鬼舞辻無惨レ〇プ!鬼狩りと化した先輩&淫夢ファミリー   作:ジョニー一等陸佐

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第10話 最初の任務

 野獣と炭治郎は指示に従い、鬼が出没していると思しき町を歩いていた。

 ちなみに禰豆子は何処にいるかというと・・・炭治郎が背負っている箱の中にいる。昼間禰豆子を運ぶために鱗滝が特別に作ったもので、非常に軽い霧雲杉という木で作られている。岩漆を塗って外側を固めてあるので強度も高い。昼間野獣と炭治郎が移動する間、鬼である禰豆子はこの箱の中に入ることで安全を確保・二人と行動を共にすることが出来るようになる。

 歩きながら炭治郎は一人の人物・・・もとい鬼の名を呟く。

 

 「・・・鬼舞辻無惨・・・それが俺たちの仇」

 

 「こうもあっさりと仇がだれなのか分かるなんて意外っすね・・・」

 

 歩きながら、二人は鱗滝から聞いた自分たちの仇であり、おそらく禰豆子を人間に戻すためのカギとなるであろう人物についての話を思い出していた。

 

 『人間を鬼に変える血を持つ鬼はこの世にただ一体のみ。今から千年以上前、一番初めに鬼となったもの。つまりそれがお前の家族の仇だ、炭治郎。さらにそいつならば妹を人間に戻す方法を知っていると儂は思っている。その鬼の名は・・・鬼舞辻無惨』

 

 家族の仇にして、禰豆子を鬼にした張本人。そして禰豆子を人間に戻すためのカギになるであろう鬼。二人にとってまず彼について情報を集めることは何よりも重要なことだった。

 

 「今回の任務で鬼から鬼舞辻無惨について聞き出せたらいいんですが」

 

 「まぁ、地道にやっていくしかねえな・・・でも」

 

 野獣は町を見渡す。

 

 「指示に従って街にやって来たはいいけど・・・どうすればいいですかね?肝心の鬼を見つけないことにはどうにもならないし・・・これもう分んねえな」

 

 「とりあえず聞き込みとか、地道に調べていくしかないと思うんですけど(提案)」

 

 二人がそんな風に今後の行動について相談しながら歩く中、一人のやつれ落ち込んだ様子の青年がふらふらと二人のそばを通り過ぎた。よく見ればその顔には殴られたような跡がある。

 男について知っているのか、町の人が彼を指さしたり、見やったりし、噂をする。

 

 「ほら和巳さんよ、可哀想にやつれて・・・」

 

 「一緒にいたときに里子ちゃんが攫われたからね・・・」

 

 「毎晩毎晩気味が悪い・・・」

 

 「ああ、嫌だ。夜が来ると若い娘が攫われる」

 

 「ここ最近、毎晩のように若い娘が行方不明になっている」

 

 「いったいつまでこんなことが続くのやら」

 

 野獣と炭治郎は顔を見合わせた。

 鎹鴉の指示にあった、毎晩若い娘が攫われる話。

 町の人々の噂。

 そして先ほど二人を通り過ぎた和巳という青年。彼はその失踪事件の関係者らしい。

 二人は振り返るとすぐに先ほどの青年、和巳のところに駆け寄った。

 

 「和巳さん、ちょっとお話を伺いたいのですが・・・」

 

 

 

 

 

 閑静な住宅街。

 野獣と炭治郎は和巳から里子という女性が消えた話を聞き、その現場にいた。

 

 「じゃあ、気付いたら完全に消えていたと?」

 

 「ああ・・・」

 

 和巳によれば話は次の通りだった。

 彼には里子という名の婚約者がいた。

 ある夜、彼はいつものように彼女と共に家路を歩いていた。彼が提灯を持ち、その後ろについていくように里子が歩いていた。

 途中、不意にごく短い彼女の声ないし悲鳴のようなものが聞こえた気がして、後ろを振り向いた時には彼女の姿はなく、影も形もなかった。確かに彼の後ろをついていたはずなのに、また付近には誰もいなかったのにもかかわらず、である。

 つまり里子は誰も認知しないうちに一瞬でその姿を消した、あるいは攫われたということになる。

 同様のことはここ最近この町で連日のように起きていた。

 

 「ここで里子さんは消えたんだ。信じて貰えないかもしれないが・・・」

 

 やつれた表情のまま和巳は首を横に振る。顔についた殴られた跡は里子の父親にやられたものだという。突然自分の娘が疾走したので、混乱し、受け入れられず、和巳の責任だと彼にぶつけようとしたのかもしれない。

 

 「信じます。俺は信じますよ」

 

 和巳の話を聞いた炭治郎はそう言うと、おもむろに地面に伏せ匂いを嗅ぎ始めた。

 

 「えっ、なにそれは・・・」

 

 炭治郎の突然の行動に困惑する和巳。

 そんな彼に野獣は言葉をかける。

 

 「んぁ、大丈夫っすよ、こいつ鬼の匂いを嗅ごうとしているだけだから」

 

 「え?」

 

 「この状況・・・どう考えても、鬼の仕業としか考えられないって、はっきり分かんだね。鬼の匂いどう?する?しない?」

 

 地面に伏せ花(鼻)を引くつかせる炭治郎に声をかける野獣。

 

 「んにゃぴ、やっぱり鬼の匂いが・・・微かにしますね、とりあえず。でもまだらというか・・・変な感じがしますよ」

 

 「とりあえず、鬼の匂い辿ることはできる?」

 

 「できますできます」

 

 「・・・あなたたちは一体?」

 

 (・・・そういえば、鬼狩り様が、鬼殺隊がいるという話を昔聞いたな。もしかして二人は・・・いや、まさか・・・)

 

 奇妙なやり取り、鬼という単語。

 何から何まで不思議なこの二人に和巳は不意に、噂で聞いた話を思い出し、しかし否定するのだった。

 

 

 

 

 

 炭治郎が地面にかすかに残る鬼の匂いを辿り、それを野獣と和巳が追う内に数刻が過ぎ、日が沈みはあたりはすっかり暗くなっていた。夜に――鬼が現れる時間になったのだ。

 不意に炭治郎がこれまでより大きく鼻を引くつかせると突然道を走り出した。

 

 「!?どうした炭治郎!」

 

 「どうしたんだ急に!!」

 

 「匂いが濃くなった!!鬼が現れてる!!浩二さん、俺についてきてください!!」

 

 「ん、おかのした!」

 

 炭治郎と野獣は一刻も早く鬼が現れたであろう場所に向かうため、これまでよりも速い速度で駆け出した。呼吸法により、肉体の動きと働きがさらに活性化し、常人を遥かに上回る、鬼に匹敵する身体能力が発揮される。

 跳躍。

 一般人にはありえない高度まで飛んだかと思えば野獣と炭治郎は二階建ての家屋の屋根に着地。そのまま建物を辿るように疾風の如く屋根の上を駆けていく。

 そのありえない光景に和巳はただ唖然とする。

 その一方で、鬼の話や鬼殺隊の噂は本当だったのだ、と悟る。

 しばらく呆然とする彼だったが、はっと我に返ると何とか彼らに追いつこうと走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 しばらく走ると、野獣と炭治郎は静かな道に着地する。周りは閑静な住宅や建物で囲まれ、人は一人もいない。

 二人はゆっくりと日輪刀を抜き構える。

 

 「ここです。鬼は今ここにいます。匂いは二種類・・・鬼と人間の女の人の匂いが」

 

 「つまり、攫われたばっかりってことか・・・ここ最近の失踪事件や聞いた話と完全に合致してるってはっきり分かんだね。でも姿が見えねえぞ・・・?」

 

 野獣の言葉通り、今この道には自分たち以外には誰もいない。炭治郎の嗅覚通りなら、確かに今ここに鬼が現れたばかりなのだが・・・

 炭治郎はさらに匂いを嗅いだ。

 この匂いが強かった場所で取り分けて一番濃い匂いがする場所を探す。

 そして、炭治郎の鼻が大きく引くついた。

 

 「こ↑こ↓だ!!」

 

 瞬時に、地面に向け刀を突き刺す。

 

 「ギャッ!!」

 

 地面から人ならざる者の悲鳴が聞こえたかと思うと、突き刺した点を中心に影のような真っ黒い染みが地面一面に広がる。

 そして、水面から物体が姿を現すように、黒い面に何かが浮き出る。それは最初何かの布のように見えたが、だんだんと姿を露にしていく。

 

 「!」

 

 黒い影に浮き出てきたのはまだ十代と思しき少女だった。意識を失いぐったりとしている。が、特に目立った外傷はなく呼吸も正常で生きている。

 うら若い少女が攫われる、鬼、若い女の匂い――

 瞬時に鬼に攫われたばかりの少女だと悟り野獣と炭治郎は迷うことなく彼女を掴み、地面に広がる黒い影から引き揚げようとする。

 直後、そうはさせまいとばかりに黒い影からさらに腕のようなものが伸び少女の着物の袖を掴む。その手の爪は異様なほどに鋭かった。

 瞬時に炭治郎は彼女を掴み、抱きかかえて後ろにジャンプ。着地する。ビリっと掴まれていた袖の部分が破れる。着地した炭治郎たちの盾になるように野獣が前に出て刀を地面の影とそこから現れた異形の存在に向ける。

 水面から人が現れるように、その異形の存在が姿を現す。

 忍者のような黒に網目模様の入った服に、額に生えた三本の角。目は真っ黒く、爪は鋭い。時折口から見える歯は鋭い。先ほど炭治郎が突き刺したものだろうか、右腕には切り傷があり出血していたが、シュゥゥゥと瞬時に再生し血も消えていく。

 間違いない。こいつは鬼だ。それもただの鬼ではない。

 

 「異形の鬼・・・!」

 

 野獣と炭治郎は砂霧山で鍛錬していた頃の、秋吉と鱗滝の言葉を思い出した。

 

 『異能の鬼っすか?』

 

 『ああ。鬼の中には”血鬼術”という特殊な術、異能を使う鬼がいる。それが異能の鬼だ』

 

 『一口に異能、血鬼術といっても様々だ。催眠や、空間移動・・・いずれにせよ、全ての鬼がそうというわけではないが、そのような術を使う鬼が大勢いる。鬼殺隊士として活動する以上、今後はそのような鬼とも戦うことになるだろう』

 

 あの鬼はさっきまで地面の中にいた。おそらくあの影のようなもので地面の中に空間を作って普段は隠れ、人を攫うとすぐさままた攫った人間ごと地面の中に潜り隠れていたのだろう。それがここ最近の失踪事件の真相だろう。おそらく里子を攫ったのもこの鬼だ。道理で姿が見えなかったわけだ。

 

 「・・・!?なんだ、これは・・・」

 

 ようやく野獣と炭治郎に追いついた和巳が異能の鬼の姿を目にして絶句した。

 炭治郎が叫ぶ。

 

 「攫った女の人たちは何処にいる!それから二つ聞く・・・」

 

 だが言い終える前に、鬼がギリギリと歯ぎしりをしたかと思うと野獣と炭治郎を睨んだ。歯ぎしりの不快な音があり得ないほどの大きさまで大きくなり、響く。睨んでいるのと相まってまるで威嚇しているかのようだ。

 その勢いに誰も何も言えずにいる。炭治郎も鬼から怒りとも憎しみともとれる強烈などす黒い感情の匂いを感じ取る。

 そのまま鬼はどぷん、と影の中に沈んでいったかと思うと、同様に地面の影も急速に小さくなり完全に消えた。

 助け出した女性を和巳に預け抱えてもらうと、野獣と炭治郎は二人を守るように自分たちの間合いの内側に入れ歩き出す。

 

 「炭治郎、さっきの鬼の匂い、まだ分かる・・・分からない?」

 

 「匂いはまだします。あの様子ならたぶん地面や壁ならどこからでも・・・もしかすると空中からも出てこられる。でもこの鬼は潜っている間も匂いを消せません!俺が合図をするから浩二さんも合わせて、お願いします!」

 

 「オッス、お願いしまーす!」

 

 二人が掛け合っていると、不意に再び匂いが強くなった。

 

 「!来た!」

 

 水の呼吸、伍ノ型、干天の慈雨――

 野獣の呼吸、参ノ型、愛栖鄭――

 

 一点に狙いを定め、一気に同時に刀を振り下ろそうとする二人。だが――

 

 「!?」

 

 「ファッ!?」

 

 地面に黒染みが広がったと思った瞬間、先ほどの鬼が地面から現れる。だが、先ほどとは様子が全く違っていた。現れたのは――三体。それぞれ生えている角が一本、二本、三本となっているという点を除けば全く同じ姿の異能の鬼が三体、一気に地面から現れたのだ。それも野獣たちを取り囲むように。この異能の鬼は地面に潜り隠れるだけでなく、分裂できるというのか、あるいはもともと三人だというのか。

 

 ――落ち着け、技を変えろ――

 

 瞬時に呼吸の型を変える。

 

 水の呼吸、捌ノ型、滝壷――

 野獣の呼吸、肆ノ型、法螺法螺法螺法螺――

 

 炭治郎が真下に斬撃を与え、さらに野獣が瞬間に刀を連続して振る。

 三人の鬼の腕を切り、あるいは身体の一部に切り傷を与える。だがその刃が首に届くことはなく致命傷を与えることはなかった。

 チッ、と舌打ちをしたかと思うとまたどぷん、と水に潜るように地面に消える。

 

 「ふざけんな!(声だけ迫真)鬼が群れてるなんて聞いてねえぞ!三人一気に襲い掛かるとかこれもうやべえよ・・・やべえよ・・・」

 

 「三人とも全く同じ匂いでした・・・一人の鬼が分裂しているんだ」

 

 それはつまり二人の人間を守りながら、三人の鬼を切らねばならないということだ。しかも相手は地面に潜りどこからでも自由に攻撃を繰り出せる。

 どちらか一方が二人の護衛に徹し、一方が攻撃に出れば一人で三人を相手にすることになる。二人で一斉に攻撃に出ても、残る一人の鬼があの二人を襲う。相手の鬼の数が多く、姿を隠し、地面や屋根など、どこからでも襲える以上、確実に隙を突かれるだろう。建物に囲まれた決して広いとは言えない道であり、また人を守らねばならない以上刀を思い切り振ることはできない。状況は野獣たちが不利だ。

 再び今度は後ろから和巳たちを襲うように鬼が現れる。

 炭治郎が刀を振るう。が、切込みが浅く、致命傷にならなかった。

 下半身を地面に潜らせたまま鬼が叫ぶ。

 

 「貴様ァァァ!!邪魔をするなァァァ!!女の鮮度が落ちるだろうがぁ!!もう今その女は十六になっているんだよ!早く食わないと刻一刻で味が落ちるんだ!!」

 

 「冷静になれよ、俺」

 

 ゴボ、という音とともに更にもう一体鬼が地面から現れる。呼びかけ方からしてやはり一体の鬼が三体に分裂していると考えるべきだろう。

 

 「まぁいいさ・・・こんな夜があっても。この町では十六の娘を喰ったからな・・・どれも肉付きがよく美味だった。俺は満足だよ。」

 

 「俺は満足じゃないんだよ!まだ喰いてぇんだ!!」

 

 「ば、化け物・・・一昨晩攫った、里子さんは・・・里子さんは何処だ!里子さんを返せ!」

 

 言い合う鬼に和巳が震える声で、必死に叫ぶ。

 和巳の声に反応した鬼が首をかしげる。

 

 「里子?・・・誰のことかねえ。この蒐集品の中にその娘のかんざしがあれば喰っているよ」

 

 いやらしい笑みを浮かべながら鬼が服をめくり、その内側を見せる。そこにはおそらく今まで攫い喰ってきた女のものであろうかんざしや髪飾りが所狭しと並び吊るされていた。

 そしてその中に一つ、目立つ形で大きな赤い髪留めがあるのを見た瞬間、和巳は青ざめ、大粒の涙をぼろぼろと流す。その眼には絶望と、悲しみと怒りで満ちていた。同時に野獣と炭治郎も悟る。

 間に合わなかった。里子は、彼の婚約者は喰われたのだ。

 その悲しみと怒りを野獣も炭治郎も、特に炭治郎にはよく分かった。なにしろ彼は鬼に大切な家族を殺されたのだから。不意に炭治郎と野獣の脳裏に今は亡き竈門家や人間だったころの禰豆子の姿が思い浮かばれる。それらの姿はあっという間に血にまみれていく。

 この忌むべき畜生は大切な家族を奪った。そしてただ食べ物として喰うばかりでなく戦利品だといわんばかりにその装身具を収集する。命への冒涜以外の何物でもない。

 

 「なんてことを・・・(憤怒)」

 

 「屑共が(至言)」

 

 あっという間に二人の心は怒りで染め上げられ、刀を握る手が強くなる。

 再び、三人の鬼が一斉に襲い掛かる。

 野獣も炭治郎も刀を振るうが、相手は素早く、壁や地面から突然現れて隙をついて突然襲い掛かるため、攻撃は浅くなり、決定打になりえない。

 一人の鬼が炭治郎の真後ろから襲い掛かる。その鋭い爪と牙が炭治郎の頸をとらえようとしたその瞬間、炭治郎の背負っていた箱の戸が開き、脚が飛び出した。明らかに人間のものではないすさまじい勢いで飛び出した脚はそのまま、後ろから炭治郎を襲おうとした鬼の頭を蹴り上げた。その威力は、蹴りを食らった鬼の首がぐるりと一回転したほどだった。ミシ、グシャッ、ベキッ!と骨の折れる音がし、口から大量に血を吹き出し後ろに倒れる。

 ゆっくりと開いた箱から蹴りを出した人物――禰豆子が現れる。

 外の、炭治郎や野獣の危険を察した彼女が眠りから起き、飛び出したのだ。

 

 「なぜだ・・・どういうことだ?なぜ人間の分際で、鬼を連れている・・・?」

 

 信じられないといった様子で一体の鬼が呟く。

 その疑問ももっともだ。本来ならあり得ない光景なのだから。

 今の禰豆子は鬼。喰う側の存在である彼女がなぜ、喰われる側の人間を、しかも鬼にとって最大の敵の鬼殺の剣士を襲うことなくともに連れたって行動しているのか・・・?

 箱から出てきた禰豆子はゆっくりと女性を抱きかかえる和巳のもとへ歩くとそっと、やさしくその顔に手を添え、じっと顔を見つめる。その瞳が、和巳の目に浮かぶ涙を捕らえる

 

 「・・・禰豆子」

 

 その光景に何を思ったのか。禰豆子が振り返り歩みだす。

 炭治郎も、そして野獣も察した。今の禰豆子が怒りと決意に満ちていることに。人間が傷つけられ、大切なものを奪った鬼に怒り、人間を、炭治郎たちを守ろうとしていることを。

 禰豆子が再び足を振り上げ、地面に浮かぶ鬼に振り下ろさんとする。振り下ろされる直前、鬼が再び地面に潜る。それを追うように駆け回る禰豆子。禰豆子を捕らえんと、再び鬼が地面から現れ手を伸ばすがひょいと、空中を一回転し避ける。

 

 「禰豆子、深追いするな!こっちへ戻れ!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

 「!」

 

 炭治郎と野獣のもとに駆け戻る禰豆子。

 二人は迷っていた。禰豆子は今は人間ではなく鬼だ。人間よりもはるかに強い鬼で、日光や日輪刀以外ではまず死ぬことはない。必ずしも二人が守らねばならないほど弱いわけではなく、むしろ、鬼と対等にやりあえる存在なのだ。

 だが、禰豆子は二人にとって家族。任せてもいいのだろうか。任せれば攻撃に専念できるだろうが・・・

 だがこのままでは埒が明かない。

 先に肚を決めたのは野獣だった。

 

 「・・・炭治郎、俺は・・・下に潜るよ」

 

 「え?」

 

 「奴が現れたすきを狙って一緒に地面に潜る。炭治郎は禰豆子と一緒に二人を守ってくれ・・・禰豆子に任せるんだ!」

 

 「でも、浩二さん・・・!」

 

 迷い、また野獣を案じる炭治郎。 

 その時、野獣の真下に黒い染みが現れたかと思ったら、あっという間に彼を飲み込むように地面に広がっていく。

 だがむしろこれはチャンスだ。

 野獣は迷うことなく飛び込んだ。野獣の体が一気に沈んでいく。

 

 「浩二さん!」

 

 「炭治郎、仲間を、家族を信じるんだ!そしてやるべきことをやれ!」

 

 「・・・!」

 

 炭治郎がはっとしたように目を見開く。禰豆子と目を合わせる。禰豆子がうなずいた。炭治郎も頷く。

 そうだ、仲間を、そして家族を信じないでどうする。それに自分にはやらねばならないことがある。やらねばならないのだ。何としても、和巳たちを守り、そしてあの鬼を倒すのだ。

 炭治郎も腹を決め、日輪刀を握るその手に力がこもる。

 

 「禰豆子・・・いこう!二人を頼んだ!」

 

 

 

 

 

 影の中に飛び込んだ野獣が目にしたのは地面も、上下左右もない漆黒の空間だった。

 殆ど空気もなく、息ができない。体を動かそうにも抵抗を感じる。まるで水か沼の中だ。

 そして、その中を無数の着物や物品が浮かんでいた。おそらく攫われた女たちの着物や持ち物だろう。その数から多くの人間が殺されたことはすぐに推察できた。何の罪もない人間をこれだけ殺戮するとは。野獣に怒りが湧く。

 

 「くくく、苦しいかステハゲ!この沼の中には殆ど空気もない!さらにこの沼の闇は体に纏わりついて重いだろう、ハハハ!」

 

 「地上のようには動けん!ざまあ見ろ!浅はかにも自ら飛び込んできた愚か者め!」

 

 暗闇の中から二体の鬼が迫り、罵倒してくる。

 野獣の怒りがさらに湧く。

 この野郎、俺がステハゲだと?俺はステロイドなんてやってねえし、ハゲじゃねえ!風評被害を勝手にばらまきやがって。

 それに俺たちが一体どこで鍛錬してきたと思ってるんだ?狭霧山の頂上はここよりもっと空気が薄かった。それに俺は迫真空手部だけじゃなく水泳部も掛け持ちしてたんだぞ。こういうところはむしろ得意だ、舐めるんじゃねえ――

 二体の鬼が前後から挟み撃ちするように凄まじい勢いで野獣に迫る。

 だが野獣は臆することなく自分から突っ込んでいった。

 まず前方の鬼向かって勢いよく泳いでいく。もともと水泳部で鍛え上げた泳ぎに加え、呼吸法による体力増強効果も相まって常人を遥かに上回るスピードで前方から迫る鬼に迫る。あっという間に刀の間合いに入る。ぎょっとする顔の鬼に躊躇することなく横に刀を一閃。その首を一気に切り飛ばす。

 それから後ろから迫る鬼が野獣に襲い掛かる直前、野獣はプールの壁を蹴って反転する要領で、斬ったばかりの鬼の体を蹴り上げ、その勢いで即座に後ろから迫る鬼の真上に回る。

 

 ――野獣の呼吸、弐ノ型、金睡冷伏(昏睡レ〇プ)!!

 

 一気に下の鬼の首めがけて真下に日輪刀を振り下ろす。

 強力な、真下への一閃は大きな衝撃波を生み、鬼の首を切断するだけでなく、体も大きく損傷させ破壊していく。

 やがて二体の鬼が消滅するのを確認すると同時に、野獣は強い息苦しさを感じた。長時間激しく沼の中で動いたのだ。水泳部に所属していた野獣でもこれはきつい。

 地上で戦っているであろう炭治郎と禰豆子、和巳たちの無事を祈りながら、野獣は必至に地上めがけて泳ぎだした。

 

 

 

 

 

 「ヌンッ、ハァ、アッ、アッ、アッ・・・炭治郎、大丈夫か?大丈夫か?」

 

 影の中から這い出た野獣がまず目にしたのは道の塀に寄りかかるようにして崩れる鬼だった。手足を切られ、身動きが取れなくなっている。三体に分裂していたことと、二体を野獣に切られた影響からか回復は非常に遅かった。しばらくはまともに動けまい。

 その鬼を取り囲むように炭治郎と禰豆子が立っている。炭治郎は日輪刀を鬼に向けている。

 その後ろに和巳と彼に抱きかかえられた女性がいる。傷一つなく、無事だ。炭治郎と禰豆子が守り切ったのだろう。

 

 「浩二さん、良かった・・・無事だったんですね」

 

 野獣の姿を見て、炭治郎の目に一瞬安堵の表情が浮かぶ。が、すぐに厳しい視線を鬼に向ける。

 

 「炭治郎も大丈夫か?」

 

 「はい・・・禰豆子が二人を守って、隙を作ってくれました。浩二さんも・・・みんなのおかげです。あとはこいつだけ。でもその前に聞くことがある」

 

 そういうと炭治郎は目の前の鬼に向き直る。

 

 「お前たちは腐った油のような匂いがする・・・酷い悪臭だ!いったいどれだけの人を殺した!!」

 

 「女共はな!!あれ以上生きていると醜く不味くなるんだよ!!だから喰ってやったんだ!!俺たちに感謝し・・・ギャッ!!」

 

 この期に及んで身勝手なことこの上ないことを言う鬼の言葉が最後まで続くことはなかった。その前に炭治郎が鬼の口を切り裂いたからだ。

 般若のような眼をじろりと向ける炭治郎。

 

 「もういい。鬼の屑がこの野郎・・・鬼舞辻無惨について知っていることを話してもらおう」

 

 切る前に、自分の仇について情報を得ようとする炭治郎。だがその名を口にしたとたん、不意に鬼の様子がおかしくなった。目が見開かれ、大量の冷や汗が噴出し、がくがく震えだす。

 わざわざ匂いを嗅がなくても、その鬼が強烈な恐怖とおびえに襲われているのは明らかだった。

 

 「言えない・・・言えない・・・言えない言えない!」

 

 そういって首を振る鬼。

 骨の奥まで震えるような恐怖の匂いを炭治郎は嗅ぎ取った。

 強制的に口止めでもされているのか。

 いったい何がそこまでの恐怖を彼に植え付けているのか。

 何にせよ、鬼はただただ尋常でないほどに震えるばかりで言えない言えないというばかり。これでは何も聞き出せまい。

 もはや、用済み。こんな屑、生かす理由はない。

 炭治郎は似つかわしくない、凄絶なゾッとするような微笑を浮かべた。

 

 「じゃあ、死のうか(暗黒微笑)」

 

 横に一閃。

 鬼の頸は飛び、宙を転がる。やがて首も体もあっという間に消えていった。

 禰豆子を見る。

 激しい戦いで体力を消耗していたのだろう。壁に寄りかかり眠っている。

 

 「ごめんな・・・もう少し待ってくれ。兄ちゃんがきっと人間に戻してやるから・・・」

 

 野獣と一緒に禰豆子を箱の中に入れると、二人は和巳と女性のもとへ駆け寄った。

 女性は意識を失ったままだが、それ以外は別条はない。和巳のほうは茫然自失とし、ぼろぼろと涙を流していた。婚約者を殺されたのだ。無理もない。

 

 「和巳さん、大丈夫ですか」

 

 「・・・婚約者を失って、大丈夫だと思うか」

 

 「・・・和巳さん。失っても、失っても・・・生きていくしかないんです。どんなに打ちのめされようと」

 

 和巳の目に怒りの色が浮かぶ。

 炭治郎の手を掴み叫ぶ。

 

 「お前に何がわかるんだ!?お前みたいな子供に・・・!」

 

 和巳の腕を炭治郎の手がそっと掴む。その眼は怒るでもなく、優しかった。

 掴む手に、見つめる瞳に和巳がはっとする。

 そっと和巳の手を放す炭治郎。

 その和巳のもとに殺された女たちの遺品を差し出す手があった。野獣だ。

 野獣と少年、両者の目も手も、優しく、痛ましく、鍛え抜かれていた。

 

 「この中に、里子さんの持ち物があるとおもうんですけど・・・」

 

 そう言って野獣も口を開く。

 

 「・・・失うのはお前ひとりじゃない。みんな何かを失いながら生きている。俺たちもそうさ。でも前に進まなきゃ、失うばかりだ・・・前に進まなきゃ、失ったままでまた新たに何かを得たり取り戻すことはできない、前に進んで、心のなかで生かし続けることが残された人間の使命だって、それ一番言われてるから」

 

 「・・・」

 

 「和巳さんひとりじゃない。俺たちも・・・失って、それでも前に進んで・・・そうやって生きているんです。里子さんの分も・・・どうか、心の中で生かし続けてください。・・・強く生きて」

 

 野獣と炭治郎はそういってぺこりと礼をするとそのまま踵を返し去っていく。

 和巳も悟った。

 自分だけではない。彼らも・・・

 去り行く背中に和巳は叫ぶ。

 

 「・・・すまない!酷いことを言った!どうか許してくれ!!すまなかった・・・っ」

 

 声に反応し野獣と炭治郎が振り返り、手を振る。そしてまたゆっくりと歩いて去っていく。

 炭治郎や野獣だけではない。彼だけではない。

 どれだけの人が殺され痛めつけられ、苦しめられただろう。

 歩きながら、野獣と炭治郎は全ての元凶、家族の仇を思い浮かべる。

 鬼舞辻無惨・・・絶対に、お前を許さない。何があっても仇を取り、罪を償わせる。

 決意を新たにし、彼らは再び前に進むのだった。

 

 

 

 

 




前話のあとがきでレスリングシリーズの例の兄貴について話しましたが・・・決めました。ビリー兄貴、出します。参戦させます。というわけでじゃあ俺、レスリングシリーズの勉強して帰るから・・・
あっそうだ(唐突)一応ビリー兄貴は故人だけど、ハーメルンの規約もあるしもしかすると名前や設定を変えてあくまでオリキャラとして登場させる可能性も微レ存・・・?え?淫夢ファミリー登場させてる時点でいろいろアウトだって?なんのこと?(すっとぼけ)

あと岩柱はホモにしようか考えています。だって中の人が淫夢厨なんだもん・・・

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