心折杯滑り込みで入りました。
 ヘブンズフィールでアルトリアがオルタ化する所を捏造しました。

 多分、無難に出来たと思います。
 良かったら感想、評価お願いします。

 

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聖杯に飲み込まれるアルトリアの話

 

 

 沈み込む。深い闇へと沈み込む。

 ただ真っ暗だった。右も左も上も下も前後も全てが闇に包まれていた。そんな暗い闇の中にアルトリアは堕ちていく。

 

 最後の記憶を思い出す。アサシンに触れられ、心臓を掴まれたような感覚に陥り、抵抗が緩まった瞬間に、帯のような影に引き摺り込まれた。

 

 それから気が付けばこの場所にいた。

 暗闇に沈み込み、身体が水の中にいるかのように重くなる。

 

 

「此処は……?」

 

 

 瞬きした瞬間、景色が一瞬にして変わった。

 目の前には聖剣が刺さっていた。あの日と同じだった。選定の儀、あの日に私はカリバーンを抜いた。人間である事を止め、王になった。

 

 

「選定の………」

 

 

 もし、この時に聖剣を抜かなければ……

 自分は恐らく、王にはならなかった。ケイ兄さんと一緒に叱られながらも、村娘として生きて、私なんかより優れた人が王になるのだと……

 

 

『––––そうやって、自分の不幸を他人に押し付けるのが、お前の選択か。哀れなものだな』

「……っ!誰だ!?」

 

 

 背後から聞こえた声の主が居なかった。

 姿は見えなくとも声が聞こえる。その願いを侮辱されたのが許せなかった。

 

 あの日。聖剣を抜かなければ、私なんかが王にならなければと今でもそう思っている。私が王にならなければきっと……

 

 

『民は幸せであったと?』

「……そうだ。私が王になったから、円卓は、民は、国は滅びた」

 

 

 抜かなければきっと違ったとしても私が生み出した悲劇を回避出来た筈だ。あの日、多くの騎士を死なせ、モードレッドと決着をつけた。

 

 モードレッドは叫んでいた。

 これが私に王位を譲らなかった報いだと。

 

 王として、円卓の仲間を見てやれなかった。 

 王とは、ただ孤高を示すもの、その責任を王として背負い巻き込む事を許さない。その正しさで国を守ってきた。

 

 そんな在り方は間違っている。

 実際に、自分の在り方で国が滅んだのだ。

 

 私ではない。きっと誰かが……

 

 

 

 

()()?誰かとは誰だ?』

 

 

 

 

 息が詰まる。

 その質問に私は答える事が出来なかった。

 

 

『誰か?ガヴェインか?ランスロットか?トリスタン、ベディヴィエール、ガレス、パーシヴァル、ガへリス、パロミデス、アグラヴェイン、ケイ、ギャラハット、そしてモードレッドの中に誰かがいるのか?』

 

「……!それは……」

 

 

 自分の中で、その答えは出せなかった。

 

 ガヴェインなら?ガヴェインは頼れる騎士だ。しかし、ガヴェインが騎士全てを導けるか?出た答えはNOだった。

 

 ランスロットなら?湖の騎士で円卓最強の騎士なら導けたか?いいや、ランスロットは騎士である前に人だった。人として尊敬出来るからこそ、王に向いてるとは思えなかった。だからNOだ。

 

 トリスタンなら?きっと悲しみに耐えきれずに挫折してしまう。きっと王としては導く事は出来ないだろう。NOだ。

 

 ベディヴィエールなら?いいや、彼は器量は良くても力が圧倒的に足りない。きっと王としてはハリボテの存在になってしまう。NOだ。

 

 ギャラハットは?穢れなき騎士であるならば、導けるだろう。だが、穢れなき騎士であるならば、その高潔さを汚さずに貫けるか?そんな事は不可能だった。どうあがいても、手を汚す事も必ずある。そんな重荷を背負わせれば潰れてしまうのが目に見える。NOだ。

 

 ケイは?いいや、あの人は王という存在を嫌悪していた。自分の為に動いて、民を守ろうとはしないだろう。そもそも王になろうとすら思わないだろう。NOだ。

 

 モードレッドは?いいや、あの騎士の性格からそもそも王に向いていない。民草を守れど、きっと導こうとしても誰もついていかないだろう。そんなカリスマはあの騎士には無い。NOだ。

 

 アグラヴェインは? ––––NO

 ガレスは?     ––––NO

 パーシヴァルは?  ––––NO

 パロミデスは?   ––––NO

 ガヘリスは?    ––––NO

 

 そして気が付けば、誰一人としていなかった。

 誰かがブリテンを救ってくれる誰かとは誰だ?一体誰が自分より優れた未来に導く事が出来る?

 

 

『誰かがやってくれる?自分より正しい歴史に導ける?そんな戯言をまだ続ける気か?』

「それは……」

 

 

 自分は誰よりも円卓の騎士を知っている。

 知っているからこそ……いや、知っているフリをして見ていなかった。円卓の騎士という枠の中に入れて、ただ戦力である騎士を集めたに過ぎない。

 

 ただ、仲間として見ていられたか?

 ただ、友として誰かに頼る事が出来たか?

 

 

 

 

 

––––結局、貴様は誰一人信用していないのだ

 

 

 

 

 

 その言葉が自分の信じていた全てを否定した。

 否定しようとする。それは間違っていると否定の言葉を探す。

 

 ただ、必死に子供のように言い訳を考えた。

 

 頼れる仲間がいたから国は最後まで抗い続ける事が出来た。卑王も、魔猫も、ピクト人からの侵略だって……!

 

 

「そんな……筈は……」

『ならば貴様はあの日、なんと言った?』

「あの……日?」

『聖杯問答、貴様の王の在り方をなんと言ったか。忘れたのか?』

 

 

 第四次聖杯戦争。

 あの日、征服王と英雄王と王の在り方を語った。

 

 

「……あっ………」

 

 

 自分が何を語ったのか思い出した。

 王とは正しさの奴隷、高潔であり国の為に尽くす者。そんな偶像に駆られて、走り続ける余り、誰一人として後ろについてきてくれる人が居なかった。

 

 

「あ……ああ………」

 

 

 救う事はしても導く事はしなかった。

 導けば、導く事が出来たのなら変えられたかもしれない。

 

 だが、自分はその在り方を否定するかのようにあの日告げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王ならば、孤高であるしかない

 

 

 

 

 そう、それは信頼を捧げてきた騎士の全てを裏切る言葉だった。自分が悪いのだから、他人に背負わせてはいけない。それはあくまで責任者であるならばそれは正しい選択なのかもしれない。

 

 だが、王としてはそれは間違っている。

 何故ならば、王は国を支える為に頼らなければならないのだ。一人で全てが解決出来るとほざく者ならば、ただそれは自分勝手な傲慢の王だ。思い上がりも甚だしい。

 

 王とは誰よりも鮮烈に生きなくてもいい。

 征服王の全てが王の在り方ではある訳ではない。

 

 英雄王のような星を背負う覚悟がなくてもいい。

 一つの国を護る事が出来るだけの覚悟があればいいのだから。

 

 けれど……

 

 お互いに共通して言えた事がある。

 それは信用していた人達が居たからだ。

 

 征服王は俺の鮮烈さを見せつけ、自分を支えてくれる後ろの仲間を信じていた。

 

 英雄王は暴君としてあったが、それでも賢王になり仲間を頼り滅びた国を創り上げる為に仲間を、殴ってくれた司祭を頼った。

 

 だが……自分は……

 

 

 王の在り方に目が眩んで、仲間を信じる事すら出来ずにただこの時まで自分が悪いから王になるべきではないと、罪悪感から逃げるように、現実から目を背けるように、アテもない『誰か』に押し付けようとしたのだ。

 

 声が聞こえた。

 気が付けば、カムランの丘に居た。

 

 騎士の死体が積み上げられ、それが見下ろせる場所に立っていた。

 

 

『………何故、私が捧げてきた騎士の心を否定したのですか』

「ガ…ヴェイン……」

 

 

 地面を這い蹲りながら怨嗟の様に問う太陽の騎士ガヴェインが血濡れたままセイバーに近づいていく。助けるべき騎士なのに、足が後退する。それを見たガヴェインは叫んだ。

 

 

『何故、何故!何故!!助けてくれない!!貴女の為に忠義も我が全ても捧げてきたと言うのに!!』

「違……私は……!」

 

 

 助けたいという思いと裏腹に這い蹲りながら近づくガヴェインが恐ろしく感じた。近づこうとする自分の右脚を誰かに掴まれた。そこに目をやると、湖の騎士ランスロットが血濡れた手で脚を掴んでいた。

 

 

『貴女は王の在り方に酔った。だから彼女を泣かせた。私は本来、裁かれるべき存在なのだろう』

「ラン……スロット……」

『子を為せないのなら、彼女を放ってやるべきだった。そうすれば彼女は幸せになれた。私を裁くべきだった。そうすれば仲間を斬った私の償いになったはずだ』

 

 

 アーサー王はギネヴィアを愛していなかった。

 だからこそ、ギネヴィアは自分を見てくれるランスロットに恋をした。ランスロットは鳥籠の中で泣いている彼女を連れ出そうとした。本来ならば、王である自分が彼女の辛さを気付いてやらねばならなかったのに。

 

 

『……貴女には、何も見えていなかったのですね。私も、騎士達も』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––だから、貴女は私を殺した

 

 

 あの日を再現するかのように自分の持つ聖剣はランスロットの胸部を貫いていた。冷たくなる身体、仲間だと思っていた人間を刺した生々しい感触、手に伝う僅かに暖かい血が目を見開いて恐怖を浮かび上がらせた。

 

 

「う、うわあああああああああ––––!!?」

 

 

 恐ろしくなって、脚にしがみつく騎士を払い退け、貫いた聖剣を手放し、子供のように怯えて逃げる。走っていく、逃げるように丘から走っていく。だが幾ら走っても瞳に写るのは騎士達の死体と血に濡れた戦場の土だけだ。

 

 

『漸く貴女は理解したのですね。王よ』

 

 

 叫び、涙が流れ、身体が震える。

 どうして、自分はこんな道を選んでしまったのか。どうして自分は彼等を救う為の最善を選べなかったのか。

 

 琴の音と共に声が聞こえた。

 騎士トリスタンだ。彼が私に忠告した言葉を何故あの時深く理解しなかったのだろうか。

 

 

『貴女の騎士道は確かに正しい。けれど、貴女は王の在り方に縋り付き、麻薬のようにその道に依存した。それがこの結末です。貴女の騎士道、貴女が人の心を理解しなかった故の帰結です』

 

 

 その帰結が、今の惨状だ。

 人の心を理解すれば、仲間として寄り添う事が出来ただろうか?今になって、何故王の在り方が未だ孤高だと決めつけていたのか。

 

 

––––ああ、私は哀しい。人の心が分からない貴女が今になって理解したのか

 

 

 どうして気づいてやれなかったのだろうか。

 どうして今になって、人の心を理解しようとしているのか。

 

 

『––––貴女は正しさに駆られた。だから滅んだ。そんな正しさについていける者が居なくなって』

『––––だが、貴女はそれが正しい在り方だと信じていた。私達がバラバラになっていくにも関わらず』

『––––だから、お前には向いてないと言った。だが、お前はその言葉を跳ね除けた。ただ愚直に信じて』

 

「ギャラハット……ベディヴィエール……ケイ兄さん」

 

 

 王として自分を支えてくれた彼達が、矢傷や斬傷で酷い有様だった。盾は真っ黒に染まり、その帯剣もこの世のものとは思えないくらい悍ましい色をしていた。

 

 何が正しかったのか。

 どうすればバラバラにならなかったのか。

 

 

『そしてその苦悩から逃げようとした』

 

 

 全身に鎧を纏い、叛逆の返り血で塗れた騎士が現実を叩きつけた。自分が怯えるその有様に滑稽だと嘲笑うかのように……

 

 

『王でなければ救えた?騎士の骸の山を作らなかった?違うな。アンタはそうやって出来もしない可能性をただ考えて逃げたいだけだ。こうすれば良かった?どうすれば良かった?何故今更それを考える必要がある?』

 

「モ…ドレッド……」

 

 

 

 

 

 

 

もう……手遅れなのに

 

 

 

 

 バチャッ、と血飛沫を上げ、聖槍がモードレッドを貫いた。

 これが報いだ。王からも、仲間からも逃げようとした自分への報いだ。

 

 血濡れた戦場は再び闇へ閉ざされた。

 深い闇に沈み込む中、一条の光が空高く浮かび上がっている。

 

 

「せい……はい……聖杯があれば……」

 

 

 アルトリアは手を伸ばした。

 聖杯があれば、みんなを救える。またやり直せる。

 

 ただ、救える筈だ。

 それを理解したなら今度こそ……

 

 

 

 

『––––やめておけ。貴様では何も救えない』

 

 

 

 

 

 その光の元へ向かおうとした瞬間、誰かに後ろから肩を掴まれた。阻まれることに苛立ちを感じ、アルトリアは振り返り叫びだす。

 

 

「誰だ……!私の邪魔を……!っ!?」

『誰だ、だと?そんなもの、見ればわかるだろう?』

 

 

 そこに居たのは、その目に写ったのは……

 

 

 

 

私はお前だよ。アルトリア・ペンドラゴン

 

 

 

 (アルトリア)だった。

 漆黒のドレスに身を包み、金色の瞳で此方を見る自分と全く同じ姿の存在が居た。

 

 

「な……あ………」

『貴様の甘さが円卓を殺した。貴様の在り方がブリテンを滅ぼした』

「違……違う……」

『それは全て、貴様が何も信じなかったからだ。兄も、王妃も、師も、一緒に戦場を駆けた仲間すらも。だから滅んだ。お前の手で滅ぼした』

 

 

 誰かの言葉を信じていたら。

 止めてくれる仲間の声に耳を傾けていたなら……

 

 王になるべきではない。

 だから王になった自分を殺そうとした。そうやって理由を正当化して、逃げて、誰かが救ってくれるという甘い考えに浸って、聖杯に縋ろうとした。

 

 

『そしてそれは全て』

 

 

 (アルトリア)は崩れ落ちる私に残酷な真実を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

『貴様が孤高であるからと忠義を捧げた騎士達を裏切ったからだ』

 

 

 

 

 

 

 その言葉が酷く心に突き刺さった。

 気付くのが余りにも遅くて、人の心を知った自分にはそれが耐え切れないほどに重い言葉だった。

 

  

「う、ああ……」

 

 

 決壊する。

 自分が目指していたものも、自分が歩んできたもの、自分が正しいと信じてきたもの全てがガラガラと崩れて壊れていく。

 

 

「ああああッ………!」

 

 

 自分の口から、獣にも似た呻き声が漏れた。

 再びその場から崩れ落ち、何も考えずに暗い闇を、見下ろした。

 

 騎士王だった自分が間違っていたんじゃない。

 騎士王としての自分の在り方が間違っている訳ではない。

 

 ただ、裏切ったこと。

 自分から独りと決めつけ、信用しなかった自分が間違っていたのだ。

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」

 

 

 絶叫した。

 身体全ての力で泣き喚き、咆哮した。

 そんな事をしても、誰も何も変わらない。贖罪するにはあまりにも遅過ぎた。気付くのが余りに遅過ぎたのだ。

 

 信用していた仲間を裏切り、全てを滅ぼした。

 結局、孤高に生きる事が王である偶像に縛られたただの小娘だった。

 

 そんな小娘が信じていたものすら……

 

 

 砂の城のように脆く、崩れ去っていた。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 結局、セイバーは救われなかった。

 反転し、桜の願いを叶えようと、騎士としての在り方を貫いた。

  

 ただ、セイバーは胸を貫かれて死んだ。

 そんな彼女はを殺したのは、奇しくも最初に召喚したマスターだった。

 

 

 


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