想鵐Sido
「・・・そういう、わけなんだ」
「僕は、人のために命を・・・そういうことだよね」
「ああ。間違いなく救える」
「わかった。瀬良、ありがとう」
僕は、瀬良に礼を言った。
内容は確かに絶望的かもしれない。
だって、彼は僕に死ねと言っているも同然なんだから。
しかし僕はそれを甘んじて受け入れなければならない。
「・・・僕の命はみんなのために使うんだ。だから、嬉しい」
「すまない・・・っ!」
「どうして、君が泣くの?どうして、なの?」
瀬良はうつむいて涙をこぼした。
どうして、どうして・・・。
僕には意味がわからなかった。
彼が泣くのか、その理由はなぜか・・・。
「本来なら俺が止める役目なんだ・・・!種にしなければならないッ!だけれどこの幻想郷には幻想樹が必要だッ!霊夢には天子を生贄にするのを止められたし、巫女を生贄とするわけにもいけない・・・。俺は、俺は・・・っ!」
「瀬良」
僕は短く瀬良を呼んで、その頭を撫でた。
「瀬良に、そこまで傷ついてほしくない。・・・そう思う人は、たくさんいるよ。早苗も、文も、椛も枯葉も。妖怪の山のみんなや霊夢だって」
「・・・」
「君は、君を信じて心配してくれる彼女らを助けるんでしょ?だったら、僕の命、使ってよ」
「・・・想鵐」
「僕は君にこの幻想郷を見届けて欲しい。天狗の長として」
「・・・わかった。決行は明日の朝。幻想樹の前で」
「・・・へぇ?やっぱあんた、死ぬのね」
瀬良が帰ったあと伝えた霊夢の言葉が、思いのほかズシンとくる。
僕は苦笑いで返した。
「やっぱ死ぬって・・・これまた直球だね。まあ、あながち間違いではない」
「妖夢には?」
「・・・まだ、だよ」
ぽかり、と頭が軽く殴られる。
ため息と共に、言われた言葉。
「明日でしょ?いいの?」
「見送らないで欲しいんだ。困るから」
「ふぅん・・・。私らはいいわけね」
「あ、あはは・・・、やっぱそこ言います?」
「言うに決まってるでしょうが」
呆れた様子で、霊夢は縁側に座った。
僕はその前に立つ。
「伝えたのは、君が始めてだ。知ってる人はいるけど、ね」
「ふぅん?」
「・・・この神社におかせてくれて、ありがとう」
深々と頭を下げて、僕は礼を述べた。
チラリとそちらを見れば、びっくりしたような霊夢の顔。
「君のおかげで、僕は死なずにすんだよ」
「・・・お金」
「はいはい、・・・どうぞ。一万円札」
「頂戴するわ」
霊夢が僕の手から一万円札を抜き取る。
「・・・あんた、もし帰ってくるのとしたら、どこに行くつもり?」
「さあ?どこだろう・・・・でも、やっぱり可能性は」
「白玉楼?」
「・・・そこらへんは、曖昧だけどね」
苦笑すれば、鼻で笑われる。
僕は変わらない霊夢の様子に、ただただ「感謝」するばかりだ。
ピシリ、と僕の眼前に大幣が突きつけられる。
「あんたがその境内から出たら他人。初対面の他人よ」
「うん、わかった」
「・・・ふんっ。ま、せいぜい頑張りなさい。あんたを慕う人は、あんたを希望にしてるのよ」
希望・・・。
僕が、か。なんて前髪をかきあげながら笑った。
グッと親指を立てれば、霊夢がそっぽを向いてそのまま頬杖をつく。
「・・・さっさといきなさいよ」
「うん。お世話になりました」
「・・・」
僕はもう一度礼をしてから境内から出る。
嗚咽が聞こえた気がしたが、僕はそれに足を止めず、神社をあとにした。
「バカ・・・っ!」
さぁ、と風が頬を撫でた。
ほんの少しの後悔を、持って行ってくれるように、胸が軽くなった。