かつて【英雄王】と呼ばれた男   作:リョウ77

10 / 11
【英雄王】の力

 脱走したモンスターたちが暴れているところとはまた別の場所では、想定外のことが起きていた。

 騒ぎになっているところから離れたところに、新種のモンスターが現れたのだ。

 全身が淡い緑黄色の皮膚組織で包まれた、顔のない蛇のような見た目のモンスターだ。

 ちょうどその場に居合わせていたロキ・ファミリアの幹部であるアマゾネス姉妹のティオねとティオナ、エルフの魔導士のレフィーヤが対処にあたるが、新種の表面は非常に耐衝撃性が高く、Lv.5のティオネとティオナの拳でも粉砕はおろか貫通することすらできなかった。

 ならばと、レフィーヤが魔法を撃ち込もうとしたが、『魔力』に反応したらしき新種が突如狙いをレフィーヤに変え、レフィーヤは地面から伸びてきた触手に腹部を貫かれた。

 その直後、顔と思っていた部分が花のように開いた。否、まさしく花そのものだった。

 その花弁の色は、毒々しい極彩色。

 中央には口のように鋭い歯が並び、レフィーヤを捕食するために近づいていく。

 ティオネとティオナもどうにかして近づこうとするが、新種の体から派生して生み出される触手に阻まれる。

 致命傷とも言える傷を受けたレフィーヤは、逃げる力すら湧いてこない。

 絶体絶命の中、涙を流しながら、レフィーヤは脳裏に憧れである金髪の少女を思い浮かべ、

 

ズガアアァァァン!!

『アアアアアアアアアアアアッ!?』

 

 次の瞬間、轟音と悲鳴をまき散らしながら、新種の頭が横に吹き飛んだ。

 何が起こったのか、必死に理解しようとレフィーヤはどうにかして視線を上に向ける。

 

「よう、まだ生きているな?」

 

 そこにいたのは、右手に簡素な片手剣を持った黒髪の青年、ギルだった。

 

 

* * *

 

 

「ちょっと!なんであんたが来てんのよ!」

「え!?ギル~!?」

 

 予想だにしなかった援軍に、ティオネとティオナは驚愕の声をあげる。

 

「ギル、さん?どうして、ここに?」

 

 そこに、一拍遅れてアイズがギルの後ろに降り立った。

 考えていることは、ティオネとティオナと同じようだった。

 これに対し、ギルは軽く肩をすくめて答えた。

 

「いや、なに。向こうの騒ぎを収めようかと思ったんだが、こっちの方が楽しそうだったからな。来てみた」

 

 理由と言うにはあまりにも軽すぎる言い方に、ティオネとティオナ絶句し、アイズも呆然とする。

 それに構わず、ギルは視線を下に向ける。

 

「そら、呆けている時間はないぞ。おかわりがきた」

 

 直後、地面から3体の花型が、ギルを取り囲むように現れた。

 アイズは咄嗟に斬りかかろうとし、

 

「やめておけ」

 

 ギルがそれを止めた。

 なぜ。

 そう問おうとしたアイズだったが、ビキッという音が響き、視線を手に持っているレイピアに向けた。

 アイズが整備に出したデスぺレートの代わりに持っているレイピアには、盛大にヒビが入っていた。

 レイピアが、アイズの力に耐え切れずに壊れかけているのだ。

 

「そんな鈍らを持ったところで、大した戦力にはならんだろ。ここは俺がやる」

「でも・・・」

 

 今のギルはLv.1相当。

 とてもではないが、Lv.5でも苦戦するモンスターを相手に戦えるとは思えない。

 だから、自分も加勢する。

 そう言おうとしたが、

 

「下がれ」

 

 その一言で、アイズは反論する言葉を失った。

 威圧されたのではない。

 無条件で大丈夫なのだと納得してしまったからだ。

 それだけの自信と気迫が、ギルから感じられた。

 

「こいつらは引き受けてやるが、後ろの民衆が邪魔だ。レフィーヤも連れてさっさとこの場から離れろ」

「・・・わかり、ました。でも、後ろからできるだけ、援護します」

 

 さすがに、この場を放置することはできない。

 だからこそ、これがアイズの最大の譲歩だった。

 ギルも、特に気分を害するでもなく頷く。

 

「それくらいで構わん。わかったらさっさと行け」

「うん。ティオネ、ティオナ!」

「わかったわよ!」

「はいはーい!」

 

 ティオネとティオナも、ギルの指示に従って民衆の方に行く。

 また、ギルの声が聞こえたわけではないのだろうが、先ほどまで恐慌状態に陥っていた民衆は幾分冷静さを取り戻し、ギルド職員やガネーシャ・ファミリアの団員の指示に従って避難を始めた。

 あるいは、この場に残ることは許されないというギルの無言の威圧を感じ取ったのか、誰一人として後ろを振り向くことはなかった。

 それを【千里眼】で確認したギルは、遠巻きに周囲から様子をうかがう花型に意識を向ける。

 

「さて、フィンたちが言ってた芋虫とは違うが、同類には違いないな」

 

 その証拠に、新種の口腔の中ではフィンが見せたものと同じ魔石が輝いていた。

 おそらく、親は芋虫型を生み出した存在と同じだろう。

 そして、先ほど様子を見た限り、魔力に反応していたのはギルの中で間違いなかった。

 

(モンスターを襲っていたことといい、連中の狙いは魔石か、魔力を帯びたものか?)

 

 今の段階では、まだはっきりとはわからない。

 とはいえ、このまま放置するのは当然、捕獲して実験するというのも現実的ではない。

 だから、ギルは目の前の存在を()()することにした。

 

「リハビリも兼ねて、遊んでやるとするか。【第三位階・解放】」

 

 次の瞬間、ギルの身体から黄金の燐光が飛び散った。

 それが合図となり、新種のモンスターが一斉にギルに襲い掛かった。

 対するギルがとった行動は、そのうちの1体に自ら突っ込むことだった。

 グングンと加速し、花型と衝突する直前、ギルは花弁の隙間を縫うように横に滑り込み、その体に剣を当てる。

 すると、花型は何か大きな力を受けたかのようにグイッ!と進路を変え、もう1体の花型へと噛みついた。

 さらに、ギルは身をひるがえしてもう1体の花型に近づく。

 同士討ちをさせられた花型は怒り狂ったようにギルを捕食しようとし、だが同じように剣を這わせたギルが軌道を曲げて同士討ちを引き起こす。

 花型の身体からは張り付くギルを嫌うように触手や突起が飛び出るが、ギルはすべてわかっているかのように側面を蹴って回避し、決して花型から離れない。

 花型に肉薄しながら体に剣を這わせ、同士討ちを引き起こす。その繰り返し。

 決して派手ではないが、わかる人物が見ればギルが披露している神業に度肝を抜かれるのは間違いないだろう。

 事実、アイズたちは遠目でその様子を見ていたが、どのようにすればあのような結果になるのか、皆目見当がつかなかった。

 動きは目で追えているはずなのに、何をしているのかわからない。

 ステイタスやレベルの差をまったく苦にしない、超絶技巧。

 ギルが1000年もの間培ってきた技は、まさしく神の領域に達していた。

 だが、3人はそれとは別の疑問を覚えた。

 

「ねぇ、ギルの動き、なんだか速くなってない?」

「そう、ね。私にもそう見えるわ」

「たぶん・・・Lv.3くらい?」

 

 今のギルの身体能力は、Lv.1相当なのではないか。

 知っている情報と目の前の現実の違いに疑問符を浮かべるが、これの答えはすぐに出た。

 つまり、()()()()()()()()()()()()のだと。

 おそらくは、ギルもこの戦いで己の今の限界を計ろうとしているのだろう。

 初見の相手でも余裕を見せるギルに、アイズたちは改めて頼もしさを覚える。

 だが、それに対してギルは内心で歯噛みしていた。

 

(ちっ、思った以上に硬いな)

 

 Lv.5の打撃を難なく耐えるほどの耐衝撃を持つのだから当然なのかもしれないが、花型の外皮は斬撃の耐性もなかなかに高かった。

 最初の一撃も、ギルとしてはそのまま首を斬り落としたかったところなのだが、刃が進まなかったため咄嗟に軌道をずらすように剣筋を変えたのだ。

 芋虫型にあった溶解液はないものの、外皮に刃を打ち付けるたびに刃毀れしていく。

 ギルが手にしているのは第二等級武装なのだが、あまり長持ちはしなさそうだった。

 だが、幸いなことにギルの時間稼ぎのおかげで、周囲にはアイズたち以外の人間はいなくなっていた。

 だからギルは、新たな手札を切ることにした。

 

「【財、誉、力。すべては我が手に】」

 

 ギルの口から紡がれるのは、自らの魔法を行使するための超短文詠唱。

 魔力に反応した花型が一斉に襲い掛かるが、ギルの方が一手早かった。

 

「【イラーフ・シュメル】」

 

 次の瞬間、ギルが手にしている片手剣が黄金の光に包まれた。

 光に包まれた剣を正面の花型に振るうと、花型の頭部が()()()()

 さらには、斬痕が5mにわたって地面に刻まれる。

 だが、その一撃で片手剣の刃は粉々に砕けてしまった。

 【イラーフ・シュメル】。

 その効果は、武器を超強化する付与魔法(エンチャント)

 特筆すべきはその強化幅で、並の武器はもちろん、第一等級武装ですら不壊属性(デュランダル)でない限りたったの一撃で壊れてしまう。

 いわば、即席の魔剣を作り出す魔法なのだ。

 そして、この魔法は一度に複数の武器に付与することができる。

 

「お前たちとの戦いはなかなか面白いが、俺は無駄に長引かせる趣味はない。ここで終わらせるとしよう」

 

 波紋から出てきた、片手剣や槍、斧などおよそ20の武器、そのすべてに【イラーフ・シュメル】が施されていた。

 そして、波紋から容赦なく武器が射出される。

 着弾した瞬間、武器が砕けながら小規模な衝撃波を生み出し、残りの花型の全身を穿ち、抉っていく。

 この一斉攻撃で、すべての花型が沈黙した。

 

「こんなもんか・・・ぐッ」

 

 戦いが終わり、再びレベル制限をかけると、ギルは胸を抑えて片膝をついた。

 器に負荷をかけた反動だ。

 

(Lv.3程度なら大丈夫かと思っていたが、見込みが甘かったか・・・だが、収穫はあったな)

 

 今のところ、短時間であればレベル制限を解除しても問題ないことが判明し、制限解除や負荷の度合いも感覚を掴んだ。

 おそらく、次からはさらに負荷を減らして制限解除することもできるだろう。

 

(今までは大人しく養生することばかり考えていたが、次からは適度に運動を取り入れてみようか。それに、【英雄王】たる者が冒険しないというのもおかしな話だ)

 

 ウラノスからは体に気を付けるようにと言われているが、新種の捜査も兼ねてダンジョンに潜ってみるか。

 そんなことを考えながら、ギルは視線を花型に移し、あることに気付いた。

 

「・・・やべ。魔石ごと破壊しちまった」

 

 自分で思っていたよりも余裕がなかったのか、花型を倒すことしか考えずに魔石を砕いてしまった。

 状況が状況だからギルドからはあれこれ言わないだろうが、フィンたちからは小言の一つくらい言われそうだ。

 だが、

 

「まぁ、いいか」

 

 ギルは気にしないことにした。

 フィンたちの遠征から日が経ってないにも関わらず、こうして現れた。

 ということは、おそらく向こうにも動き出すほどの何かがあるはずだ。

 

(ひとまず、当面の目標は連中・・・連中?黒幕?なんにせよ、背後にいる存在を確認することからだな)

 

 おそらく、この花型も芋虫型同様、本体の触手に近い存在のはずだ。

 あるいは、こちらから何かしらアクションをすることで釣れるかもしれない。

 

(これは、久しぶりに忙しくなりそうだ)

 

 獰猛な笑みを浮かべながら、ギルは三大クエスト攻略以来の困難への挑戦に胸を躍らせた。




詠唱はすでに決まっていたんですが、魔法の名前を考えるのにちょっと苦労しました。
「イラーフ」はアラビア語における「神(多神教のもの)」で、詠唱と合わせて「シュメールの神々にすべてを与えられた」というニュアンスにしてみました。
あっ、なんか自分で解説したら恥ずかしくなってきた・・・。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。