イケナイことだと理解している。
「ハッ……ハッ……」
普通ではないと、強く理解している。
「んぅ……んっ、んんっ!」
深夜の女子トイレ、苦しそうな声を上げる艦娘が一人。
「はぁ……はぁ……!」
声の主は、白露型三番艦・村雨。
「あっ……ダメ……ダメッ!」
(出ちゃう……でちゃう……!)
用を足してよい場所にいるはずだが、何故か一向に済ませる様子を見せない。
それどころか、洋式便器に腰かけたまま下着も下さずにいる。
(こんなこと、イケナイのに……!)
「イケナイ」こと、それは……。
(おしっこ我慢しながら"する"の……キモチイイ……)
尿意を堪えながらの自慰であった。
「はぁ……はぁ……!」
右手は下着越しに彼女の秘所に添えられ、忙しなく動いている。
拙い手つきで股座を時に優しく、時に強く責め立てている。
自分がどんなことをしているか、今いる場所はどこなのか、分かっていないわけではない。
分かっているはずだが、それでも茹だった頭では情動を抑えられない。
「あっ!……あぁん!」
(ダメ……早く、早く終わらなきゃ……でも……でもっ!)
抗えない。
疼く身体を抑えられない。
無意識のうちに"達して"しまうのが勿体ないように感じて、敢えてセーブする。
落ち着いたら手の運動を再開する。
その繰り返し。
(今日で……最後っ……だから……最後にするから……!)
実はこんなことをするのは初めてのことではなかった。
既に過去何度か同じようなことをしており、常習化しかかっていることを自覚していた。
それでもズルズルと辞められずにいたが、前回同室の艦娘に訝しがられたため、今日を最後にしようと心に誓っていた。
(じゃないと、もしこんなことしてるのがばれたら……私……)
恐らく、他の艦娘も多かれ少なかれ一人での行為はしているだろう。
しかし大っぴらにすることではないし、ましてや他人の事情など知るはずもない。
当然ながら自分の事情だって誰にも知られたくなどない。
加えて少しばかり特殊な"仕方"を万が一にも仲間や提督に知れたらどんな目で見られるか……想像するだけで寒気がした。
(だから……最後!今日が最後なの……だから、だから……)
村雨は無意識の内に『最後だから思いっきり』と思っていた。
(お腹……ぱんぱんで苦しい……苦しい、けど……少し……)
本当はそんな思いも自覚しているのかもしれないが、精いっぱい自分の気持ちに気付かないよう努めていた。
気付いてしまえば"おしっこ我慢しながらオナニーに耽るのが大好きです"と認めてしまうことになる。
今の行為を、感情を、淫らな姿を真正面から受け止めることは出来なかった。
「んぅ……んっ!んっ……くぅ……んんっ!」
指先が秘所に深く沈み込んだまま、力を入れ、小刻みに動かす。
それは尿意を抑え込むための行為でもあり、欲求を開放するための行為でもあった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
既に下着は尿ではない別の液体でぐっしょりと湿っている。
湿った下着と指先が彼女しかいない女子トイレに淫らな音を微かに奏でている。
履いているのは少し前まで使っていた全く飾り気のない支給品の白い下着。
今の彼女には少しばかり小さかったが、自費で使ったお気に入り下着を汚したくない思いから敢えてタンスの奥から引っ張り出してきた。
直に秘所に触れるのがなんとなく怖かったからだ。
そんなところまで用意周到な自分に少し嫌気が差す。
(出したい……イキたい……でも、まだ……もうちょっと……もうちょっとだけ……)
村雨も最初から「こう」だったわけではない。
ある日、不運と間の悪さが重なり続け、長時間トイレに行けないことがあり、限界まで我慢する羽目になったことがあった。
我慢する仕草を隠すことができない程強烈な尿意との戦いになり、普段絶対にしない"前押さえ"をするほどだったが、その甲斐あってかトイレまで持たせることができ、乙女の尊厳を守ったのだった。
その時に感じた「我慢するときの切ない感覚」、「放出するときの開放感」それらが妙に心に残ってしまった。
『これ、ちょっとイイかも……』という快感が性的興奮と徐々に結びついていってしまい、現在に至る。
(あの時……あんなに我慢しなければ、こんなこと知らないでいられたのに)
『私がしているのは良くないこと』という自覚は自己嫌悪につながった。
同時に背徳感としてより強い興奮に結びついてしまってもいたのだが、その自覚がないのは幸運だったかどうかは分からない。
「うぅ……んっ!ふぅ……ふっっ!……ん……」
パンパンに膨れ上がった膀胱が、チクチクとした痛みで危険信号を脳に送る。
しかし本来は不快なはずのその感覚が、村雨にとってはどこか気持ちの良いものになっていた。
尿道口も、もうこれ以上閉ざしていられないと言わんばかりにヒクつき、ジンジンと痛む。
それすらも快いと感じてしまっていた。
(だ、だめ……もう、がまん、できない……!)
気持ちが昂り、ついに抑えが効かなくなり始める。
我慢できない……それはどちらなのか、もう自分でもわからない。
「ん!んぅ……!あっ……!」
拙い手の動きが激しくなる。
「アッ!……あぁっ!!んっ!!」
内側から突き上げられるような興奮に、声が自然と大きくなる。
頭の片隅にあった『誰かに聞かれるかも』という不安感も徐々に大きくなる。
(だめ!声……抑え、なきゃ……!)
「ふっ……ふーー、ん……んっ!」
声を抑え込む。
開こうとする水門を無理矢理閉ざす。
開放されたい気持ち、我慢したい気持ち、そんな感情が村雨の中でぐちゃぐちゃに混ざっていき、心をかき乱し、同時に満たしていく。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
(さ、最後だからもう少し!もう少しだけ)
乙女の秘所から感じる刺激、張り詰めた下腹部の重み、今にも開きそうな尿道口の感覚。
それらが村雨をより興奮させる。
秘所を撫でるように擦る動きがより一層激しくなる。
(……で、でも!!もう!!!!)
「んんんっ!!!」
身体がうずくまるようにして硬直する。
その姿勢のまま何度か痙攣を起こす。
「ッ!!!ッッッ!!!」
最高潮に達した感覚。
声にならない声を上げ、全身に走る電流を味わうように身悶えする。
「っっはあ……!はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……」
止めていた分を取り戻すように荒く呼吸する。
少しずつ体のコントロールを取り戻す。
「気持ち……よかった……」
無意識に言葉がこぼれ出る。
だが、気が緩んだ瞬間を彼女の身体は見逃さなかった。
ジワ……
「っ!!!」
膀胱が『早く出せ』と激しく主張する。
(だ、ダメダメダメ!!まだ!!まだ出ちゃダメ!!)
村雨はまだ下着を下ろしていない。
この状態で放出してしまえばどうなるかなど誰でもわかる。
既に下着はぐっしょりと湿っていたが、それでも"おもらし"のような真似は許容できなかった。
「ふーーーー!ふーーーーー!」
再び手を股座にあてがい、指先に力を籠める。
今度は気持ち良くなるためではなく、気持ち悪くならないために。
「くぅ……うぅ……!ふぅ…………」
何とか決壊を防いだ。
だが、彼女はそのまま下着を下ろしてしまえば、何の問題も無く抱えた重荷を下ろすことができた。
にもかかわらず"我慢"をしてしまったのは、ピチピチの下着を下ろす余裕がないと判断したからか、行為の後で頭が回らなかったか、あるいは……。
(ど、どうしよう……なんだか、まだ……)
『物足りない』……そうつぶやきかけたが、そんな感情を認めたくなくて首を振る。
(な、なにを考えてるの私!こんな、こんなこと、もうこれで終わりにしなきゃいけないでしょ!?)
自分自身を叱責する。
それでも、まだこの場所に居たがっているように身体の動きは鈍い。
彼女も薄々自覚している。
まだ満足していないということを。
(もう今日でこんなことは卒業しないと私、本当のヘンタイさんになってしまうわ……)
再び行為に及ばないように自分に言い聞かせた。
全てを済ませるため、トイレットペーパーで自分の手を入念に拭いていく。
(……何やってるのかしら、私)
その時に何とも情けない気持ちになり、延長戦に突入する気が少しずつ減退していった。
「んぅ……」
(は、早く済ませてしまわないと……)
一度限界近くまで高まった尿意を早く解放させようと下着を下ろした。
コンコン
『あ、あの~~!』
しかしそれは思わぬ形で中断させられた。
「っっ!?!?」
突然の出来事に心臓が跳ね上がり、声が上手く出ない。
ノックされたのは個室の扉ではなく、廊下とトイレを隔てる扉のようであった。
何と返答しようか考えているうちに、声の主が扉を開けてトイレの中に入ってきた。
『あ、あの!だ、大丈夫ですか!』
「え、えっと、さ、五月雨……?」
『村雨姉さんですか!?なんだか苦しそうな声が聞こえてきましたけど、大丈夫ですか!?』
入ってきたのは妹の五月雨。
口ぶりからして、中にいるのが村雨だと分かっていた訳ではないようだ。
それに、何をしていたかもバレていない様子だ。
ひとまず村雨は安堵するが、まだ別の問題が残っている。
「は、はーい、村雨さん、でーす……」
(うぅ……で、出る……出ちゃいそう……!!)
まさに用を足そうとした瞬間に中断させられた。
既に下着は下ろしている。
便座にも座っている。
あとは出すだけ。
だが、出来ない。
(いま、しちゃったら、五月雨に変に思われちゃう!)
五月雨は『苦しそうな声が聞こえたから』心配してトイレに入ってきた。
もしここで放出してしまったら"なぜ今まで我慢していたのか?"という疑問につながりかねない。
大きい方ならまだしも、尿が出なくて苦しい、という状況は病気でない限り普通はない。
(さ、五月雨が、出ていくまで、がまん……しなきゃ……!!)
「ふぅ……ふぅ……」
『や、やっぱりどこか悪いんですか!?明石さん呼んできましょうか!?』
「ち、ちがうの!大丈夫!村雨は大丈夫よ!」
五月雨の心から自分を心配してくれる声に罪悪感を覚える。
実はわざとおしっこを我慢していただけでした、などと言えるはずもない。
「ちょ、ちょーっと調子がわるい、だけだから、ね?」
『ほ、本当に大丈夫なんですか?ずっとトイレに入ってましたよね?』
「え……?」
『さっき前を通った時も、明かりがついていたから……』
「そ、そうなの……」
前からトイレに誰かが入っているのは分かっていたようだ。
場合によってはヒミツが妹にバレていたかもしれない。
だが純粋に体調が悪いのだと五月雨は思ってくれている様子だ。
「ふっ……んぅ……!」
(だ、だめ……だめだめだめ……!もれちゃう……でちゃうぅ……!!ここ、おトイレなのにぃ……!)
あとは"する"だけの姿勢、そんな状態で強いられる我慢。
今にも飛び出しそうな尿を必死で押しとどめる。
『村雨姉さん……本当に大丈夫ですか……?私、心配で……今もすごく苦しそう……』
(ち、違うの五月雨……いえ、苦しいのは本当だけど違うのよ……!)
『誰か呼んで来なくて大丈夫ですか?もし病気だったりしたら……!』
「だ、大丈夫!そういうのじゃない!から!」
(で、でちゃう……でちゃうぅ……!!)
チョピ……
「っ!!!」
遂に堪え切れなくなった尿が体の外に出始めた。
このままでは……。
(……だめ!!だめぇ!!!)
村雨は、尿意に耐えるために秘所を直接手で鷲掴みにした。
直に股間を触って我慢するなど、初めての経験だった。
手に自分の体液が付くが、今はそんなことは気にしていられない。
「……ッ!……ッッ!!」
便座の上で尻を小躍りさせ、まるで自慰に耽るかのように手で股間を揉みしだく。
そうして必死で尿意を抑え込もうとする。
「さ、五月雨……?」
『は、はい!』
「いま、私ね、その、お腹の調子が、悪くて、ね?病気とかじゃ、ない、の」
何とか五月雨には自分は大丈夫だと伝え、トイレから出て行ってもらわねばならないと考え、言葉を紡ぐ。
『で、でも……』
「ほ、ほんとに、ほんとに大丈夫だから……ちょっとお腹の調子が、んっ!よくないだけ、なの……で、ね……えっと、恥ずかしい、から、出て行って、くれないかしら?ッ!……その……お、音、とか……聞かれたく、なくて……んっ」
身体をモジモジと捩り、我慢しながら必死に言葉を発していく。
(は、早く出て!じゃないと出ちゃう……!出ちゃダメ……!)
ジワ……
ポタ……ポタ……ポタ……
もう長くは持ちそうにない。
本格的な決壊が目の前まで近づいている。
『ご、ごめんなさい!私、その、もし村雨姉さんが病気だったらと思うと怖くて……』
純粋に心配してくれる妹に罪悪感を覚える。
「私は、んっ、大丈夫だから」
『でも村雨姉さん、本当に辛かったら隠したりしないで、ちゃんと明石さんに相談して下さいね?』
「う、うん……ありがとう、ね、五月雨……んっ」
ポタ……ポタ……
(大丈夫!まだ、まだ大丈夫だから……!)
『では、私は失礼します……お大事に、村雨姉さん』
「は、は~い……」
(早く、早くぅ!早く出てって!出ちゃうから!まだ出ちゃダメなの!!)
強烈な尿意にあてられて半ば錯乱状態の村雨。
会話をするのも精いっぱいである。
バタン
外扉が閉まる音がした。
五月雨がトイレから出て行ったことを示している。
(ま、まだ……まだダメ……!五月雨が、遠くに行く、まで……!!)
今してしまうと、外にいる五月雨に音を聞かれてしまうかもしれない。
彼女が確実に遠くに行くまでは開放できない。
水を流して音を隠す方法もあったが、村雨は普段音消しはしないのでその発想に至らなかった。
ポタポタポタ……
ピチョン……ピチョン……
「やだ……むり……でちゃう……」
まさしく"漏れ出る"というように、断続的にあふれ出ている。
手が尿で濡れるが気にしていられない。
コツ……コツ…………コツ………………
「おしっこ……したい……はやく、させてぇ……」
先ほどまでの比ではない我慢に視界はチカチカと明滅し、世界が揺れる。
コツ………………コツ…………………
外から足音が聞こえなくなる。
(行った?もう……五月雨は)
ポタポタ……ポタ……ポタポタポタ
必死で耳をそばだて、近くに誰も居ないかを見極めようとする。
足音も、話し声も、物音も聞こえない……。
(もう、いいわよね?もう、もうしていいわよね!?だしていいのよね!?)
村雨が今日耐えて耐えて我慢して我慢して我慢してきたそれを解き放つため、意を決して手を離す。
ブシュゥ!!
「あ」
ヴィシィィィィィーーーーーーーーー!!!
ビシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「っ!!!ッッッ!!!」
幾度となく堰き止められていた水分が、激しい奔流となって洋式便器に打ち付けられる。
今日の村雨の努力と罪の証である。
「ああぁぁ!!んぅっ!!!」
シュィイイィイーーーーーーーーー!!!
(なに、これ……こんなのしらない……!!びりびりする……)
何度も限界を超えて我慢を重ねた結果か、喜びに打ち震えるかのように全身が粟立つ。
それは緩やかな電流のように体中を駆け巡る。
「きもち、いい…………」
シィィィィィィィィーーーーーーー!!!
並々と蓄えられていたタンクは簡単には空にならない。
既に相当量を出した筈だが、水流は衰えない。
「はぁ……はぁ……」
イケナイ……この感情に気付いてはいけない。
直感的にわかる。
この感情に身を任せれば、きっともう戻れない。
シュィィィィィィィィィ
「っ……と、とまんなぃ……」
(今日が……最後……最後、なの……さっきだって危なかったじゃない……もしこんなこと続けたら、いつかはきっと……)
心が開放感に満たされており頭が上手く働かない。
思考に靄がかかる。
(こんなこともう絶対しない!!最後!!最後なんだから!!)
「で、でも……でも……!!」
シィィィィィィ………
じょぼぼぼぼぼぼぼ………
永遠に続くかと思われた排水も、ついに勢いが弱まり始めた。
勢いが落ちた小水が陶器部分ではなく封水に落ち、情けない水音を立てる。
チョロロロロロロロロ…………
ピチャン……ピチャン……
ピチャン…………
「はぁーーーーー……はぁ、はぁ、はぁ……」
今度こそ全てを終え、ぐったりと全体重を便座に預け、天井を仰ぐ。
(キモチ……よかった……)
ついに自覚してしまった感情。
「今日で……最後……」
イケナイことと理解している、強く理解している。
だからこそ『今日で最後』。
そんな村雨の決意は、小水と一緒に流れ出て行ってしまった。