ポーションや、装備の手入れ等を終えたいのり。残すはロキの元でステータス更新するのみとなった。
「遅い時間に珍しい。」
ロキの部屋から誰かが出てきた。
「いのりも更新しに来たの?」
「うん。アイズも?」
「うん。でもあんまり伸びてなかった…。」
アイズ・ヴァレンシュタイン。オラリオの剣姫と呼ばれる彼女は僕の同期だ。歳は僕の方が1つ上だけど。
「どうしたらいのりみたく強くなれるの?」
彼女と僕は少し似ている。強くなりたい…その一心でダンジョンに潜る。ただ、アイズは今ステータスが伸び悩んでいるようだ。
「うーん、あんまり僕を参考にしても意味無いし…それに変に無茶されると僕もリヴェリアに怒られちゃうよ。」
「でも、強く…なりたい。」
「アイズの方が僕よりレベルが高いんだから、僕に聞くのは間違ってるよ…。」
僕のレベルは4。良くて2級、せいぜい準2級冒険者って言ったところだ。
「なんや話し声聞こえると思ったら、何話してるん?」
「ロキ…。」
恐らくロキにも焦るなと言われたばかりなんだろう…。少しばかり気まづそうだ。
「僕はステータスを更新しに来ただけだよ。」
「お、せやったな!いのりんが最後やで!」
「じゃ、また明日ね。」
「うん…また明日。」
納得はしてないから、また明日ね?って言う意味合いだろうか…。
「アイズたーん!お休みのハグー!」
背後から抱きつこうとするが難なく避ける。
「ぶべっ!?」
避けられたロキは勢いよく壁に激突。女性らしからぬ声を出した。
「ロキ、明日早いから速くして。」
第三者の僕はそんなの知らんと言わんばかりに、そそくさと部屋に入って行く。
「んじゃま、更新するで〜?」
何故か背中に馬乗りにならないとステータス更新したがらない為、仕方なく背中に馬乗りにさせている。
イノリ・ジンクウ (いのり・神喰)
Lv4
力 S 1870
耐久 SS 9999
器用 S 2570
俊敏 S 2780
魔力 A 800
魔法
雷光
発動時のステータス大幅上昇。
詠唱『我が身に宿え』
スキル
記憶内契約 (コントラクト・メモリー)
早熟する。 自身の記憶にある約束への思いの丈で効果は持続する。
利益と不利益の天秤 (メリットオブデメリット)
自身で決めたメリット、デメリットが現実になる。メリットが大きければ大きいほど、デメリットが大きくなる。
「ほい終わり!」
「ん、ありがとう。」
ステータス用紙を受け取り服を着直す。
「結局、いのりんは何をメリットにしてるん?」
恐らくこのスキルは複数のメリットデメリットを選択出来る。でも実際に決めているのは一つだけ…。
「んー、内緒…かな?」
「なんでなん?」
何時もおチャラけている雰囲気とは打って変わって真面目な雰囲気を醸し出す。
「ロキに言う必要は無いでしょ?」
「まぁせやな。それでも親や。自分の子供の事なら気になるやろ?」
「勿論、皆の事は家族同然に思ってる。でもロキ、アンタの事は親だとは思ってないよ。」
僕の過去を知ってる上でそう言っているなら尚更だ。
「ただ、感謝はしている。大手のファミリアに入れたのは他でもないロキのおかげ。でも、その借りはしっかり返してるつもりだ。」
「いのりんが神達を嫌ってるのは知っとる。でもリヴェリア達には教えてもいいんちゃう?」
僕が何をメリットデメリットにしているかは誰にも伝えてない。理由は間違いなく面倒な事になるから。
「いつか、伝える時が来たら伝えるよ。」
「ん、ならええ。ちなみにウチの事も嫌いなん?」
「うん。嫌いだよ。」
「直球!?」
「それじゃ、僕は寝るから。」
そう言って部屋から出ていくいのり。
「他の神よりマシと思ったんに…ショックやわ〜。」
「ははは、残念だったね、ロキ。」
いのりとは別の扉から入ってきたのは、フィンだった。
「あの子ホンマに本心から嫌いって言っとたで!?」
「当たり前だろう。普段の行いを振り返ってみろ。」
その後ろからリヴェリア。
「盗み聞きするつもりは無かったんだけどね。僕らも前々から気になっていた事だから。」
いのりのスキルは見たことも無いものだ。使いようによっては一時的に無類の強さを手に入れられるかもしれない。だが、その分代償が返ってくる。まさに諸刃の刃だ。
「あの子は優しい子や。家族が危険が及んだら、迷うこと無く使うやろ。」
「僕らがちゃんと見ておくさ。」
「あぁ、無茶はさせん。」
「ホンマ頼むで…。夢なんや、いのりんと肩組んで酒飲むんが。」
基本ウザがられるロキだが、皆親同然に思っているのは確かだ。近いようで遠い存在…ロキにとっていのりはそんな存在なのだ。
「うん、こんなものかな。」
装備の手入れ。ポーションの補充。念の為の非常食。基本的なものは後衛組が運ぶ為、前衛組は武器以外何も持つ必要は無い。
「念には念を…。予備の武器までは持っていけないけど、ポーションと軽食位は持っておくべきだよね。」
ダンジョンは魔窟だ。何が起こるかわからない…準備のし過ぎくらいが丁度いいのだ。
「今回も…皆無事で帰って来なくちゃね。」
りょうすけとの約束…。それだけは守らないと。
コンコン…。
「ん?誰?」
「起きてる?」
「アイズ…。まだ寝てないの?」
扉から顔をヒョコリと覗くのはアイズだった。
「うん。眠れなくて…。いのりならまだ、寝てないかなって。」
「もうそろそろ寝ようと思ってた所だよ。」
僕と同期の彼女は、幼い頃の境遇が似ている。その為が他の団員よりも打ち解けていると、僕自身は思ってる。かく言う僕もアイズといるのが1番落ち着く。
「少しだけ…。」
「はぁ…。いいよ。少しだけね?」
多分ロキファミリアの中で1番アイズに甘いのは僕だろうな。
「髪の毛、昔は白みがかってたのに、黒くなったね。」
「うん。まあ僕的にはどっちでもいいけど。」
「背もおっきくなった。」
「そりゃ僕の方が少しお兄さんだからね。」
「ねぇ…。」
「ん?」
「いのりのスキルって何?」
心臓をわしずかみにされた気分になった。
「なんで?」
「さっきロキの部屋に忘れ物したの。その時にフィン達が話してた。」
あぁ、僕が出ていった後フィン達が来たのか。
「別に大したスキルじゃないよ。」
「だったらフィンとリヴェリアが気にしない 。」
こうなったらアイズは頑固だ。多分僕が答えないと朝まで居るだろう。
「一つだけ、教えてあげるよ。」
「ロキ達が気にしてたスキル。」
まあやっぱりそっちだよね。他のスキルもあるよ〜って匂わせたのに、即答なのがアイズらしい。
「利益と不利益の天秤、ってスキルだよ。」
「どういうスキルなの?」
「自分の中で1つ利益になる事を決める。それと同レベルの不利益も決める。するとそれが現実になるって感じかな。順番は逆でも問題無いよ。」
かなり簡潔に伝えたが、大まかな内容はこんな感じだ。
「…よく分からない。」
「んー、分かりやすい例えは魔法かな。」
「魔法?」
「威力によって魔力消費量が変わるでしょ?それと同じ。小さな利益だったら小さな不利益で済む。この場合だと利益=魔法で不利益=魔力消費量って所だね。」
「じゃあいのりは何を利益にしてるの?」
何もしてない…って言っても嘘ってバレるか。アイズに言っても他言することは無いだろうし、いいか。
「多分複数個設定できると思うけど、今は一つだけ。利益は再生能力の向上。」
「不利益は?」
「痛覚とか触覚の倍増だよ。」
「…それってどれくらい?」
「さぁ?数値で出るわけじゃないし。自分じゃなんとも。」
このスキルの厄介な所は、再生する箇所が増えれば増えるほど痛みの感覚が増す。常時発動系のスキルだから尚更厄介だ。
「どうして…」
「待ってアイズ。それ以上は言わないで欲しい。」
「でも…。」
「これは僕が選んだ道だ。最短で強くなるために、必要な事だった。だから止める気もない。」
そうだ。このスキルがあったおかげで今のステータスがある。
「話はおしまい。もう寝た方がいいよ。寝坊したら間違いなく怒られるから。」
「うん。ねぇいのり。」
「ん?」
「また、手合わせ…してくれる?」
あぁ、昔はよくやってたのに最近は全くやらなくなったな…。
「いいよ。遠征から帰ってきたらやろう。」
「ん、じゃあ、お休み。」
「はい、お休み。」
そう言ってアイズは部屋を出て行く。
「これは言えないけど、痛みの感覚が凄すぎて寝るのに一苦労なんだよね。背中の触れてる感覚が痛いのかなんなのかよくわかんないし…。」
あぁ、明日も起きられるかな…。
そんな気持ちでいのりは床に就く。
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