」

 

「は、はい……」

 

「そうだ、それでいい。目を逸らすなよ?そうしたら次は……触れてみるか」

 

「えっ、あの」

 

「ほら、お前の好きなところに触れてみるといい。遠慮などするな。私はもう、お前の物だ」

 

「あっ……」

 

「んっ」

 

などと言いつつも、自らユキの手を取って自身の胸へと押し付けるリヴェリア。

布一枚隔てているとは言え、その感触はユキの頭を簡単に真っ白にする程の破壊力を持っている。

リヴェリアも当然恥ずかしさを感じてはいたのだが、それよりもユキの視線が自分の身体へと向けられている事への嬉しさの方が優っていた。

あのユキが自分の身体に夢中になっている。

他の団員がどこで着替えていようと気にも留めなかったユキが、自分の事を性的な目で見ている。他の男からの視線であったならば不快でしかなくとも、普段そういった感情と全く無縁の者から向けられれば、それは少しの優越感にだって変わる。

それも自分より遥かに若く、そして可愛げのあるアイズ達ではなく、ユキは100年近く生きている母親とも呼ばれてしまう様な自分を選んでくれたのだ。

それを自覚してしまうと、リヴェリアはもう止まらない。

 

「どうだ?んっ、一応それなりにっ、自信は、あるのだが……」

 

「あ、その……や、柔らかい、です……」

 

「それだけか?」

 

「お、重さがあって、は、張り?もあって、あと……」

 

「あと?」

 

「あぅぅ……」

 

「く、くふふ……もう片方も触れてみるか?それとも、こうして手を繋いでいて欲しいか?」

 

「っ……リ、リヴェリアさんの手が、欲しいです」

 

「そうか、なら仕方ないな」

 

胸に触る時には恐る恐るな癖に、こうして手を繋ぐ事には積極的になる。胸についても本当に、徐々に慣らしていくしかないのかもしれない。

思い返せば最初の頃は、こうして手を繋ぐ事さえもリヴェリアが強引にしていた覚えがある。それを自ら求める様になっただけ成長したというものだろう。

少しずつ成長はしているが、それでも本当にこういった行為についてはユキは真っ白で……だからこそ、リヴェリアの色に染められるというか、こういう所に関しては本当に染め易いというか……

 

「どうやら、今のユキにはこれ以上は刺激が強過ぎるようだな」

 

「ご、ごめんなさい……リ、リヴェリアさんの身体が、綺麗過ぎて……」

 

「ふふ、そう言われるのは悪くないのだがな。まあ、少しずつ慣れていけばいい。今日まで何かと理由を付けてお前に肌を見せて来なかった私にも責はある」

 

「そ、そんなことは……」

 

「その代わり……」

 

「ぁ」

 

リヴェリアは自分の胸に押し当てていたユキの手を離し、今度はユキの胸へとその手を滑らせる。

薄い肌着一枚に隠されたユキの身体。

なんだかんだと言ってもリヴェリアは今日まで、ユキの身体をしっかりと見た事が無い。

それこそ腹を責めたり胸元や首筋に噛み跡を付けたりはした事はあるが、それでもそれ等は服の隙間から行っていた行為だ。

上半身だけだとしても、ユキの身体を隠す物なく見た事など一度もない。

 

「……脱がせてもいいか?ユキ」

 

「は、はい……少し恥ずかしいですけど、リヴェリアさんになら」

 

「そうか……ほら、両手を上げてくれ」

 

「ん……」

 

本音を言えば、怖かったというのもある。

たとえ上半身だけだとしても、一度でもユキの身体をしっかりと見てしまえば、それでユキの性別がハッキリしてしまうだろうから。

だからこうして肌着を脱がせるだけでも、リヴェリアは実はとても緊張していた。

 

(だが、私もユキも一歩先に進まなければならない……ユキを愛しているならば尚の事、私はユキの全てを知らなければならないのだから!)

 

少しだけ上半身を持ち上げたユキに合わせる様に、リヴェリアは肌着を脱がしていく。そうして薄緑色の愛らしいユキの肌着を枕元に置くと(今思い返すとこれも私を意識した色合いなのか……?)、ユキは恥ずかしそうに胸に手を当てていた。

その様子はなんとなくおかしい様にも感じるが、リヴェリアはその手を強引に退かしてユキの身体を曝け出す。

いくらユキが恥ずかしがろうとも関係ない。

リヴェリアは今日、覚悟を持ってユキの身体を見に来たのだから。

 

「そ、そんなにじっくり見られると恥ずかしいですよぅ……」

 

 

 

ただ、まあ、

 

 

(…………)

 

 

唯一想定外だったのは、

 

 

(なるほどな……)

 

 

リヴェリアはユキの身体から視線を外し、空を仰ぐ。

そんなリヴェリアを見て首を傾げるユキだが、そんな事も構わずリヴェリアは額に手を当てて嘆いた。

 

 

(…………上だけじゃ分からん!)

 

 

まさかここまで見ても分からないとは思わなかった。

胸は無い、それは確かだ。

だが、ぶっちゃけそれだけだ。

見た限りでは、正直どちらとも取れる。

筋肉質でも無いし、骨格も男性っぽく無いし、けれど女性とも言い切れないし……

そもそも、他人の裸体に見慣れている訳でもなければ、人体の構造に詳しい訳でも無いリヴェリアに、こんなもの分かる筈がない。

かと言って上半身と言えどもユキの裸体を他人に見せるなんてしたくないし、ユキ以外の男性の身体なんて見たくも無い。

 

(やはり……こっち、か?)

 

「?」

 

チラと自分の腰前辺りを見下ろす。

ユキの上に乗っているとは言え、リヴェリアは意図的にそこからズラして座っている。というか、これまでもずっと、無意識下でその場所から逃げていた。

上で分からないとなれば、もう下を見るしか無い。

だが待って欲しい、そんな勇気が今のリヴェリアにあるだろうか?

上半身を見るだけで精一杯だったのに、下半身を確認する?

出来るか?

いや出来ないだろう。

というかユキのそこには軽く触れた事すら無い様な……

 

(いや、待てよ?そういえばこれまで、私はユキのそういった所を見た事が無い。噂によると男性はその、そういった行為をする時、下腹部が、あの、ああいう風になると言うが。私はこれまでユキのそんな所を見た事が無いぞ)

 

そうだ、もしそんな所を見ればリヴェリアだって気付いていた筈だ。

つまりこの事から考えられるのは……以下の3つになる。

 

1.ユキはやっぱり女性だった

2.ユキの反応は全部演技だった

3.ユキは性機能に問題がある

 

(ふむ……2はなんというか、普通に傷付くな。3ならまだ受け入れられるが、これから大変だろう。1だった場合は、もう服も全部脱がしてユキを溶かし尽くすまで好き勝手してやる所だが)

 

なんだかんだで、1が一番丸いという事実。

別に3だとしても子供が出来ないだけで側にいる事は出来るが、子を作れないということにユキが責任を感じてしまう恐れがある。

2だとしたら、リヴェリアは完全に泣く。立ち直れなくなる。それだけだ。

 

「リヴェリアさん……?」

 

「ああ、いや……すまない、どうした?」

 

「いえ、その、急に静かになってしまったので……」

 

「寂しくなったのか?」

 

「は、はい……」

 

「………」

 

それでも、そんなややこしい話だって、こんな風に寂しいと手を絡めてくるユキを見てしまえば頭から簡単に飛んでいってしまう。

せっかくこうして上半身を脱がす事に成功したのだ。

昨日まで出来なかった事を存分に行ってしまってもいいだろう。

 

「ユキ、さっき押し倒したばかりで悪いのだが……体勢を変えてもいいか?お前を後ろから抱き抱えたいのだが」

 

「え?そ、それは別にいいですけど……」

 

雰囲気を壊す様で悪い気もしたが、リヴェリアには今それよりもしたい事があったのだ。

ユキを再び膝の上に乗せて後ろから抱き抱え、更に自分の背後からユキも纏めて布団で覆い隠すと、リヴェリアは何処かから一本の小さな壺の様な物を取り出して手に取る。

この部屋に来る際に持ってきた時には非常に熱かったそれだが、ある程度イチャ尽くした今では適温になっていた。

目の前で蓋を取られたそれを不思議そうにユキは見ているが、一方でリヴェリアはそれなりにワクワクもしていた。

露天で見つけ、気になって買ってみたそれ……買った時には少しの恥ずかしさもあったが、今はその恥ずかしさを我慢してでも購入してきた自分を褒め称えたい。

 

「あの、リヴェリアさん、これって……それにお布団、暑かったりしませんか……?」

 

「暑くていいんだ、余計な事を考えなくて済むからな。それよりも今はこれを見ていろ、ユキ。粘度の高い液体だとは聞いていたが、こうして間近で見てみると少し卑猥にも思えてくるな」

 

「ううっ……」

 

壺の中から少しだけ掌に垂らした液体を、その綺麗な手で弄ぶ様にしてユキの目の前で遊んでやる。

一度両手をくっ付け引き離してやると、糸を引く様にして伸びるその様子は、確かにそれなりにリヴェリアと身体を重ねたユキにあらぬ想像を抱かせるには十分だろう。

わざとぐちゃぐちゃと音を鳴らす様にして見せながら、リヴェリアはユキの肩に頭を乗せてその恥ずかしがる様子を見る。

一体何を想像して顔を赤くしているのか……それを考えるだけで愛おしくなる。

 

「さて、そろそろ私の体温と変わらなくなってきたか……付けるぞ?」

 

「は、はい……んぅ」

 

そうしてリヴェリアはゆっくりと両手を動かしてユキの曝け出された胸に向けてそれを塗り込んでいく。音を出しながら、揉み込む様にして、両手を使って、丁寧に、丁寧に……

すると最初はリヴェリアから顔を背ける様にして顔を赤めていただけだったユキの様子が、徐々に変わり始めた。リヴェリアの細く艶やかな指が液体によって滑らかに突起に触れる度に身体を跳ねさせ始め、息も着実に荒くなっていく。

そして汗の量も布団を被っている事もあって時間が経つと共に凄いことになり始め、体温も上がり始めている様だった。

 

ユキは今や下の肌着だけ、リヴェリアもまた肌着だけしか付けていない。この状態で狭い空間で互いの熱と汗と臭いに包まれながら密着していれば、興奮の度合いも高まるというものだ。

意識も朦朧とし始め、自然と互いの顔が近くなって来てしまう。

 

「り、リヴェリアさん……これ、なんの薬、ですか……?」

 

「あ、怪しいものではない、ただ少し興奮を促すだけのものだ。……ふぅ。だがこれは、なんというか、不味いかもしれんな……っん」

 

「ぁ、んぅ……はぁっ、はぁっ。んぅぅ、もっと、もっとくらさい……」

 

「この……頭がうまく働かないというのに、そんなかわいらしいことを……!」

 

一瞬のキスでは物足りなかったのか、頭を擦り付けながら続きを懇願するユキに、リヴェリアの理性はますます削られていく。

ユキの胸に塗っていた液体も、今や汗や何やらによって何が何やら分からない状態だ。

 

「ぁっ……あっ、うぅ……」

 

「ふ、ふふ、腰がふるえてきたな……そんなにこれをグリグリとされるのがいいのか?」

 

「あ、うぁっ……うあぁ……」

 

「ああ、いい顔だ。ほんとうにお前は、わたしを興奮させるのが、うまいな……?」

 

リヴェリアはユキの胸に手を当てたまま、うつ伏せになる様にして覆い被さる。

枕に顔を埋めながらもビクビクと震えるユキは、けれどリヴェリアと布団によって二重に包まれてしまった事で益々意識が薄くなっていく。

それでも快楽に対する反応はしっかり示しており、リヴェリアに手で弄られる度に呻き声を上げている。

 

「ああ。いいな、この体勢は……多少布団は汚れてしまうかもしれんが、お前を好きなだけ愛す事ができる。……あぐっ」

 

「んぅっ、んぅぅううう!!」

 

大量の汗によって濡れたユキの首筋に食らい付く。

その瞬間に彼の体は上に乗っているリヴェリアをそのまま持ち上げんばかりに跳ね上がるのだから、リヴェリアはそれすら上から無理矢理押さえ付け、叫んでも呻き声にしかならない事を良い事に徹底的にユキを責め追い込んでいく。

 

「く、くく……いいぞ、好きなだけ叫べ。全身全霊でお前の事を愛してやる。……こら、腰を浮かすな。快楽から逃げようとするんじゃない」

 

「ううっ、んぅぅうぅぅ……!」

 

何度も何度も首筋や耳たぶを甘噛み、胸だけでなく腹部や脇や首まで液体と汗によってぐちゃぐちゃになった手で弄り、浮き上がりそうになった腰に自分の腰を容赦無く打ち付ける事によって押さえ付ける。

そして枕を抱き締めて顔を埋めながら荒い息を吐き唸っているユキの姿は、ただリヴェリアの興奮を促すばかり。

それはきっと見る人が見ればただの強姦だ。

覆い被さって腰を打ち付けるその光景なんて、正にその様だと言ってもいいだろう。

……だが、だからこそ興奮する。

力で愛する人間を押さえつけているという背徳感が、自分の執着を思い切り力という形で打ち付ける事のできる開放感が、リヴェリアの理性をどんどん消し飛ばしていく。

そしてそれはユキもまた同様で、リヴェリアにこれほど必死に、周りの何も目に入らない程に自分を見て、愛してくれているという事実に……涙を流してしまうくらいの幸福感を抱いてしまっている。

これを歪と評するのは簡単だが、それでも一つの確かな愛の形でもある。

2人は確かに愛し合っているのだ。

それこそもし性別が逆であったのならば、このままユキを孕ませてしまってもおかしくないくらいに。

 

「はっ、はっ……ユキ、そろそろ私も限界だ。どうして欲しい?最後にどうして欲しい?言ってみろ、ユキ」

 

「あ、えぁ……」

 

リヴェリアは右手の指を拭き取り、強引に枕から持ち上げたユキの頭を下から支え、人差し指と中指を口内へと侵入させる。

力なく舌を出しながらボーっとリヴェリアを見つめるその顔は、もうあの美しかった顔からは想像も出来ない程に乱れ切っていて、侵入させた二本の指で垂れ下がった舌までもが弄ばれる。

 

「ぁ……ゆび……んちゅ、ちゅ、ちゅぅっ……」

 

「!?」

 

それはもう殆ど条件反射の様なもの。

口の中に指を入れられてしまって、意識が朦朧としてしまっていて、けれどその指は自分の愛しい人のもので……だから、無意識にそれに吸い付いてしまう。自分でも何をやっているのか朧げにしか理解出来ていなくとも、舌を絡めて、水音を立てて、指の根本まで咥え込んで綺麗にしていく。それこそまるで奉仕でもしているかの様に……

 

「〜〜っ!」

 

ゾクゾクとリヴェリアの背筋を何かが登っていく。

身体が震える、目が震える、脳が震える。

これで終わりにしようと思っていたのに、激しくし過ぎた事もあって後は優しくしてやろうと思っていたのに、こんな事をされてしまってはもう最後の最後まで徹底的に虐めてやる以外の選択肢が無いではないか。

 

「んぁっ……ぁ、ゆび、ぬいて……んむっ!?」

 

「こちらの方が深くまで届くだろう?ユキ」

 

「ぇっ、おっ……ぇごっ……」

 

「苦しいのか?だが我慢しろ、最後に思いっきりお前を抱き締めて、思いっきりお前の奥まで指を挿れてやる。……そうして欲しいんだろう?」

 

「っ」

 

耳に口を触れてしまう程に近付けながら、リヴェリアは愉悦の表情を持ってそう呟く。

人差し指と中指よりも、中指と薬指の方が奥に届くらしく、ユキは唾液を口の中に留めて置くことすら出来ない程に酷い状態になっているが、今のリヴェリアにはその姿すら堪らなく愛おしい。

少し指を動かすだけで苦しそうに呻くその様子は、自分の指ひとつで支配出来た気になれる程に錯覚させるもので。

 

「いくぞ?これで今日は最後だ、最後に思いっきり意識を飛ばせ。分かったな?」

 

「っ……っ……!」

 

「……愛しているぞ?ユキ」

 

「うっ、うぅううぅぅ!あつぁっ、ぁがっ、ごっ、ぉっ……〜〜〜ッ!!!」

 

自らの足をユキの足に巻き付け、空いている左手でユキの体を本気の本気で締め上げ、右手の指を可能な限り深くまでユキの口の中へと侵入させる。今や当然の様に首筋にも噛み付き、跳ね上がる身体を強引に力で押さえ付け、腰を浮かせて快楽を軽減する事さえも許さない。

 

「ぉっ……がぉっ……んぐぉっ………」

 

「ふぅぅ、ふぅぅっ…………引き抜くぞ?」

 

「んぐぁっ……!かっ、はっ……がはっ!かはっ!ごほっ、ごほっ……!はっ、はっ、はぁぁっ……!ごほっ、はっ、はぁぁぁぁっ……!ぁっ、ぅぁっ……ぅっ、うぐぅっ……ぐすっ、うぅぅぅぅう」

 

指を喉奥深くから引き抜くと同時に、リヴェリアはユキの身体を解放する。

するとユキは涙と唾液と諸々に乱れ酷い事になってしまった顔のまま何度も何度も咳を落とし、遂には本当に苦しかったのか泣き出してしまった。

顔を隠し、啜り泣く様にして嗚咽をしながら、リヴェリアの胸元に必死になって縋り付き、身体を震わせながら涙を流すその様子。

これだけの酷い事をしてもなお、泣いてしまう程に辛かった事をされてもなお、ユキはリヴェリアに安堵を求める。

本当に、本当に愛おしくて堪らない。

優しく抱き寄せて背中を叩いてやれば、それだけで一層強く泣き始めてしまうその様子が、本当に愛らしくて仕方ない。

 

「いいぞ、ユキ。今日はこのまま眠ってしまえ。私が朝までずっとこうしておいてやる」

 

恋人に酷い事をして、辛い思いをさせて、愉悦に浸っている。

最低だ、本当に最低だ。

こんなものは暴力だ。

泣かせてしまっている時点で言い訳など出来やしない。

そんな事は分かってる。

だからこんな事、これから先も滅多にやらない。

代わりにこれから暫くはドロドロになるくらいに甘やかす。

そうしてユキの身体を完全に自分のものにするのだ。

たとえ他の誰に何をされた所で、自分でなければ何も感じられなくなる様になるまで、徹底的に。


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