想鵐Sido
紅魔館の長い廊下を歩く。
すると、後ろから鋭い殺気が飛ばされる。
僕はふと振り返り、殺気の主を枯らさんと手を延ばした。
——ふにょん。
どこともいいがたい、柔らかな感触。
殺気は一層強くなるも、その確かな感触に僕自身の枯らそうとする意思が折れる。
次の瞬間、僕の意識は刈り取られた。
その時見た揺れるものは、銀の髪。目に焼き付いた・・・。
☆ ☆ ☆
「・・・ありゃ?」
「起きた?あなた、廊下に倒れたのよ?」
「明らかに誰かに気絶させられた気がするんですがそれは」
「気のせいよ」
どうやら通りかかっただけらしい。
咲夜が氷を僕に手渡した。
どこを痛めたんだろうと首をかしげれば、途端に首に激痛が走る。
どんな気絶の仕方したらここまで首が痛くなるんだろう。
氷を首に当てて咲夜を見上げた。
若干赤くなった頬を見ていると、その手にナイフが並んだ。
「・・・」
「・・・」
僕は無言で視線を戻す。
それにしてもあの感触は何だったのだろう?
何かのクッションを掴んだような感覚・・・。
手をうごうごさせるとなぜか咲夜の視線が痛いほど感じられた。
うーん、通りかかっただけにしては、やっぱり証拠が出揃ってませんかね・・・。
「・・・なにしているの?」
「イエ、ナニモ」
「そう」
咲夜さんはそっぽを向いた。
僕は氷を当てながら、手を凝視した。
「・・・」
「首の調子は?」
「少しでよくなりますかね・・・っと、あ、これ返します」
「いいの?」
「はい。もう」
氷を返して、僕は立ち上がる。
咲夜は氷を受け取って僕を見ると、口を開いた。
「何の用?」
「・・・君とレミリア、フランに伝えたいことがあるんだ。それは、一人一人確実に伝えたい」
「・・・そう。それで、何を言うの?」
咲夜と向かい合って僕は口を開く。
とくに気兼ねする必要もない。
さっきまで話してきた内容を伝えると、咲夜は目をつむってたった一言、「そう」と。
「・・・それだけだよ。それで、お世話になったから来た」
「お嬢様や妹様に限ってはお世話を・・・迷惑をかけたほうじゃないかしら?」
「それは違うよ。・・・彼女らには相談に乗ってもらったし、なにより励ましてもらえた。僕は助けてもらったんだよ」
たとえレミリアが一回でも二回でも、僕に槍を振るったとしても。
僕は、僕は・・・彼女らに救われたから。
彼女らが迷惑をかけたのに、なんて言った暁には、頭を叩いて笑ってやろう。
「・・・なら、いいのだけれど」
「咲夜?」
「・・・私は、あなたになにもしていないのに・・・」
咲夜がうつむきがちにそう言った。
僕は首を振った。痛んでいた首は次第にその痛みを訴えなくなっていた。
「そんなことないよ。助けてもらってる。バイトした時もだけど、春雪異変でも君に助けられたしね」
「・・・そう」
「咲夜?」
未だうつむいた顔。どこか震えてるように見える肩。
僕は下から覗き込む。
ポタリ、と頬に落ちたなにか。
それは液体であった。
「・・咲夜、きみ」
「っ!?」
僕が覗き込んでいることに気がついたか、咲夜はふいと顔を背けてそのままポケットを漁る。そして何かをつぶやいた。
・・・やや、空白の時間が流れたような気がした。
気がつけば咲夜はもうそこにはいなかった。
逃げられたかと落胆するも、まあいいかと伸びをする。
頬に落ちていたものを拭って、歩く。
レミリアの部屋を目指した。