白海染まれ   作:ねをんゆう

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77.raid

次の朝、ユキは早速廃教会を出て町へと繰り出していた。

昨日の夜にアルフィアと交わした、『死ぬ前に顔を見ておきたい人間と会う』という約束。

自分を寝かせる為に枕元に座っていたアルフィアは、完全に眠りに落ちる前のウトウトとしていたユキに再度念を押す様にその約束を告げてきた。

そこまでされてしまえば約束を破る訳にもいかず、迷う余地すら与えられる事はなく、ユキは余計な事を考えず朝からこうして外へと出る事ができた。

 

……会いたい人は多く居る。

リヴェリア、アストレアは勿論、ロキを含めたファミリアの団員達、リューを含めたかつてのアストレア・ファミリアの者達。

そしてこの街に来た時から何度も世話になった豊穣の女主人のミアや、アナンタに居た時から顔を知っているシル。

他にも武器のお世話になったヘファイストス・ファミリアや何度か共闘したヘルメス・ファミリアだったり、ギルドの職員だったり、フレイヤ・ファミリアだったり、それに……

 

(……思いの外、この街に来てから私はたくさんの人のお世話になっていたんですね)

 

たとえ誰一人として自分の事を知っていなくとも、そのお礼に何ら意味は無くとも、確かにアルフィアの言う通り、何も別れを告げないよりかは良いと今なら思える。

もしかすれば、彼女はそれを狙っていたのかもしれない。

死ぬ前にも準備がいる、ユキはそれを感じている。

 

(でも、最初はどこから向かえば……)

 

問題はそこだ。

いきなりファミリアに訪ねるとしても、この時代では不審者としか見られない。最悪、襲われて捕われて、よろしくない事になってしまうだろう。

だとしたら、本当に適当に出歩いて、昨日の様に偶然の出会いに期待するしかないのだが……

 

「……?あれは、炊き出しでしょうか」

 

そんな風に考えながらメインストリートを歩いていると、こんな時代にも関わらず何故か騒がしくなっている場所を見つけた。

そしてそこからは湯気を上げるスープ等を持った住民達が珍しく笑みを浮かべて歩いてきており、ユキはその光景はよく知っている。

 

(私も以前に他の街で参加した事がありますが……このオラリオでも行われていたんですね)

 

炊き出し……ユキもかつて旅の最中に立ち寄った紛争地帯で同様の光景を目にしたし、そこに参加していた思い出すらもある。

それに懐かしさを感じると同時に、確かそれは他ならぬかつての主神である神アストレアが企画したものだったとも思い出した。

 

(あれ?だとすれば……)

 

この炊き出しを企画したのも、もしかすれば神アストレアが関わっているのでは?

だとすればこの炊き出しにはアストレア・ファミリアが参加している可能性も……そうして周りを見渡せば、見つけた。

この時代のリュー・リオンが、赤髪の女性と、7年後とそう見た目が変化していない様に見えるロキ・ファミリアのガレスが話している所を。

 

「!ど、どうしましょう、本当に見つけてしまいました……!えっとえっと!さ、最初は挨拶?それとも、挨拶!?あ、挨拶以外に何も出来る事が……と、というか!ガレスさんがここに居るって事は、もしかしてリヴェリアさんも!?」

 

などと軽く混乱しながらも周りを見渡すが、どうにもリヴェリアは居ないらしい。

それに安心というか、けれど残念というか、そんな複雑な気持ちを抱いていると……はてさて、どうしたことか、この時代のリューがこちらに目を向けて何やら話しているではないか。

しかもそれを聞いた隣の赤髪の女性が何故かこちらに手を振っている。

隣にいるガレスは首を傾げているが、特に警戒している雰囲気は無くて……

 

「へーい!そこの子!私アリーゼ!こっちにおいでなさーい!」

 

「ちょ、ちょっとアリーゼ!?貴女は一体どんな呼び方を!?」

 

「え、あ………え?私……?」

 

アリーゼ、その名前は聞いた事がある。

かつてのアストレア・ファミリアの団長として活躍した『紅の正花(スカーレット・ハーネル)』の二つ名を持ったヒューマンの女性。

7年後のリューも、彼女の話をする時だけは懐かしさに目を和らげていた。

 

そして、そんな風に人前で呼ばれてしまえば今更何処かに逃げる事も出来ず……

 

「え、あの……私、でしょうか?」

 

「そうそう!貴女でしょう?昨日リオン達が絡まれてた神様にちょっかい掛けられてたのって!」

 

「は、はい、そうですが……」

 

「その、昨日は助けられなくてすみませんでした……大丈夫でしたか?」

 

「だ、大丈夫でしたから!そんな風に頭を下げないで下さい、リューさん!……あ」

 

「……?私の事を知っているのですか?」

 

「ふふん、流石は私達の自慢の末っ子ね♪そろそろ神様達の言うアイドルデビュー?をする時期かしら♪」

 

「いやぁ、アレはあまりオススメせんぞ?ロキが持って来た衣装を見て、リヴェリアが切れ散らかしておったしな」

 

「あ、あはは……」

 

なるほど、これは確かに……強い女性だ。

ユキはなんとなくそう思った。

一言二言聞くだけでわかる。

きっと彼女に口で勝てる者はそうは居ないだろう事を。

それをこれだけの会話で思い知らされる様な相手なのだから、そんなの人として強いに決まっている。

それにそもそも……まさかアストレア・ファミリアの団員達が、ガレスとここまで話せる関係だとは思ってもいなかった。

こうなれば最初に出会った時、ガレスがアストレアの眷属という事にあれだけ興味を持っていた事にも納得がいくというもの。

そして彼女達が命を落とした時に、きっと彼はそれなりのショックを受けただろう事もまた、今なら容易に想像ができる。

 

「それにしても、ここらでは見ない顔じゃな。お主ほど容姿が整っている冒険者がいれば、うちのロキが知らん筈が無いんじゃがのう」

 

「ん?確かにそうね、この私が思わず目を惹き寄せられてしまうくらいだもの。武器も持ってるし、雰囲気的にも貴女冒険者でしょう?どこのファミリアの人なのかしら」

 

「え?えっと……」

 

「………どうされました?」

 

そういえば、その質問に対する答えを全く決めていなかった事をユキは思い出す。

今日まで所属したのは2つのファミリア、だが今目の前にいる彼等は偶然にもその2つのファミリアの者達だ。

嘘がバレるとかそういう次元ではない。

 

「ふむ、言えんのか?訳有り、なのかのう」

 

だが、これ以上黙っている事もまたできない。

だってこの時代、自分のファミリアを答えられない眷属など完全に怪しい人物なのだから。

ジッとこちらを見つめているリューの目線もまた、次第に厳しさが籠もってきている様にも感じてしまう。

だが、一体どう答えればいいのか……素直に言った所で信じられる筈もあるまいし。

 

「……今は、何処にも所属していません。行くあてもなく彷徨って、気付いたらこの街に居ました」

 

「ほう……」

 

「………」

 

疑われているのは、分かっている。

だが、やっぱり変な嘘は吐けない。

それならばと、ユキは本当の事を言った。

別にこれで連行されたとしても、自分は何も悪い事はしていない訳で……むしろそれで他の人達に出会えるなら、それでも構わないかもしれないと思ったからだ。

そしてそんなユキの言葉に、目の前に居る3人は何やら微妙な顔をする。

 

「……どう思う?小娘」

 

「少なくとも、悪人には見えないわ。それにこの子、なんか見た目がアストレア様に似てるのよね……黒髪にしたアストレア様、みたいな」

 

「ア、アリーゼ、そんな事を言っては……!いえ、なんとなく分かると言えば分かるのですが」

 

「よ、よく言われます……」

 

「あ、やっぱり?なんだか一度アストレア様と会わせたくなってきてしまったわ」

 

「ロキには……見せん方がいいだろうが、リヴェリアは気にいるかもしれんな。その服装も、あやつは好みそうじゃ」

 

「そ、そうでしょうか」

 

気に入るかどうかで言われれば、間違いなくリヴェリアは今のユキの服装は好ましく思うだろう。

だって7年後の自分が頻繁に着ている服装なのだから、実はそれほど良くないにしても嫌うという事はあるまい。

それに……

 

「その反応、もしかすればリヴェリアのファンとやらか?珍しいのう、エルフ以外というのは」

 

「そ、それは……!は、はい……憧れて、ます」

 

「ちょっとちょっと!何この子可愛いじゃない!絶対悪い子じゃないわよ!この子!」

 

「ア、アリーゼ!周りの目があるのですから、そんなにはしゃがないで下さい!」

 

リヴェリアへの自分の反応だけで、彼女達からの反応がこんなにも変わった。

時代が変わっても、世界が変わっても、リヴェリアの存在はユキの事を救ってくれている。

それを考えるだけで、嬉しくて、気恥ずかしくて、そしてとても、心が痛くなる……

 

「っ」

 

「ん?どうしたの?鳥でも飛んでたかしら」

 

「……スキルが発動した?どうして」

 

「スキル?」

 

けれど、そんなかつての恋人に想いを馳せる時間も、長くは続かなかった。

ユキの認識から発動する筈のスキルが自然と発動してしまう程の悪の化身は、この時代も変わらず、むしろより脅威を持って、この笑顔の無い街を我が物顔で闊歩しているのだから。

 

「あぁ〜〜〜……………久々に晴れやがって、いい天気じゃねぇかぁ〜」

 

その女は時代を超えて、再びユキの心を折りに来る。

 

 

 

 

 

 

『はははははははっ!『前夜祭』だぁ!騒ぎに来たぜ、冒険者どもぉぉ!!』

 

『ひぃぃっ!!』

 

『た、助けてくれ!冒険者様ぁあ!!』

 

「っ、爆発!?これはまさか……アリーゼ!」

 

「ええ、行くわよ!リオン!」

 

「…………」

 

爆発と、悲鳴と、悍しい程に憎悪と悲しみに染まった思念達の流勢。

ああ、知っているとも。

これが何を意味しているのか。

分かっているとも。

全てが嫌になるくらいに。

 

「この外道がっ!!」

 

「あぁン?アストレア・ファミリアか……てめー等はお呼びじゃねぇんだよ、乳臭えガキども!」

 

「黙れ!!誰もが笑う筈だったこの場所で、よくも……!!」

 

これも、自分がこの場所にいるせい?

自分がこんな場所に来てしまったから、闇派閥はここを襲撃してきた?

そんな風に考えてしまうと、頭がおかしくなりそうになる。

逃げ惑う人々。

それを追う闇派閥の下っ端達。

先程まであった笑顔や少しの活気は、今や何処にも無い。

 

「ひぃっ!?」

 

「ぐぁあっ!?」

 

「な、なんだ!?なんなんだ!お前!」

 

また、泣きそうになる。

崩れ落ちそうになる。

けれど、身体は前に進み続ける。

 

『これから起きる事に、お前は関係ない。お前は何も悪くない』

 

アルフィアの語ったその言葉だけが、今ユキの精神を支えている。

そんな事はないと。

自分のせいではないと。

そんな言い訳をさせる余地を、残してくれている。

 

「なんだよ!なんだよお前っ!ギッ!?」

 

「ま、纏めてかかれ!爆発物を使っ……ひぅ!?」

 

「こ、こいつに構うな!他に行って……ぅっ」

 

剣を振るう。

血が返る。

もう涙は流れてる。

ユキの心は、もうこんな事で簡単に折れてしまう。

こんな光景を見るだけで、泣き始めてしまう。

59階層で穢れた精霊と戦った際に、どれだけ絶望的な状況でも不屈に立ち上がったその姿は、恋人に支えられて強くあり続けられたあの姿は、今はもう何処にもない。

 

「絶対に許さないわ!!絶対に、これ以上誰も奪わせない!」

 

「バ〜カッ!Lv.3のてめえ等が、Lv.5の私に敵うと思ってんのかぁ〜!?」

 

 

 

 

「それなら、私がお相手します」

 

 

 

「あぁン?…………なっ!?」

 

「「!?」」

 

アリーゼとリューの前に割り込む様にして、その少女は現れた。

薄緑の服に、黒色の髪を靡かせて……真っ赤な返り血を浴びながら、それでも涙を流し続ける、誰も知らない一人の少女が。

 

「っ、てめぇ、Lv.5か……!?」

 

「なっ」「嘘っ!?」

 

「……『救いの祈りを/ホーリー』」

 

「こっの……!!」

 

二本の銀剣が闇派閥の幹部:ヴァレッタを吹き飛ばし、それを追う様にして円錐状の錘が取り付けられた鎖が光を纏いながら放たれる。

狙われたのはヴァレッタの持っていた大剣。

驚くべき事に撃ち込まれた錘は大剣に巻き付くのではなく、むしろその異常とも言える突破力によって側面に穴を開けるように穿ち抉る。

決して安物という訳でも無いにも関わらず、たかが錘一つによって大剣を半壊させられたヴァレッタの表情からは、完全に余裕という文字が消え失せていた。

 

(不味い不味い不味い不味い、不味いっ……!)

 

今度は剣に多量の光を纏わせながら迫り来る女。

更に錘の撃ち込まれたヴァレッタの剣と自分の身体を引き寄せる様に鎖を引き寄せ、剣を失うか決死の一撃で挑むかの2択まで迫って来る。

……ヴァレッタのこれまでの戦闘によって培ってきた戦闘勘が悲鳴を上げた。

ここで後者の選択肢だけは絶対に取ってはいけないと。

あの女と正面から打つかり合う事だけは、間違いなくしてはならない事であると。

 

「くそがっ!!」

 

ヴァレッタは自身の勘を信じ、唯一の武器である大剣を投げ付けてその場から離脱する。

目の前の女は涙を流しながら、それでも白く輝く2本の剣で、まるで野菜でも切るかの様に簡単に、ヴァレッタの自慢の大剣を3つの鉄塊へと引き裂いた。

 

「この化け物が!!ただ泣いてるだけの雌餓鬼かと思えば、てめぇ今私のこと何の躊躇いもなく殺そうとしやがったな!!」

 

「……一人でも取り逃せば、犠牲が増えます。本当に人を助けたいのなら、貴方の様な人は真っ先に殺すしかありません」

 

「言うじゃねぇか、それでも正義の味方様かよ!」

 

「正義に固執して犠牲を増やしてしまうのなら、私にはそんなもの必要ない……!」

 

正義の否定。

殺人の肯定。

けれど目の前で戦う少女を咎める事など、誰もする事は出来ない。

手下から武器を奪い取り、何度か少女の攻撃を掻い潜るヴァレッタ。しかしその度に彼女の武器は破壊され、鉄の塊に変えられ、目の前に死という文字を突き付けられる。

アリーゼもリューも、その戦闘に割って入る事は出来なかった。

少女のあまりの迫力に、嘆き様に、かける言葉の一つも無かったからだ。

そしてあの光の剣撃に少しでも触れてしまえば、自分の身体が真っ二つにされてしまう光景が容易に想像できてしまって……

 

「お主等!眺めとる暇があるのなら手下共を片付けんか!ヴァレッタは其奴に任せとけぃ!」

 

「で、でもおじさま……!」

 

「犠牲を増やすな!!」

 

「………っ、はい!」

 

歴戦のドワーフの一言に、2人の少女も走り出す。

ヴァレッタの指令も受けられず、Lv.5のガレスが参戦した事により、手下達は既に劣勢に立たされていた。

与えられている被害も想定以上に少ない。

その原因は間違いなく、あの少女だった。

少女がヴァレッタと戦闘を始める前に手下達の一部の頭部を何の容赦もなく斬り飛ばしていた事も、彼等の戦意を削いでしまっていた。

そしてアリーゼとリューが加わった事により、彼等の勢いは益々弱まっていく。

 

「貴女のせい、貴女のせい、貴女のせい、貴女のせい、貴女のせい……!!全部全部、貴女のせいで……!」

 

「くっそが……!あたしはこんな所で殺される訳には、いかないんだよぉ!!」

 

「っ」

 

瞬間、ヴァレッタのその言葉に応える様に、ここより遥か遠くの建物の陰から、ユキに向けて凄まじい覇気が放たれた。

一瞬の意識の剥奪。

その直後、ヴァレッタとユキの間に1本の大剣が穿たれる。

安物の大剣だからか勢いに耐え切れず半壊してしまったそれだが、その威力は凄まじく、瞬き一つの合間にこの場へと現れた驚異的な速度は、周囲を完全に破壊し衝撃によって小規模のクレーターを作り出し、ユキとヴァレッタの両者を大きく吹き飛ばしてしまう程の現象を引き起こした。

 

「殺す……!てめぇは絶対に殺す!!覚えていやがれ!」

 

「待っ……!!」

 

そんな定番の様な台詞を置き去りに、無様にも隙を突いて逃げ出そうと企むヴァレッタ。しかしユキがそれを追おうとした瞬間に、またもや2本目の大剣を撃ち込まれた。

取り逃し、振り向き、大剣の射手を確認しようとすれば、そこに一瞬見えたのは漆黒の鎧を着た異常な雰囲気を持つ正体不明の大男。だが男はユキからの視線を感じ取ったその瞬間に、その鎧の重厚さからは考えられない程の速度でその場から姿を消す。

 

「……取り逃した」

 

そうして残ったのは、犠牲となった何人もの住民と、無作為に放たれた魔剣によって破壊された街々の瓦礫の山。怪我をした勇敢なる冒険者達だけ。

それでもまだ、涙は止まる事はなかった。

ユキのおかげで確実に犠牲は少なく済んだにも関わらず、ユキの心はここへ来る前よりもずっとずっと弱くなっていた。

自分がここに来なければ何も起きる事は無かったのでは無いかと、アルフィアの言葉を胸に抱いていても、どうしてもその考えだけが抜け出せなくて……




「遅かったな、アルフィア」

「……何の用だ、エレボス。お前こそ素直に休みを取るなどと珍しい事をしている様だが」

「いやなに、ヘルメスの真似事をして道化を演じていれば、少しばかり想定外の物を見つけてな。計画の変更をするか、はたまた時期をズラすか、考え直していた所だ」

「お前がそこまでする程の物が?」

「ああ、そうだな……居る筈のない英雄が居た、と言えば分かりやすいか」

「!……英雄だと?」

「あれは本当のイレギュラーだな、在り方からしても一時的な顕現に過ぎないだろう。……だが、それがオラリオの冒険者共にとって毒となるか薬となるかは見極める必要がある」

「……その英雄とやらが現れた事で、冒険者共が腐るか、奮起するのか。そういう事か?」

「簡単に言えばそうだが、そこは英雄様の育ち方次第だな。仮に明日の襲撃で冒険者共が奮起するのであれば問題ない。だが腐る様であるのなら……」

「構わない、我々が叩きのめす」

「……本当に出来るのか?アルフィア」

「……なにが言いたい」

「お前ほどの女が気付いていない筈も無いだろう。目蓋を閉じているお前の目は口程に物は言わないが、お前の纏っている空気の質が大抵の事は物語っている」

「…………」

「これは女性を大事にするクソイケメンのお兄さんからの忠告だが、まだ間に合うぜ?まだお前は、何もしていない」

「……これ以上私を惑わせてくれるなよ、エレボス。今やどちらを取るにしても後悔する事に変わりはない。ならばせめて、より多くの救いとなる方を私は選ぶ」

「……そうか。やっぱりお前はいい女だな、アルフィア」

「……そうでもない。私は所詮、どこまで行っても冒険者だ」



(ああ、そうだ。私がもし女として優れていたのであれば、迷う事なくあの手を取れていただろう……)

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