ギルが自身の身の上話をしてから数日。
ギルはまったく実りのない日を送っていた。
図書館を巡っては片っ端から本を読み漁り、欠片も手掛かりを得ることができない日々に、ギルはそろそろストレスが溜まっていた。
ちなみに、その間にロキは神だけが招かれる宴でフレイヤにちょっかいをかけようとしたところ、逆にやり込められてしまい、それが気に入らなくてヤケ酒を決めていた。
ギルもそれにあやかる形でほどほどに酒を飲んで気を紛らわせていたが、そろそろ進展が欲しいところだった。
だが、これ以上同じことをしても進展は得られないだろうと、なんとなく理解していた。
だから、今日は気分転換をすることにした。
「へ~、どこもかしこも賑わってるな」
この日、いつものように散歩をするギルだが、いつもと違う点がある。
それは、普段はない様々な出店が立ち並んでいるということだ。
そのため、人通りもいつもと比べて多い。
「
それは、ギルドが主催しているイベントだ。
簡単に言えば、ダンジョンのモンスターを地上に運んで、、あるいは都市の外からモンスターを連れてきて、闘技場の中でそのモンスターを倒さずに
モンスターを
というより、このイベントはガネーシャ・ファミリアがギルドに全面的に協力することで成り立っている。
周囲からは、モンスターを地上に運ぶのは本末転倒ではないかと危惧する者や、中には市民に媚を売るための見え透いた政策だと言う者もいる。
当然、このようなイベントを行う理由はある。
それは、市民と冒険者の緩衝材だ。
たびたび問題を起こして荒くれた無法者と思われがちな冒険者のイメージを払拭するために、あえて血を流して討伐するのではなく、派手なパフォーマンスをしながら手懐けているのだ。
・・・あくまでそれは
(ま、それをここで考えるのは野暮ってもんか)
今は気分転換に、思う存分祭りを楽しもう。
思考を入れ替えて、ギルはあっちへこっちへとフラフラしながら出店を回っていく。
ちなみに、ロキから情報収集の手間代として駄賃をもらっている。
祭りを楽しもうとするギルが珍しかったから、というのもあるかもしれないが。
そんな風に気ままに祭りを楽しみながらぶらぶらと出店を回るギルだが、そこで知っている人物を見かけた。
「よう。奇遇だな、ベル。それに神ヘスティアも」
「あ!ギルさん!」
「おや?ギル君じゃないか!」
2人・・・1人と一柱もギルの声に気づいたようで、駆け足で近づいてくるベルを後ろからヘスティアが追いかけてきた。
「ギルさんも、
「俺もってことは、そっちもか」
「はい!」
「正しくは、ボクとベル君のデートだけどね!」
そう言って、ヘスティアは自身の腕をベルの腕に絡ませて体を密着させた。
「君にベル君は渡さないよ!!」という無言のメッセージがひしひしと伝わってくる。
「そうか、デートか。なら、俺が横から入るのは野暮ってもんか」
「ぎ、ギルさん!?ぼ、僕と神様は、そんな・・・」
「そうだよ!それじゃあ、ボクとベル君はこれから楽しんでくるから!」
そう言って、ヘスティアは「では、アデュー!」とベルの手を掴み、足早にどこかへと向かっていった。
「・・・べつに、俺は横取りするつもりなんてないんだけどな。
そう呟いたギルは、チラリととある飲食店の窓を除いた。
そこには、紺色のローブの端から銀髪をのぞかせる女神の姿があった。
(ん?なんだ、ロキとアイズもいるのか)
【千里眼】で覗いてみると、そこには知った顔もあった。
一瞬なぜと思ったが、おそらくファミリア関連で面倒を起こすなと釘を刺しにきたのだろうと察した。
ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアは、よく言えば永遠のライバル、悪く言えば犬猿の仲という関係だ。
些細な出来事でもちょっとした抗争が起こる分、過激ではあるが。
厳密に言えば、互いに蹴落とそうとしている間柄、という方が正しいか。
とはいえ、ギルはそれを疎ましく思っているわけではない。
むしろ、研鑽のためには必要なことだと考えている。
だが、今日は祭りの日だ。こんな時にまで派閥間抗争をしなくてもいいだろう。
ロキがフレイヤに釘を刺すのも当然と言えば当然だ。
ただ、
(なんか、ベルに変なちょっかいでも出すつもりじゃないだろうな)
フレイヤの視線がベルに向けられていたことに、ギルは気づいていた。
そして、ベル関連で何かを企んでいるということも。
まさか、ギルとフレイヤの間で交わした暗黙の取り決めを破るつもりではないだろうが、それでもあまりいい気分はしない。
(敵対しないに越したことはないが、さて、どうなることやら)
ひとまず、今はまだ様子見の段階だとして、ギルはフレイヤを視界から外した。
せっかくの祭りを楽しみたいのは、ギルも同じなのだ。
* * *
それからしばらくぶらついた後、ギルは
「へぇ~。モンスター自体はそこまで強くないが、この大観衆の中で、それもパフォーマンスも交えながら
当然の話ではあるが、たとえ弱い個体であってもモンスターを
一発で成功させるだけでも賞賛ものの
ただ、
(あの変な仮面はどう意味でつけているのだろうか)
モンスターを
一応、主神のガネーシャと同じデザインなので、たとえ名が知れていなくても一目でガネーシャ・ファミリアの団員であることがわかるのだが、仮面のデザインは良く言えば奇抜で、身もふたもない言い方をすれば、けっこうダサい。
少なくとも、ギルはまったく身に着ける気になれなかった。
そもそもを言えば、ガネーシャ
(団員がどういう気持ちで着けているのかは知らんが、同情するな)
幸か不幸か、ガネーシャ・ファミリアはオラリオの治安維持を担っているため、その人気は非常に高い。
数だけであればロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアを上回るのも、そのためだ。
「・・・ん?」
ちょうど虎のモンスターを
(なんだか、やけに騒がしいな・・・)
闘技場の中が、ではなく、闘技場の外が。
そして、入れ替わりに大型の竜のモンスターが入場してきたことに疑問を覚えた。
(あれだけの目玉を、この中途半端なタイミングで出すだと?)
そこで、予感が確信に変わったギルは、【千里眼】で闘技場の外の様子を確かめた。
「ちっ、どういうことだ」
ギルの視界では、モンスターが暴れまわっているところが見えた。
闘技場の外が騒がしいのも、それによる混乱の悲鳴だ。
だが、よく見るとモンスターは暴れてこそいるものの、人は一切襲っておらず、一心不乱に何かを探している様子だった。
そこで、ふとベルと会ったときに見たフレイヤを思い出した。
まさかと思い、視界を闘技場の裏手にまわしてみると、
「・・・やっぱりか」
そこには、予想通りフレイヤの姿があった。
おそらく、警備員を“魅了”して侵入し、モンスターも同じく“魅了”して外に放ったのだろう。
種族に関係なく魅了するフレイヤの“美”にギルは内心でさすがだと思いつつ、面倒ごとを引き起こしてくれたと舌打ちした。
幸い、闘技場の観衆は気づいていないようで、闘技場内ではまだ混乱は起きていない。
それに、ガネーシャ・ファミリアや一部の冒険者がすでに対応に回っているため、混乱はまだ一部に収まっている。
それよりも、
(フレイヤの目的からして、おそらくモンスターの狙いはベルだ)
フレイヤは、ベルが英雄の道を登ることを望んでいる。
モンスターを解き放ったのも、そのためだろう。
ベルは未だにLv.1の新米冒険者の少年だ。そんじょそこらの雑魚なら問題ないだろうが、もし格上のモンスターと遭遇してしまったら。
「さて、どうする・・・いや、考えるまでもないか」
ここで、ギルはベルを
格上と言っても、今回のパフォーマンスのために連れてきたモンスターはほとんどがLv.2相当。その中でも、問題なく地上に連れてこれるような弱めの個体。
であれば、ベルが一方的にやられるようなことはないはずだ。
フレイヤが望むのはベルの昇華。ベルの死を望んでいるわけではないだろう。
他の冒険者の助けも得られれば、
(おそらく、ベルでも十分対処が可能なはずだ)
それに、ギルもベルが英雄の道を登ることを望んでいる。
だから、今回のフレイヤの行動には目をつむることにした。
とはいえ、このまま放置というわけにもいかない。
外の鎮圧のために、ギルは誰にも気づかれないまま闘技場の外へと向かった。
街に出てみると、やはり周辺は騒ぎになっていた。
人的被害はほとんどないものの、物的被害はかなり出ている。
「これは、ギルドもガネーシャ・ファミリアも大目玉を喰らいそうだな」
そんなことを考えながら、ギルは【千里眼】で危険そうな場所を探す。
だが、
「ありゃ、もう片が付きそうだな」
どうやら、ロキと一緒に出掛けていたアイズがその場に居合わせていたようで、もうすでに半分以上のモンスターが倒されていた。
この様子なら、手を出さなくとも大丈夫そうだ。
そう判断し、どうせならベルの様子でも見ようかと【千里眼】を別の場所に飛ばそうとしたところで、
「あ?」
何やら、地面が揺れた。
地震かと思ったが、それにしてはぐらりという揺れは不自然だ。
それこそ、地下で何かが移動しているような、そんな感じだった。
まさかと思いつつも、ギルは【千里眼】を地下に向ける。
そして、
「・・・へぇ」
その正体を視たギルは、口元に獰猛な笑みを浮かべ、その正体が向かっている方向へと走っていった。
今回は簡単めに。
というか、「二人の魔王」が完結して燃焼気味っていうのもありますが。
多分、もうしばらくは「二人の魔王」シリーズを優先することになりそう。
それはそうと、次回はようやくまともな戦闘シーンに入ります。
とうとうギルの戦いが読めますよ。やったぜ。