かつて【英雄王】と呼ばれた男   作:リョウ77

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【英雄王】ギルガメッシュ 前編

 ベルに励ましの言葉を贈った翌朝(と言っても、すでに日付は変わって日も昇りかけていたが)、ギルは黄昏の館に戻って朝食を食べてから再び例のモンスターの件について調べ、結局この日も収獲がなかったことに肩を落としたギルだったが、返って来てからロキに夜に酒を飲まないかと誘われた。

 昨日も打ち上げをしたばかりなのだが、その時は途中で水を差されてしまったので、その飲みなおしと言われればギルも断る理由はない。どのみち、ギルが酒の席に誘われて断るのは非常に稀だが。

 そうしていつもロキと館で酒を飲むときに使う部屋に向かうと、今回は珍しい人物がいた。

 

「・・・おいおい。俺は酒の席だと聞いたんだが、なんでお前らが揃っているんだ?」

 

 部屋に入ると、そこにはロキの他にフィンとガレス、リヴェリアの姿があった。

 基本的に3人、特にリヴェリアは夜遅くまで飲むギルとロキを諫める側なので、何か言って来るのかと身構えたギルだが、フィンが苦笑しながら訳を話した。

 

「いや、僕たちは付き添いに来ただけで、用があるのはこの2人だ」

 

 そう言ったフィンの視線の先には、新たに用意されたソファにアナキティとラウルが縮こまりながら座っていた。

 ギルはこの2人の用に心当たりがなかったが、緊張しきった態度から察した。

 

「あぁ?どういう・・・まさか、話したのか?」

「2人は次期幹部候補だからね。候補といってもほとんど確定事項だし、なにより2人はギルについて僕たちに尋ねに来たから、話してもいいと判断した」

「もちろん、2人とも口は堅い方やから安心してええよ~」

 

 フィンの説明の後にロキが心配しなくてもいいと手をひらひらと揺らす。

 ギルとしては、アナキティはともかくラウルに思うところがあったが、フィンたちが話してしまったのならあれこれ考えるのは無駄だと思いなおした。

 

「それで、俺の酒の席にその2人を呼んだってことは、俺の昔話でも聞かせようってことか?」

「そうだ。アイズたちにも聞かせただろう」

「それはそうだがな・・・まぁ、いいか」

「あの~、ギルさん、じゃなくて、ギルガメッシュさんの話って団長たちと幹部の人は全員聞いてるんすか?」

 

 ギルの昔話という言葉に反応したのはラウルだったが、名前を呼びなおしたことにギルが反応した。

 

「待て。俺のことはギルのままでいい。たしかにニックネームみたいなもんだが、今の俺の偽名でもあるんだ。わざわざ呼びなおす必要はない。敬いは必要だが、ガチガチに緊張されるとこっちも肩が凝る」

「わ、わかったっす、ギルさん。それで・・・」

「俺の昔話のことだな?あぁ。酒の席で聞かせてやったよ」

 

 フィンたちにギルが昔話を聞かせたのは、ギルがロキ・ファミリアに居候してから1ヵ月ほどが経ったころだった。

 幹部たちは下部構成員と違って最初の頃からすでにギルのことを疑問に思っており、幹部の中でも特にフィンに熱を上げている1人がギルに直接問いただしてきた。

 ギルは最初こそ面倒そうにあしらったが、かなりしつこく迫ってきたためロキとフィンたちが同席している場でギルの正体を打ち明け、そのまま親睦を深めるという名目でロキが酒を引っ張り出して酒宴を始めた。

 その中で、ロキやフィンも興味を持ったことでギルの昔話をすることになったのだ。

 ちなみに、この時にギルの正体をフィンたち三首領も必要になれば話してもいいと取り決めた。

 

「意外だったのは、一番聞き入っていたのがフィンだったことだな」

「え?団長がですか?」

「ははは。本物の英雄から話を聞ける機会なんて、なかなかないからね」

「かく言うわし等も、というかロキ以外ほぼ全員が夢中になって聞いておったな」

 

 ガレスが打ち明けた話に、ラウルとアナキティは目をぱちぱちと瞬きさせた。

 ロキ・ファミリアの団員にとって、幹部以上の存在は非常に大きな意味を持つ。

 そんな彼らの子供のような側面に意外感を隠せなかった。

 

「そういうわけだから、ラウルとアキはとても運がいいと言えるね」

「だが、あまり期待はし過ぎない方がいいぞ」

「期待、ですか?」

 

 リヴェリアの言い回しにアナキティは首を傾げるが、聞けばわかると視線でギルに話を促した。

 

「ったく・・・まぁ、せっかくの昨日の打ち上げの飲みなおしだ。こいつも出そうか」

 

 そう言うと、ギルはおもむろに虚空に手を伸ばした。

 すると、ギルが手を伸ばした先の空間に波紋が生じ、ギルはその中に手を突っ込んだ。

 そして、ギルが波紋から手を引き抜くと、その手には黄金の金属瓶が握られていた。

 

「わっ!何もないところから!?」

「これが・・・」

「俺のスキルの1つ、【王ノ宝庫(ゲート・オブ・バビロン)】。これくらいは聞いたことがあるだろう」

 

 【王ノ宝庫(ゲート・オブ・バビロン)】。すべてを手に入れたギルガメッシュが手に入れたものを保管するための蔵であり、ギルガメッシュを書いたおとぎ話には大抵書かれているほど【英雄王】を象徴するスキルになっている。

 波紋の先はギルだけが自由に干渉できる異空間に繋がっており、様々なものが収納されている。

 内部でも時間は経過しているため生ものなど腐ってしまうようなものを長期間収納することはできないが、それ以外に欠点が無い非常に汎用性が高いスキルになっている。

 

「こいつは特別な酒瓶でな、魔力、というか精神力(マインド)を込めればほぼ無限に酒が出てくる代物だ。使用者に応じて味が変わったり、最悪酒が出てこない場合もあるのが難点だが、Lvが6以上なら間違いなく一級品になる。今回はさらに特別に、俺が入れてやる」

「え!?いいんすか!?」

「というか、大丈夫なんですか?今のギルさんってLv1相当って話じゃ・・・」

「いや~、前それを使ったときはロシアンルーレットみたいな毒見になったんやけどな、なんか精神力(マインド)はギルのLv縛りの影響を受けないみたいで、めっちゃ美味かったで!」

 

 当時の状況と酒の味を思い出したのか、ロキは下品に舌なめずりをしながら容器を持ってギルに突きだした。早く飲ませろということらしい。

 相変わらずなロキに、ギルは苦笑しながらも酒を注いだ。それから順番に、全員の容器に酒を注いでそれぞれに渡した。

 

「そ、それじゃあ・・・」

「い、いただきます・・・」

 

 ラウルとアナキティはかなり恐縮しながら、おそるおそる酒を口に含み、大きく目を見開いた。

 とてつもなく美味い。

 味は全体的に辛口なのだが、決してしつこくない辛味で、その後にほどよい旨味が舌を撫でる。

 一気飲みには向かないが、テーブルに置かれている東方のつまみと一緒に食べるには非常に相性のいい酒だ。

 

「ぷはぁー!やっぱ美味いわ!」

「つーかロキ、最初からこれを飲むつもりでつまみを持ってきたな?」

「ええやんええやん。うちは辛口の酒にあうつまみを持ってきただけやで」

「というか、その酒瓶自体、まさに酒飲みのための物ですよね・・・」

 

 アナキティの思わずといった呟きに、ギルは当然だと言わんばかりに頷いた。

 

「そりゃあそうだろう。そいつを作ったのは酒好きの神秘持ちだからな」

「それは、才能の無駄遣いというか、なんというか・・・」

 

 “神秘”とは非常に珍しいアビリティで、これを持つ眷属は魔道具と呼ばれる特殊な道具を作り出すことができる。

 “神秘”によって作成された魔道具は、普通は非常に高い価格で売られているか、そもそも市場に出ることすら禁制のものがほとんどで、一流の冒険者でも見ることは稀だ。

 

「いつでも酒が飲めるようにって作ったようなんだが、自分で入れると不味い酒しか出てこないからって捨てようとしてたところを、俺が貰ってやった。代金代わりに俺が酒を入れてやったら、かなり喜んでくれたな。ちなみに、そいつが作った魔道具は全部酒関連だ」

「「うわぁ・・・」」

 

 あんまりと言えばあんまりなレアアビリティの無駄遣いに、ラウルとアナキティは揃って呆れの声を漏らした。

 本来、魔道具は冒険や戦闘をサポートするものであり、決して道楽目的で作るものではない。

 世の中には様々な変人がいたものだと考えながら、ハッと今回の目的を思い出した。

 

「って、思わずお酒の話になっちゃったっす・・・」

「そういえば、俺の昔話だったな。さて、どこから話したものか・・・」

「せっかくやから、最初から話せばええやん」

「それもそうだな」

 

 フィンたちがいる手前、あまり長々としゃべらない方がいいかと思ったが、ロキにそう促されてギルも頷いた。

 

「それじゃあ、俺の生まれのことは知っているか?」

「えーと・・・」

「ウルク王国の王族、ですよね?」

 

 ギルの質問に、首をひねるラウルに代わってアナキティが答えた。

 

「そう。1000年以上前、神が下界に降臨するよりも前から存在し、神の加護がなくともモンスターと渡り合った都市国家。それがウルクだ」

 

 神が降臨する前、下界の人間は日々モンスターの脅威に怯え、現代で英雄と呼ばれている一部の者だけがモンスターの進攻を退けていた。

 その中でも、強大な城塞や過酷な練兵、優れた知略によってモンスターを撃退し続けていたのがウルク王国だった。

 ウルク王国は単騎でモンスターと渡り合える人材が複数人おり、そうでなくとも数と戦略によってモンスターを狩り続けてきた、いわば当時の世界最強で最も安全な都市でもあった。

 そのため、モンスターの脅威から逃げた人々や名を上げようと訪れた戦士たちによって繁栄を極めていた。

 だが、

 

「とはいえ、すでに滅んでいるがな。俺がウルク王国最後の生き残りというわけだ」

「そう、なんすよね・・・」

 

 自分の祖国が滅んでいるというのに、まったく態度が変わらないことにラウルが疑問を持った。

 

「俺が生まれたのは、神が降り立った半年後くらいらしい。俺が生まれる前の話だから知らんが、当時は騒ぎに騒いだらしいぞ?」

 

 神がウルクにも降臨したことで、その様相がガラッと変わった。

 神から神の恩恵(ファルナ)を授かったことで、モンスターに対抗できる人員が大幅に増えたのだ。

 その時、ウルクに降り立った神は5柱で、その中の1人がギルと血が繋がっている。

 

「俺の体に流れている神の血は主に夢解きと知恵の女神のニンスンのものだが、他の神からもいろいろと知識を植え付けられたな」

「でも、人間と神の間には子供を作ることなんてできませんよね?」

 

 アナキティの言うように、神と人間の間に子供を作ることはできない。(ちなみに、それは精霊にも同じことが言える。)

 そのため、ギルの存在はある意味矛盾の塊と言えるのだ。

 その辺りのことはおとぎ話には詳しく語られておらず「奇跡によって産まれた」としか書かれていないため、多くの読者に疑問符を植え付けた。

 だが、それが書かれていないのは相応の理由がある。

 

「たしかにその通りだ。だが、俺は別に人間と神の間に生まれた子供ではない。両親は2人とも人間だ」

「え?それって・・・」

「俺は生まれた時は人間だった。だが、俺が赤ん坊だったころに、ニンスンを筆頭に神の血(イコル)を直接輸血したのさ。その結果、生まれたのが俺だ」

 

 神々が降臨した当初、神々は下界の道を求めて様々な行動を起こしたが、その中の1つにこのようなものがあった。

 “人は神になりうるのか”。

 言ってしまえば、現人神を生み出すことはできるのかという試みで、その方法の1つが幼いうちに神の血(イコル)を大量に輸血することだった。

 つまり、ギルガメッシュの生まれはこの実験の被検体だったのだ。

 

「今となっては、その辺りのことはタブー扱いされているからな。だから、ウラノスが徹底して情報統制したのさ」

「そ、そうだったんすか・・・それで、結果は?」

「見ての通りだが?」

 

 結果から言えば、人を超えることはできたものの神に至ることはできなかった半神半人が生まれた。

 さらに、半神とは言っても振るえる力は本来の10分の1にも満たない中途半端なもので、唯一神と同じなのは全盛期から年を取ることもなく寿命によって死ぬことが無い肉体だけだった。殺して死ぬのかは、いまだにわからないが。

 

「まぁ、失敗したからといって責められることはなかったがな。神の血が流れているのは変わらないし。そこで、王は俺を旗印にしようと考えたのさ。神の血が流れた王が統べる国、ってな」

 

 それからは、そのための教育の日々だった。

 神々から様々な知識を与えられ(半分は碌でもないことだったが)、さらに10歳になるとニンスンによって神の恩恵(ファルナ)が刻まれ、戦うための鍛錬も行った。

 

「さて、ここで問題だ。俺がLv.2に上がるまでにかかった年月は、どれほどだと思う?」

「え?えっと・・・2年とか?」

「ど、どれくらいか、っすか?1年とか?」

 

 突然問いかけられて困惑しながらも、2人はこれくらいではないかと答えた。

 Lv.2に上がれない冒険者もいるとはいえ、Lv.10に至ったのならやはり早いのではないかと考えての回答だったが、

 

「2人ともハズレだ。正解は、3()0()()だ」

「えっ」

「さ、え?30?3年とかじゃなくて?」

 

 最初のレベルアップには、あまりにも遅い年月だった。

 かつてのフィンたちと同じような反応をする2人に、ギルはくつくつと笑いながらそのあたりの事情を説明した。

 

「あぁ、30年だ。ま、おおまかな理由は2つほどある。1つは、俺が凡才だったから」

「ぼ、凡才って、ギルさんが?」

「正直、想像できないんですけど・・・」

「かもな。だが事実だ。たとえ神の血をもってしても、才能までが飛躍的に上昇するわけじゃない。そうだな、例えるなら、器の中の飲み物が変わっても、器そのものは変わっていないようなものか。神の血によって力を得ても、俺と言う器そのものが変わったわけではなかった。人並みの才能しかなかったまま、俺の中に流れる神の血がここまでの高みへと押し上げたのさ」

 

 Lvが上がるということは、その分だけ器が神のものへと近づくということでもある。

 つまり、凡庸だったギルの器は、神の血によって高位のものへと変化を遂げていったのだ。

 それこそが、ギルがLv.10の頂にたどり着いた理由でもある。

 

「まぁ、これに関しては理由の1つでしかない。というか、死ぬ気で頑張ればレベルなんてすぐに上がるもんだ。問題だったのは、もう1つの理由だな」

「それで、そのもう1つの理由っていうのは?」

「簡単な話、俺の父でもある王が俺を閉じ込めたからだ」

「「え?」」

 

 突然でてきた物騒なワードに、ラウルとアナキティの目は点になった。

 

「言い方が悪かったか?閉じ込めたって言っても、別に監禁したわけじゃない。俺を城から一歩も外に出さなかったのさ。そして、これこそが俺のレベルアップが遅くなった最大の理由でもある」

 

 レベルアップとは、ただ 冒険をしていれば達成できるものではなく、大きくわけて2つの手順がある。

 1つは、基本ステータスのうち、どれか1つでもD以上に上げること。

 基本ステータスは0から999までの数値とIからSまでの等級に割り振られており、戦闘などの行動によって経験値(エクセリア)を積むことで上昇していく。ステータスには伸びしろがあり、ある数値を境に伸びが悪くなるため、ステータスの伸び幅が俗に言う才能として見られている。

 そしてもう1つが、偉業を達成すること。

 偉業というだけではあやふやだが、もっとも簡単なのは自分の限界を超える何かを為すことである。

 たとえば、Lv.1の冒険者が自分より上のレベルの冒険者を打倒した場合、それは偉業としてレベルアップに必要な上位の経験値(エクセリア)を得ることができる。

 この2つと父王の判断が、ギルの成長を阻んだ。

 

「将来、国を背負うことになる人間が、死ぬのはもちろん、傷でも負おうものなら箔が下がる。だから、怪我をさせないように、まるで女子を蝶よ花よと育てるように扱うように部下に厳命した。結果的に、それが俺の成長を阻むことになった」

「その結果が、Lv.1からLv.2に上がるのにかかった30年、ってことっすか?」

「でも、それだけ時間がかかっちゃったら、国民は失望しちゃうんじゃ・・・」

 

 強い冒険者、戦士というのは、いつどこでも重宝される。

 その中で、国を背負うとされていたギルが凡才であり、レベルアップに30年も費やしてしまっては、民は見放してしまうのではないか。

 そう思った2人に、ギルは頭を振ってその考えを否定した。

 

「いや。俺がLv.2に上がったと知らされた時、民は総出でそれを喜んだ。なんだったら、記念にと国ぐるみの大規模な祭りまで催されたぞ」

「「え?」」

 

 Lv.2に上がった記念に、国が総出で祭りを開く。

 オラリオでは絶対にありえないような出来事に、ラウルとアナキティは愕然とした。

 たしかに、ファミリアの中で初めて眷属がLv.2に上がったとなれば、ファミリアの中で祝宴をあげることはあるだろう。

 だが、ギルの場合は前提がいろいろと違い過ぎる。

 

「当時、すでに兵士たちの中にはLv.4に至った兵士すらいたというのに、そいつには目もくれずに凡才だった俺のLv.2を祝って祭りが催された。それを見た俺は、心の底から()()したよ。自分が生まれた国にな」

 

 かつて、命がけでモンスターと対峙して国を守り続けた勇姿は、もはやどこにもなく。

 神の恩恵によってモンスターの討伐が容易となったウルクでは、その志が神の降臨前と比べて非常に低くなってしまったのだ。

 

「その様子を、俺は自室で見渡していたな」

「そういえば、ギルさんの最初の発展アビリティって【千里眼】なんですよね」

 

 発展アビリティとは、基本アビリティよりも専門的な分野に特化した能力であり、Lv.2以降のランクアップの際に1つだけ獲得できる。

 ギルがLv.2にレベルアップした際に得た発展アビリティは【千里眼】。オラリオでは最も役に立たないと言われているものだ。

 【千里眼】は簡単に言えば遠くが見えるアビリティだが、閉所がほとんどのダンジョンでは遠くを見る必要はほとんど無く、もっと言えばレベルが上がるだけでも視力は上がる。

 そのため、特にオラリオではもっぱら腐りアビリティとして認知されている。

 そんな発展アビリティが発現したのは、城の中に閉じ込められていたギルの外界への興味からなのか、あるいは熱望からなのか。

 だが、ギルにとってはほとんど関係のない話になっているが。

 発展アビリティにもIからSまでの等級が存在し、ギルは【千里眼】を含めたすべての発展アビリティをSにまで極めている。

 今のギルであれば、館からダンジョンの中を見ることや、意図的にはできないが過去や未来を見ることもできる。

 

「その光景を見た俺は、このままでは自分が腐ってしまうと悟った。だから、俺は父王に俺とその他大勢による遠征の計画を申し出たが、兵士を国の外に出すこと、俺を城の外に出すことを認めなかった。その頃には、もうあるべき王としての姿はどこにもなかった」

 

 ギルの目に映っていた父王は、神によってもたらされた恩恵に酔いしれ、保身のためにしか行動しなかった。

 ほとんどの民も、ギルという神の血を引く王子の存在に、理由もなく自分たちはこれからも素晴らしい生活を送れると信じて疑わなかった。

 だからこそ、ギルはある決断をした。

 

「俺がLv.2に至った1週間後、俺は俺に同調した十数人の兵士たちと共に、深夜に王国の外に出てオラリオを目指すことにした」

 

 当時、すでにオラリオの名は世界に広まっており、ウルクと共に世界最強の都市であると噂されていた。

 さらなる高みを目指すために、ギルと他十数名は関係者の目を欺いて国の外に脱出してオラリオに向かった。

 

「忍んで出国したこともあって物資は多くはなかったが、治療師もいたし食料は現地で調達できたからなんの問題もなかった。そうして、今までとは比較にならないような鍛錬を積みながらオラリオへと向かっていったのさ」

「そうだったんすか」

「・・・あれ?でも、ウルクはどうなったんですか?」

 

 首を傾げるアナキティに、ギルは皮肉な笑みを浮かべて告げた。

 

「滅んだよ。俺たちが出国して1ヵ月ほど経ったころにな」

 

 端的な説明ながらも、2人はハッと息をのんだ。

 

「・・・どうしてですか?」

「どうして、か。言ってしまえば、俺がいなくなったからだな」

「でも、他にも優秀な兵士はいたんすよね?」

「あぁ。当時ウルクでは最高位だったLv.4の兵士は俺についたが、それでもLv.3を始めとした兵士たちは残っていた。だが、それでも滅んだ原因は、モンスターに襲われたからではない。自分たちで勝手に滅んだのさ」

 

 ウルクを出た後も、ギルは毎日【千里眼】でウルクの様子を観察していた。

 だから、何があったのかすべて把握している。

 ギルたちが秘密裏に国を出たと知れ渡ったとき、王城内部は混乱に包まれ、それは国民にも伝播した。

 国を背負って立つはずだったギルと優秀な兵士たちが消えたという事実に、父王は狂乱し、臣下たちもこれからの行く末を悲観した。

 それが国民にも伝わってしまい、国内では反乱がおきた。

 本来であれば、Lv.3の兵士2,3人だけでも対処できたのだろうが、その兵士までもが反乱に参加してしまい、国内は荒れに荒れた。

 さらに、その隙を突くかのようにモンスターの大規模な襲撃が発生してしまい、そのまま為すすべなく蹂躙され、神も全員送還、ウルクという国は滅んでしまった。

 

「まったく、笑い話にもならんよなぁ。たかだか十数人の戦士がいなくなっただけでこのざまとは」

「えっと・・・ギルさんは何も思わなかったんですか?」

「思わなかったな。そもそも、俺に限らず国を出た者たちはすでにウルクを見限っていた。俺たちが出て行った程度で滅んだのなら、それがウルクの選んだ道というだけだ」

 

 ギルの非情とも言える言葉に、2人は二の句が継げなくなってしまう。

 そこで、ロキが一応のフォローを入れた。

 

「まぁ、うちはその辺りの事情はよう知らんけどな。神の恩恵(ファルナ)を授かった眷属が調子に乗って失敗したっていう話は、けっこうあるんや。ウルクの場合、それが国全体で起こってしまった、っちゅうわけやな。例えばの話やけど、アキとラウルも、Lv.2になったときは浮かれとったやろ?」

「それは、まぁ」

「言われてみれば、そうですけど」

「今となっては恩恵を授かるのは当然になっとるけど、1000年前はそれ自体が奇跡っちゅーか、まさにレベルアップと同じような感覚やったらしいで?」

「ロキの言う通りだな。場所によっては、神の恩恵(ファルナ)を授かるだけでちょっとした英雄扱いされるところもあった。あくまで、授かるのは力じゃなくて、力を得るための土台なんだけどな」

 

 要するに、神の恩恵(ファルナ)を授かるというだけでも、今と1000年前では大きなジェネレーションギャップが存在するのだ。

 その中でも、ウルクは失敗した例の中でも特に大規模だった、というだけの話だ。

 

「ま、そういうことがあって、ウルクを出た俺たちは旅を続けて、オラリオにたどり着いた、というわけさ」




今回はギルについての説明回、その前編ですね。
スキルとか生まれはFate寄りにしつつ、あとはオリジナルにしました。
後編では、オラリオでの出来事について書く予定です。
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