ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

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一文字違うだけで意味が変わる、ガラリと変わる。


㉑一日/一日中

 ──終業式を終え、すっかり雨の少なくなった空を見上げた。けれど去年の夏休みとは感情は全く違うものだった。去年は、受験勉強に追われるましろとはほとんど出掛ける機会がなかった。そのかわり時々図書館とかで勉強を教えてたんだけど。

 

「来年は」

「ん?」

「カイくんと色んなとこ行きたいな、花火とか、海……は水着とか、恥ずかしいけど」

「海はだめ」

「……わかった」

 

 花火も、万が一ましろとはぐれたらと思うと気が気じゃない。でも、中学生の時に二人で夏祭りに行ったあの思い出を語りながら僕とましろは来年こそ、色んな場所に出かけようと約束していた。けれど、どうやらその約束は果たせそうになかった。

 

「水着さ、海斗はどーゆー系が好み?」

「……なん、なに?」

「だからぁ、海斗はどういうタイプの水着が好み? って訊いてるの」

 

 水着にタイプがあるんだ。そもそもそこからなんだけど、僕が思い浮かぶ種類といえば競泳用、スクール、あとはセパレートかそうじゃないかの違いくらいしかわからないんだけど。そういうとリサはニヤリと嫌な笑顔を浮かべてきた。

 

「フェチだね」

「競泳用やスクール水着がいいとは、言ってないけど」

「でも、チョット想像したでしょ?」

 

 今まさに想像させられたよ。確かに健康的なリサのボディラインを包む競泳用、とか似合いそうな雰囲気はある。だけどリサの言う水着は水泳のためのものじゃなくて、海とかプールとかに行くためのものでしょう? 

 

「そ、海斗とね」

「僕は今初めて聞いたんだけど」

「言ってないもん」

「……そう」

 

 言ってないけど、確定事項となっているようで、リサはスマホを操作しながらどういう系? とさっきと同じ質問を、今度は更に簡略化して訊ねてくる。セパレートかセパレートじゃないかでいったら、僕も男だしセパレートの方が好みだよ。リサのスタイルでお腹を出されてしまうのは少し、目のやり場に困ってしまいそうだけど。

 

「海斗ってさ、ホントむっつりだよね~」

「むっつり、というほど自分の欲を隠した覚えはない」

「あはは、でも表情には出ないじゃん?」

 

 だからってむっつりに認定されるのは納得がいかない。じゃあ見たいか見たくないかで教えてと言われてしまうと見たいと返事ができるのは、オープンな方だと思うけど。

 これがましろなら……って、ああまた考えてた。考えないようにと思っているけれど、やっぱりふとした時に考えてしまう。

 

「夏休み、会えないの?」

「うん」

 

 ましろに会ったのはつい数時間前のことだった。喫茶店でデートの休憩をしていたところで夏休みの予定を立てようとしたことそのものを打ち砕かれてしまった。夏期講習、モニカの合宿やらライブの準備と練習やらでどうやら今年の夏のましろは、去年にもまして忙しい日々を送るみたいだ。それは仕方ないねと僕は頷いた。

 

「それじゃあ桐ヶ谷さんたちによろしくね」

「ごめんね、カイくん……夏祭りは一緒に行こうね」

「……うん」

 

 たった一日、僕に与えられた恋人との時間は夏祭りというたった数時間しかなかった。それでも思い出になる特別な時間になるだろう。そう思っていたけれど、それは帰ってきてしばらくしてから与えられた暖かさに薄まる予感がしていた。

 

「たっだいま~♪ あーすずしー」

「涼んでるのに密着がすごい」

「あ、ごめんごめん、結構白熱してたから汗臭かったでしょ」

「気にならないよ」

「そう?」

 

 汗でしっとりした髪や首筋に顔を埋めることだってあるのに今更でしょうと雑誌から目を離さずに言うとちょっと離れていた暖かさがまた耳許までやってきた。なに、と問いかける間もなく首筋にキスをされ、囁かれた。

 

「えっち♡」

「……僕も帰ってきたばっかりだから、汗臭いよ」

「じゃあお風呂入ろ、汗流してからご飯にしよっか」

「うん」

 

 何がスイッチだったのかなんてわからない。もしかしたら最初から()()()()()()だったのかもしれないけれど、そうしてさっぱりと汗を流した僕とリサが晩御飯を食べ終わって、一息ついた会話が、水着の話だった。

 

「今までのセックスでさ」

「……急にどうしたの」

「いやお風呂で何となく考えてたんだケドね」

「うん」

「海斗って腰フェチだよね」

 

 思わず手を引っ込めてしまい、リサに笑われる。でも冗談ではなく本当にふと考えたことらしく、僕は完全に無意識だったためどうなんだろうと大真面目に考察してしまう。どうやらリサはだからこそ水着の種類を訊ねてきたらしい。

 

「フェチにも色々あるじゃん? フェチ部分が見えてた方がいいのか、それともピッチリラインの方がいいのか、みたいな」

「……そこまで自分の性癖(フェチ)をマジメに考えたことない」

 

 そもそも僕のどこを見てそう思ったのか知りたいんだけど。そう言うとリサはセックスの時に腰を触ることが多いことを指摘してきた。特に後ろからの時や向かい合った時は手で支えるだけじゃなくて撫でてくるとも。

 

「あ、確かに」

「でしょ」

「でも、たぶん腰フェチ……ではない、と思う」

「じゃあなに?」

 

 脚の間にリサの手が置かれ、キスをされるんじゃないかというくらいの距離で見上げられ、僕はその視線が自然と動いた方向を考えた。最初に見える男性が女性を見る部位としては顔を除くと胸元だ。特に彼女の夏場はキャミソールが基本なので前傾姿勢で下から覗きこまれれば嫌でも視界に入る。だというのに、僕が見た場所は胸元ではなかった。

 

「たぶん、お尻……だと思う」

「腰じゃなくて?」

「うん。リサが言ってるのは、無意識に腰とお尻の境目というかそのあたりを触ってたんだと思う」

 

 なるほどねーと納得を見せるリサに、じゃあじゃあとなんだか目を輝かせて色々と僕に見せてくる。だというのに、僕はまたましろのことを考えていた。ましろが僕のこの性癖を知ったらどう思うのだろうか。抱きしめた時、無意識に触ってはいなかっただろうか。無意識に、彼女のことを性欲に塗れた手で触れていなかっただろうか。そんなことばっかりを考えて、もしそうだったらと自己嫌悪に陥っていく。その泥のような負の感情に囚われていく僕を、リサは引っ張り上げてはくれない。自己嫌悪した僕のことを決して助けてはくれない。

 

「幻滅しないかもよ? 知ってて、黙ってくれてるかも?」

「そうなのかな」

「でも、わかることは一つあるよ。()()()()知っても幻滅しない。むしろ誘い方知れたーってくらい?」

 

 そう言って、リサはするりと僕に背を向けてソファに寝ころんだ。いや、寝転ぶんじゃなくて、ソファの端に腕を置いて、膝を立ててホットパンツという無防備なお尻をわざわざ僕に向けてきた。

 

「あのさ、リサ」

「んー?」

「もういっこ、どうしても目が離せない場所を見つけたよ」

「どこ? 触って、アタシに教え……っ!」

 

 煽られることはわかりきっていたから既にそこに中指を押し当て、短い爪が触れるかどうかというほどのソフトタッチで下から上へと指を移動させていく。今みたいに膝を合わせてる時や、ショートパンツで立っている時、膝を折ってソファでのんびりとくつろいでいる時など。その時に見えるお尻から太股のライン、僕はそこに指を這わせることが好きみたいだということに気づいた。

 

「んっ、なにそれぇ……下半身ばっかり」

「いや、でも違うか」

「……なにが?」

()()()()()()()

「──っ、ばか……そんなの、次から気になっちゃう……じゃん」

 

 その言葉が僕のスイッチになり、今日もまた僕の部屋のゴミ箱に使用済みのコンドームとティッシュが我が物顔でスペースを取っていく。ましろと僕の愛がたくさん積みあがるはずだったこの家の色々な場所で、僕とリサのセックスの記憶が積みあがっていく。

 

「せっかくなんだもん、ベッドだけじゃなくて、欲しい時に、欲しい場所でよくない?」

「向こうではベッドだけだったクセに」

「海斗もね」

「案外、興奮しちゃうものだからさ」

 

 ましろ、僕はね──どうやら思った以上に自分で自分の性欲やエロを抑え込んでいたみたいだ。リサには見せられる僕の欲は、もう、前よりもっとましろには見せられないほど膨れ上がっていた。でも、それが僕のありのままなんだ。そんなありのままを見せることもできない僕は、きっとましろの傍にいる資格なんてないんだろうね。あまりにこの部屋でセックスした場所が多すぎて、僕はきっと次にましろを部屋に上げたら……ましろの純潔を奪ってしまうだろう。そういう確証めいた予感があった。

 




箸休め回、というか夏休み編のプロローグ的なやつになります。フェチズムって割と女の子に嫌われるかもってなりますよね。ぼくは変態なのでなります。

☆10、☆9、☆8をひとつずついただきまして、ありがとうございます。
感想も最近もらえてとてもありがたく読ませていただいております。
それでは、次の話でお会いしましょう。
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