蒼龍の場合:出撃時の限界我慢篇
洋上を航行する6隻の艦娘。
彼女らは深海棲艦を討たんと勇ましく出撃……したところではなく、母港に帰還するべく海の上を移動していた。
大きな損傷を受けている艦はおらず、既に戦闘を終え、味方勢力圏内まで戻ってきた彼女らの表情は穏やかだ。
ただ一隻、艦隊旗艦を務める航空母艦・蒼龍を除いて。
(うぅ、どうしよう……)
彼女は、乙女のピンチを迎えていた。
(どうしようどうしようどうしよう!……すっっっごく、おトイレ行きたい……!!!)
出撃前から我慢していた訳ではない。水分も摂取していない。長時間の任務でもなかった。
にも関わらず、強烈な尿意と戦う羽目になってしまった。
(……やっぱ、これが原因だよね)
そわそわと落ち着きのない自分の足下……高下駄のような艤装を見ると、先の戦闘で受けた小破未満の僅かな損傷がある。
これが尿意の遠因であった。
艦娘は長時間の活動に支障をきたさないよう、身体機能の一部を艤装に肩代わりしてもらっている。
蒼龍の損傷は小破にも満たない小さなダメージだったが、機能の一部が上手く働かなくなってしまい、尿意という形で影響が出始めた。
(もうっ……!サイアクっ……!)
艤装が面倒を見てくれなくなった分、尿意が一気に高まってしまった。
普段であればたまらずトイレに駆け込んでいるレベルの強烈な尿意である。
既に彼女の貯水タンクは満載状態だった。
(んっ、んんっ!……うぅ……我慢……我慢しなきゃ……!!)
『艤装が壊れて身体に影響が出ているから、ここでさせて』と仲間にお願いしようかとも考えた。
これは作戦行動中であればお願いするまでもなく普通のことである。
しかし今の損傷は小破以下……それも見た目には分からないくらい小さな損傷だ。
「艤装の損傷と言いながら、ただ我慢できないだけではないのか?」、「子供みたい」、「母港まであと少しなのに我慢できないのか?」と思われるかもしれない、と考えてしまっている。
それは杞憂なのだが、乙女の羞恥心が上回っている。
(うぅん……言い出しにくいよぉ~……あと少しで帰れるし、我慢しよ……)
そして、今日のメンバーには相棒の飛龍もいた。
彼女の前で「おしっこ我慢できないからここでさせて」などと言えば、当分イジられるだろうという思い込みもあった。
残念ながらこちらはその通り。
「あの、蒼龍さん?そろそろ直掩機を戻さなくて良いんですか?」
声をかけてきたのは今日の出撃メンバーの駆逐艦。
「え?」
「ええと、もう味方勢力圏内に入りましたし、直掩機もそろそろ……」
「直掩機……そうね!うん!ありがと!」
尿意に気を取られ過ぎて、上げていた直掩機のことを失念しかけていた。
着艦作業は空母にとって最も気を使う作業、気を引き締め直さなければ、と気持ちを新たにする。
(ふぅ、集中……集中……ヨシ!)
気合で尿意を少しばかり抑え込む。
「飛龍ー!直掩機下げるよー!」
後方を航行する相棒に声をかける。
が、返答がない。
「飛龍ー?飛龍ってばー!」
「え?ごめん、何?」
「もう!直掩機下げるよって言ってるのー!」
「あー……ゴメンゴメン!ちょっと潮風で聞き取れなくて!うん!準備する!」
珍しく、すこし集中を切らしている様子の飛龍。
調子が悪いのだろうか?
これは増々旗艦である自分がシッカリしなくてはと再度気合いを入れ直す。
「旗艦より伝令!これより直掩機を下げます!着艦作業用意!」
声を張り上げ、着艦作業の準備を艦隊に伝える。
蒼龍、飛龍それぞれの後方に駆逐艦が2隻ずつ、縦列に待機する。
航空機の着艦の目印になると同時に、着艦に失敗した航空機を吊り上げる所謂「トンボ釣り」をしてもらうためだ。
(集中……集中……)
蒼龍が気を張り詰める。
が、そこでまた尿意の波が押し寄せてきた。
(んっ!!んんっっっ!!)
最悪のタイミングだった。
着艦を成功させるためには、自分の肩の飛行甲板艤装をしっかりと保持し、構えなければならない。
下手に身じろぎするわけにはいかないのだ。
「蒼龍さん!こちらは準備できてます!」
加えて、後方には駆逐艦が待機している。
トンボ釣りに備えて彼女の動きをじっと観察していた。
「ふぅ……ふぅ……」
(まずいまずいまずい!!今にも出ちゃいそう!!)
蒼龍の貯水タンクが波に合わせて揺れる。
下腹部がタプタプと音を立てているようにさえ感じる。
少しでも気が緩めば……という状態。
「ふーー、ふーー……」
何とか深呼吸をしてやり過ごそうとする。
それでも行き場を求めて水分は大荒れ。
ここから出せと言わんばかりに出口に殺到する。
(これ……無理……っ!!)
「各艦!上空の航空機の動きによく注意して!!」
彼女の指示を受けて全員が上空を見上げる。
その隙に彼女は空いている左手で思いきり足の付け根の出口を握りしめる。
「んぅう!!くっ……!!」
力の限りギュウギュウと押さえる……所謂"前押さえ"だ。
ただ押さえるだけでなく、指の力も使って揉みしだくように力を籠める。
年頃の女性が普段するような仕草ではない、決して見られたくない姿だ。
「ふぅ……ふぅ……」
前押さえによって尿意を一旦抑え込むことができた。
皆の視線が下がり始めたところで手を離す。
(なんとか、耐えられた……けど……)
しかし次に同じような波が来たら、その時は耐えられるだろうか。
着艦作業中に片手が空くとは限らない、手を使わずに乗り切るしかない。
(お願い……せめて着艦作業中は持って!!)
祈りが届いたのかどうかは定かではないが、尿意と格闘しながらもなんとか全ての艦載機を収容し終えた。
何度か波は押し寄せてきたが我慢し切って見せた。
飛龍の方も無事終えたようで、旗艦としては一安心だ。
母港ももう見えるかというところまで帰ってきている。
(あと少し……あと少しでおトイレに行ける!)
強烈な尿意に耐えているうちに、蒼龍の頭の中もトイレで用を足したいという欲求でいっぱいになっていた。
しかし、これが彼女の油断……慢心であった。
「母港に着く=トイレに間に合う」と都合のいいように解釈してしまっていたのだ。
帰投して即トイレに直行できるわけではない、それを思い知るのは実際に帰ってきてからだった。
(トイレ、トイレっ……!)
……
「はーい、では艤装外して洗った人から上がってくださいねー」
工作艦・明石の明朗な声が響く。
(そうだ、これがあったんだ……!)
海上で活動する艦娘だが、艤装……機械にとって海水は天敵である。
もちろん戦闘艦を由来とする彼女らが簡単に海水に負けてしまうわけではない。
それでも、付着した海水をそのままにしておけばそこから錆びてしまうし、不調も来しやすくなってしまう。
艦娘の艤装であろうと、機械にとって海水は天敵なのだ。
必ず使用後には真水で海水を洗い流す作業を行う。
(うぅ、早く終わらせて……トイレに……)
洗浄機を手に取り、自分の艤装を洗ってゆく。
この時の水音が今の蒼龍にとっては大変苦痛だった。
あちこちから聞こえる水音、飛び散る水飛沫……。
『私もあの洗浄機みたいに思いっきりできれば』という妄想。
小康状態にあった彼女の膀胱が再び活発化する。
(んんッッ!!!だ、だめっっっ!!!!)
人目も憚らず、ピッタリと閉じた足の付け根、その間に手を差し込む。
そのままギュウギュウと出口を押さえつけ、体を捻る。
幼子がするような"おしっこを我慢する"仕草。
身を捩り、手に力を籠め、浅い呼吸を繰り返し、全身の力を使って堪える。
乙女として絶対に屈するわけにはいかない。
(や、やだやだやだやだぁ……こんな……こんな……)
もし今日のメンバーに見られたら、明石に見られたら、飛龍に見られたら……そんな思いが浮かんでくる。
今の恥ずかしい姿を見られるわけにはいかない。
少しずつ体の動きを抑えていき、手を徐々に放し、自然体に戻そうとする。
(あっ!!だめっ!!!出ちゃう……!ほんとに出ちゃう!!!)
しかしすぐに強烈な尿意が羞恥心を軽々と飛び越え、再び全力で我慢する体勢になる。
今は恥ずかしいなどと言っていられない。
「最悪の結末」を何としても回避するため、この眩暈がしそうな尿意を抑え込まなくてはならなかった。
足をピタリと閉じ、出口を強く押さえ、うずくまるような前傾姿勢になる。
肩を震わせ、尻を左右に揺らし、折足踏みをしながら、尿意の嵐が収まるのをじっと待つ。
「はーーー……はーーー……はぁ……」
浅かった呼吸が、今度は深い呼吸に変わっていく。
なんとか暴発の恐れが無いレベルまで落ち着くことができた。
(も、ほんと無理……お腹が爆発しそう……)
尿意を抑え込んでも、尿自体はそのままだ。
パンパンに張り詰めた膀胱がチクチクとした痛みを訴えかける。
下腹部をさすって痛みを和らげながら、何とか作業を再開し、急ピッチで進めていった。
普段ならもう少し丁寧に洗浄するのだが、破損を理由に脚部艤装は洗浄もそこそこに明石に手渡した。
幸い他のメンバーは洗浄に集中していて蒼龍の方は見ていなかったようで、先ほどの我慢する姿について何も言われなかった。
もしかしたら多少の恥ずかしい思いをしても、誰かに気付いてもらって先にトイレに行くように促されたほうが幸せだったのかもしれないが。
周囲を見ると、自分が一番乗りのようだ。
飛龍もあと少しで終わるというところだろう。
旗艦であれば僚艦の様子を気にかけるべきなのだが、今は全くその余裕がない。
一刻も早く排水しなければ大変なことになってしまう。
少しの罪悪感を抱きつつもその場を足早に後にする。
(トイレトイレトイレッ……トイレ!!)
頭の中は完全にトイレで用を足すことでいっぱいだった。
蒼龍は今、ヘソから足の付け根まで全てが水袋になっているかのような感覚に陥っている。
(やっと行ける!早くトイレ……トイレぇ!!)
廊下に出たところで早歩きが徐々に小走りに変わる。
お腹を庇う様にして、なみなみと溜まった水分を出来るだけ揺らさないように、今できる精一杯の速さで歩みを進める。
すぐそこの角を曲がったところに、これまで待ち望んでいた場所を示す赤と青のアイコンが目に入る。
(間に合っ……っっっっ!?!?)
『もうトイレは目の前』と認識してしまった体が否応なし反応し、尿意が猛烈に高まる。
(だめ!!だめぇ!!!おしっこ、おしっこ出ちゃうっ!!!)
歩みを止める。
左半身を廊下の壁に預け、うつむきながら右手を思い切り両の足で挟み、出口を押さえつけるように揉みしだく。
「やだ……やだ…………やだぁ……」
呼吸を荒くしながら、今日何度目かわからない尿意の大波と戦う。
体の内側から水門をこじ開けようとされているような感覚に襲われる。
それでもまだこの場で開門するわけにはいかない。
全身の力を使って抑え込む。
「はぁ……はぁ……よし、これで……」
何とか動けそうだが油断はできない。
焦らず、ゆっくりと歩みを進め始める。
そこへ……。
「はっ……!はっ……!」
誰かが後ろから小走りに近づいてくる気配を感じる。
鈍くなった頭がぼんやりと『誰だろう』と思案する。
その彼女の横を掠めるように橙の着物を着た艦娘、飛龍が走り去った。
彼女はそのまま吸い込まれるように女子トイレの扉を開け、飛び込んでいく。
一瞬遅れて蒼龍が事態を察した。
「えっ!?ちょっと!!まさか!!!」
驚きで尿意が一瞬引っ込んだ隙に、後に続いて扉を荒々しく開け中に飛び込んだ。
しかし全てが遅かった。
既にこの小さなトイレにただ一つの個室の扉は閉ざされ、無情にも鍵が閉めらた。
「飛龍!飛龍!!!」
中に入っているであろう相棒の名前を大声で呼びながら扉をドンドンと叩く。
はしたないと思う余裕もない。
「ひゃっ!!そ、蒼龍!?」
「お願い!!代わって!!代わってぇえぇ!!!」
「ちょっと待ってて!!すぐ済ませるから!」
まさかこんな呼ばれ方をするとは思っていなかった飛龍は驚きながらも返答する。
彼女からすれば、別に蒼龍から順番を奪い取ったわけでもないので譲るという発想はさらさらない。
トイレに駆け込んできたということは彼女も限界を感じていたのだ。
しかし蒼龍からすれば思わぬ"おあずけ"を食らってしまった形だ。
一切余裕のない彼女が抗議するのも心情的には仕方のないことである。
「早くっ!早くしてっ!!!!」
「ま、待ってってば!!」
ガサゴソ、スルスルという衣擦れの音。
便座に腰掛ける音。
そして……。
プシュッ……プシャアアアアアアアアアアアアア!!
(っ!?!?)
「はぁ~~~………♪」
飛龍の小水が洋式トイレの便器にに叩きつけられる音と、彼女の気の抜けた声がトイレ内にこだまする。
今の蒼龍にとってこれらの音は毒でしかない。
今日一番の強い尿意の波が彼女に襲い掛かった。
「あぁっ!!」
声も抑えられない程の尿意、それでも彼女は持てる力全てで水門をきつく閉ざそうとする。
もう手や足……腿の力だけでは足りない。
彼女はその場にしゃがみ込み、自身の踵を出口にあてがい、思い切り体重をかけ、ぐりぐりと押し付ける。
「んっ!!んんんっっっうぅ!!!」
無理矢理抑え込むが、もう蒼龍の膀胱は限界に達している。
いつ爆発してもおかしくない。
手榴弾の安全ピンはすでに抜けかかっている。
「早く代わって!!!代わってぇ!!!!」
「だから待ってって!!」
シュゥゥゥゥゥゥ!!
飛龍の排水はまだ終わる気配は無い。
「漏れちゃう……漏れちゃうぅ!!!」
殆ど悲鳴のような蒼龍の訴え。
そんな相棒の様相と自分の放尿が終わらない事実が飛龍の頭を少しずつ冷やしていった。
「いやー、実は出撃してる時からけっこうヤバくってさー……艤装洗ってるときとかも辛かったなー……」
恥ずかしさを紛らわすためか、苦笑いしながらそんな話をする飛龍。
だが蒼龍にとって飛龍がどれだけ我慢していたかは関係ない。
早く、早くトイレにという一心でうずくまっている。
出来るだけ股座に意識を集中し、雑念を排し、トイレに行きたい気持ちを抑え、踵を押し付け、気持ちを抑え、身を捩り、抑え……。
(もう、限界っ!!!)
彼女は最後の手段を取った。
「え?蒼龍?」
女子トイレを飛び出したのである。
だが別のトイレを探す暇は全くない。
向かう先は隣の扉、本来彼女にとっては禁足地である「男子トイレ」である。
『どうせ普段提督くらいしか男なんて居ないんだから』と言って気にせず使う艦娘も一部居るがそれは少数派。
蒼龍は多数派に属していたが、この時だけは宗旨替えをした。
(出る!出ちゃう!!!おしっこ出ちゃうううう!!!)
幸い先客は誰もいなかったようだ。
見慣れない青い壁と床、普段目にすることのない男性用小便器が視界に入る。
それらをよそに一直線に奥の個室に飛び込んだ。
(早く早く早く!!!漏れちゃう!!漏れちゃううううう!!)
洋式の便器を目前にしたことで尿意は最高潮に達した。
もうちゃんと我慢できているのか感覚では分からないくらい、尿道口に熱さを感じていた。
最後の関門。
片手で出口を押さえ、足をクロスさせて小躍りしながら便座の蓋を上げる。
便座に尻を向け、いつでも座り込める体勢に。
(早く!早く!!トイレッ!!)
尿意の波が引く瞬間を見計らい、交差した足を元に戻したのとほぼ同時、押さえていた手を離しスカートの中の下着を一気に下し、そのまま便座に勢いよく座り……。
「あ」
ブシュゥウウウウウウゥ!!!
ビシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヴィシィイイイーーーーーーーーー!!!
「~~~ッ!!!」
待ち望んだ瞬間が訪れた。
今日一日、待ち焦がれた瞬間だった。
シュィイイィイーーーーーーーーー!!!
「はぁ~~~~~………ま、間に合ったぁ~………」
壊れた蛇口のように、小水がとめどなく噴き出してゆく。
長時間に渡る頑張りが実を結んだのだった。
すさまじい勢いで放たれる小水が便器に直撃し、大きな水音を立てている。
「はぁ……はぁ……」
今までの分を取り戻すように荒い呼吸を繰り返す。
(もうほんっとにダメかと思った……助かったぁ……気持ちいい……)
まだ空になる気配は無いが、少しずつお腹が軽くなってくるのを感じる。
チクチクとした痛みも治まってきた。
長時間に渡る我慢から解放され、恍惚の表情を浮かべている。
シィィィィィィィィ
まだまだ勢いは衰えない。
限界までため込んだタンクはそう簡単に空にはならなさそうだ。
(……えっと、まだ出るの?どんだけ我慢してたんだろう私……)
徐々に火照った頭も冷えてきたところで、いつまでも終わらない放尿に自問する。
(そういえばここ男子トイレだったよね、もし誰か来たらどうしよう……)
もし見られたら、聞かれたらどうしようという思いを抱くが、思うだけだった。
見慣れない青色の壁に囲まれたトイレでけたたましい水音を立てながら、その音が止むのを待つしかなかった。
シィィィィィ……ちょぼぼぼぼぼぼ
ようやく勢いが弱まり始め、便器に直接当たっていた尿が封水に落ちるようになった。
(うぅ……早く終わらせないと……)
冷静さと同時に恥じらいも取り戻しつつあった。
男性……提督と出くわす確率は非常に低いがゼロではない。
会わないためにはできるだけ早く放水を終わらせてトイレを出ることだ。
「……んっ!」
シュイイイイイイイイイ!!
下腹部に力を入れて一気に放出しようとする。
再び水音が増すことになったが、早く済ませることを優先させるべきと判断した。
シュゥゥゥゥゥ……ちょぼぼぼ……
ピチャン
「は~~~~~~~…………」
長い長いお小水がようやく終わり、深いため息をつきながら全身の力を抜く。
こんなことなら艤装の洗浄前に素直に行っておけばよかったと後悔するが後の祭りである。
(こんなに我慢してたんだ私……どれくらい溜まってたんだろう……)
艦娘として生を受けて以来、最もおしっこを我慢した経験だったのではないだろうかと彼女は思う。
ここまで長時間放尿した経験はなかったからだ。
(とにかく間に合ってよかったぁ……ほんっとに漏らしちゃうかと思った)
無事にトイレで放尿できたことに安堵しつつペーパーで股間を拭き、下着を上げる。
一歩間違えば大惨事になっていたことは間違いない。
次からは無理に我慢せずに素直に申告しておトイレさせてもらうと反省しつつ、水を流して個室を出る。
ザーーーーーーー
「あれ?」
そこで違和感を覚えた。
男子トイレの入り口ドアが開きっぱなしになっていたのである。
「!!!!」
(もしかして、私のお、おしっこの音って外に聞かれ……)
恥ずかしさから顔が赤くなっていくのを感じる。
開放感から一転、彼女に緊張が走る。
そろりそろりと、抜き足差し足で出入口に向かい、顔を出した。
誰も居ませんようにと祈りながら。
「っ!?!?」
祈りは通じなかった。
廊下には先に済ませたであろう飛龍と、一番このことを知られたくなかった相手、提督の二人が立っていた。
「そうりゅ~~?すっごい音だったよ?いや~元気いっぱいだねぇ?」
「っ……!!!っ……!!!!!」
「聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらい……どんだけ我慢してたのさ?」
「も、もしかして、その、提督、も……」
涙目になりながら、少し離れたところに立っている提督に尋ねる。
少し間をおいてそっぽを向きながら「聞いていない」という回答を得る。
「絶っ対聞いてるじゃない!!!!もう~~やだやだやだやだ~~~!!!!」
蒼龍の鳴き声が人気のない廊下にこだました。
彼女にとって、今日はどんな出撃の時よりも長い戦いに感じられたという。