かつて【英雄王】と呼ばれた男   作:リョウ77

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思い出語り

 ギルがベルと会ってから数日、ギルは散歩の途中でベルと会ってはいろいろと話すようになった。

 ギルは自分の正体を明かすわけにはいかなかったため、アレンジを入れている部分は多々あるが、それでもおとぎ話を聞く無邪気な子供のように耳を傾けるベルをギルは優しい笑みを浮かべて見ていた。もしロキ・ファミリアでしごかれている団員たちがこの光景を見れば、普段とのギャップに目を疑うことだろう。

 そして、今日もまた、まるで約束でもしたかのように教会の前で会った2人はいつものように話にしゃれ込んだ。

 その中で、ギルはふと思い出したかのように話題を振った。

 

「そうだ、ベル・クラネル。お前さんはこの辺りはどのような場所だったか覚えているか?」

「この辺り、ですか?いえ、聞いたことないですけど・・・」

「だろうな。だが、廃墟になってからそこまで長い年月は経っていないはずなんだが、忘れられるには十分だったか・・・」

「えっと、この辺りはなんだったんですか?」

 

 少し残念な表情を浮かべるギルに、ベルは申し訳なさそうにしながらも尋ねた。

 

「ここはな、かつてゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが拠点にしていた区画なのさ。いや、区画そのものが拠点だった、と言う方が正しいか」

「ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアですか!?」

「あぁ。名前ぐらいは知っているだろ?」

「はい。とても有名ですから」

 

 ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリア。オラリオができた1000年前からギルドと共に存在したファミリアであり、かつてのオラリオで最強の名を冠した二大派閥だ。

 だが、現在は存在しない。主神であるゼウスとヘラはまだ存在するが、とある戦いで大きく力を落とした時に現在の二大派閥であるロキ・ファミリアともう一つのファミリアによってオラリオから追放された。そのため、生き残りもいくらかいるが実質的にファミリアは解散状態になっている。

 

「かつてのゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアは、それこそこの辺り一帯が人で埋め尽くされていたほどの勢力だったのさ」

「そうだったんですか・・・あれ、ギルさんは当時のことを知っているんですか?」

「あぁ、縁があってな。こうしてここを散歩しているのも、だからこそだ」

「そうなんですか・・・なんだか、僕なんかがここで暮らしてるのが申し訳ない気が・・・」

「いや、ベルが気にする必要はない。建物だって、放置されるよりも誰かに使われる方が本望だろうさ」

「そう、ですか?」

「あぁ。だから、申し訳ないからって出て行く必要はないぞ?むしろどんどん使ってやってくれ。もちろん、粗末に扱うのは許さんが」

「はいっ、わかりました!」

 

 元気よく頷くベルに、ギルは満足げに頷いた。

 

「お~い!ベルくーん!!」

 

 するとそこに、教会の中から新たな人影が出てきた。

 出てきたのは、低い身長のわりに胸には立派な果実を備えている黒髪ツインテールの少女だった。

 だが、ギルはただの少女だとバカにすることはない。()()は人間とは根本的に違うため、誰であっても気配でわかるのだ。

 

「あ!神様!」

「まったく、いつもの時間になっても戻ってこなかったから心配しちゃったよ」

「すみません。つい、この人と話し込んじゃって・・・」

 

 申し訳なさそうにするベルを見てから、現れた女神は値踏みするようにギルを眺める。

 

(何様だ、こいつ・・・あぁ、神様か)

 

 内心で少し不敬なことを考えつつ、それを知ってか知らずか、女神は高らかに宣言した。

 

「君にベル君は渡さないからね!」

「あんたは何を言っているんだ」

 

 本当になんのことだかわからないギルは、呆れた眼差しを投げつける。

 

「というか、自己紹介も無しにいきなり敵対宣言するのはどうかと思うんだが・・・」

「おっと、ごめんね。何やら怪しい感じがしたから・・・」

 

 女神も礼を失した自覚はあるのか、咳ばらいをしてから自己紹介をした。

 

「どうも、はじめまして。ボクは不滅と聖火を司る神、ヘスティアだ」

「これはご丁寧にどうも。俺はギル。ベルとはここで世間話をする程度の仲だ」

「なるほどね、君だったんだ。君のことはベル君から聞いていたよ。いろいろと面白いことを話してくれるって。ボクの眷属がずいぶんと世話になったみたいだね」

「こちらこそ、その名前を聞いて思い出した。あなたのことはいろいろと聞いている。自分の知り合いの神に、あなたと同郷と言っていた神がいたのでね。神格も高く、誰にでも平等に接する女神だと」

「え~?そうかい?照れちゃうな~」

 

 ギルから出てきた褒め言葉に、ヘスティアはデレデレと頬を緩ませる。

 そこに、ギルは興味本位から爆弾を投下した。

 

「それと、身長が低いくせに無駄にでかいものをぶら下げている生意気なクソチビ、とも」

「なんだとーう!誰だい、そんなことを言ったのは!!」

 

 ちなみに、これはロキが酒を飲んで酔っ払った際にこぼした愚痴だ。当神のものは平均と比べても貧相を通り越して板に近いため、ヘスティアのことを目の敵にしていた。

 そして、他にも似たような評価のされたことがあるのか、ヘスティアもそれだけでロキだと確信するにはいたらなかった。あるいは、反撃されるのが目に見えているから意図的に気づかないようにしているだけなのか。

 

「まぁ、それは置いといて、だ。別に俺はあなたからベルを獲るつもりはない。冒険者業からも半ば引退している身だしな。俺としても、尊敬されるのは嬉しいが、今の関係を変えるつもりは毛頭ない」

「むっ・・・嘘はついていないみたいだね。どうやら、ボクの早とちりだったみたいだ」

「そういうことだ」

 

 ギルの瞳を覗き込んだヘスティアは、納得したようにうなずいて引き下がった。

 永い時を生きてきた神々は、子どもたる人間のことはなんでもお見通しなのだ。

 

「さて、保護者も出てきたことだし、今日はこれでお開きとしよう。じゃあな、ベル」

「はい。今日もありがとうございました、ギルさん」

 

 別れの挨拶を告げたギルは、立ち上がって廃墟群を去っていった。

 その後ろ姿をベルは手を振って見送ったが、ヘスティアは手を顎に当てて何かを考えていた。

 

「・・・・・・」

「あれ、神様?どうかしたんですか?」

「・・・いや、なんでもない。それよりも、早くご飯にしよう!」

 

 心配そうな表情になるベルに気にしなくていいと笑顔を浮かべて、内心ではギルのことを考えていた。

 

(なんだろう・・・騙されてる、ってわけじゃないんだろうけど、なんか釈然としないなぁ)

 

 ヘスティアから見て、ギルが嘘を言っていたとは思えない。だが、それでも心の中のもやもやがなぜか消えない。

 言ってしまえば、神の勘といったところか。

 それでも、悪いことにもならないという勘もある。

 せめて、ベルにとって悪いことにならなければいいと願いながら、ヘスティアはベルと共に教会(ヘスティア曰く「ベル君との愛の巣」)へと戻っていった。

 

 

* * *

 

 

 ダンジョン18階層。

 ここはダンジョンの中でもモンスターがほとんど出現しない安全階層(セーフティポイント)の1つで、それを利用して冒険者によって独自の街が作られた。

 その名を『リヴィラの街』と言い、ギルドの監視の目がなく法律もないに等しいため、様々なアイテムの取引が法外な価格で為されていたり、禁制のアイテムも普通に販売される。

 それでも、ダンジョンの中でも数少ない休憩地点であるため、人通りは常に多い。

 そして、その中に遠征の最中であるロキ・ファミリアの姿もあった。

 もう1つの安全階層は50階層であり、それまではモンスターが出現する中夜営することもあるため、英気を養うために滞在するのだ。とはいえ、リヴィラの街では宿屋も法外な価格であるため、結局野営をすることになるのだが。

 そんな中、フィンたち三首領は天幕の1つで今後のことを話していたのだが、そこにフィンたちを呼ぶ声が現れた。

 

「団長。少しいいですか?」

「アキか。あぁ、大丈夫だ。入ってくれ」

 

 フィンが了承すると、天幕に黒髪の猫人(キャットピープル)の女が入ってきた。片手にはラウルを引きずっている。

 彼女はアナキティ・オータムと言い、幹部候補でもあるLv.4だ。ラウルとは同期なのだが、アキの方がしっかり者であるということでラウルは彼女に頭が上がらないことが多い。

 

「珍しいな。ラウルを引きずってまで私たちに尋ねてくるとは」

「私は聞いておいた方がいいって言ったんですけど、『団長たちのことだから大丈夫っすよ』って言って聞かなかったので」

「なるほど。それで、そうまでして僕たちに聞きたいことってなんだい?」

 

 ある意味、礼を失していると言えなくもない遠慮のない態度に、フィンたちは気にするまでもなく先を促す。

 これは上下関係を気にしていないというわけではなく、はっきりと意見すること自体が好ましいと考えているからだ。

 現在のロキ・ファミリアは、幹部以上とそれ以外で大きく差が開いており、その分幹部、特に三首領に対して絶対的な信頼を寄せている。それは、フィンに絶対の信頼を置いているラウルにも言えることだろう。

 だが、下部構成員ならともかく、幹部は団員の命を預かることもあるため、すべてフィンたちに任せるというわけにはいかないのだ。

 そのため、アキの態度はラウルを片手に掴んでいるのはともかく、遠慮なく疑問をぶつけるのは必要なことでもあるのだ。

 だからこそ、フィンたちもよほど機密事項に触れない限りはできる限り疑問に答えるつもりでもある。

 

「それなら、単刀直入に聞きます。ギルさんって何者なんですか?」

「なるほど・・・そう言えば、2人には話してなかったか」

「むしろ、知っている人間の方が少ないじゃろう」

「だが、2人もいつかはギルドを背負って立ってもらうことになる。それなら、そろそろ話してもいいかもしれんな」

 

 真剣な表情で話し合うフィンたちに、何かとんでもない機密を話されるのかと、アナキティとラウルは思わず体を硬くして身構える。

 それを見たフィンは苦笑しながらも話し始めた。

 

「そう身構えなくてもいい。別に彼のことは重大な機密事項というわけでもない。とはいえ、できるだけ他言無用にしてもらいたいことではあるけどね」

「・・・彼は、何者なんですか?」

「そうだね。まず、ギルというのは本名ではない。偽名、というよりは愛称に近いかな」

「あやつを本名で呼ぼうものなら、オラリオが軽くパニックになりかねんからのう」

「だからこそ、団員にもできるだけ知らせなかったのだがな」

「・・・では、本名はなんて言うんですか?」

「ギルガメッシュ。名前なら聞いたことはあるんじゃないかな?」

「え!?」

「ギ・・・!?」

 

 フィンが出した名前に、アナキティとラウルは盛大に目を見開いて驚愕をあらわにした。

 それほど、衝撃の大きい事実なのだ。

 

「ギ、ギルガメッシュ、って・・・!?」

()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう、あの・・・!?」

「そう。神の血をその身に宿し、神の降臨と共におよそ1000年を生きた神以外の神時代の生き証人であり、ただ1人、Lv.10へと上り詰めた【英雄王】だ」

 

 Lv.2以上へ上り詰め、数多の二つ名が冒険者に授けられて来たが、はっきりと「王」と名付けられたのはギルガメッシュただ1人だ。

 「冒険者」として彼を知る者こそすでに少なくなってしまったが、【英雄王】としての彼は数多の物語やおとぎ話を残すほどに今でも有名なのだ。

 そして、アナキティとラウルが驚いたのには、もう1つ理由がある。

 

「で、でも、もうすでに死んだって話じゃなかったすか!?」

「たしか、三大冒険者依頼の最後の1つ、黒竜の討伐に失敗してそのままって・・・」

 

 三大冒険者依頼。それは、神の降臨以前に地上に現れた非常に強力な3体のモンスターの討伐依頼を指す。

 そのうちの2体、「陸の王者」ベヒーモスと「海の覇王」リヴァイアサンはすでにゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリア、そしてギルガメッシュによって討伐されており、残りの1体である黒竜の討伐に向かった結果、返り討ちにあってしまい、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの冒険者のほとんどは肉体か精神、あるいは両方が死ぬか再起不能レベルにまで破壊され、ギルガメッシュも激闘の果てに死亡したとされていた。

 ロキ・ファミリアの元に現れるまでは。

 

「だが、実際は生き延びていたらしい。僕たちも、館に押しかけて来たときは驚いた」

「あやつが現役のときは、儂らが、というか特にフィンが世話になったからのう。じゃから、あやつの居候の申し出も受け入れた」

「まぁ、あの男の中ではすでに決定事項だったがな」

 

 うんざりとしながら、それでもどこか懐かしそうな表情で語るフィンたちを前にアナキティとラウルはしばし呆然とするが、新たな疑問が沸き上がった。

 

「あれ?でも、なんでうちに居候することになったんすか?Lv.10なら、普通に復帰しても問題ないんじゃ・・・」

 

 当然とも言える疑問を口にするラウルだったが、言っている途中で気づいたらしい。

 普段の動きを見た限りは、どう見てもLv.1相当でしかないと。

 フィンも、そうだと頷いた。

 

「たしかにギルは生存していたけど、後遺症がないわけじゃない。いや、これ以上になく厄介な枷を付けて戻ってきた、とも言える」

「どういうことっすか?」

「彼は黒竜との戦闘で、神の力(アルカナム)を使ったんだ」

神の力(アルカナム)!?使えるんですか?」

「彼曰く、出力は1割にも満たないようだけどね」

 

 神の力(アルカナム)とは、文字通り神にのみ許された力であり、下界での使用はほぼすべて制限されている。

 だが、神の血を宿すギルガメッシュは出力はさすがに下がるものの、下界で唯一神の力(アルカナム)を扱うことができる存在だった。

 とはいえ、戦闘で神の力(アルカナム)を用いたのは黒竜戦が初めてであり、その時は本人も知らなかった相応の代償があった。

 

「どうやら、人の身で神の力(アルカナム)を使うと、器に多大な負荷をかけるらしい。黒竜との戦いで神の力(アルカナム)を使った結果、ギルの器はボロボロになってしまったそうだ」

 

 器とは魂の容器と言えるものであり、レベルが上がるほどに大きく、丈夫になり、受け止めることができる魂の容量が増える。そして、器が強く大きくなるほど、受け止める魂の容量が多くなるほど、その分だけ強くなることができる。

 そして、現在のギルの器はいわば大きなヒビだらけの状態であり、とうていLv.10の力を受け止めることはできない。

 

「そのままでは、ギルの器そのものが壊れてしまう。そこでギルは、自身のステイタスを制限する術を身につけたんだ」

「ステイタスを制限って、そんなことができるんすか!?」

「彼の中に神の血が流れているからね。ステイタス更新も自分でやっていたって話だし、いろいろと試行錯誤もしたらしい」

 

 当然、技術の問題以前にやるメリットそのものがないため真似をする神もいないのだが、必要に迫られたギルは死にかけの体でなんとかその技術を会得。意図的にステイタスを下げることで器にかかる負荷を減らし、力を犠牲に人並みの生活を送れるようになった。

 

「そうだったんすか・・・ちなみに、このことを知っているのは?」

「うちだと僕たちと幹部だけだ。他には、椿と神ヘファイストス、オッタルと神フレイヤも知ってるかな」

「たまにうちに来る椿さんはともかく、【猛者(おうじゃ)】もですか・・・」

「それとファミリアではないけど、ウラノスも知っているようだ。ギルがオラリオに戻って来て顔合わせをしたのは、ロキとフレイヤ、ウラノスの三柱だったはずだからね」

 

 ウラノスはオラリオを創設した神の一柱であり、ギルドの主神でもある。だが、ウラノスがギルドの経営に口を出すことはほとんどなく、「君臨すれども統治せず」の姿勢を貫いている。

 ギルとはオラリオの創設初期からの仲であり、ゼウスやヘラと共にオラリオの基盤を固めるために協力したことも多い。そのため、お忍びでオラリオに戻ってきたときに一番最初に顔を合わせたのはロキではなく実はウラノスだったりする。

 

「そうだったんですか・・・ちなみに、椿さんが知っているのはどうしてですか?」

「たしかに今のギルのステイタスはLv.1相当なんだけど、1000年にわたって磨き上げられた技術まで失ったわけではない。椿にはそこに目をつけられたらしくてね。ギルが持っていた武器にも興味を持ちだして、なし崩し的に打ち明けることになったんだ」

「あの時は本当に苦労したのう・・・」

「武器、ですか?でも、普段は持っていませんよね?」

 

 当時の苦労を思い出したガレスがため息をつくと、アナキティはギルが武器を持っているところを見たことがないことに疑問を持った。

 だが、それについてはフィンは首を横に振った

 

「残念だけど、それ以上は僕たちの口からは言えないかな。他に聞きたいことがあるんだったら、遠征が終わってから本人から聞いた方がいいだろう。幸い、ギルは性格には少し難があるけど、話すこと自体は嫌いじゃないからね」

「そ、そうですか・・・」

「もし話しかけづらいのであれば、ロキを通じて話し合いの場を設けよう。奴もロキに負けず劣らず酒が好きだからな」

「そういえば、いつもロキと飲んでるっすね」

「ロキも酒飲み仲間が増えて、嬉しいんじゃろう」

 

 それからは、今後の予定を少し話した後、アナキティとラウルは天幕から出て行き、フィンたちも話し合いを再開した。




今回は、いろいろとギルの核心に迫りつつ独自考察も交えてみました。
原作の方だと廃墟群についてあまり説明されてないですけど、たぶんこんな感じなのかなって感じで書きました。もし不手際というか間違っている部分があったら、書き直すつもりです。
ギルについても、いろいろとツッコミがあるかもしれませんが(ダンまちでは人と神の間に子供を作れない等)、そのあたりの説明はおいおいやっていきます。
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