某日・某所。
あるイベント会場内の一角に、本と段ボールに囲まれながら項垂れている艦娘が2隻……。
「あ゛~~~ね゛む゛~~~い゛……秋雲先生はこのままスリープモードに移行しちゃうかも~~~……風雲~あとよろしく……」
「ふぁぁ……ちゃんと準備してればこんなことにならなかったんだから……自業自得よ……」
「そ~~~なんだけどさ~~~……」
気だるそうに話す声の主は陽炎型駆逐艦の秋雲と、夕雲型駆逐艦の風雲。
どうやらその気だるさには原因があるようだ。
「う~~その節はごめんなさいぃ~~」
「はぁ……まあ間に合ったから良いわ……次からは気をつけなさいよ?ふあぁ……」
彼女らは前日の夜遅くまで何かしらの作業に追われていたらしく、瞼が重たそうだ。
「とりあえず、これ飲む?」
秋雲が取り出したるはエナジードリンク。
普段風雲はこういったものには頼らないが、今は背に腹は代えられない。
「そうね、このままだと眠くてたまらないし、貰っておくわ」
そう言って受け取ったドリンクを喉を鳴らして飲む風雲。
見ていた秋雲も同じようにゴクゴクと飲んでいく。
「あ~捗るわ~」
「あんまりこういうのに頼るの良くないんだけど、仕方ないか……」
――これより、**オンリーイベントを開催します。
会場内にアナウンスが響き渡り、それに呼応してあちこちから拍手が鳴る。
とある場所で開催される"薄い本"の即売会イベント開始の合図だ。
「じゃ!今日のために作った本!気持ちよく手に取ってもらえるように、もうひと頑張りしますか!」
やる気十二分といった様子の秋雲を見て、風雲も笑みをこぼす。
手伝い用に用意したエプロンを身に着け、準備万端だ。
『新刊セットを1部!』
程なくして、秋雲のスペースの前には人が並び始める。
できるだけ列を長くしないようテキパキと対応していく秋雲と風雲。
(相変わらず人気あるわねこの子の本……まあ、悪い気はしないけど)
何度もイベントに参加し、本を出す。
それを繰り返しているうちに、秋雲はその界隈ではちょっと名の知れた作家となっていた。
彼女の作品目当てで来る参加者もいる。
仲間のちょっと違った一面。
風雲にとって"売れっ子秋雲先生"という存在はどこか不思議な存在であった。
『新刊セット3部下さい!』
『この既刊と新刊を1部ずつお願いします!』
「はいはーい!あ、風雲~お釣りお願~い!」
「ちょっと待ってて、はいこれ!」
ひっきりなしに現れる参加者。
この間にも風雲の体内ではじわじわと事態が進行していたのだった。
/
「あ゛~~捗ったわ~~~」
「ふぅ……これでひと段落かしら?」
開幕直後は列が作られる程並んでいたが、人の流れも落ち着き、ひと心地つくことができた。
「そうね~、あとはまぁ、ポツポツと来るかなーて感じかな?」
「相変わらず人気ねー"オークラ"先生?」
「……なーんか風雲にそう呼ばれるとムズムズする」
「な!自分で名乗ってるくせに!大体安直だし!縮めたらまるで大臣じゃない!」
「名前は憶えやすいのが一番!それに、今は財務省だよ~風雲サン」
軽口を叩きあう二人。
どうやら眠気もほとんど退散したようだ。
「それはさておき……ちょっち店番頼んでいい?知り合いに挨拶しときたくてさ~」
「ん~~まぁ、落ち着いてるし、いけるかな」
「ありがと!んじゃあすこーしの間、よろしくねん♪」
「はいはい、できるだけ早く帰ってきてね?私も休憩したいし」
「りょーかい!」
そう言って何冊か自分の本を手に取り、会場へと繰り出す秋雲。
分水嶺はここであった。
この時自分の体をもっと気にかけていればと、風雲は後に悔やむことになる。
(ん……し、しまったぁ……ちょーーっと、おトイレ、行きたいかも……)
先ほどまで慣れないことをしていて気を張っていたが、今はその緊張が緩んでいる。
するとこれまで無意識的に遠くの方に追いやっていた感覚……尿意が彼女の意識に滑り込み始めた。
(まぁ……早く帰ってきてって言ったし、ほどほどで戻ってくるでしょ)
今朝口にしたエナジードリンク……その効果か、普段よりも早くタンクに注水されているような感覚があった。
が、下腹部に異物感はあっても"尿意"はそれほど強くなっていなかった。
故に彼女は『大丈夫かな』と判断した。
この時点では確かに「大丈夫」であった。
そう、この時までは。
/
『あの~新刊を一部』
「は、はい、ええと、こちらですね」
流れは落ち着いたが、人が全く来なくなったわけではない。
店番をこなす風雲だったが、その表情には若干の陰りが見えている。
(あ~き~ぐ~も~~、早く帰ってきてって言ったのにどこほっつき歩いてんのよ!)
脳内には、"オークラ先生"が仲間と会話を弾ませ、様々な創作物に目移りするので大変忙しくする様子が浮かんでいた。
「ありがとうございます」
(もう!さすがにそろそろ行きたいんだけど……)
貯水タンクには普段なら即トイレに行くくらいの水分が注水されていた。
それでも尿意はまだそこまで強くない。
張り詰めつつある下腹部を抱えてはいるが『トイレに行きたくて行きたくて仕方がない』というような思いは無い。
どちらかと言えば『この不快感から早く解放されたい』と表現した方が正確だ。
(……って、もうこんなに時間たってるじゃない!携帯にかけて呼び出してやる!)
早く帰ってきてと言ったのにと思いながら携帯電話を手に取る。
連絡先から秋雲の名前を恨めしそうに選び、電話をかける。
PuRuRuRuRuRu!!
「え……?」
発信した数秒後、すぐそばから呼び出し音が聞こえた。
それは長机の下……秋雲のカバンの中からだった……
(あの子!携帯置いていったのね!!)
無情にも、事態を能動的に解決する手段が無くなった。
彼女にできる唯一のこと。
それは、秋雲が帰ってくるまでひたすら待つことであった。
(秋雲……早く帰ってきて!)
/
『すみませーん、新刊一部ください』
「は、はーい……」
明らかに風雲の元気がなくなってきている。
それも当然である。
(早く済ませちゃいたいのに……んっ……)
体内で用済みとなった水分の最終到達点……そこに時間が経つごとに随所から水分が集まってきている。
放出しない限りどうすることもできない。
時間が経とうが体を休めようが、せいぜい気がまぎれるだけである。
(お腹がチクチクしてきたわ……)
貯水タンクが、残りの許容量が少ないことを痛みをもって伝える。
人が来ていない時はパイプ椅子に座り、少しでも腹部に負担をかけない姿勢を取る。
さらに時折周囲からは分からないようにこっそりと下腹部をさする。
(もう……!早く帰ってきてよ秋雲!)
『……あの~~新刊を、二部いただけますか?』
「あ、えっと、はい……こちらですね」
そうして落ち着こうとしても、不定期的に訪れる参加者がそれを許さない。
本と代金のやり取りのために椅子から立ち上がる。
(うぅ……なんか、お腹がタプタプいってる気がする……やだぁ……)
体を動かすたび、タンクの中で水分が波打っているように感じている。
それが堪らなく不快であり、さらに風雲の限界までの猶予を縮める。
「あ、ありがとうございました……」
再び着席。
不快感を少しでも和らげるための姿勢を取る。
体をモゾモゾと動かし、下腹部をさする。
(トイレ!トイレ行きたい!!)
下腹部の更に下……タンクの"出口"からも警告が発せられ始めた。
今まで、貯水量が増えても尿意はそれほど高まっていなかった。
だがここにきて明確に尿意を感じ始めてしまった。
(そろそろキツくなってきたんだけど……)
これまでの「下腹部の痛みと不快感に耐える戦い」から「間違って放出してしまわないよう我慢する戦い」へと徐々に移行していく……。
「ふぅ……ふぅ……」
硬いパイプ椅子の上で縮こまる風雲。
足はピタリと閉じられ、不規則に体が動き、落ち着きは見られない。
傍から見れば寒さに耐えているようにも見える。
(こ、これ……このままだと……)
今はまだ大丈夫。
しかしこのままではそう遠くない未来に……。
そう思い始めたころ、ようやく待ち望んだ人物が帰ってきた。
「いや~~ゴメンゴメン遅くなって」
「秋雲!もう!今までどこ行ってたのよ!」
当然の疑問。
早く帰ってきてと言っていたのにここまで待たされたのだから、理由を問う資格は十二分にある。
「ええっと、ちょ~~~っと"超・大手サークル"に並んでて……」
「ッ!!なっにしてんのよ!ずっと待ってたのに!!」
「いやその、秋雲先生もどうしても寄らざるを得なかったというか……」
「もういいわ!私トイレ行ってくるからね!」
余りにも予想通りの答えにいら立つが、問答をしている余裕はあまりない。
身につけていたエプロンを投げ捨てるように外す。
そのまま足早にサークルスペースから出て、トイレへと向かう。
「あーーい……って、風雲ーー!今トイレは……」
秋雲が何かを言いかけているが、もう風雲の耳には届いていない。
(トイレトイレトイレ!!早く!!)
今まで耐えてきた分『ようやくできる』という思いに体が突き動かされる。
競歩のような足取りで会場内の女子トイレを目指す。
/
(う、嘘……!)
トイレの前まで来た風雲は言葉を失った。
今まで会場内で見たどのサークルよりも長い長い列が形成されていたのだ。
(最後尾!最後尾はどこ!?)
出入口から壁伝いにできる列。
それをたどって最後尾まで辿り着いたが、相当な人数が並んでいることを嫌というほど思い知らされる。
(まさか!秋雲の言っていた"超・大手サークル"って……!!!)
彼女の暗喩に気づいた風雲。
今日のイベントで見たどのサークルよりも長い長い列を形成している「超大手」は紛れもなくこの「女子トイレ」だった。
これに並んで来たのであれば戻りが遅かったのも頷ける。
「んっ……」
ようやくできると思っていたが、いざ来てみると長蛇の列。
気持ちだけが先行してしまい、先ほどよりも尿意が強くなっているのがはっきりと自覚できる。
(これ、あと……どれくらい……?もうホントにきついんだけど……)
尿意の波が来て、引いて、来て、引いて……その繰り返し。
しかしその感覚がだんだんと短くなり、波もどんどん高くなっているのが分かる。
分かるからこそ焦る。
『このままでは間に合わないかもしれない』という不安。
これまで考えないようにしていた事態が、現実味を帯びてすぐそこまで迫っていた。
(でも……ガマン……するしかないじゃない!!)
周りには人、人、人……そんな中、出来るだけ周囲に我慢していると気取られないよう、最小限の動きでこらえようとする。
足を動かしたり、ストレッチの真似事をしたり、その場を意味も無く歩いたり、体をゆすったり、じっとしたり……とにかく何かしていないと"危険"だと感じていた。
何とか今の状態を維持し続け、間に合わせる。
そのことに集中する風雲だったが、ふと耳に飛び込んできた言葉に心を乱される。
『……なぁ、あの子の恰好めちゃめちゃクオリティ高くない?』
『ああ……本物の艦娘みたいだな……』
(!?……も、もしかして私のこと!?)
秋雲に言われ、艦娘のコスプレした売り子が欲しいと言われこの場には制服で来ていた。
コスプレではなく本物なのでクオリティが高いのは当然である。
周りに艦娘の姿は見当たらないので、恐らく自分のことだろう。
(だ、だから嫌だって言ったのにぃ……)
見世物じゃないし目立つから嫌だと言ったのだが、度重なる説得に風雲が折れた。
バレやしないかと不安だったが、秋雲の言う通り堂々としていれば案外バレない。
偽物が本物に化けるのは大変だが、逆は容易いのだ。
『すごいなあの子……本物みたいだ……』
『完成度たけ―なオイ』
すれ違う人々の言葉がポツポツと聞こえてくる。
だが風雲は別に目立ちたがり屋でもなければチヤホヤされたいとも思っていない。
何より今はトイレを我慢している。
猶更注目など集めたくない。
(もうなんなのよさっきから!みんな本とかグッズとか買いに来たんでしょ?私なんか見ないでよ……)
周りから注目されているかもと意識してしまい、動きに制限がかかる。
トイレの列の中でせわしなく動くのは『おしっこしたくてたまりません』と高らかに宣言しているようなものだと思ったからだ。
(もーう……列もなかなか進まないし……っ!!)
「んぅ……!」
(ま、また波が……!)
風雲の体は、主の事情を考慮してはくれなかった。
下腹部から早く早くと突き上げるような感覚に襲われる。
(ちょっ……収まって……!)
自分の体に言い聞かせるように心の中でつぶやく。
だが聞き届けられなかったようで、収まるどころか強い波となって彼女の全身を襲った。
「―――――っ!!」
声にならない叫びを上げ、たまらず体を「くの字」に折り曲げる。
うずくまるでもなく、しゃがみ込むでもない中腰の姿勢。
人前で秘所を押さえられるはずもなく、手で太ももを擦り付けるようにさする。
(ダメ!!ほんとにマズいかもっ……!!)
店番をしていたころから腹には相応の水分を抱えていたのだ。
一度尿意の波が来てしまえば、そこからはずっと下り坂。
むしろよく今まで尿意を感じずにいられたものだと言った方が正しい。
「ふっ……ふぅ……ふっ……」
人目も憚らず体を動かしたお陰か、この瞬間は何とか耐えることができた。
だがその次は?次の次は?更にその次は……?
答えは「分からない」。
もう風雲に「大丈夫」と思えるだけの余裕は無くなっていた。
(どうしよう……代わってもらう?ってこんな長い列で無理だし……他のトイレ……もいっぱいかもだし……えっと、ええっと)
もう今のトイレに並んで待つという考えはほぼなくなっていた。
こうなれば何とかして別のトイレを探す他ないだろう。
しかし考えがまとまらない。
『お、あの子―――』
『―――でさぁ』
(!!)
周りの話声が聞こえるたびに、自分のことを言われているのではないか、もしかしたらトイレを我慢しているのがバレているのではないか。
(と、とにかく別のトイレをっ!!!)
その場に居られなくなり、列を抜け、小走りに移動する。
(トイレ、トイレ、トイレ……トイレはどこ!?)
このイベントは2つの建屋を借り切って開催していたので、別の建屋のトイレに行こうかとも一瞬考えた。
だがどうせ同じ状況だろうとその案を却下する。
ならば会場の外……この建物の外にならと考えを改めた。
(トイレ!早く!!)
希望を求めて入場口へと向かう風雲。
しかし彼女はここで気付くべきことに気付けていなかった。
/
『再入場の際はー!カタログかサークル証が必要でーす!』
(そ、そんな!!!)
風雲のミスその1、サークル証をエプロンに着けていたのでサークルスペースに置いてきてしまったこと。
風雲のミスその2、トイレだけのつもりだったので、携帯電話もサークルスペースに置いてきてしまったこと。
(ど、どうしよう!!……秋雲に頼んで……って携帯忘れてたんだった……しかも秋雲が離れられるわけないし……一回戻るしか……)
ここにきて「ふりだしへ戻る」のは非常に辛い。
だが、それしかない。
(大丈夫、間に合うわよね……)
自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。
しかしどうしてもその確信が得られなかった。
もう下腹部の水風船はパンパンに膨らんでいる。
(こんなに人がいるところで"失敗"なんてっ……)
会場内のトイレに並び直す……あの長蛇の列に今から並んでも間に合うとは思えない。
一度サークルスペースに戻り、更に会場の外のトイレに行く……間に合うかもしれないが、どこにトイレがあるのか見当もつかない状態で探すとなると、間に合わない可能性も十分ある。
(―――だったら、もう……!!)
追い詰められた風雲は、普段の彼女なら絶対に取らないような行動を取ろうとしていた。
意を決し、小走りとも競歩ともつかないような足取りで移動し始めた。
/
「ふーーーふーーー」
額に汗をにじませながら彼女が行こうとしている場所……それは。
(ほ、本当はダメだけど……ここなら、誰も……!)
「会場の中」であって「建物の外」である場所に彼女は居た。
今回の即売会では、連なった建物2棟を会場として使用している。
その建物と建物の間から屋外に出られるスペースがあったのだ。
途中にバーで遮られた場所があった気がするが、今は緊急事態であると自分に言い聞かせてここまで来た。
(どこか、死角になるところで……!)
彼女は下腹部に並々と注がれた水分を野に放とうとしていた。
人に見られず、会場や服を汚さない……そう考えたときに浮かんだ最後の手段。
(!!そ、そこなら!!!)
目に留まったのは、建物のすぐ横に備え付けられた排水溝。
ここならば"汚水"を捨てても問題ないだろうと考えた。
もう風雲には"排水溝"が"トイレ"に見え始めていた。
「あっ―――んんっっ!!!」
(ダメ!!!まだ!!!!)
「んぅ……んっ!!!」
せっかちな彼女自身の"排水口"が、"トイレ"を見た瞬間に先走って口を開こうとする。
まだ、まだ駄目だと両の手で思い切り秘所を握りこむ。
人目が無くなったからこそできる、全身全霊のおしっこ我慢。
それでも決壊は間近。
「はやく!はやくっ!」
よろよろとした足取りで排水溝に近づく。
そのまま排水溝を跨ぎ、タイツと下着を下ろしてしゃがみ込む。
……つもりだった。
(だ、だれも見てないわよね!?ほんとに誰も居ないわよね!?)
外でしてはいけないという無意識のブレーキか、もし見られたらという恐怖からか動きが止まってしまった。
タイツと下着に指をかけ、排水溝を跨いだままの姿勢で何度も周囲を見渡し、排水溝を見つめ、周囲を見渡し……と繰り返している。
(でも、でも……!)
『早くしなければ』という気持ちと『こんなところでできない』という気持ち、それらが拮抗して風雲を金縛りにしている。
それでも徐々に天秤は『早くしなければ』の方に傾いていき……。
ゾクゾクゾク
「ヒぁンっ!!」
全身を這うような悪寒に、素っ頓狂な声を上げる。
限界がすぐそこまで迫っている。
(もう!しなきゃ!!)
ついにタイツと下着をずり下ろし、小ぶりな尻と秘所をさらけ出す。
生理的欲求が羞恥心を上回った瞬間だった。
出口がヒクヒクと脈打っているように感じるが、まだ出せない。
(居ないわよね!?ほんっっっとに居ないわよね誰も!!)
下半身丸出しで放尿する姿など絶対に人に見られたくない。
その一心で今にも放水を開始しようとする排水口を気合いと根性で硬く閉じる。
最後に周囲を見渡し、誰もいないことを確認した……。
もう大丈夫と体にGOサインを出し、少しずつ力を抜いてゆく。
「んっ……」
放水を開始しようとしたその瞬間、思わぬ事態に遭遇する。
『やっぱりこっちは違うんじゃねーの?』
『えー?』
(ッ!?!?ひっ……人!?!?!?)
最悪のタイミングで人の話し声が聞こえてきた。
絶対に見られたくない、見られるわけにはいかない。
必死で自分の体に"排水中止"の命令を送る。
だが……。
ジュビッ……
ジュビビビビビビ……ジュビッ……ジュビビビ
(待って待って待って!!!待って!!!止まって!!!!!!!)
完全に放水の体制に入っていた尿道口がその命令に従えるはずはなかった。
何とか止めようと必死で出口を閉めようとするが、抑えきれなかった分が溢れ出す。
少し出ては止まり、また少し出る。
ジュビビビ……ジュジュ……ジュウウ……
「――――!!!――――――ッ!!!!」
声にならない悲鳴を上げながら溢れ出す尿を止めようと抗う。
出かかっているのを無理矢理止めようとしているためか、秘所がジンジンと痛む。
『――――――?』
『――――!』
何を言っているかはわからないが、話し声が遠ざかる気配はない。
一刻も早くこの場を移動しなければ、乙女として生涯誰にも見られたくない姿を見ず知らずの人間に晒してしまうことになる。
それだけは絶対に避けなければならない。
ジュビッ……ジュビッ……
ようやく"止め"られそうという段階まで抑え込めた。
完全に止まったわけではないが、もう猶予はなかった。
(もう!!!ダメッ!!!!!!!)
この隙を逃さず、素早くタイツと下着をずり上げ、穿きなおす。
そのままよろよろした足取りでさらに奥の方へと進み、人目から逃れようとする。
"途中"で無理矢理止めたので我慢の限界はとうに超えてしまっている。
両手は『せめてスカートは汚さないように』という思いからか、タイツの上から直接秘所を握りこんでいた。
(止まって!!!止まってぇ!!!)
ジワ……ジワ……
先ほど出かかっていた分、出てしまった分が下着に不快な湿り気をもたらしていく。
それでも今は耐えるしかない。
『――――……』
『~~~……』
まだかすかに話し声が聞こえる。
あのまま放出していたら聞かれていたかもしれない。
それどころか見られていたかもしれない。
(もう!早くどこかに行ってくれないかしら!!!)
体をくねらせせ、全身の力で押しとどめようとする。
その状態で何とか外壁にせり出した場所まで移動できた。
ここなら風雲が来た方向からは見えない。
『――……』
『~……』
徐々に声が遠ざかる気配がする。
このまま声の主が去ってくれれば"再開"できる。
(早く……早くぅ……!!)
ジュウゥゥ……ジュワァ……
押さえておけなくなった分がじわじわと彼女の下着を侵食し、ついにはタイツまで染み出してきている。
手に不快な水気を感じるが、それでも離すわけにも開放するわけにもいかない。
ただじっと耐えるしかない。
(もう……ムリ!!出ちゃう、おしっこ……出ちゃう……!!)
『………』
『……』
…………
話し声が聞こえなくなる。
人の気配も感じない。
(もう、行っちゃった!?もういない!?いない!?)
ビクビクしながら外壁の影から顔を出す。
そこには人影は見当たらず、足音や話し声も聞こえない。
ジワ……
「―――ッ!!!」
人は去った。
これ以上は押しとどめておけない、押しとどめたくない、早く解放したい。
その思いが一気に高まる。
(ト、トイレッ!!!おしっこ!!!!はやくっ!!!!)
目指すのはトイレではないのだが、今の彼女にとっては些細な違いである。
早く、早く、早く早くと体が急かす。
「んっ!んんぅ!!!」
(せめて、せめてお外でもその排水溝で……!)
律義にも排水溝を目指す風雲。
だがあと一歩及ばず……。
ジワワワワ……
(も――――――ダメぇ!!!)
「んっ!!」
その場で思い切りタイツと下着を引っぺがすようにして膝のあたりまでずり下し、そのまま勢いよくしゃがみ込んだ。
「あ」
ジュビイイイイイイイイイイイイ!!!
ビシャアアアアアアアアアアア!!!
「あ……ああああぁぁあぁぁ……」
今まで押しとどめていた水分が一気に噴出する
"堰を切ったように"という表現がピッタリだ。
情けない声を上げながら、全てを放出しようと"出口"が全開になる。
ジュビビビビビビビビビビビビビ!!
シィイイイィイィイイィ!!
(や、やっと、できたぁ……!)
間一髪、完全な決壊の前に放出できたが、排水溝には間に合わなかった。
アスファルトに水が叩きつけられ、大きなバチャチャという音を立てている。
(や、やだぁ……お、音が………量も……こんな……!)
更に、今まで自分の腹の中に納まっていた水分が、その量を見せつけるように目下に広がっていく。
(やだぁ……音、もし誰か来たら……バレちゃう!)
「んぅ!んんん!」
ジュビビ……ビビビビビ……ジュビィイイイイイ!!
(勢い、抑えて……)
ビビビ……ビシャアアアアアアアアアアア!!!
「あっ!……んっ!」
(ダメ……もう止められない……)
限界を超えて酷使された水門は全開状態。
もう勢いを殺そうと力を込めても全く閉ざされる気配はない。
いや、力自体が込められない。
(もーー!早く終わってよぉ……)
シィイイイィイィイイィ……
いっぱいまで溜めこんだ風雲のタンクはなかなか空になる気配が無い。
勢いもまだ落ちない。
彼女としてはとにかく早く済ませてこの場を去りたいところだ。
(あ……下着……こんなに……)
ふと膝のあたりに見える自分の下着。
本来薄い水色だったはずのそれは、彼女の"失敗"の跡がしっかりと刻まれており、色が濃く変色していた。
「うぅ……こんなに……出ちゃうなんて……」
ジュビビビビビビビビビビビ……
それを見た瞬間、今自分が外で秘所を丸出しにして放水していること、かなりの量を先走ってしまったこと、まだ放水が終わらないことがとてつもない羞恥となって一気に彼女の心にのしかかった。
泣き出したいくらい情けない気持ちになった。
シュイイイイ……しゅうううう……
びびびび……
長い放水がようやく終わりを迎える。
それほど長時間ではなかったが、風雲の体感時間ではとても長いひと時だった。
(うぅ……これ……もう穿けないわよね……でも……)
浸水した自分の下着とタイツを見ながら考える。
何も穿かずに戻るなどできるはずもない。
タイツは諦め、下着だけは穿きなおすことに決めた。
(会場の外のコンビニで下着だけ買いに行こう……)
そうして下着の水気をできるだけ切り、持っていたハンカチで体を拭いた。
穿きなおした下着のとてつもない不快感はその後も忘れられない思い出になってしまった。
タイツを穿かずに戻った秋雲は何かを察したのか風雲には何も追求しなかった。
イベントの後、間宮で甘味をごちそうしたり酒保で買った小物をプレゼントしたりと、風雲を妙に気遣う秋雲の姿がしばらく見られた。
陽炎型と夕雲型の間では『秋雲が風雲に無理矢理手伝わせたご機嫌取りをしている』と噂になったが、風雲本人が否定したために真相は不明なままとなってしまったという。