白海染まれ   作:ねをんゆう

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67.先輩への報告

豊穣の女主人にある空き部屋の一つ。

かつてユキがこの街に来た時に使用させて貰ったその一部屋は、今はこうして定期的にやって来る後輩の報告をリューが聞くための場所となっている。

そして今日もユキがリューに、胃が痛くなる様な話を聞かせている。

リューの表情は当然のようによろしくない。

これもまたいつもの事で、ユキがリューに説教をされる事もまたいつもの事だった。

 

「……という様な事がありまして、無事に帰って来られた訳です」

 

「無事とは……?」

 

「え?でもほら、怪我とかもしてませんし」

 

「治しただけですよね?結局大暴れをしたんですよね?それもイシュタル・ファミリアを相手に」

 

「え、えっと……む、向こうからその事で何か言われる事もありませんでしたし!私もこうして元気ですし!ね!?」

 

「は?」

 

「うっ……ご、ご心配をおかけしました……」

 

「はぁぁぁぁ」

 

「リ、リューさん……?」

 

「……取り敢えず、今日の帰りは送って行きます。それと、なるべく1人で出歩くのはやめる事です。イシュタル・ファミリアからの報復もあるかもしれませんから」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「いえ、まあユキが問題事に巻き込まれに行くのも今更ですし。こうして無事に帰って来ただけでもよしとしましょう」

 

ユキも反省している(反省したところでどうにもならない)様なので、リューもそれ以上を言う事はない。

リューとしてもあまり落ち込ませて相談し辛くしたくも無いので、フォロー代わりに頭を撫でてやると、また笑顔になって嬉しそうにするのだから、可愛いというか単純というか……

 

「……それで、その彼女の事はもういいのですか?」

 

「クレアの事ですか?リヴェリアさんによると暫くは出て来ないと言っていましたが、そうは言っても1月以上無交代で居るとクレアでさえも不調を来してしまいますからね……その間、私が大人しくしていれば問題無いと思いますよ」

 

「え、そんな事が出来るのですか?貴方に」

 

「出来ますよ!というか私はいつも大人しくしているつもりです!私は!」

 

「一月もあれば絶対また何かやらかすでしょう。貴方がここに来てまだ2ヶ月しか経っていないのですよ?その間に起きた事を頭の中に思い浮かべてみなさい」

 

「…………………………………………うわぁ」

 

「自分のことでしょうに」

 

2ヶ月。

ユキがこの街に来てまだ2ヶ月だ。

その2か月でレベルは2つも上がったし、もう2,3回は死に掛けている。

巻き込まれた事件の数など、改めて数えるのも面倒なくらいだ。

そんなユキが一月もの間、何にも巻き込まれずに生きていけるだろうか。

……無理だ。

そんなもの、無理に決まっている。

リューでなくともそれは断言できるだろう。

 

リューは今日初めて、ユキがティオネ達に話した様な苦痛に関する事を聞いた事もあって、頭の痛さはマシマシだ。

もう本当に、森の奥深くにでも放り込んで、定期的に罪人を生贄として差し出した方が良いのでは無いかと思ってしまうほどだ。

そんなもの、いつの神の概念かという話なのだが。

 

「そういえば、私からも報告しておかなければならない事がありまして。今度クラネルさん達の戦争遊戯に参加する事となりました」

 

「え、なんですかそれ?」

 

「……?ユキは知らないのですか?確か【剣姫】や【大切断】がクラネルさんの修行に付き合っているという話も聞いていますが」

 

「……その、ここ数日はずっとリヴェリアさんの部屋に監禁……もとい軟禁されていまして。今日も報告に行かないと心配される、と押し切ってここに来れたんです。ですから最近の外の話には疎いと言いますか」

 

「リヴェリア様、遂にそこまで……気持ちは分かるのですが、分からなくは無いのですが……!」

 

「そ、それよりも戦争遊戯について教えて下さい!少年くん達に何があったのですか!?」

 

ユキがリヴェリアに監禁されていた、なんてとんでもない話をサラッとされてしまったが、リューとて気持ちは分かるのでそれ以上の追求は行わない。

リューでさえも先ほど似た様な事を考えてしまったのだから、リューよりもユキに対する執着の強いリヴェリアが実際にそうしてしまっても仕方ないとは思える。

 

それよりも、取り敢えずリューはユキが気になっている、ベルが置かれている今の状況について話した。

神アポロンによってベルが狙われて、そのベルを引き抜く為にアポロン・ファミリアが強引な手段を用いて戦争遊戯を仕掛けた。

しかし全団員が参加できるというファミリアの規模としては不公平なルールが選ばれてしまった為に、助っ人としてリューが参加する事となったという事を。

 

「……なるほど、それで少年くんはヒュアキントスさんに勝つ為に」

 

「ええ、剣姫を頼ったという話です。リヴェリア様がユキにそれを教えなかったのは……まあ、あまり面白くない話ではありますので、クレアが出て来る事を恐れたのでしょう」

 

「まあ、確かに気分の悪い話ではありますね……ただそうなると私が協力出来る事も無さそうですし、今回は大人しくしているに限りますか」

 

「そうして下さると助かります。もし神アポロンがクラネルさんだけでなく貴方にも興味を移せば、それこそオラリオは恐ろしい事になってしまいますから」

 

「あ、あはは……」

 

以前にフレイヤと会った時の事を思えば、それすらもあり得ない事では無さそうで、思わずユキも苦笑いをしてしまう。

そうでなくともユキの事をアストレアの眷属として認識している者も居り、ユキの事を抹殺しようと企んでいる者や、手中に収めようとしている者も多いだろう。

闇派閥としてもユキは目の上のタンコブとも言える様な存在であるし、イシュタルは確実にユキを脅威と認識している筈だ。

そうなればやはりユキが今この街を1人で出歩くのは良くない事だと、リューは思い直す。

 

「……ところで、少年くん達が住んでいた場所が壊されてしまったという事は、あの教会も崩れてしまったという事ですか?」

 

「ええ、そう聞いています。今はヘファイストス様の元を頼っているとか」

 

「そう、ですか……」

 

「……?ユキは何かあの教会に思い入れがあったのですか?」

 

「あ、いえ、その……はい。個人的に凄く落ち着く場所でしたので、時間がある時に偶に寄ってみたりしてたんです。少年くんとも、いつか綺麗にしたいと話していまして」

 

「それは……残念、と言いますか」

 

今ならヘファイストスに頼めば教会の再建など簡単に出来るくらいの財力はある。契約とは違うものの、頼めばそれくらいはしてくれるであろうという事も想像できる。

しかし内装まで破壊されてしまえば、完全な復元は難しくなるだろう。

もしかすれば好きだったあの雰囲気は無くなってしまっているかもしれない。それを考えると寂しくなってしまうのは仕方のない事で。

 

「……私も、あの教会には思い入れがあります」

 

「リューさんもですか?」

 

「ええ。私はかつてあの場所で、正義に関する選択を迫られました。まだ自分が今よりずっと未熟な頃の話で、その時は状況もあって大層混乱していた事を覚えています」

 

「正義についての、選択ですか……」

 

「ええ、そうでなくとも彼処は曰く付きの場所です。あの場所を破壊した神アポロンには、それは大きな天罰……もとい静罰が与えられる事でしょう。彼女もあの場所を大切にしていたと聞きましたから」

 

「………?」

 

そう言って何かを思い出す様に目を閉じるリューを、ユキは首を傾げて見つめる。けれどリューはそれ以上を語る事はなく、瞳を開けるとユキの手を取って立ち上がった。

そしてまたユキの頭をぽんぽんと優しく叩くと、少しの笑顔を見せて振り返る。

 

「さあ、そろそろ帰りましょうか。少し寄り道をしながら、ゆっくりと戻りましょう。ユキも偶には自由に買い物をしたいでしょう」

 

「!は、はい!ありがとうございます!」

 

嬉しそうに立ち上がったユキと共に、リューは店を出た。

ベルとは違う、リューにとって本当に神の血の繋がりのある後輩。

今は別の血を背中に背負えど、この世界に唯一の生き残りであるアストレアの眷属であったユキ。リューは時々自分がリヴェリアの様にユキに惹かれてしまうのではないかと恐れていたが、どうやらいつの間にか別の方向へと引っ張られていた様だった。

きっともし、かつての仲間達が今のリューを見ていたのならば、こう言うだろう。

 

『見てみて!リューが得意気に先輩面になっているわ!末っ子扱いばかりされてたの気にしてたのかしら!』

 

常にファミリアの末っ子として扱われ、結局最後までそのままだったリューに初めてできた憧れの後輩。それもかつての自分とは違い、こんなにも素直で、こんなにも慕ってくれる後輩だ。そんなのもう可愛がるなと言う話の方が難しいし、甘やかしてしまうのも当然の話。

 

「?それが欲しいのですか?」

 

「え……あ!いえ、その……」

 

「?」

 

「りゅ、リューさんに似合いそうだったので、秘密でプレゼントしようかなって思ってたんですけど……ば、バレちゃいました。えへへ」

 

「ぷ、プレゼント、ですか?」

 

「はい……その、サプライズにはなりませんでしたけど。受け取って貰えますか……?」

 

「……はぁぁぁぁぁ」

 

「な、なんでそんなに大きな溜息を!?」

 

うちの後輩が一番可愛い。

誰が何と言おうとこれはうちの後輩だ。

恋人の座はリヴェリアに渡せど、先輩の座だけは渡せない。

たとえ今は主神が違えども、その座だけは自分のものであると。

リューの中に久しぶりにそんな陽気な欲が出た。

 

「全く……どこの高級料理店で夕食をしたいのですか?」

 

「高級料理店!?べ、別に普通の所でいいですよぅ!」

 

「それならバベルの高層にある……」

 

「いいです!いいですから!本当にその辺りの、普通のお店で!」

 

「……?それではこれに釣り合わない」

 

「これ別に宝石とかじゃないですからね!?普通のアクセサリーですからね!?冷静になって下さい!本当にどうしたんですか!?」

 

可愛い後輩からプレゼントされたならば、それは宝石よりも上等な物に見えてしまう当然の摂理。今のリューの気持ちをユキも知る日が来るのかどうかは、きっとこれからの選択次第だろう。

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