かつて【英雄王】と呼ばれた男   作:リョウ77

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【英雄王】ギルガメッシュ 後編

「それで、オラリオに着いてからのことなんだが・・・まぁ、俺から話すことは少ないよな」

「オラリオでの出来事は、だいたいおとぎ話に書かれていますもんね」

 

 ウルクにいた時の出来事は、それを記す人間がいなかったため詳しいことは書かれていなかったが、オラリオでの出来事なら話は違ってくる。

 半神半人の冒険者など、作家からすれば興味の塊である。

 そのため、とある作家がわりと早い段階でギルの活躍はおとぎ話として執筆され、最初の話はギルが来て100年ほど経ってから発売されることになった。ちなみに、ギルのおとぎ話は総じて「ギルガメッシュ英雄譚」と呼ばれ、100以上の話が存在する。

 

「細かい冒険の話は後で話すとして、まずは必要なことから話すか。オラリオにたどり着いた俺たちは、ウラノスのところに赴いて諸々の事情を話してオラリオに滞在するための場所を提供してもらった。それが、ゼウスとヘラのファミリアだったのさ」

「たしか、館を借りたんですよね?」

「あぁ。人数で言えばゼウスやヘラのところよりも少なかったが、それでも十数人を泊めようとすると、それくらいしかなかったからな。そこで立ち上げたのが、いわゆる【ギルガメッシュ・ファミリア】ってやつだ」

 

 神の血を持つギルは、他の神と同じように神の恩恵(ファルナ)を更新することができる。ある神の神の恩恵(ファルナ)を他の神に変更する改宗(コンバージョン)はウルクを出た時点で済ませたが、正式にファミリアとして名乗りを上げたのはこのときが初めてだった。

 だが、この【ギルガメッシュ・ファミリア】は長続きしていない。

 というのも、

 

「ギルさんのファミリアって、最初の団員だけで新しく勧誘とかしなかったんすよね?」

「そうだな」

 

 普通のファミリアであれば人を集めて規模を大きくするのだが、ギルはウルクから共に旅立った人間のみに恩恵を施し、新たに団員を迎えたりはしなかった。

 そのため、【ギルガメッシュ・ファミリア】は結成からおよそ100年ほどで事実上解散している。

 

「なんでだったんすか?」

「大きい理由は、俺自身戦うことができたからな。頑張ってファミリアを大きくしなくても、俺自身が強くなればあまり問題にならなかった。あとは、感情的な部分もあったか。俺と共に国を捨てた配下以外に恩恵を与えるってのは、気が進まなかったのさ」

 

 国を捨てるということは、国に残る人を捨てるということになる。当然、その中には家族や恋人、親友もいる。

 それでもなお、国への失望やギルへの忠誠など理由は様々だが、彼らはギルに着いていくことを選んだ。

 結果的に国は滅んでしまったが、それでも全員が「悔いはない」と言い切った。

 だから、ギルの中で新たに団員を迎えるというのは彼らに対する裏切りのようにも思えたのだ。

 そのため、ギルは最初の十数人以外に恩恵を与えたことは一度もない。

 

「そこからは、まぁいろいろとあったな。ゼウスとヘラのファミリアと共にダンジョンの階層を更新したり、たまに開催された闘技大会に出場したり。レベルもその中で上がっていって、Lv.10になったのはオラリオに来てから500年くらい経った頃だったな。スキルや魔法を習得したのはLv.7になってからだが」

 

 恩恵を授かった冒険者には、スキルと魔法が発現することがある。

 だが、スキルに目覚めるものはあまり多くなく、魔法に関しては発現しないことの方が圧倒的に多い。魔法に関しては1つだけ裏技があるのだが、極めて希少な手段なためその方法で魔法が発現した者も非常に少ない。また、魔法にはスロットというものが存在し、基本的にスロットがない者は魔法が発現せず、最大でも3つまでと決まっている。

 Lv.7になってスキルと魔法が両方発現したというのは、かなりの遅咲きと言ってもいいのだ。

 

「それまでは、武器と身一つで頑張ったもんだ。まぁ、魔法はともかく、せっかくのスキルはこれだけだが」

 

 ギルが持つスキルは1つ。それが、【王ノ宝庫(ゲート・オブ・バビロン)】なのだ。

 

「せっかく発現したスキルが完全にサポーター向けだったのは、あの時はそこそこショックだったな。まぁ、使い方次第でどうにでもなったのが幸いだったか」

 

 余談だが、ギル自身のステイタス更新はギルが自分でやっていた。

 通常であれば、背中に恩恵を刻んだ眷属に神が自身の血で操作することで更新を行うのだが、ギルは体内の血をそのまま使ってステイタスを更新していた。

 その際には非常に集中しているのだが、周囲からは「1人相撲を極めた」などとからかわれることもあった。

 閑話休題。

 

「初めの頃は、ゼウスとヘラの協力もあってなんとかやっていけたようなものだったな。ダンジョンのモンスターは、地上のやつらとは格が違ったし」

 

 地上のモンスターとダンジョンのモンスターとでは、その間に大きな差がある。

 オラリオの冒険者とその他で大きな差が出る理由もそこにあり、ギルドで設定されているモンスターの潜在能力(ポテンシャル)が同じでもダンジョン産の方が強い場合がある。

 さらに、下は同じ程度だが、例外を除けば上になると圧倒的にダンジョンのモンスターの方が強い。

 とはいえ、そうなったのはオラリオ、というよりダンジョンの蓋であるバベルが建設されてしばらく経ってからの話だが。

 

「そういえば、ゼウスとヘラのファミリアのお世話になっていたってことは、その2つのファミリアの強くなれる秘訣とかも知っているんですよね?」

「ん?まぁ、そうだな。というか、俺も団員たちに混じって訓練、というか鍛錬を受けていたし」

「だったら、その方法とか教えてもらってもいいですか?」

 

 アナキティは女性だが、冒険者ということもあってやはり強くなりたいとは思っている。

 だから、ギル、ひいてはゼウスとヘラの強さの秘訣を知りたかった。

 それはラウルも同じなようで、期待するような目をギルに向けている。

 それを受けて、ギルはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ほう?強くなりたいのか」

「当然です」

「当然っす」

「いいのか?言っておくが、フレイヤのところの“洗礼”がただの“飯事”になるレベルだぞ?」

「・・・やっぱりいいです」

「・・・遠慮しておくっす」

 

 多くのオラリオの冒険者は、フレイヤ・ファミリアの苛烈さを耳にしている。

 それが“飯事”と断言されるほどの特訓を強いられるくらいなら、もはや聞きたくもない。

 だから、フィンもその“最強の特訓方法”とやらを取り入れるつもりはなかった。ゼウスとヘラに比べれば、ロキ・ファミリアは若すぎるのだ。

 意気消沈する2人に、ギルはカラカラと笑った。

 

「はっはっは!1000年の壁を甘く見ちゃあいけねぇよ。じゃなきゃ、伊達にかつてのオラリオ最強なんて名乗ることなんてできやしねぇ」

 

 そう笑うギルだったが、アナキティが不意にあることを尋ねた。

 

「でも、それでも敵わなかったんですよね?あの“黒竜”に」

「・・・あぁ、そうだな」

 

 この世界には、『三大冒険者依頼(クエスト)』というものが存在する。

 神が降臨するよりも前に現れた、3体のモンスターの討伐を指すものであり、オラリオにはこれらを討伐する責務と資格を持っている。

 そして、そのうちの2体を討伐したのが、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリア、そしてギルガメッシュなのだ。

 

「大地を殺す猛毒を持つ『陸の王者』ベヒーモス、水中では無類の強さを誇る『海の覇王』リヴァイアサン、そして、かつて最強の英雄だったアルバートですら命と引き換えに片目を潰すことしかできなかったという“隻眼の黒竜”。そのうち、ベヒーモスとリヴァイアサンを討伐することができた俺たちは、少なくない犠牲を払ったとはいえ浮かれていたのさ。『これなら黒竜にだって勝てる』って。もちろん油断していたわけではなかったが、それでもあのありさまだった」

 

 ベヒーモスとリヴァイアサンの討伐を遂げた冒険者たちは、為すすべもなく黒竜に蹂躙された。

 その中には、ゼウス・ファミリアのLv.8とヘラ・ファミリアのLv.9もいたが、それでも太刀打ちすることができなかった。

 

「ある者は踏みつぶされ、ある者は噛み砕かれ、ある者は炎に焼かれた。かつてのオラリオの最強は、まさしく地獄絵図のような様相の中で命を落としていった」

「で、でも、ギルさんも神の力(アルカナム)を使って対抗したんっすよね?」

「そこまで話していたのか・・・あぁ。たしかに俺は神の力(アルカナム)を解放して、やつに立ち向かった。それでも、鱗を削ぐことで精一杯だった」

 

 そうして、ギルもまた黒竜に返り討ちに遭い、結果的にそれをきっかけに士気が大幅に低下し、かつて最強と謳われた冒険者たちは敗走した。

 それをきっかけに、ゼウスとヘラのファミリアは大幅に衰退し、ロキとフレイヤによってオラリオを追放されることになった。

 傍から見れば無情にも見えるが、ギルはそうして正解だったという。

 

「都市最強がいなくなってしまえば、外部の人間が我先にとオラリオに介入してくるのは目に見えていた。だから、新たな都市最強を用意する必要があった。そのやり玉に挙がったのが、ロキとフレイヤだ」

「まぁ、うちもフレイヤもそんな大それたことを考えてやったわけやないけどな。うちらとしては絶好のタイミングだったくらいにしか思っとらんかったけど、ゼウスとヘラは自ら望んで追放されたんや。そうして、うちらとフレイヤのところが新しくオラリオ二大派閥として君臨することになった、っちゅーことや」

「そうだったんですか・・・」

 

 知られざる裏話に、アナキティとラウルは言葉がでなかった。

 2人がオラリオに来てロキ・ファミリアに所属したのはその後だったため、そのような事情は知らなかったのだ。

 とはいえ、このことを知っている団員は現在では少なくなっているのだが。

 そこで、沈んでしまった空気を切り替えるためにロキがギルに話題を振った。

 

「せや、そうしたらギルがその後どういう風になったのか、聞かせてやったらどうや」

「あぁ、それもそうだな。あの後、黒竜の反撃を受けて瀕死の重傷を負ったが、なんとか死なずには済んだ。どうやら、即死さえしなければ死なない程度には不死性を持っていたらしかったようでな。傷は深すぎたせいで治らなかったが、ギリギリで死ぬことだけは避けられた。とはいえ、出血も止まらなかったし意識も朦朧として途中で気を失ったんだが、そこである存在に助けられた」

「ある存在って、なんすか?」

「大精霊だ」

「だっ!?」

「大精霊!?」

 

 精霊とは、神が降臨するより前に神によって遣わされた存在で、かつて英雄たちに助力していた。神の恩恵を授からなかった英雄たちがモンスターに対抗できたのは、精霊によるサポートが大きい。

 現在では神の恩恵によってその出番は減ってしまったが、精霊そのものはいまだに存在する。

 ある精霊は森や山の中でひっそりと暮らしたり、またある精霊は俗世の中で生活している。

 また、様々な素材に加護を付与することで冒険者に貢献している精霊も存在する。

 その中でも、特に大きな力を持っているのが大精霊だ。

 

「どうやら、森の中で死にかけていたところを偶然目撃したようで、住処に介抱したらしいんだ。気づいた時には手当されて横になっていたけどな。実はそこで、輸血もされた」

「え?」

「それって、まさか・・・」

「そう、精霊の血だ」

 

 かつて昔にも、精霊の血を授かったという人物はいるが、それらはほとんどが“精霊の奇跡”というおとぎ話の類だ。

 現在になって、精霊の血を与えられた人間はほとんどおらず、先祖から受け継ぐ家系がいくつかある程度だ。

 

「神の血に加えて、大精霊の血だなんて・・・」

「ちょっと、豪華すぎないっすか?」

「そうだな。俺でもそう思う」

 

 精霊の血を引いている人間は非常に少ない。

 そもそも、俗世間の中で暮らしているものを除けば、基本的には会えるだけでもラッキーな存在であるため、ギルの運は常人と比べてもかけ離れている。

 とはいえ、何回もラッキーなことが起こると言うよりは、長い年月の中で一生に一度レベルの幸運が何回か訪れる、と言った方が正しいが。

 

「本来であれば、精霊はなんの見返りも無しに人間を助けたりしないんだが、俺の中に神の血が流れているのが幸いしたな。そのおかげで、精霊の目に留まったようだ。輸血もしてもらえたのは、本当に幸運だった」

 

 精霊はすべての存在の中で最も魔法に秀でており、精霊の血を引く者は魔法に関する技術に秀でた才能を持っていることが多い。

 黒竜との戦いで大きな代償を支払ったギルだったが、完全に得とは言えなくとも限りなく小さい損で済んだと言うべきだろう。

 あるいは、精神力(マインド)がレベル制限の縛りを受けていないのも、この辺りに理由があるのかもしれない。

 

「それからしばらくの間はその大精霊のところで養生して、その後にオラリオに戻ってここに居候することになった、というわけだ。後のことは、言うまでもないか」

 

 それからは、ロキ・ファミリアの団員たちの面倒を見つつ好き勝手に過ごす日々を送るようになった、というわけだ。

 そこで、ラウルが目に見えて下心をにじませた表情でギルに尋ねかけた。

 

「そういえば、ギルさんがお世話になった精霊って、女性なんすか?」

「そうだぞ」

 

 精霊とは神々が下界に遣わした存在だが、生み出したのもまた神々だ。

 そのため、彼ら彼女らの容姿は基本的に神の趣味に寄っている。

 つまりは、美男美女が揃ってる、というわけだ。唯一、土妖精(ノーム)だけはドワーフに近い見た目になってしまっているが。

 そうでなくとも、一つ屋根の下に男女が揃って、しかも美女が男を介抱しているシチュエーション。

 期待という名の妄想を膨らませるなという方が難しかった。

 女性陣、特にアナキティから冷たい視線を向けられているが、ラウルは気づいていない。

 

「だが、別に2人きりというわけでもなかったぞ。その大精霊のお手伝い役の精霊も何人かいたし」

「・・・」

 

 つまりはハーレムということだろうか。

 実がギルはフレイヤとも関係を持ったことがあると知ったら、果たして彼の妄想はどこまでいくのだろう。

 もはやごみを見るような視線を向けるアナキティは、それでもやはり気になるようで。

 

「それで、どのように過ごしていたんですか?」

「べつに、面白いことなんてないぞ。基本的にはベッドの上で過ごしつつ、それだけだと体がなまるから運動をしたり散歩をしたり、そんなもんだ・・・あぁ。だが、個人的に精霊の血を授かるよりもラッキーなことがあったな」

「それって、なんですか?」

 

 精霊の奇跡よりもラッキーなこと。

 果たしてどのようなものなのか気になるアナキティに、ギルはニヤリと笑った。

 

「これだ」

 

 そう言って、再び虚空に手を伸ばして波紋の中を漁った。

 波紋の中から手を取り出すと、ギルの手には鞘に納められた片手剣が握られていた。

 

「抜くなよ」

 

 そう前置きしてから、ギルはテーブルの上にその片手剣を置いた。

 

「これは?」

「精霊によって黒竜の鱗から作られた剣だ」

「「・・・・・・え??」」

 

 この人は何を言っているのだろうか。

 それが、2人が抱いた感想だった。

 

「最後の一撃を喰らわせてから反撃を受けたとき、咄嗟に破壊された黒竜の鱗の破片をくすねたんだ。さらに、他にもベヒーモスの牙とリヴァイアサンの鱗もくすねている。それで精霊に装備を作ってもらったのさ」

「「え~・・・・・・?」」

 

 さらに追加された情報に、2人の頭は情報過多でオーバーフローを起こしてしまい、頭から煙をくすぶらせた。

 だが、2人の反応は普通と言えば普通である。

 そもそも、討伐されたベヒーモスのドロップアイテムは回収されておらず、リヴァイアサンのドロップアイテムはすべてギルドに預けられており、ゼウスとヘラの団員でも手出しはできなかったはずなのだ。

 それなのに、ギルはその2つの素材に加え、あまつさえ死にかけた際にも素材をくすねたという。

 もはや驚くなと言われても、単身でダンジョンの深部に挑んだ方が簡単なまである。

 

「そんじょそこらの鍛冶師はもちろん、当時もっとも優れていた鍛冶師でも預けられるものではなかったからな。そういう意味では、精霊に預けてちょっとした特殊効果を付与してもらいつつ作ってもらったのは幸運だったな」

 

 ギルが実はかつて【英雄王】と呼ばれていたと知った時には少し距離が離れたような気がして、それでもこうして話している間に縮まったと思っていた距離は、次の瞬間には地平線の彼方まで開いてしまった。

 もはや、2人の魂はこの場になかった。

 

「ん?おーい、大丈夫かー?」

「あらら、完全に魂が抜けてもうてるわ」

「無理もない。僕たちだって、似たような感じになったからね」

 

 フィンが当時のことを思い出しながら苦笑いを浮かべつつ、2人がようやく意識を取り戻してからは、普通に冒険譚を聞かせることでどうにか元通りに戻ったのだった。




今回は、けっこう独自解釈とかいれてます。
最近、ダンまちの新巻が出るペースがものすごい遅くなってしまいましたからね。知りたいことがなかなかしれないという・・・。
まぁ、アプリの方のオリジナルストーリーとか、アニメの打ち合わせとかいろいろあるんでしょうから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれませんね。

*ダンまちメモリアフレーゼのグランド・デイのストーリーを見て、少しニュアンスを変えました。
いや、すっかりドロップアイテムとかモンスターが死んだときのこととか抜け落ちていたので。
「死んだら灰になるんじゃ?」って思う方もいるかと思いますが、“【王ノ宝庫】が異空間に存在することから、偶然モンスターの死亡の影響を受けずに残った”ってことにしておいてください。
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