あまりにも唐突で、非常に申し訳が立たないところなのではあるが、どうやら絶体絶命のピンチというやつに陥ってしまったらしい。
季節は桜舞う春が過ぎ去り、太陽が派手に暴れ出す真夏の頃合いのことである。
もう少し詳しく記載するのであれば、七月の十四日である──いいや、先ほど昏睡から目覚めたばかりであることを加味すれば、もしかしたら一日くらいは経過してしまっているのかもしれない。
そうなれば、七月十五日である可能性もなくはないのであるが、流石に一日もここで眠りこけていたというのは信じがたい。
やはり数時間程度の気絶であったと考えるべきだろう。残念ながら、ここは陽光を満遍なく浴びることのできる野原ではなく、洞窟内であるのでその時間すら確認することはできないのだが。
だがまあ、腹が多少空いている程度の感覚で済んでいることから、ほとんど間違いは無いだろう、とそう考えをまとめながら身体を起こした。
首を回してバキバキと音を鳴らし、ついでに全身を解してから「はぁ」とため息をつく。
参ったものだなぁ、と他人事のように、俺はそう思った。
先程も言った通りここは洞窟内であるのだが、もう少し詳細に語ると、広大な洞窟──もしくは遺跡? の一画に閉じ込められた形なのである。
なので光の欠片すらもない、つまり真っ暗だ。
しかもその暗闇に慣れてきた目で見渡しても周りには瓦礫と岩壁しか見当たらない。
そして俺の手元に脱出するための道具になるようなものは無かった。
弓矢と根元から折れた剣くらいである。
まぁなんだ、いわゆる「詰み」というやつだった。
さて、これからどうしたものか。
気を失った原因になったのであろう頭から背中にかけての痛みを感じながら、やはり現実逃避するようにそう考えた。
いやね、焦っても仕方が無いんだわ、こういうのって。
目の前にある出入り口は、瓦礫で塞がれてしまっている道は流石に手持ちの道具でどうにかできるようなものではない。
ここまで来るのに使った道も同様に崩壊しているから使えない。
ていうか剣が折れてなくても無理である、剣はスコップじゃないんだわ。
他に持っているものと言えばお手製のマッチと、最近奮発して購入したポーションが二本だけである。
試しに瓦礫も押してはみたのだが当然というかなんというか、まあビクともしなかった。
「巷で話題の冒険者ってやつなら、あるいは魔法とかでこれを吹っ飛ばしたりできんのかねぇ」
暗い密室内でそれにこたえるような人間はいない。
まあ、魔法というやつも人によって効果が様々らしいから一概には言えないのだろうが、それでも便利ではあるのだろう。
魔法、人の身では決して成し得ることのできない奇跡の具現。
この場で求めるにしては、ちょっとないものねだりすぎるのだろうが。
「冒険者に神様、ね……」
神様ってのは、比喩でもなんでもなく、文字通りの意味で神様だ。
今時検索でもすれば──ここにパソコンやスマホなんて利器的なものはないのだけれど──人知を超えた存在、とか宗教的信仰の対象、とか。
まあその辺の類の言葉が出てくるような存在。
神話とかで良く語られるアレ。
それがもう随分と昔、空から降ってきたらしい。
「我々は天界からやってきた」とか何とか言いだすもんだから一時期は大騒ぎになったもんだが、何だかんだ今ではすっかりこの世界にいて当たり前、みたいな存在だ。
元よりこの──神様からすれば、下界とでも言うべき世界は神への信仰が厚い人が多かった、というのもその一因なのだろう。
結構というか、かなりすんなり受け入れられたと聞いている。
で、その神様達のせいか、お陰というべきか……まあお陰というべきなのだろうが、冒険者というやつが生まれたのである。
冒険者──昔にもそう呼ばれる人たちはいたから、正確には、新世代の冒険者と言った方が良いだろうか。
新世代と旧世代の違いはほとんど無い、というか違う点は一つだけである──即ち、神の恩恵を受けているか否か。
当然ながら、受けていないのが旧世代を指し、受けているのが新世代のことを指す。
まあ今では冒険者と言えば恩恵を受けている者のことを指すのだが。
だが、たったそれだけの違いとは言え、その差は歴然だった。
先ほどもぼやいた魔法ように、神の恩恵──呼び名は、ファルナと言ったか──は俺たち人間に超常の力を授ける。
超常の力──あるいは神々の力、その一端。
分かりやすく例を出せば、それこそ先ほどのような魔法であったり、身体能力の著しい向上とかがまあ結構あっさりと手に入るのである。
その代わり、力を与えてくれた神様の作る「ファミリア」というやつに加入しなければならないらしいのだが。
難しく考える必要もない、そういう団体のようなものだと考えれば早いだろう。
というのも、俺とて別にどこかのファミリアに所属しているという訳でも無ければ、新世代の冒険者という訳でもないのである。
言うなればただの狩人に過ぎないのだ、俺は。モンスターを狩りはするが、基本的に冒険はしない。
せめて炭鉱夫とかだったらこの状況でももうちょい強気にいけるんだけどなぁ。
まったく、やれやれ。
参っちまったぜ。
「んぅ……」
と。
その時である。
いい加減お手上げだなぁと、俺が思うのにピッタリタイミングを合わせたように、この暗い密室の中央から声が聞こえた。
それに少し遅れて、暗闇に慣れた目が、上半身を起こす人影を捉える。
片手で頭を抑え、未だはっきりしていないのだろう意識のまま、フラフラと視線を彷徨わせているその人は女性──いいや、いいや。
それは、
比喩でもなんでもなく、先ほども言った通り人とは隔絶した位置に存在する、女性の神。
いっそ現実とは思えないほど美しい青の髪を揺らしながら、覗けば吸い込まれそうなくらい深い緑の目が俺を捉えた。
「よぅ、おはようさん。よく眠れたか?
「
「さぁ? それは分からん──っていうか、どこまで覚えてる?」
「えぇっと……」
美しく青に染められた長髪を少しだけ揺らして、彼女は目を細めた。
その何でも見透かすような透明の瞳は、しかし正答を見つけられなかったように俺を見なおした。
「すまない、少々記憶が混乱しているようだ。確か、案内役のお前と、団員たちと共に秘境探索をしていた途中だったとは思うのだが……」
「ん、そうそう、そこまで覚えてんなら充分だ。早い話、俺とお前は縦穴に落ちた」
もうちょっと丁寧に説明すれば、秘境探索の最中に俺達はモンスターの群れと接触し、戦闘を開始した。
アレだ、竜もどきのトカゲ──サーマルリザード。
それとの戦闘中にアンタが自然に出来ていた縦穴に落ちて、それを引っ張ろうとした俺ごと落ちていったって形になる。
いやぁすまなかった、まさかあそこまで触られるのを過剰に拒絶されるとは思わなくってよ、とそこまで言えばアルテミスは若干ながら苦い顔をした。
「あ、あれは思わず……お前が、抱き寄せるかのように引っ張るからっ。それに私は貞潔の女神……異性と触れ合うなど、言語道断だっ」
「そこに命まで懸けるなって言ってるんだけど、ま、仕方ないか」
毅然とした態度でそう言い退けたアルテミスに、まあ今更か、と独り言ちた。
この女神──アルテミスは、かなり異性を嫌う……というより、近寄らせない神なのである。
曰く、貞潔の女神であるから、とのことで自分のファミリアの団員には「恋愛禁止」等というルールを徹底させているほどだ。
異性と指先がちょーっと触れ合う程のことにさえ眉を顰める、いわゆる恋愛アンチなのである。
今もこうやって密室に二人、という状況にすら不満を覚えていることだろう。結構鬼気迫った状況であるということとはまた別に。
で、そんな彼女が何故、秘境探索の案内に男──つまり俺を雇ったかと言えば、これまた理由としては単純明快で、俺しか適任がいなかったからだ。
俺は狩人であるが、もう少し詳しく言えば竜狩りの村で育てられた狩人である。
竜狩り、だなんて言えばカッコ良さげではあるが、その昔竜を狩ったという人間が興した村ってだけで、実際のところは秘境に住んでる変わり者どもでしかないのだが。
だがまあ、住んでるだけあってこの辺には詳しい、これがまずプラス1ポイント。
で、現在村で一番優秀な狩人が俺である、これもまたプラス1ポイント。
そして最後に、現在外からの依頼を受けられる女性の狩人がいなかった、これはマイナス0ポイント。
アルテミスファミリアは男子御禁制、とは言うものの団員たちはアルテミスほど異性を忌避しているわけでは無いし、あちらもあちらで悠長に女性の狩人を待っている暇もない、これでプラス1ポイント。
合計3ポイント、これによって俺が選ばれたという訳だ。
あっちとしても止む無し、こっちとしても止む無しって関係という訳だな──という展開を実のところ、もう数回は繰り返していた。
ちゃんと数えれば五回くらい。いやね、あっちのタイミングが悪いんだよ。
絶妙に俺くらいしか行けないときに依頼してくる──と言うと何だか俺が暇人のようなのだが、そういう訳でも無いので本当にタイミングが"悪い"のだ。
なのでまあ、多少はアルテミスのこの、扱いの難しい性格にも理解はあった。
「で、現状なんだが此処は穴の底になる。随分ぐねってる道を長いこと落ちてきたから大分深い場所だと思う。ついでに言えば脱出する手段は今のところ無いし、俺もこんなとこに来るのは初めてだ」
「地下に偶然出来ていた空洞に落ちてきてしまったということか?」
「答えとしては微妙にノーになるな。そっちの方に道があるんだが瓦礫に塞がれているから、洞窟の一画かなって考えてた。因みに結構穴だらけなんだが、押しても引いてもビクともしない」
「では、落ちてきた道を上るというのは……?」
「それも無理、試したけど途中で崩落して通れなくなっていた、天然の罠に引っかかった形だな」
「む、そうか……」
短い沈黙。
アルテミスは思考に耽ったが、それが意味を為すことは無いだろう。
いくら彼女が聡明な女神とは言え、物理的に道を塞がれているのだ。
俺より筋力の無いアルテミスが道を開けるとは思えないし、神様は魔法を使えないのである。
──いや、正確には「使わない」らしいのだが。
神々の本来持つ力を使わないことが、下界に降りる条件であり、下界で暮らす条件でもあるのだとか。
破ったら強制的にお空に戻されるらしい。
勿論、破りさえすればこの状況を打破することは可能だろうが、その場合彼女のファミリア──総勢二十名が一瞬で路頭に迷う羽目になってしまう。
アルテミスはそれを即断できるような非情な神ではないし、そもそも俺の為に力を使うようなことは無いだろう。
まぁ、ここで野垂れ死ぬよりは、力を使う可能性の方が高いだろうが。
「参ったな、解決策が見当たらない」
「だろうな、因みに俺の手持ちの武器は、滑落時に勢いを殺すために壁に突き立て続けた結果折れた剣に、万全の弓矢だけ。残念ながら瓦礫の掘削には使えないな」
「ああ、見て分かる。私も手持ちの短剣しかない……救助は、期待するだけ無駄だろうか」
「だと思う、俺達が落ちてきた道を降りてくるのは不可能に近いだろうし、かといって別ルートからここを見つけるのも容易いことじゃあない。十中八九こっちが先に飢え死ぬだろうな」
「くぅ、そう、か…………その、すまなかった」
意外にもアルテミスが、ペコリと俺に頭を下げた。
仲が良いか悪いか、と言われればぶっちゃけどっちか分からん、と答えざるを得ない関係だしな。
だから、自分で考えているよりはずっと驚いてしまった、というのが素直な感想になる。
「謝って済むことではないことは、承知ではあるが、それでもすまなかった。此度の責は、私にある……」
「ま、まあちゃんと助けきれなかった俺にも非はあるし、そう気にしなくても良いけれど……」
「いいや、こういうのは責任を明確にさせておかねばならないものだ! ……それに、落ちた時に庇ってくれたのだろう? それくらいは、分かる。ありがとう」
「お、おう……?」
何だかイマイチ調子が狂って上手く言葉が出てこない。
いつもなら軽い調子で言葉を返すところなのだが、何だろう、急に恥ずかしさのようなものがやってきて、パタパタと風を扇いだ。
ふー、やれやれ。
アルテミスのくせにドキドキさせるんじゃねぇよ」
「それはどういう意味だ!?」
「アレ、今口に出してた?」
「バッチリ言っていた!」
いやぁすまんすまん、と冷や汗をかきながら目を逸らす。
たまにうっかり心の声を口に出してしまうという、嫌な癖が俺にはあるのであった。
最近は意識してたんだけどなぁ、この状況で少なからず俺も動転してるということなのだろう。
取り繕ってはいるけど、ぶっちゃけ一人だったら滅茶苦茶喚いてるからね、この状況。
……でも、まあ二人で良かった。というか、アルテミスがいて良かった、とは思う。
何せ、
「つーわけでだ、アルテミス」
「うん?」
「俺をお前のファミリアに入れてくれ」
「……はぁ!? な、何を言っているんだお前は!?」
アルテミスの驚愕に彩られた声が響き渡る。
叫びにも近い声なのに、不思議にも不快感がないのが神様の面白いところだよな。
基本的に、人を不快にさせる要素というものが無い。
「だから、言葉通りだよ──俺にお前のその、恩恵ってのをくれって言ってるんだ」
「それは言われなくても分かっている……分かっては、いるが……」
くぅぅっと奥歯を噛みしめてアルテミスが頭を抱えた。
まあ、アルテミスのファミリアは散々言ってきたように乙女の花園、正しく女性専用ファミリアだからな。
それも他でもない、アルテミス本人の強い意志、要望、方針によって成り立っているものだ。
だが、それと同時に
しかも脱出できなかったらほぼ間違いなく待っているのは死。
これはもう、完全にアルテミスのプライドの問題だった。
長い、長い沈黙が訪れる。
……。
…………。
………………。
……………………。
…………………………。
………………………………。
……………………………………。
…………………………………………いやちょっと待って長すぎない?
「お前いつまで悩んでんだよぉ!?」
「い、いやだってこれは私にとって凄く凄く、ものすーーっごく重要なことなんだぞ!? お前みたいな野蛮男に分かるか! この繊細な悩みが!」
「繊細もクソもなくない!? 見て! この状況! 生死の境目に俺達は立っている訳!」
「うっ、うぅぅぅぅぅぅぅ……五分! 五分、待て。覚悟を、決める」
「これ、そんな死を覚悟した時にする目するところなんだ……」
確かに命の危機ではあるんだけどさ。
タイミング的にここでするのはちょっと違うじゃん、ねぇ……。
もうちょっとこう……それこそ竜と対峙した時とかにしろよな、そういう瞳は。
悶々とそんなことを考えることきっちり三百秒。
アルテミスは抱えていた頭を上げ、その透き通るような眼で俺を見た。
「よ、よし、背中を出して、そこにうつ伏せになれ」
「声震えてんぞ」
「うるさい!」
「ぐぇっ」
バッシーン。
アルテミスの流れるような蹴りが俺の腰へと炸裂し、よろめいた勢いのままドーンと倒れ込む。
「面倒だし背中は捲ってくれ」
「自分でやれっ」
「我儘だなぁ……」
どっちがだ! という言葉を聞き流しながらグッと捲る。
若干痛んだが、まあ問題は無いだろう。
血が出てる感じはしない……というかもう止まっているだろうし。
昔から傷の回復は早い方なのだ、どうしようもなかったらポーション使うしな。
「そら、これで良いか」
「うっ、あ、あぁ、動くなよ? 身動き一つでもした瞬間殴るからな、グーで」
「過剰防衛が過ぎる……まぁなるべく頑張るから、早くしてくれ」
ぺたーっと腕も伸ばして完全無防備状態になれば、アルテミスは本当に恐る恐るといったように背中に乗った。
そうすれば伝わってくるのは人ひとり──神一人が乗ったにしては、あまりにも控えめな重み。
見た目から想像するより、ずっと軽いんだな、と思いながら目を瞑る。
「な、なぁ……」
「まだ何か問題あったか?」
「その……流石に恩恵を刻むには見えなさ過ぎてな、灯りになるようなものを持ってたりしないか?」
「えー、あっ、マッチあるな。ちょっと待て」
確かポケットに入れていたはずだ。
えぇっと、この辺か?
プニッ。
「ひゃわっ!? お、おま……オリオン!」
「いや今のは事故! 事故だから!」
ちょっと指先触れちゃっただけだから……!
故意ではない、故意ではない! 弁解しながらマッチを取り出して渡す。
「付け方は分かるな?」
「ああ、大丈夫だ……よっと」
シュッと聞き慣れた摩擦音がして「よしっ」という控えめなアルテミスの声が耳朶を打つ。
どうやら上手くいったらしい、後は恩恵を刻んでもらうだけだ。
「少し、集中する。寝るなりなんなりしても良いから、本当にできるだけ動かないでくれ」
「はいよっと」
ポツン、と雫が背中に落ち、アルテミスの指が静かに背中を撫で始める──いや、これは刻んでいるのだろう。
神の血を以て、神々の扱う文字を背中に刻まれることで人間は超常の力を手に入れる。
お手軽だよなぁ……、一生消えないタトゥーみたいなもんなのに、こんなお手軽で良いのん?
いやでも、この世界にタトゥーありのお客様は温泉使用不可、みたいなのは無いしな……。
そもそもこれをタトゥーとか言ったら、アルテミスにそれこそグーで殴られそうだ。
てか、こんな優しくさわさわしてるだけで刻めるものなのか?
や、できてるんだろうけど……こう、何だか新鮮な気分だ。
前世……転生前にタトゥー刻んだこと無いんだよな、いや、だって怖いじゃん……。
流石に高校生の身で「タトゥー彫ってるぜ!」とかいうやつはちょっと近寄りたくないタイプの子だろう。
でもまぁ、どうせあっさり事故で死ぬんだったらもうちょい好き勝手してても良かったかもな、等とそんな昔のこと──転生前を、昔と言って良いのかは分からないけれど──を考えていた時だった。
アルテミスが「はぁ……?」と言葉を漏らした。
「魔法とスキルが、もう発現している……?」
「へぇ、マジで? どんなんどんなん」
身体を揺らして言えば「えぇい動くな!」と頭を小突かれる。
もう少しだから、我慢しろ! と付け足されて仕方がなく黙っていれば、ようやくアルテミスは俺から降りた。
ピッ、とメモ用紙を俺に押し付ける。
「……ナニコレ?」
「お前のステイタスだ。……といっても、書いたのは魔法とスキルだけだが。ちゃんとしたのは外に出たらまた、な」
なるほどね。
こいつ、いっつもメモとペン持ち歩いてるのかな……。
そう思いながらマッチをもう一本付けて、メモを睨んだ。
《 魔法 》
【月の一矢】
・代償魔法。捧げた代償に応じて相応の奇跡を起こす。
・詠唱式【我が主神、我が月女神への愛を以て、我が主神、我が月女神より奇跡を賜う】
《 スキル 》
【星の狩人】
・モンスターとの戦闘における、全能力の高補正。
「代償……? 奇跡……? つまり?」
「…………」
「おぉい! 黙るな黙るな!」
「わ、私にも分からないんだっ。魔法に関してはそれこそ、使ってみるしかないだろう」
「ふぅん……ま、じゃあ試してみっか──ねぇ、これ本当に詠唱しなきゃダメ?」
「ダメだ、そうしなきゃ発動しない……というか、それを真横で聞かされる私の身にもなれ!」
「これを言う俺の身にもなって???」
こほん、と咳ばらいを一つ。
恥ずかしくはあるが、やらざるを得ないところだろう、ここは。
仕方がない、と腹を決めて剣を足元へと置く。
代償は
で、まあ一矢ってあるくらいだから多分弓矢使わないとなんだろうなぁ、と矢を番えた。
狙いは当然、瓦礫の壁。
「【我が主神、我が月女神への愛を以て、我が主神、我が月女神より奇跡を賜う】」
──月の一矢。
いつもの調子で放った矢が、突如光を纏う。
白のような、金のような不思議な光が渦巻くように矢を纏い──そして。
瓦礫に突き立った瞬間
ドーン! ガラガラガラー! と瓦礫が崩れ落ちる。え、いやマジで?
足元を見れば俺の剣はボロボロと灰になるように朽ちていた。
「めっ、めっちゃつよ……いや、この剣もそれなりに高価だったし、そのお陰か?」
いや、だとしても威力がヤバすぎんだろ。
奇跡ってそういうこと?
「ふむ、恐らくは願っている方向性の奇跡が起こる、といったところか」
「ふぅん……なるほどね。何かめっちゃ疲れたけど……ま、先に行こうか」
自生する