「そうか、さらに新種が・・・」
「そういうことだ」
ギルはウラノスに事件のあらましを報告しに行っていた。
ギルの報告に、ウラノスは大きく息を吐く。
「最低でも4体、都市の地下から謎のモンスターが現れるか・・・」
「ついでに言えば、例の芋虫型とか半人半蟲のモンスターと何かしらの関係性があるのもほぼ間違いない」
花型のモンスター・・・食人花とでも言うべきモンスターの口部に存在した、極彩色の魔石。ギルが砕いてしまったため実物はないが、同一の存在から生み出されたということは想像に難くない。
新種が出てきたというのもそうだが、さらに重要な問題点が存在する。
「連中の出所が同じだとして、いったいどうやってダンジョンからやってきたのか。これが一番の問題だな」
ダンジョンから生まれているはずのモンスターが、ダンジョンの外に現れた。
現状、これがもっとも頭が痛くなる問題だった。
「ギルはどう考える?」
「今のところ考えられるのは、主に2つ。1つは、ダンジョンの壁を破って地中を掘ってきた。だが、それなら
自分で出した推測を自ら否定していき、ギルは思わず頭を抱えた。
それほどに、今回の事件は面倒だった。
「それで、ウラノスの方で何かわかったことはあるか?」
「確たる情報はない。だが、いくつかの推測はある」
「聞いても?」
「うむ」
ウラノスは重くうなずき、ギルに自分たちで握っている情報を話した。
「まず、オラリオの崩壊を目論む者たちがいる」
「・・・マジか?」
「そうだ」
思わず聞き返したギルに、ウラノスは頷きを返す。
突然の事態にギルは「まさか」と思ったが、同時に「たしかに」と納得した。
あれほどのモンスターを都市に解き放つことができる算段を整えていることから、そのような神ないし組織があってもまったく不思議ではない。
「心当たりは・・・ありすぎるな。挙げればキリがない。だが、あれを操れる
ギルは頭の中で情報を整理し、だが途中でやめた。
今の段階では、判断材料が少なすぎる。少なくとも、黒幕を探すには。
「他には?」
「これは今、確認をとっている事柄でもあるのだが・・・」
数拍おいて、ウラノスは口を開いた。
「モンスターを変異させる、謎の宝玉が存在する可能性がある」
「・・・そうか」
ウラノスが告げた情報を聞き、ギルは先ほどよりも深く息を吐いた。
ギルの頭の中で、極彩色の魔石のことが結びついたのだ。
たしかにあの魔石は、モンスターの魔石と他の何かが無理やり混ざったような、そんな歪な代物だった。
であれば、何らかの方法によって通常のモンスターを変異させていると考えれば、つじつまは合うのだ。
問題は、そのようなものが本当に実在するのかどうか。
「この件に関しては、すでに極秘で依頼を出している」
「目星はついているのか?」
「30階層にそれらしき物があるのを確認した」
「ふーん?」
あえて、情報源は尋ねないことにした。
心当たりはなくもないが、この場では必要のないことだからだ。
「にしても、モンスターを変異させる宝珠か・・・眉唾物と言い切れないのが、またな・・・」
「もしこれが本当だとすれば、その宝珠を生み出している存在がいるということになるが・・・」
「そうだな・・・それに関しては、俺の方でも探りを入れてみよう。ちょうど、ダンジョンに潜るつもりだ」
「なに・・・?」
ギルの言葉に、ウラノスはわずかに眉をひそめた。
「体の調子は大丈夫なのか?」
「あの襲撃でLv.3程度は解放したが、多少反動はあっても大きな問題はなかった。あれで解放のコツは掴んだし、これからはリハビリってところだな」
決定事項だと言わんばかりの声音に、ウラノスはやれやれと首を横に振った。
「・・・私が言ってもやめないのだろうな」
「あぁ。だが心配するな。ほどほどにしておくさ。ほどほどにな」
「そうか・・・」
杞憂だと笑い飛ばすギルに、ウラノスは深くため息をついた。
その言葉が信用できないものだから、付き合いの長いウラノスはどうしても心配になってしまうのだが。
まるで親にも見える姿は、ウラノスを知る者が見れば自らの正気を疑ってしまうだろう。
「それで、何か当てはあるのか?」
「ない。というか、その辺りはロキたちがやることになりそうだ」
ファミリアに損害を与えたということもあって、少なくともロキや幹部たちは極彩色のモンスターを探ろうとしている。
調査のためにダンジョンに潜るとしても、できるだけ深い階層が望ましい。
そのため、極彩色のモンスターの調査は実質的にロキやフィンたちの領分になりそうだった。
「とはいえ、情報はできるだけ多い方がいい。しばらくは18階層を拠点にしてみるのも悪くはなさそうだ・・・金はかかるだろうが」
全盛期なら不自由はしなかっただろうが、今の状態ともなると話は別だ。
18階層に存在する冒険者の街“ローグタウン”では販売されているすべての物が法外に高く、売る側も盛大に買い手の足下を見てくる。
拠点にするにしても、あまり長い間は滞在したくないところだ。
「とりあえず、できるだけサンプルは確保したいところだな。向こうが何を狙って行動しているのか、それくらいは探ってみよう」
「わかった・・・何度も言うが、あまり無茶をするでないぞ」
「わかってるわかってる」
あくまで軽い調子を崩さないギルは、ひらひらと手を振りながらその場を去っていった。
* * *
「そういうわけだから、今後は俺もダンジョンに潜ろうと考えている」
「なるほどなぁ」
翌日、朝食の際にギルはロキに昨夜のことと今後の予定を話した。
とはいえ、昨夜のことで話したのはウラノスの方でも調査に動いているということくらいであり、黒幕の目的や宝玉についてのことは話さなかった。
この場にはロキしかいないとはいえ、情報の漏洩と混乱はできるだけ避けたい。
そのため、細かい内容は一切話さなかった。
「・・・念のために聞きたいんやけど、ウラノスが怪しいって線は・・・」
「ない」
「せやろな」
ギルが即座に断定する理由は、ウラノスに対する信頼というだけではない。
ロキと比べて、地上での交流期間はギルの方が長い。いや、天界でもロキとウラノスに接点はほとんどなかったこともあって、下手をすれば天界にいた分を含めてもギルとウラノスの交流はロキより長い。
そのため、直感的なものも合わせて何か隠し事をしていてもすぐにバレる程度には信頼関係を築いているのだ。
「それにしても、黒幕なぁ。いったい、どこの馬鹿があんなけったいなモンスターを操っとるんや」
「さぁな。すぐに思い浮かぶのは“
「つまり、黒幕を操っとる黒幕がおる、ってことか?」
「考えるだけ無駄だがな」
そもそも、実際にそのような存在がいるにしても、まだ最初の黒幕すらわかっていないのだ。いくら根拠のない陰謀論を唱えたところで、正解にたどり着けるはずがない。
「とりあえず、当面の目標はあれを操っている存在と接触、あわよくば捕らえて情報を吐かせたいところだな」
「できるん?」
「こればっかりは、行き当たりばったりとしか言いようがないな。そもそも、本当にあれの
「それがあらへん以上、捕縛できる可能性は高くない、いや、むしろ低いって言ってもええな」
さらに言えば、仮に捕らえることができたとしても、口封じの手段くらいは用意してあるだろう。
それを考えれば、手段としては“やらないよりはマシ”という程度のものだ。
「そういうわけだから、ダンジョン方面は俺やフィンたちがやるとして、都市でのガサ入れはそっちに任せた」
「せやな。うちだけ何もしないわけにはいかへんし、探りは入れといたる。そんで、ギルはさっそく行くんか?」
「いや、明日からにする。昨日の戦闘で少しばかり消耗したからな。1人で行く以上、万全を期していきたい」
「わかったわ」
こうして、ギルは2柱の神との話し合いを元に今後の予定を決めていった。
今回は間話的な感じで短めです。
最近、頭痛がひどくてひどくて・・・。
熱中症対策はわりとがっつりしてるつもりなんですけど、もしかしたらまだ足りないのか・・・。