白海染まれ   作:ねをんゆう

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78.meeting

「各ファミリア代表、揃ったな。ではこれより、定例の闇派閥対策会議を始める」

 

ギルド内に存在する会議室の一つ。

今やここに座る彼等にとっては見飽きた顔触れとこの光景の中で、今日は一段と深刻な雰囲気が部屋を満たしていた。

ギルド長ロイマンの一言によって始まった今日の対策会議は、そしてやはりあまり良い空気のままには進まなかった。

 

炊き出しの最中に住民達を巻き込む形で行われた闇派閥による奇襲に、やや八つ当たり気味に冒険者達を責めるロイマン。

そしてこんな事態にも関わらずオラリオの世間体の為にギルドから強制された遠征を終え、直後に対処に駆り出された事に機嫌を悪くするフレイヤ・ファミリア(主にアレン)。

そんな彼等を嗜めようとしながらも、簡単に退く筈のないアレンによって、更に空気をピリピリとさせてしまうロキ・ファミリア。

 

他にもガネーシャ・ファミリアやアストレア・ファミリア、そしてヘルメス・ファミリアの団員もここに居るのだが、彼等でも流石にここを静する力や発言力は持っていない。

 

殺気に満ちた状態から始まったこの会議は、次第に反省ムードに切り替わり、情報を秘匿していたフィンへの指摘に移り変わり……けれどそこでこのピリピリとした空気に全く物怖じする事のないアリーゼが一言を挟み込む事によって、それまでの積み重なった全ての負の感情が一変に根底から蹴り飛ばされる。

 

どちらかと言えば、これもまたいつもの事であった。

 

この中では力も発言力も持っていないアストレア・ファミリアだが、アリーゼだけは別と言っていい。

何にも動じる事なく正論を突き出し、空気も読まずに全てを打ち壊す事ができる彼女は、ある意味その在り方でだけでも人々を救っているのだから。

時にはその被害に遭うものの、その言動に救われる事もあるここの者達にとって、ある意味彼女の発言力はアストレア・ファミリアとしての物より大きな物となっている。

きっとリュー・リオンを含めた団員達が彼女を慕っているのも、こういった理由があるのだろう。

レベル5や6の者達に対しても、レベル3の小娘が正論で殴り付ける。

きっとそれは力の質こそが全てと言われる冒険者の常識を、人間としての質こそが力とでも言う様な行いだ。

ここに居ないファミリアの者達の中でも、そんな非常識な彼女を密かに応援している者は多かったりもする。

これは彼女自身は知らない話ではあるのだが。

 

「……敵にLv.6以上の手練が、少なくとも2人以上は居るという事は分かった。じゃが、もう一つ、ワシからも伝えておきたい事がある」

 

「ガレス……?何かあったのかい?」

 

「うむ……まあ、ワシが話すよりは今その者を保護しておる小娘共から話す方がよかろう。アリーゼ」

 

「ええ、分かっているわ!おじさま!」

 

超硬金属の壁を普通ならば有り得ない程の凄まじい規模で破壊したLv.6以上の何か。

そして廃教会への調査を開始しようとしたガネーシャ・ファミリアの30人以上の団員を一瞬で一掃した正体不明の女。

闇派閥にそんな規格外の化け物達が存在している可能性が出されたこのタイミングで、こういった会議では珍しく声を上げたのがロキ・ファミリアのガレス・ランドロックだった。

どうやら事前にフィンすらも話を聞いていなかった様で彼も珍しく驚いていたが、話がアストレア・ファミリアの少女達が関係しているという事を聞いて耳を傾ける。

 

ガレスはどうも彼女達に甘いというか、可愛がっている節がある。

それに、彼がフィンに確認を取る前に判断した事ならば相当の理由があると分かっていたからだ。

それに彼がこの会議に彼女達と直接来たという事にも、何かしらの原因があったとは思っていた。

 

「敵にLv.6以上の相手が居るなんて嫌な話が出て来た所で、すごく良い報告になるわ!なんと、こっちにもLv.5以上の味方が出来ました!」

 

「………は?」

 

「何言ってんだあの餓鬼」

 

「……"紅の正花"、流石にそれは」

 

「ガレス、これは何かの冗談かい?」

 

「いや、冗談ではないんじゃ。事実、その新しい味方とやらが今回の襲撃の最中にワシの代わりに【殺帝】を抑えてくれた。……むしろ、邪魔さえなければ完全に対処出来ておったくらいにな」

 

「それほどの人物が……!」

 

アリーゼの言い方からして変な冗談とでも思っていたその情報が、ガレスの言葉によって次第に真実味を帯びていく。

この時代、Lv.5以上の者などオラリオくらいにしか居らず、ギルドで確認出来ていない者などそれこそ全く居ないと言ってもいい。

むしろ把握できていなければ闇派閥に関係しているか、他国で悍しいやり方で奇跡的に生み出された異常な存在だけだ。

故に、彼等は困惑する。

そんな怪しい人物を、どうしてガレスやアリーゼ達は自信満々に『味方』と評する事ができるのか。

そもそもそんな存在、たとえガレスが発した言葉であったとしても、それでもなお信じ難いというのに。

 

「名はユキ・アイゼンハート、所属ファミリアは不明。本人曰く、レベルは5だと言う話じゃ」

 

「……聞いた事が無いな、オラリオの外から来たのか?」

 

「それが分からないのよねぇ。あの子、自分の過去の話だけは頑なにしてくれないから」

 

「おい、流石に怪し過ぎるだろ。そんな小娘1人に誑かされるくらい耄碌したか、ジジイ」

 

「……ガレス、言いたくは無いけれど流石にそれは僕も怪しいと思うよ。君が信じられる理由が何かあるのかい?」

 

「ううむ、確固とした理由となると難しいんじゃが……まあアレは一度直接見なければ分からんだろう、あの切実さはのぅ」

 

「切実さ、ですか……?」

 

「ええ……あの子、戦ってる時ずっと泣いてたのよねぇ。ヴァレッタを逃した後も凄く悔やんでたし、そんな風に泣きながらでも治療派閥が来るまで住民の治療をしてたの。むしろ見てるこっちが辛くなるっていうか」

 

「何かしら抱えているのは見て分かったが、ワシ等に向けていた感情の中に間違いなく負のものは入っておらんかった。それに……」

 

「それに?」

 

その次の言葉を言おうとして、アリーゼ達は気まずげな顔をしてしまう。

それはアリーゼの隣でずっと黙っていた輝夜でさえも同じで、思い出したその光景の痛々しさに、まるで今でも心が打たれている様に目線を下げた。

 

「……あの娘、アストレア様と顔を合わせた瞬間に泣き崩れた。どうにも疑う事が難しい人間性をしているようで」

 

「何故かリオンとアストレア様に懐いてたみたいだから、今は2人に任せてあるの。それにあの光を見る限り、前の工場の襲撃を事前に阻止したのも彼女みたいなのよね」

 

「工場の襲撃……ああ、あの『女神の戦車』が防いだのでは無いかと言われていた白い閃光の」

 

「……という事は、彼女は少なくともアレンと同等の速度を持っているという事かい?それにヴァレッタを封じ込めたとなると、Lv.5以上の実力を持っているというのは本当の事なのか」

 

「チッ」

 

「それほどの実力者が、今まで一体どこに……」

 

理由は分からないが、リューとアストレアに心を許していて、むしろアストレアに至っては顔を見た瞬間に足の力が完全に抜けてしまい、周りの声も聞けない程に泣きじゃくり始めたあの少女。

アレを見た瞬間に輝夜とライラを含めた彼女を疑っていた者達は完全に毒気を抜かれてしまったし、むしろ戸惑ってしまった。

過去に会った事はないとアストレアとリューは断言したにも関わらず、どうしてか2人は少女の事を気にかけている様で、今も泣き続ける少女の側に居たりする。

 

「……そういえば、あの子はリヴェリアにも憧れておる節があったな。服装もお主が好きそうな物を着ておった」

 

「なに?……いやだが、やはり私もその名前には記憶が無いな」

 

「謎多き少女、というには少々深刻な気もするね。味方とは言うものの、その子は本当に戦えるのかい?」

 

「……戦える事は戦えると思いますよ。勇者様が1人の少女の心を壊さなければ勝利を掴み取れないと言うのでしたら、ですが」

 

「チッ、使えねぇ」

 

「あくまで切り札、と言った所かな。それでも無いよりはマシだろうけど……うん、今はその少女の事は君達に任せるよ。厄介事を押し付ける様で悪いけれど」

 

「別にいいわ、私もなんだかあの子は放っておけないもの。……あ、でも!リヴェリア様には時間を作ってあの子に会って欲しいわね!あの子、リヴェリア様のファンみたいだから!」

 

「あ、ああ、それは構わないが……」

 

ファンとは言うが、本当にその類なのかも少し疑わしい所だ。

もしかすれば自分の前でもまた彼女は泣き崩れてしまうかもしれないし、そうなった時に自分はどうすればいいのかと。そう思わずには居られない。

それに……

 

「そのガキの事はどうでもいい、が…………おいジジイ、一つ聞かせろ」

 

「ん?なんじゃ、戦車」

 

「その小娘は……女神の目に留まる可能性はあるか」

 

「「「「…………」」」」

 

それだけが、今は恐ろしい。

実力もあり、聞いた限りでは善人であり、突如として現れたイレギュラーな存在。

もしその少女が女神の目に留まってしまえば、一致団結しなければならないこの状況においても、それなりに面倒な火種となってしまう可能性がある。

そうなれば最悪の場合にはフレイヤ・ファミリアに引き込めばいいかもしれないが、少女の精神状態を考えるとあまりに面倒だ。

出来るならば女神が気にかけない程度の人間であるのならば嬉しいが……

 

「率直に言うが……可能性は十分にある」

 

「チィィッ!!」

 

「今日一番の舌打が出たね……」

 

「というか、既に見られてはおらんかと冷や冷やしとるわい。……それにあの女子、生粋の善人の癖に、他者を守る為ならば泣きながらでも命を奪うなどという境地に至っておるからのぅ」

 

「それは……心を壊すのも当然だろう。あまりに純粋過ぎる、それほどの実力があるのならば少しくらいは屈折していてもいいだろうに」

 

「そんなもんあの方が気に入ら無ぇ訳ねぇだろうがァァア!!」

 

「気持ちは分かるが落ち着け、アレン」

 

そんなのもう、別にフレイヤじゃなくてもそうだ。そんな人間として、神の子供として、あまりにも可愛過ぎる壊れ方をした者を面白いと思わない神など、むしろ少ないくらいだ。

ここに居る輝夜だってなんとなく思っている。

何故あの日、リオンの次に神エレンに話しかけられていたのが彼女なのか……

彼女もまたリオンと同じで真っ直ぐ過ぎるのだ。

それはもう神の玩具としては最適だろう。

リオンよりも彼女の方が少しばかり現実は見えているのかもしれないが、それでもそうは変わらない。

 

「とにかく、彼女のことは今は女神アストレアに任せるとしよう。もし女神フレイヤが何かしら行動を起こすようなら……せめて事前に議題に出しておいてくれ。なるべく平和的な方法で解決したい」

 

「……善処する」

 

果たして、その少女の存在が冒険者達にとって本当に良い影響をもたらしてくれるのか……今のところでは五分五分、むしろ4分6分くらいかもしれない。

もちろん6分の方は悪い意味で。

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