エクシアの誕生日
「悪い、エクシア。お前の誕生日パーティー参加出来ないや」
「ええー!ボス来てくれないの?」落胆の声が漏れてしまう。 ペンギン急便ではそれぞれの誕生日を皆で祝う習慣があった。皆が心を込めて祝ってくれるのだが、その中でもミュージシャンであるボスのパフォーマンスはとても盛り上がるものであり私が一番楽しみにしていたものだった。
「クリスマスライブのスペシャルゲストに呼ばれてしまってな。まあ、お前が喜ぶようなプレゼントを用意しておいたから許してくれ」
「むー、どんなプレゼントなの?」ボスのプレゼントがどのような物か考えてみる。新しい銃だろうか?でもボスが銃について詳しいとか聞いたことないし違う気がする。アップルパイだろうか?確かにボスの作るアップルパイには興味がある。だけど、パフォーマンスの代わりとしては少し弱い。そんな事を考えているとボスから紙束が渡される。
「何これ?」思ったことがつい口から出てしまう。
「ロドスの作戦概要書だよ。お前には明日の作戦に参加してもらう」
「はあ?誕生日プレゼントが仕事?いくら私が暴れるのが好きだからってヒドくない?」
「いや待て、早まるな!それの3ページだよ!銃を抜くな!」
銃を押さえられて一応大人しくページを捲ってみる。そのページにはメンバー表が載っていた。しかめ面になっているのを自覚しながらメンバー表を見る表情が一変したのが自分でも分かった。
「…モスティマ?」
「そうだよ。モスティマに仕事を頼もうとしたら、その日はロドスで仕事あるからって言ったからドクターに確認して、エクシアを編成に入れて貰ったんだよ」ボスは続ける。
「ほらエクシアさ、最近モスティマに会えなくて淋しげだったからな。ほらライブの代わりくらいにはなるだろ?」
「…うん」得意げに話すボスに対して小言の一つでも言ってやろうと思っていたのに口から出たのは自分でもびっくりするような小さく短い同意の言葉だった。期待と羞恥から顔が紅潮する。
「じゃ、そういうことだから。あ、モスティマに夢中になりすぎてペンギン急便の株を落とさないようにな!あと、他のメンツはちゃんと祝ってくれるんだからパーティーに遅れるなよ!」そう言うとボスは部屋を出て行った。…久しぶりなんて程じゃない。シラクーザのマフィアに絡まれた時以来だから、約半年?あれ以来モスティマはペンギン急便に戻ってなかった。しかも、あの時も結局ほとんど話さない内にいなくなっちゃったから最後にちゃんと話したのはいつだっただろうか…モスティマと話すチャンスをくれたボスに感謝の念を覚えながら私は皆より一足先に寝ることにした。
明朝、ペンギン急便の建物から出てロドスの艦に入る。ロドス直属ではないオペレーターは必ず作戦の前にリーダーの執務室に行き作戦の説明を含めた様々な作業をすることになっていた。ロドスの中は、ここ数ヶ月ですっかり見慣れたものだったが今日はモスティマがいるかもしれない。そんな思いが周りの景色を新鮮なものに感じさせる。リーダーの執務室に到着するとドアノブを握るよりも早くドアが開いた。一瞬、モスティマかもしれないと身体が強張る。しかし、出て来たのはサイレンスだった。
「あら、そういえばエクシアさんも今回の作戦の参加者だったね。今回は厳しいらしいから頑張ろう」そう言ってサイレンスは離れていった。改めてドアを開けて執務室に入る。
「やっほー!リーダー!」
「ああ、エクシアか。誕生日おめでとう。書類で見たと思うが今一度作戦を説明するから聞いてくれ」ドクターは説明を始めた。数分後、作戦の説明が終わったのを見て執務室から出ようとするとドクターに止められた。
「エクシア、今回の作戦にモスティマが参加するからエクシアを参加させてやってくれと君のボスから言われたが、今回の作戦は厳しいものとなる。モスティマに話しかけたくても我慢してくれ」大きくうなずくとドクターは満足げに付け足した。
「作戦が終わったらいくらでも話して良いから」
「ありがとう、リーダー。また後で!」もうそろそろ作戦時間だ。気合いを入れるために顔を軽く叩いて執務室を出た。
10分後、リーダーの号令で戦闘は始まる。確かに厳しい戦場だが、個人個人の力量と巧みな作戦で戦局は割と優勢に進んでいた。少し余裕が出来て周りを見渡してみる。戦場の反対側にモスティマは立っていた。視線に気づいたのか、こちらに微笑むモスティマを見てまた顔が紅潮したとき、サイレンスに脇腹をつつかれた。
「エクシア、敵が来てる。油断しないで」
「ご、ごめん!」我にかえると沢山の敵がそこまで迫っていた。銃を乱射して数秒経つと、敵はいなくなった。
「作戦終了!」ドクターの声が響く。厳しい戦闘の終幕に皆から安堵のため息がもれる。でも、私は気が気でなかった。急いで撤収の準備をしてモスティマを探す。いた。ドクターと話しているモスティマを見つけると心臓が大きく鳴り出した。…さて、どうやって切り出したものか。考えてみるが、モスティマを見て舞い上がっている私の頭は全く動いてくれない。そうこうしている間にモスティマがドクターに手を振っているのが見えた。二人の話はもう終わったようだ。今行かなくては。このタイミングを逃したら次話せるのは何年後になるかも分からない。色々聞かなきゃ。話しかけなきゃ。頭が真っ白なまま私は走り出す。
「モスティマ!」
「ん、どうしたのエクシア」あの微笑みでこちらを見るモスティマ。三度顔が赤くなり緊張で喉が乾くのを感じる。何も言葉が出て来ない。でも何か言わなきゃ。
「ね、ねえ。今日誕生日なんだけど…プレゼントとか…無い?」言ってからしまった、と思う。今戦闘が終わったばかりでプレゼントなんか持っているはずないのに。心の中で頭を抱える。
「うーん。今持ち合わせが無いんだ…」ほら、持っているはずがなかった。モスティマの顔を見られなくて俯いてしまう。
「…けど、こんな物で良いならあげるよ」モスティマが手を差し出す。顔を上げるとそこには小さなキャンディがあった。
「ふふ…ありがとう、モスティマ」キャンディを手に取り、口に放り込む。ハッカの味がした。冬の風も相まって口の中が冷え、緊張と喜びで熱くなっていた私の身体が少し落ち着いた気がした。頭が再起動する。聞きたかったことが山のように頭に溢れてきた。
「モスティマ、あれはどういう意味?」簡単な質問から始める。それから段々と答えにくい質問へと。10個くらい聞いたところで核心の質問を投げかける。
「ねえ、モスティマ。あの日何があったか教えてよ」
「ふふっ、そろそろ教えてあげようかと思ったけど…もうこんな時間だよ?そろそろ帰らないとパーティーが始まっちゃうよ?」
「ええ?また先延ばしにするの?私が急げば大丈夫なことじゃん、話してよ」ここで逃したら聞くチャンスは回ってこない、直感がそう告げる。しかし、
「電話…鳴ってるよ?」渋々開けるとテキサスとある。
「もしもし」
「エクシア、パーティーの準備終わったんだがいつ戻る?」
「うーん、もうちょいかかるかなぁ…」ふと振り返るともうモスティマはいない。
「いや、今から帰るよ」
「? 分かった」さっさと電話を切って周りを探す。しかし、やはりモスティマはいなかった。
「逃げられちゃったか…」とぼとぼと帰途につく。
ペンギン急便の建物の前でボスが出迎えてくれた。
「あれ?ボスはクリスマスライブに行ったんじゃなかったの?」驚きが口から漏れ出る。
「ふん、思ってたよりもチンケなライブだったからバックレて来ただけのことよ。そっちはどうだったんだ?」ボスらしいなと思いながら質問に答える。
「色々話せたんだけど、核心の質問からは逃げられちゃった」
「なんだ、良かったじゃねえか」
「なんで?」
「モスティマときちんと話すのは数年ぶりだろ?旧友との親交ってのはそれだけで価値のあることなんだよ。いやー、あんだけ赤くなってたら結局話さずに帰ってきてしまうんじゃと思ってたよ。良かった良かった」
「もう、ボス!」からかうような調子のボスに乗せられて次第に悲しみが消えていく。
「ほら、テキサス達が待ってるぞ。パーティーは楽しまなきゃ損だぜ」扉を開けるとテキサス達がクラッカーを鳴らす。さあパーティーの始まりだ。
「エクシア、今回やけに酔いが早くないか?ここで寝られては困るぞ!」ボスの声が頭に響く。
「うーん?ボスおはよう…」
「ほら、片付けるから部屋に戻って寝ろ」若干疲れ気味のボス。思えばボスはロドスの件の手配からパーティーのライブまで出ずっぱりだったから大変だったのかもしれない。
「…ありがとう、ボス」そう言って部屋に戻る。今日起こったことを反芻してみる。凄くせわしない誕生日だったかもしれない。しかし、これも性に合っているし来年の目標も出来た。
「また一年頑張ろう」そう言ってベッドで深く眠った。