かつて【英雄王】と呼ばれた男   作:リョウ77

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プロローグ

 その男はかつて、様々な名で呼ばれていた。

 あるときは、彼は「異端」と呼ばれていた。

 彼の所業が、彼の身に流れる血が、彼の生まれ持った価値観が、常人の理解から遠く離れていたが故に。

 あるときは、彼は「星」と呼ばれていた。

 彼の在り方が、振りまく雰囲気が、誰よりも輝いており、何者も近づけなかったが故に。

 あるときは、彼は「最強」と呼ばれていた。

 彼の為した偉業が、彼の持つ力が、彼が頂点の証であると認められていたが故に。

 賞賛も名誉も欲しいままにし、人々の憧憬と畏怖を一身に集めた彼の異名は、【英雄王】。

 神時代の冒険者、ひいては英雄の器を持つ者たちの頂点に立ったことを称える名だ。

 だが、賞賛も名誉も力も、あらゆるものを持った彼は、表舞台から姿を消した。

 最初こそ、その損失を嘆く者がいたが、それもたった1年でなくなり、その名を出すことはなくなってしまった。

 長き間、栄華を極め続けた英雄は、たった1年で、世界の動乱に塗りつぶされてしまった。

 彼が表舞台から消えて十数年。現在の世界では、比較的平穏な日々が続いていた。

 

 

*****

 

 

 【迷宮都市】オラリオ。

 そこには、迷宮(ダンジョン)と呼ばれる地下迷宮が存在する。

 オラリオはこの迷宮によって栄えた都市で、街中ではダンジョン産のアイテムを狙う商人や、一攫千金を狙って訪れる冒険者、それらを対象とした店や宿などでにぎわっており、都市の中央には“バベル”と呼ばれる白亜の摩天楼施設がそびえ立っている。

 そのオラリオの一角で、

 

「いい加減帰れッ!!」

「ぐぇっ!」

 

 とある冒険者用の鍛冶屋で、店から黒髪の青年が地面を転がる勢いで叩きだされた。

 青年は思い切り後頭部を叩きつけられて涙目になりながらも、キッと店主を睨み付けた。

 

「ちょっ、何すんだよ!」

「うるせぇ!いい加減しつけえんだよ!何を言おうが断るって言ってんだろぉが!」

 

 店主はつばをまき散らす勢いで怒鳴った後、そのまま勢いよく扉を閉めてしまった。

 最初は何事かと足を止めていた周囲も、興味を失ったのかすぐに視線を元に戻して再び歩きはじめた。

 

「・・・我ながら、いい出来だと思ったんだがなぁ・・・」

 

 一人取り残された青年は、ため息を吐きながらも立ち上がり、そのままどこかへと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「・・・って感じで、全部追い出された」

「うはははは!そりゃ災難やったなぁ!!」

 

 とある屋敷の一室、染みひとつない赤い絨毯や壺などの調度品など、それらすべてが一目で高級品であることを感じさせる客室にて、黒髪の青年は赤髪の女と酒を飲みながら対面していた。

 話している内容は、青年がいろいろな鍛冶屋を回っては蹴りだされた話で、赤髪の女は腹を抱えて大笑いしていた。

 

「にしても、何をしたらそんなに追い出されるんや。なんか怒らせるようなことでもしたんやろ、ギル」

「全部俺が悪いみたいな言い方をするな、ロキ」

 

 ギルと呼ばれた青年は、ロキと呼んだ女・・・女神に心外だと言わんばかりに嘆息した。

 

「ちなみに、どんなものを出したんや?」

「これだ」

 

 ギルは懐から羊皮紙を取り出して、ロキに見せた。

 羊皮紙にかかれているのは、とある設計図だ。

 

「はぁ~・・・これまたおもろいもんを思いついたな~」

「だろ?」

 

 設計図にかかれているのはギミックが仕込まれた剣の鞘で、剣を出し入れするだけで簡易的にだが刃を研げるという、画期的なものだった。

 

「こんなん特許取ったらぼろ儲けできそうやん。それが、なんで追い出される羽目になるんや?」

「いやな、『初心者にはちょうどいいだろう』って言ったら、例外なく逆ギレされたんだよ」

「やっぱギルが悪いやん」

 

 ギルの言い分に、ロキはやっぱりと言わんばかりに指を指した。

 

「はぁ?なんでだよ」

「言葉足らずってことや。多分やけど、話を持ち掛けられた鍛冶師、自分が初心者用の武器しか作れない未熟者って言われたと思ったんとちゃうか?」

「え~・・・初心者の冒険者って意味だったんだけどなぁ・・・」

「どっちみちやろ。まぁ、ギルの言わんとすることはわからんでもないけど」

 

 ギルが回ったところはすべて駆け出し冒険者御用達の武器を作る鍛冶場であり、ついでにプライドや自尊心だけは立派に持っているような鍛冶師でもあった。

 そのため、悪意の欠片もないギルの言葉に過剰に反応してしまい、一方的に追い出してしまったのだ。

 

「でもまぁ、アイデア自体はおもしろそうやし、うちがなんかのついでにファイたんのところに持っていこか?」

「椿か・・・余計に絡まれる未来しか見えんが、悪いようにはならないか」

 

 ギルの脳裏に新たな武器を試作しては使ってみてくれと頼まれ、時にはダンジョンに半ば無理やり連れて行く最上級鍛冶師(マスタースミス)が浮かぶが、根は基本的に善人であり、オラリオ最高の鍛冶師でかつ本人の腕もかなりたつことからギルは椿のことを憎からず思っている。椿自身もギルのことは気に入っているのだが、後のことは次の機会に。

 そんなこんなで話を続けていると、コンコンとドアがノックされた。

 

「なんや~?」

「私だ、ロキ。入るぞ」

 

 ロキが扉に向かって尋ねかけると、ロキが返事をする前に扉を開けた。

 中に入ってきたのは、深緑の長髪に長い耳が特徴の、ハイエルフの女性だった。

 

「なんや、リヴェリアか。どうしたん?」

「どうしたも何も、もう時間も遅い。そろそろ寝たらどうだ」

「え?うわっ、マジか。もうこんな時間か」

 

 時計を見れば、すでに日付が変わっている。

 一部の冒険者であればまだまだこれからなのかもしれないが、拠点内でバカ騒ぎするには少し遅い時間だ。

 

「なんや、わざわざ知らせにきてくれたんか。ありがとなー、リヴェリアママ」

「誰がママだ!」

「夜も遅いから早く寝ろって言うのは紛れもなくママだろ。あれの世話も基本的にリヴェリアが担当してるし」

「くっ!そう言われると反論しづらい・・・!」

 

 ギルの正論にリヴェリアは悔し気に奥歯を噛みしめ、ギルとロキはおかしそうにニヤニヤと笑う。

 これにリヴェリアは耳を赤くし、主にギルに対して負け惜しみを言った。

 

「だがしかし、そんなに酒を飲んでいいのか、ギル?お前はお前で療養中なのだろう?」

「俺の療養は酒を飲んでぐーたらすることだから問題なーし」

「おっ、せやったらもうちょい飲んどくか!」

「さっさと寝ろ!!」

 

 ギルのあまりにいい加減な対応とロキの悪乗りにとうとう堪忍袋の緒が切れたリヴェリアは、怒声を発してから2人の首根っこを掴んでそれぞれの部屋に放り込んだ。

 

 

 

 

 【英雄王】、その名を“ギルガメッシュ”。

 かつてオラリオで“最強”の名をかかげ、名誉も金も力も欲しいままにした男は今、現在のオラリオ二大派閥である【ロキ・ファミリア】に居候し、全力で脛をかじっていた。




新作を書くことにしました。
ダンまちを原作にしたのは、Twitterでリクエストがあったからというのと、アニメ3期が放送されたのをきっかけに少し立ち読みするようになってネタが思い浮かんだからですね。
他の原作のネタ自体はけっこうあるんですが、すべて書こうと思うと執筆作業がえらいことになってしまうので書けると思ったやつだけ書いていこうと考えた結果、ダンまちになりました。
今回はプロローグということで短いですが、次辺りからもう少し長くなる予定です。
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