ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

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というわけで始まりました! ましろヒロインです!


①シュガー/ビター

 麗らかで眠たくなるようなピンク色のある日、僕の大切なヒトは高校生になった。外部受験で名門である月ノ森という女子校への進学、それは彼女にとってみれば大変な冒険で。でも彼女は僕の目の前で制服を見せびらかすように立っていて、それがなんでか少しだけ誇らしかった。

 

「じゃーん! どうどう?」

「……かわいい」

「かわ──っ! も、もう! カイくんはそーゆーこと平気でゆっちゃうんだから」

「制服がね」

「あ、う……ばか! ばかばか、ばーか!」

 

 顔を真っ赤にして照れたと思ったら、顔を真っ赤にして怒る僕の大切なヒト、僕のことをカイくんと呼ぶヒト、倉田ましろ。呼ぶ時はましろ、とたった三文字の記号で、だけどそのヒトを現す愛おしい記号を僕はいつものように発した。

 

「……ん」

「おめでとう」

「うん……アリガト」

 

 改まって言われると恥ずかしいねとはにかむ彼女だけれど、随分と進路には悩んでいた。それこそギリギリまで。僕の通う共学か、月ノ森か。安寧か挑戦かの二択に、ましろは変わりたいと挑戦を選んだ。僕はそれがとっても誇らしい。

 ──僕だったら、迷わず安寧を選ぶ。ましろも、前はそうだったんだけど。

 

「ねぇ、カイくん」

「ん?」

「制服、かわいい?」

「うん。ちょっとスカートが短いなぁとは思うけど」

 

 うちの学校だって似たようなものだし、ましろの中学に比べたらってことなんだけど。もしそれが原因で彼女が男に性的な目を向けられることがあったら……僕は。

 その僕の指摘が思った通りだったのか、そうじゃなかったのかはわからないけれど、ましろはちょっとだけ迷ってから紺色のプリーツスカートの裾をつまんだ。

 

「あの、さ……も、もし、パンツとか……見えちゃったら、コーフン、する?」

「何言って……」

「わたしが、捲ったら……カイくんは、どうする?」

 

 するすると白く眩しい太股が見えていく。傷もない、純白の真珠(パール)のようなましろの肌。そしてその上に何かが見えそうになったところで、僕は彼女の手を抑えた。それ以上見えないように、僕はましろを制止した。

 

「カイ、くん……」

「大丈夫、大丈夫だよ、ましろ……そんなことしなくたって、僕はましろが……ましろのことが大好きだから」

 

 手を引き、ましろを抱き寄せる。華奢な、小さな肩を包み込んで、後頭部を撫でてあげると彼女は決まってもぞもぞと僕の肩に顔の下半分を埋めてくる。それが溜まらなく愛おしかった。ああ、僕はましろが好きだ。ましろに触れるだけでこんなに心が満たされていくのを感じる。

 

「ごめん、しばらく受験で会えなくて……卒業後もバタバタしてたし」

「ううん、僕こそ、不安にさせてごめん」

「ありがと……大好きだよ、カイくん」

 

 そっと、唇を重ねる。僅かな触れ合い、だけど確かな熱を帯びた男女の触れ合い。思わず腰に回した手に力を込めてしまいそうになるけれど、ぐっと我慢をしてこれ以上の欲が出ないうちに離れていく。

 

「ん……えへへ」

「どうしたの?」

「カイくんからぎゅーってしてくれたの、五回目」

「五回って……数えてるの?」

「うん、大事だから」

 

 大事だから、そんな小さなことでそんな風に笑えるましろのことが、愛おしかった。同時に、そんな彼女に五回も触れていることに対して、少しだけごめんという気持ちになった。それに追い討ちを掛けられるように、だけどましろは嬉しそうにキスをしたそのままの距離で笑顔を浮かべた。

 

「もう付き合って、二年くらい? だけど……この間がクリスマスでしょ? その前が息抜きにって紅葉狩りの時でしょ? 半分以上最近だよね」

「……そっか」

 

 謝りそうになる。ましろはそれを望んでいるのだろう。だけれど、僕はそれを望んでなんかいない。僕はましろのことが大好きで、愛してるとさえ思う。だけど恋人として、男女としての関係、明け透けな言葉を使ってしまえば……そう、セックスがしたいわけじゃない。僕の手垢でましろを穢すなんて、僕の欲でましろを染めるだなんて、そんな汚いことはできない。僕はむしろ、ましろをそういう汚いものから、守りたいんだ。

 

「カイくん?」

「……ん?」

「ぼーっとして、疲れてる?」

「いや……まぁうん。最近バイトの先輩が厳しくて」

「そ、そっか、ごめんね付き合わせちゃって」

「ううん、いち早くましろの制服姿が見れて、嬉しい」

 

 僕もだいぶ勉強手伝ったからねと笑うとご迷惑をおかけしましたとおどけて返される。そんな暖かな雰囲気ではあったけれどバイトの時間になるからとましろを送っていってそのままバイト先であるコンビニに向かった。

 

「あ~、大崎(おおさき)くんだ~」

「青葉さん、お疲れさま」

「え~、むひょーじょーだ~、ホントに思ってる~?」

 

 思ってるよと同年代の彼女に返す。確かに僕は普段から表情筋が死んでるとは言うけれど。それはキミも同じでしょうと言い返してやると、しばらくしてからどーでもいーや~と冷たい反応をされてしまった。いや別にいいんだけど。

 

「ヤッホー、海斗(かいと)

「おはようございます、今井さん」

 

 ひとまず青葉さんをスルーして事務所に向かうと、スマホを片手に缶コーヒーを煽る彼女がいた。僕を見つけるとにこやかでフランクな挨拶をされ、軽く会釈で返す。だが、今井さんはその僕の様子が気に入らなかったようで大きなため息を吐かれてしまった。

 

「カタいなぁ、もう一年の付き合いでしょ? リサって呼んでよ~」

「……それで今井さんは」

「無視かこの」

「休憩中ですか?」

「ん、そだよ。サボってるワケじゃないから安心してよ」

 

 そうじゃなくて、僕が着替えるからって遠回しに言ったつもりなんだけど。というかなんで更衣室が区切られてないのか不思議でしょうがない。まぁ制服も上に羽織るだけだし、ほとんど上や下を着替えるヒトがいないんだからそれほど気にしなくてもいいんだけど。

 ──でも、僕はこのヒトに、今井リサさんに着替えを見せるのが、気に食わなかった。

 

「で?」

「……なんですか」

「カノジョさんと、シた?」

「まさかでしょう」

「ふ~ん、まだ続けてんだ」

 

 まるでつまらない意地を張ってるとでも言いたげな声音で呟いてから、ゆっくりと立ち上がる音がした。まずいと思って振り返ったけれどもう既に今井さんは僕のすぐ近くで小悪魔のような微笑みを浮かべていた。んで? とまたもやそれだけでは意味のわからない問いかけ、でも僕にはすぐに意味が理解できた。

 

「ドキドキした?」

「それはもう、新鮮でした」

「セックスしたくなった?」

「いえ」

「じゃあ、コレは……なにかな?」

「……あなたが触るから」

「あはは、キミのそゆとこ……案外嫌いじゃないよ?」

 

 瞳が妖艶に歪む。肩を掴む手が熱い。そのまま、吸い込まれるように僕は今井さんの唇に吸い付いた。倫理観も、価値観も、なにもかもが溶けるようなディープキス。舌を絡め合い、壁と彼女にサンドイッチされるようにして強制的に性欲のスイッチを入れられる。

 

「……まさか、ココでするとか、言いませんよね?」

「流石にそれは怖いからね~」

「なら、これ以上は……っんぐ」

「っはぁ、でもアタシは約束するまで海斗を解放するワケにはいかないんだよね」

「……またですか」

「え、嫌だった?」

 

 そこで意外そうな顔をされると不満なんだけど。それは言わずにその不満が、図星だということを肯定する。嫌じゃない。このヒトの熱いのにどこかひんやりとした唇も、別の生き物ように僕を捉えてくる舌も。長くてキレイな指も、魅惑的な肢体も、好きか嫌いかと問われて、嫌いと断言できる一般的な男子高校生は一体どのくらいいるのだろう。それくらいに、今井さんの持つ熱は僕には熱すぎた。なのに、芯は冷ややかで。

 

「じゃあバイト終わりに」

「わかりました」

「……ん~、でも後一回、しよ」

 

 水音を響かせて、今井さんはその五分後にはなんともないかのように青葉さんと交代していくその後ろ姿に、僕は言い様のない感情を抱いていた。抱きしめたい。だけどましろに抱くものとは真反対の感情。このヒトの上げる声が聴きたい。襲って、奪って、トロトロに蕩けさせたい。まぁもっとも、そんなことはできないんだけれど。僕のテクはあのヒトに仕込まれたものだ。舌も手も指も、腰遣いも。全てが、今井さんでできている。

 ましろ、僕はね──キミじゃないヒトとセックスをしている。裸になって、キミじゃない記号を呼んで、キミじゃないヒトの裸に、欲情する。そんな浮気を始めてもうそろそろ、一年が経つそうです。

 

 

 

 

 

 




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二話は明日の同じ時間に投稿されまーす!
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