鬼舞辻無惨レ〇プ!鬼狩りと化した先輩&淫夢ファミリー 作:ジョニー一等陸佐
竈門炭治郎は炭売りの少年で、竈門家の長男だ。炭を売って金を稼ぎ、家計を支えている。つい最近には父親が亡くなり、炭治郎は長男として、一家を支える大黒柱として彼の背負う役割と責任はますます大きくなっている。
生活は決して楽ではない。むしろ貧しい。それでも彼は自分は幸せだと断言することができた。優しい母親に元気で可愛い妹や弟達。大勢の家族に囲まれ、支え合う。家族の絆と愛にあふれた、貧しくとも幸せな家族の姿、ささやかで幸せな日常が確かにそこにはあった。
そんな炭治郎がいつものように街で炭を売り、帰りの山道を歩いていると一人の妙な男の姿を見た。
あたりは雪が降り積もっているというのに、その男は半そで半ズボンという明らかにこの季節、この情景に似つかわしくない格好をしていた。一体こんなところで一人何をしているのだろうか。寒くないのだろうか。というか明らかに体を震わせ寒がっている。何かを叫んだりして途方に暮れた様子だった。
もとより、心根が優しくお人好しな性格の炭治郎である。放ってはおけなかった。
男に近づき後ろから声をかける。
「あの・・・すみません。こんなところでどうしたんですか?寒くないんですか?」
男が振り返った。近づいたことで改めて男の詳細な容姿が明らかになる。
黒い半ズボンに白いシャツ。シャツには見慣れない異国の言葉が記されている。
身長は炭治郎よりも高く、5尺6寸(約170センチ)ぐらいはあるだろうか。服が薄く腕や足が露出していることもあり、その肉体、筋肉が常人に比べしっかりと鍛え上げられたものであることが容易に分かった。肌の方も茶色にしっかりと焼けている。顔の方は美男子というわけではないが、特別不細工というわけでもなく見る人によってはむしろ爽やかな好青年といった感じがした。
こんなところでおかしな格好をしている人だ、何をしているんだろうか、とは思ったが少なくとも悪い人間ではないと炭治郎は判断した。・・・ほんのわずかに、少しだけ、臭いにおいがしたような気がしたが。
男は田所浩二と名乗った。野獣先輩とも呼ばれてるからぜひそう呼んでくれ、とも言われたが初対面の炭治郎には彼に対して野獣という感じがあまりしなかったし、初対面の人をそう呼ぶのもためらわれたので結局炭治郎は彼を浩二さんと呼ぶことにした。
そのまま野獣が何者なのか、雪山にそんな薄着で一体何をしていたのか、どうしてこんなところにいるのか等聞いたのだが・・・すぐに会話が噛み合わない、何かがおかしいということに二人ともが気が付いた。炭治郎が住んでいるところは東京府の奥多摩郡というところなのだが、野獣は自分はさっきまで大学の部室にいた、東京『都』の下北沢というところにいたのに気づいたらこんな雪山にいた、と言った。この時点でいろいろと突っ込みたいことがあった。さっきまで大学、下北沢にいたとか、気づいたらこんなところにいた、とか。それに東京『都』と言ったのも気になった。だから東京『都』じゃなくて東京『府』ですよと言うと野獣はいや、東京『都』だと言った。それから今がいつなのかという時間の話題にもなったが炭治郎が今は大正2年の12月だと言うと、今度は野獣は嘘つけ今は令和だ20XX年だゾ、と言った。炭治郎の認識する年代・元号と野獣の言うそれが違う。その後もいろいろと会話を繰り返したが、何を話しても場所、年代、その他諸々が食い違っていた。食い違う会話を繰り返し、しばらく二人が沈黙していると、やがて野獣はゆっくりと口を開いた。もしかすると自分は昔の時代にやってきたのかもしれないと(彼は「たいむすりっぷ」と表現していた)。自分は未来の人間だ、未来からやってきたのかもしれない、と言った。
にわかには信じられない話。
だが。炭治郎には彼が嘘をついているようにも思えなかった。
話はそれるが一見普通の少年に見える竈門炭治郎には一つ特技、あるいは特徴がある。それは「鼻が利く」ということだ。炭治郎の嗅覚は鋭かった。それも異常なほど、人はもちろん犬さえも凌ぐほどに。人の感情、言葉の虚実までもが分かるほどに。信じられないかもしれないが、事実そうだった。
そして野獣や彼の言葉からは嘘のにおいは全くしなかった。逆に言えば彼の言葉は事実だということになる。
結局炭治郎は野獣の言葉を信じ。そのまま放っておくのもあれなので、彼を家まで連れていくことにした。
「あ、お兄ちゃんおかえり!」
「おかえりお兄ちゃん・・・とその人は誰?」
野獣が炭治郎と名乗った少年とと共にしばらく歩いていると一軒の古い家屋が見えてきた。そのそばには二人の小さな男女がいた。おそらく炭治郎の妹と弟だろう。この雪の降る真冬に薄着姿の見慣れない男に首をかしげている。
「ああ、この人は田所浩二さんっていうんだ。山の中で迷っていたみたいで放っておくわけにもいかないから連れてきたんだ」
「はじめまして、オッスお願いしまーす。田所って名前だけどみんなからは野獣って呼ばれているからそう呼んでくれてもかまわないぜ。ていうかそう呼んでくれよな~頼むよ~」
「「・・・こんにちわ!」」
少し言動がおかしいが少なくとも悪い人ではないと子供ながらに判断した二人は野獣に挨拶する。
「おかえりなさい、炭治郎。その人は?」
野獣や家族の声を聴いて家の中から一人の女性が出てきた。もんぺ姿に白い頭巾をした一昔前の古い映像に出てきそうな、しかし一目で母親と分かる姿だ。それにしては若く美人であった。
野獣は彼女に挨拶する。
「あっ、俺田所浩二っていいます。オッスお願いしまーす」
「迷っていたみたいだからとりあえず連れてきたんだ」
「はあ・・・私は炭治郎の母の竈門葵枝と申します。この雪の中寒いでしょう、とりあえず上がってください」
「いいっすかぁ?ありがとナス!」
葵枝が角に向かって口を開く。
「竹雄、お客様よ。ご挨拶なさい」
角からひょっこりと現れたのはまき割り用らしき斧を持った少年だった。顔が炭治郎と似ている、彼の弟だろう。
「えっと・・・?あ、初めまして、竈門竹雄です」
「俺は田所。田所浩二。ちょっと道に迷っちゃてさぁ、この家に上がらせてもらうことになったんだ。そういえばこの二人の名前はなんていうんだ?」
田所が先ほどの小さい子供二人に対し首をかしげる。炭治郎が答える。
「あっ、こっちが花子で、こっちが茂っていうんです。みんな俺の弟と妹ですよ」
「よろしくね、田所おじさん!」
「えぇ・・・(困惑)。俺おじさんに見えるのかよ・・・一応大学生なんだけどな・・・」
無邪気に花子と茂がお辞儀をして野獣に近寄る。対する田所は子供におじさんと呼ばれ少し落ち込んだ。
「禰豆子と六太は?」
「禰豆子なら六太を寝かせに・・・あ、あそこにいるわよ」
葵枝の指差した先には小さい男の子を背負った桃色の着物姿の少女がいた。白い肌に整った顔立ち、結構な美少女である。
「おーい禰豆子!」
「あ、お兄ちゃんお帰り!・・・えっと、その人は」
「ええとこの人は」
「おっす、田所浩二って言います。学生です。・・・実はいろいろあって道に迷っちゃてさぁ、そしたらこの子が家に連れてきてくれたんだ。ちょっとお邪魔させていただきます、オッスお願いしまーす」
「はぁ・・・こんにちは」
禰豆子は多少困惑しながらも挨拶を返した。
炭治郎の妹、竈門家の長女とのことだった。野獣がきれいな妹だなぁ、というと炭治郎が自慢したように禰豆子は村で一番の美人なんだと言い、当の禰豆子は恥ずかしそうにしていた。
一通り自己紹介も終え、野獣は炭治郎や葵枝に勧められるまま家の中へと入っていった。
「FOO↑うまいゾ~これ」
野獣は竈門家と共に囲炉裏を囲みながら夕食にありついていた。熱い米を一気にかきこみ熱い味噌汁で流し込む。ご飯に味噌汁、少しのおかずといった質素な内容であったが、冷えた体に温かい食事が身に沁み、この時の野獣には非常に新鮮で、非常に美味しいものであった。
「家に上がらせてくれた上に、夕食までご馳走してもらえるなんて、本当に・・・ありがとナス!」
「いいんですよ浩二さん、困ったときはお互い様ですし、それにあのまま山の中にいたら間違いなく凍死していたか碌な目にあっていませんでしたから」
「命の恩人だってはっきり分かんだね。本当に・・・(感謝しか)ないです。涙がで、出ますよ」
「よほどお腹がすいていらしてたんですね・・・のどに詰まらせると大変ですからゆっくり食べてください、まだ少しありますから」
竈門家と共に夕食を共にする一方で、野獣は未来から来たことなど己の事情を話していた。
「それじゃあ、田所さんは未来からこの時代に迷い込んできたと?それであんな薄い恰好をしていらしたんですね・・・」
「信じられないかもしれないけどそうとしか考えられないんだよな・・・むしろ俺の方でも今が大正時代だなんて信じられないんだよな・・・とりあえず信じてくれよな~頼むよ~」
「俺は嘘だと思いませんよ。浩二さんからは嘘をついてる匂いがしませんし」
野獣は自分を取り巻く今の状況や、自分の話を信じてもらえるか不安だったが、炭治郎は野獣をそれほど疑うこともなくむしろ信用しているようだった。というのも前述したように炭治郎は生まれつき人の感情や虚実まで分かるほどに嗅覚が鋭く、野獣の言動から嘘の匂いがしなかったからだ。
「炭治郎は鼻が鋭いんだな・・・嗅覚で嘘まで分かるなんてこれもう分かんねえな」
「生まれつきなんです」
「でも、俺はまだそんなには信じられないなぁ、未来から来たなんて」
竹雄はまだ野獣の未来から来たという言葉が信じられないようだった。
「まぁ、匂いだけで信じてくれっていうのも無理な話だよな・・・待てよ確か・・・」
不意に野獣は何かを思い出したようにポケットに手を入れた。
「おっ、あったあった。なんで持ってたことに気づかなかったんだろ」
野獣からポケットから取り出したのは白い板状の何かだった。
「?それは何ですか」
「まぁ、見とけよ見とけよ~これ見れば俺が未来から来たってことが信用できるはずだぜ」
野獣がその白い板に何か操作をしたと思ったら突然片面が光りだした。それから野獣がさらに操作を加えて音楽を鳴らしたり、またいったいどういう原理なのか布のように柔らかくなり、折り畳んだり丸めたりして見せた。あまりにも不思議な道具に炭治郎たちが目を丸くする。
「すごい・・・どういう仕組みなんだ・・・?」
「スマホって言ってさ。こんな風に音楽鳴らしたり、調べ物をしたりいろんなことに使えるんだよな~こんな風にハンカチみたいに柔らかくなるから俺は『やわらかスマホ』って呼んでるんだけどな~この時代なこんなのないだろ?とりあえずこれを証拠として信じてくれよな~頼むよ~」
「すごい!おじさん私にも触らせて!」
「よく分からないけど・・・未来の技術ってすごいんだな。こんな不思議なもの見せられたらますます信じるしかないな・・・」
「あっ、そうだ(唐突)、このやわらかスマホで写真を撮ることもできるんだよな~折角だからこれでみんなの写真撮りませんか?撮りましょうよ(提案)」
「えっ写真も撮れるんですか!?」
炭治郎が思わず声を上げる。この時代、カメラは一般人にはまだまだ高価で貴重なもの。一枚撮るのにも手間暇がかかる。それを、目の前の小さな白い柔らかい布は音楽を聴いたり調べ物ができるだけでなく簡単に写真や映像をとることができるという。信じられない話だった。
「撮れます撮れます。助けてくれたお礼というか記念というか・・・ま、一期一会って言うしね?一緒に家族の写真を撮りたい・・・撮りたくない?」
「撮りましょう!」
「こんな機会滅多にありませんからね。お願いします」
「よし!じゃあ(カメラに皆の姿を)ぶち込んでやるぜ!みんな俺の近くに集まって、この丸い部分を見とけよ見とけよ~」
野獣の周りに竈門一家が集まり、野獣は腕を伸ばして何とかカメラに全員の姿を収める。いわゆる自撮りの形だ。パシャッ!という聞き慣れない音が部屋に響く。
「よし(適当)。撮れた」
「え?もう撮れたんですか?見せてください」
炭治郎たちがスマホの画面を覗く。そこには竈門一家と野獣の顔が一人残らず映っていた。しかも彼らの知る写真とは違い、カラーで、その上非常に綺麗なもので一同は驚いたり興奮したりした。
「すごい・・・皆中にいるみたいだ・・・」
「あはは、おじさん変な顔ー!」
「だから俺はおじさんじゃないんですが、それは・・・」
初めて見る珍しいものに竈門一家や野獣は興奮と団欒に包まれる。
・・・この時、炭治郎をはじめ、野獣も皆も知らなかった。知る由もなかった。
・・・このスマホの写真が、炭治郎や皆にとって最初で・・・そして最後の家族写真になることになるとは。
「そういえば田所さんはこれからどうするつもりですか?」
夕食と話を一通り終えて後片付けをしていると葵枝がそう言った。
「ん~特には考えてないですけど・・・」
野獣はあごに手を当てながら考える。
とりあえず家に上がらせてもらい暖をとり食事まで分けてもらったが、問題はこれからどうするかだった。
まだ野獣には大きな実感がなく完全には信じられなかったが今は大正時代であり野獣の暮らす令和の時代ではない。仮に実は令和の時代で、下北沢とは別の場所だったとしても、周りは凍える雪山。下手に行動はできない。
どうにかして元の時代、元の場所に帰りたいがどうすればいいのか分からない。何か行動をしなければいけないが、どうすればいいか分からない。それが野獣の現状だった。
「みんな心配してるだろうし、正直、今すぐにでも帰りたいんですけど・・・気づいたらここにいたし、そもそも元の時代に帰れる方法も分からないしな・・・どうすればいいかなー俺もなー」
不意に野獣は空手部の仲間たちのことを思い出した。先ほどまでの切羽詰まった状況や竈門家との話で思い浮かばなかったが、三浦や木村の顔が野獣の脳裏に浮かぶ。思い返せば野獣がタイムスリップする直前、黒塗りの高級車が部室に突っ込んできてそこで白い光に包まれ、気づいたら自分一人になっていたのだ。三浦や木村はどうなったのだろうか。考えたくないが事故に巻き込まれてしまったのだろうか。それともまさか野獣と同じようにどこかにタイムスリップしたのだろうか。
そもそも帰れる方法はあるのだろうか?もし帰れないのだとすればこれから自分はこの時代でどうやって生きていけばいいのだろう?いつまでもここにいさせてもらえるという保証はないし、そこまで野獣は図々しくない。
「やべえよ・・・やべえよ・・・」
状況を改めて確認し一気に不安が野獣を襲った。
そんな野獣の様子を察したのか葵枝がさらに口を開く。
「ところで田所さんはこれからどうするとか、あてはありますか?」
「(そういったものは)ないです。帰ろうにも帰り方分からねえし、そもそも帰れるのかすらも・・・」
「・・・でしたらしばらくここにいたらどうですか?行く当てもなさそうですし家事とか仕事を手伝ってくれるなら、歓迎しますよ」
「・・・いいっすかぁ?」
提案に対し目を丸くする野獣。
対して炭治郎たちは快い反応をする。
「かまいませんよ。困ったときにはお互い様ですし。帰る方法も当てもないのに、この雪の中に放っておくわけにもいかないでしょう?」
「来客なんて久しぶりですし、この子たちも遊び相手が増えて嬉しいと思います。ね?」
「遊んでくれるの?やったー!」
「やったぜ。人出が増えてまき割りが楽になる」
「きっと帰る方法が見つかりますよ。それまでゆっくりしていってください」
もとより炭治郎をはじめ、善良でお人好しな竈門一家である。彼ら彼女らの心委、温かい態度と迎え入れに、野獣は改めて彼らの懐の深さ、親切さを感じ、心に沁み、涙を流した。
「・・・持つべきものは親切な人、竈門さん一家は恩人だってはっきり分かんだね。なんて言えばいいか・・・これもう分んねえな。とにかく感謝で・・・涙がで、出ますよ。本当に・・・ありがとナス!それじゃあ改めて、しばらくお邪魔させてもらいます、オッスお願いしまーす!」
こうして野獣は竈門家にしばらくの間居候することになった。
それから野獣は竈門家の家事や仕事の手伝いをしたり、子供たちの遊び相手をしたりして過ごした。ガスも水道もない生活を送り、またある時は炭を売りに行く炭治郎についていき町まで行ってその古い街並みに、野獣は改めて今が令和ではなく大正なのだと実感したりもした。野獣にとっては、都会から遠く離れた田舎でもガスや水道はおろかWi-Fiも整備されているのが常識。それとは大きくかけ離れた、現代生活に慣れた野獣には少々不便な大正時代の生活であったが、少しずつ慣れていき、また竈門家の温かさに助けられ感謝するのであった。
そんな日々が続き、野獣が居候を始めてから一週間ほど経過したある日。今日もまた炭治郎は炭が大量に入った籠を背負い町へ売りに行こうとしていた。
「雪が降って危ないから行かなくてもいいんだよ?」
「でも俺、正月になったら家族みんなに腹一杯食べさせてやりたいし。少しでも炭を売りに行ってくるよ」
「・・・ありがとう」
心配そうにする母親に炭治郎は言う。本当に家族思いな子だ。そこへ野獣がやってくる。
「なんだ炭治郎、今日も炭売りに行くのか?だったら俺も手伝うぜ」
「浩二さん・・・いいんですか?」
「一人で行くのは危ないし、重いだろ?俺水泳部と空手部掛け持ちしてるから体力には自信があるんだよな。この家にいさせてもらってるんだし、これくらいの手伝いをするのは当然だってそれ一番言われてるから」
「ありがとうございます」
そう言って炭治郎と共に身支度を始める野獣に、炭治郎の弟や妹たちが集まる。
「兄ちゃん、今日も町へ行くの?」
「私も連れてってよー」
「駄目よ、炭治郎や田所さんみたいに早く歩けないでしょう?それに今日は荷車を引いていかないから途中で載せてってもらって休むことができないのよ?」
「ええー?」
せがみ駄々をこねる子供たちとそれをなだめる葵枝。平凡だがほほえましい光景だ。
それから身支度を終えると、弟の竹雄にできる範囲で木を切るように頼み、野獣と炭治郎の二人は竈門一家に見送られながら家を後にした。
「ついていくって言ったけどさぁ・・・やっぱり寒スギィ!」
二人で炭の入った薪を背負い、雪山の中を歩く野獣と炭治郎。しかし慣れない野獣は改めて寒さに身を震わせる。
「・・・思ったんだけどさ、炭治郎ってさ、いつもこうして一人で炭を売りに行ってんのか?」
「うん。父さんがつい最近亡くなって。さっきも言ったけど、そろそろ正月だからみんなにたくさん食べさせたいし、それに少しでも家族に楽をさせてあげたいし。俺は長男だから頑張らないと」
「そうなのか・・・でもやっぱり大変だろ?」
「慣れてるから大丈夫ですよ。それに・・・」
「それに?」
「浩二さんがいてくれて助かっています。こうして家のことを手伝ってくれているし。禰豆子も言ってました、最近父さんが死んじゃって寂しくなってたから浩二さんが来てくれて賑やかになった、六太が懐いているって」
そう言って炭治郎は笑った。
「・・・生活は楽じゃないけど。俺は幸せです。こうして家族に囲まれて・・・」
「・・・人間の鑑だなぁお前」
家族思いな炭治郎に野獣は今時のことは違うと感心するのであった。
町に着くと、二人はさっそく炭を売り始めた。
「おーい、炭を売ってくれ」
「あたしにも一つ」
「あっ炭治郎!皿を割った犯人にされてるんだよ俺ー!助けてくれよ!!この皿を嗅いでくれー!」
「おい炭治郎!そこの兄ちゃん!すまねえが荷物運ぶの手伝ってくれ!」
普段から炭治郎と何度も接しその人柄を知っているからだろう。町の住人が寄ってきては炭を買っていく。
その一方で、何かの手伝い頼む人も続々現れる。逆に言えばそれだけ炭治郎が慕われ、頼られているということなのかもしれない。
炭売り以外にもいろいろな仕事や手伝いをしているうちに気づけば夕方になっていた。今からければ家に着くのは夜遅くになるだろう。
「遅くなっちゃいましたね・・・」
「心配しなうちに早く帰らないと・・・やばいやばい」
二人がそう言って家路を急ごうとすると。
「おい炭治郎!そこの兄ちゃん!」
不意に男の声がした。
振り返ると一人の老人が家屋の窓から顔を出して叫んでいる。
「三郎爺さん」
どうやら炭治郎の知り合いらしい。
「おまえら今から山に帰るつもりか!?やめとけ!」
三郎の渓谷に二人は首を傾げた。
「俺は鼻が利くから大丈夫だよ」
「俺も空手やってるし。大丈夫だって爺さん、安心しろよ、ヘーキヘーキ」
「はぁ・・・うちに泊めてやるから、今すぐ来い、戻れ・・・鬼が出るぞ」
鬼が出る。そういう三郎の声に冗談やふざけの色は全く無く。むしろ本気で言っていた。
結局三郎の気迫に押され二人は彼の家に一晩止まることになった。
「昔からな、人食い鬼は日が暮れると動き出す。とりあえず飯食ってさっさと寝ろ。明日早起きして帰ればいい」
「はぁ・・・」
「鬼は・・・家の中には入ってこないのか?」
「いや・・・入ってくる・・・だが」
三郎は煙管をふかしながら言う。
「鬼狩り様が鬼を切ってくれるんだよ。昔からな・・・」
夕食を終え布団の中に入り野獣は炭治郎に話しかける
「なぁ、鬼っているのかな?」
「・・・さぁ。でも死んだばあちゃんが同じようなこと言ってたな・・・でも、まぁ・・・鬼なんかいないよ大丈夫さ・・・」
鬼。鬼狩り様。三郎の話を聞きながら野獣はふと、この世界に来る直前、木村の話を思い出していた。大正時代まで鬼が実在したこと、そして鬼殺隊と呼ばれる組織がいたこと。しかしそれらはあくまで眉唾物の都市伝説。しかも今は大正時代だ。そういう伝承が信じられるのもおかしい話ではない。まぁ、確かに夜道は危ないし明日早起きして早く帰ればいいかと、野獣は布団の中でうとうとしながらそう思い、やがて静かに眠っていった・・・
一夜明け早起きした野獣と炭治郎は三郎に礼を言うと素早く身支度し家路を急いだ。
「なるべく早く帰るって言ったのに、みんな心配してるだろうな」
「早く帰ろうぜ」
みんな今頃どうしてるだろう。遅くなってやっぱり心配しているだろうな・・・早くみんなを囲炉裏を囲んで暖を取りたい・・・そんなことを考えながら二人は歩いていく。彼らの脳裏にあるのはいつも通りの家族の姿、平穏な日常。普通の、幸せな日々だ。
・・・そして。幸せが壊れるときは。いつも、血の匂いがする。
あと少しで家に着くというところで不意に炭治郎が足を止めた。鼻を引くつかせている。
「?どうしたんだ?」
「・・・血の匂い」
「?」
「血の匂いがする・・・なんでだ・・・?」
そう言う炭治郎の眼には明らかに不安の色が浮かんでいた。野獣も不意に胸騒ぎがしてきた。
自然と歩みが早くなる。自然と、心臓の鼓動が早くなる。血の匂いは濃くなり。不安は一歩歩くたびに倍増していく。近づいてはだめだ、見ては駄目だと思う一方で、急がなくては、と脳が正反対のことを思う。
家に着いた時。そこにあったのは。
「・・・ファッ!?」
「なんだよ・・・これ・・・?」
血が染み込み赤く染まった雪、血で赤一色に染まった壁や床。
そして、その中で血にまみれ何も言わず、ピクリとも動かない家族の姿だった。
・・・どうしてこうなった?いったい何が起こった?誰がやった?
惨劇の現場からしばらくして。野獣と炭治郎は禰豆子を抱えながら雪山の中を必死に歩き、走っていた。
帰った途端広がっていた地獄絵図。二人ともしばらく体が動かなかったが、すぐに炭治郎が叫びながら駆け出していた。
倒れ、転がっている家族一人一人に声をかけるが動くものは一人としていない。生きているものの匂いや気配がしない。
葵枝、竹雄、禰豆子、茂に花子、六太――炭治郎の家族が、野獣の恩人が皆寝間着姿のまま血にまみれ物言わぬ物体と化して転がっていた。
熊や獣に喰われたような跡は見当たらず、みな体を何かで切り裂かれたような跡があった。獣の匂いはせず、その代わり何か得体のしれないおぞましい何かの匂いがした。誰かに、あるいはその何かに家族が殺された。
家族が皆殺しにされた。
みんな、みんな死んでしまった。
そのあまりにも悲惨な事実の前に炭治郎は狼狽し、野獣はただ立ち尽くすほかなかった。が、不意に炭治郎が妹の禰豆子一人がまだ微かに体にぬくもりがあり、息があることに気付いた。
そこから先の二人の行動は早かった。
そこら辺にあった布で血を拭き、包帯代わりにして止血し、交代で背負いながら医者のいる町まで駆け出した。
二人とも体力に自信はある。だが、町までは非常に遠く、山道は険しく、しかも季節は雪の降る真冬。あっという間に息切れし、体の関節や筋肉が悲鳴を上げ、冷たい空気が灰を冷やす。
だが二人とも歩みを止めない。止めるわけにはいかない。
医者に見せればまだ助かるかもしれないのだ。
それにしても――どうしてこうなった?なぜあんなことになってしまった?いったい誰がやった?
「禰豆子、死ぬな、死ぬなよ」
「絶対助けてやるからな」
「絶対に兄ちゃんが助けてやるからな!」
野獣に背負われている禰豆子に、炭治郎が泣きながら声をかける。
その思いは野獣も同じだった。
険しい道のりに加え、凍てついた空気で肺が痛くなり、さらに息が、体が苦しくなる。
だがここで歩みを止めるわけにはいかない。絶対に、助けてやる――二人がさらに踏ん張り歩を進め速めようとしたその時だった。
「ゥゥゥ・・・」
「禰豆子?」
最初に異変に気付いたのは炭治郎だった。
「浩二さん、禰豆子が・・・」
「?」
「ゥゥゥゥ・・・!」
野獣も背中に背負っている禰豆子の様子が何やらおかしいと気づく。
次の瞬間。
「グオオオオオッ!ガアアアアッ!」
「ファッ!?」
「禰豆子!?浩二さん!?」
人ならざる者の咆哮が聞こえたと思った瞬間。バランスを崩し、野獣は禰豆子を背負ったまま雪に滑り、山中を転がり落ちる。炭治郎も二人をつかもうとして一緒に滑り、転がり落ちる。
「ウーン・・・」
「浩二さん!?大丈夫ですか!?禰豆子!?」
雪で滑った二人はしかし同じく雪がクッションになったおかげで何事もなかった。が、強い衝撃を受けたからか、野獣はうめき声をあげ、動けずにいる。そして禰豆子が見当たらない。炭治郎があたりを見渡すとすぐそばに、先ほどまで血にまみれ息も絶え絶えだったはずの禰豆子が立っていた。
「禰豆子!?大丈夫か!?無理して歩かなくていい、俺が町まで、医者の所まで運ぶから・・・!?」
禰豆子のもとへ駆け寄ろうとして。炭治郎は異変に気付いた。
「ふぅっ、ゥゥゥ・・・!」
額にいくつも浮き出た血管、荒い呼吸、きつく食いしばられた歯。恐ろしく厳しい目つき。炭治郎を捉えるその瞳はまるで獣のように血走り、光り、理性がなく、そして瞳孔が縦に裂けていた。
いつもの禰豆子じゃない。何かが違う、人とは違う――
そう炭治郎が本能的に悟った瞬間。
「――!」
「禰豆子!?」
獣のような慟哭を上げながら禰豆子が炭治郎に襲い掛かった。
とっさに炭治郎は斧を両手で構える。禰豆子の鋭い歯が斧の柄に噛み付き、そのまま禰豆子が炭治郎に覆いかぶさるように倒れる。
すさまじい力だ。身動きが取れない。
鬼だ。今の禰豆子は鬼だ。
三郎爺さんの話を思い出し、炭治郎は察した。
今の禰豆子は鬼になっている。
信じられない。禰豆子は人間だ。生まれた時から、今までずっと、人間だ。鬼じゃない。鬼のわけがない。でも匂いがいつもの禰豆子じゃない。今の禰豆子は鬼になっている。
だが――
暴れる禰豆子を抑えながら炭治郎は家の様子を思い出した。
あの時禰豆子は六太をかばうように倒れていた。口や手についておらず、あの惨劇は禰豆子によるものではない。それに、もう一つの匂いが――
「ウウウウウ!ガアアア!」
「!?」
そうしている間にも炭治郎を押さえつける禰豆子の力は強くなっている。それどころか、信じられないことに彼女の体が大きくなっている。炭治郎を押さえつける力が強くなり、彼の肌や肉が裂け血が滲み出る。斧の柄を噛む禰豆子の口から涎が垂れる。このままでは喰われる――
そう思う一方で、炭治郎はそれでも禰豆子のや家族のことを思っていた。
俺達が布団の中でぬくぬくとねっむっている間、みんなはあんな惨いことになってしまった。痛かったろう、寒かったろう。でも禰豆子はまだ生きている。人ならざるものになってしまったが、まだ誰も殺していない。せめて禰豆子だけでもなんとかしたい――
気付けば炭治郎は叫んでいた。
「頑張れ禰豆子!こらえろ、頑張ってくれ!鬼になんかなるな、しっかりするんだ!頑張れ!頑張れ!!」
「ウウウウ・・・!」
必死に呼びかける炭治郎。まだ理性が残っているのか。
気付けば禰豆子は両目から大粒の涙をぽろぽろとこぼしていた。
炭治郎も思わず涙をこぼす。
まだ理性が残っている。
頼む禰豆子、そのまま――
「!?」
そう思った炭治郎の視界の片隅に。
二人の頭上から人の形をした何かが恐ろしい速さで迫ってくるのが見えた。
雪が降り注ぐ中、それはそのまますさまじい速度で何かを二人に振り下ろそうとして。
「炭治郎!?」
野獣の声が響いたと思った次の瞬間、その何かは横から飛んできた別の何かにタックルされ、炭治郎は禰豆子を抱きしめたまま横に転がりすんでのところで回避した。
そのまま禰豆子をかばうようにして炭治郎が見上げた先にはこちらに背を向ける野獣と――見慣れぬ青年の姿があった。
長髪に整った端正な顔立ち。しかしこちらを見つめるその瞳に感情はなく冷たい。黒い服の上から左右で模様が違う変わった羽織を着ている。右手には刀。よく見ると刃に「悪鬼滅殺」と刻印されている。
いったいこの青年は誰だ?
それは野獣も同じ思いだったようだ。野獣が思わず叫ぶ。
「なんだこのオッサン!?」
「・・・俺は・・・オッサンじゃない」
青年はそっけなく答える。
「それよりも・・・なぜ庇う?」
そのまま刀と瞳を禰豆子のと炭治郎の方に向け、青年は冷たくそう言った。そしてその目は禰豆子を人として捉えてはいなかった――