つぐみや他の女の子から、翔が見たことない新しい女の子とデートしてるって話をされるようになった。そこまでなら問題ない。今までも何度かそういうのあったし、突発的なデートじゃないかぎりアタシが知ってることがほとんどだから。
──でも、今回は二つの問題があった。ひとつは突発的なデートじゃないのに、翔がアタシになにも言ってないところ。もうひとつはその相手が海斗の恋人、ましろってことだった。
「いや~、あたしはなんも訊いてないっス! お力になれずにすんませんけど!」
「そっか」
透子ちゃんはああ言ってたケド、ましろが海斗に最近あんまり連絡しないってことに何か関係がある気がする。そんなことを考えてるうちに翔はサマーフェスの準備や海外遠征に向けて慌ただしくなって、果てはしばらく事務所で寝泊まりすると言われた。
「九月、九月になったら一日のんびりできると思う。それまで……ごめんな」
「……翔?」
夏休みに全然翔がいないことなんて今更慣れっこだケド、その苦笑いがなんとなく気になった。翔は、アタシに何か隠してる? 付き合ったクセに浮気しに行くのに、それをわざわざアタシに報告するバカ正直な翔が? それはアタシに少なくない衝撃を与えた。
「自然に考えると、ましろと翔がコソコソ何かやってるってことだよね……?」
「……ましろと」
「あーごめん今のナシ」
「いや……いずれはこうなる予感はしてたよ。なんか、ファミレスの時からやけに懐いてたみたいだし」
しまった、相談した相手がよくなかったとアタシは身近にいた人間で驚きを共有しようとしたことを後悔した。海斗を抱きしめてそんなことないってと慰めてあげるケド、こればっかりはアタシも
──翔は、ほっといても幸せになる。もし翔がましろを愛して、幸せにしてくれるんだったらましろも。でもそうなったら海斗は? 海斗だけ、ひとりぼっちになっちゃう。そうなった海斗は、一生自分のしてきたアヤマチで自分を傷つけ続ける。
「海斗……そうなったら、アタシは海斗と一緒にいる」
「……いいよ、僕は」
「よくない……全っ然、よくないよ……!」
放ってなんておけない。アタシにとっては海斗が、アタシの嫌なところを知ってる。アタシのこの、ドロドロでぐちゃぐちゃな気持ちを知ってくれてるヒトなんだから。もし今すぐに海斗がいなくなったら、アタシもひとりぼっちになっちゃう。それがどんだけ怖いのかなんて、海斗なら言わなくてもわかるでしょ?
「……リサ」
「いっそ」
「なに?」
「んーん、なんもない」
いっそ、交換してしまう? だけどそれは嫌なんだ。アタシも海斗も、結局はお互いの恋人の傍にいたくて、でもいられないからこうして歪な関係を続けちゃってる。アタシはとっくに手遅れだけど、海斗も救われなくなるのは……嫌だ。
「とりまさ、えっちしよ」
「なんで?」
「考えてもしょうがないじゃん? それより、アタシのことばっか考えてほしい」
「……欲張り」
「ん! 海斗もアタシも、欲張りだからね?」
そうやって、アタシは海斗の欲を奪う。本当はましろに向けなきゃいけないソレを奪って、本当は翔に向けなきゃいけない欲を見せていく。もっと、もっと欲しがって。恋人しかしないはずのこと、もう恋人じゃないと見せない欲までアタシと海斗は求め合い始めていた。
──愛したい、愛されたい。不満が爆発すればするほど、二人の関係はヒトには言えなくなっていく。
「……今井さん?」
「ん? なに?」
「……首のところ、なにか……」
「あー、キスマだ。ごめん隠れてなかった?」
練習中、またカレシですか、と紗夜に呆れられてしまう。Roseliaのメンバーに翔のことを知らないヒトはいないから。でも、友希那だけがじっとアタシのことを見ている気がした。そして案の定、アタシは友希那に呼び止められた。
「そのアト、お隣さんの?」
「……そだよ、海斗につけてもらったヤツ」
つけてもらったとヒトに言ってしまうとなんだか嫌な感じになるケド、これはつけられたとは言いたくなかった。そのくらい、アタシは追い詰められていた。だけど、友希那はそう、としか言葉を発することなく、前を向いた。
「翔のこと、どうするの?」
「それは……」
「リサはそれで幸せなの?」
畳みかけられてちょっとだけ怯む。怒ってるのかな? アタシが恋人だからって自分が身を引いたのに、当のアタシが浮気してるんだもんね。当然といえば当然なんだろう。でも、アタシは、幸せになるためだよと言い切った。
「幸せに?」
「アタシさ、自分だけが幸せってなれないみたい」
海斗のこと、アタシは無視なんてできない。海斗に愛されて、この愛の行き場を失くすとどうなっちゃうのか、考えるのが怖いんだ。それに、アタシだってただ犠牲の心で海斗を受け入れてるわけでも、翔への当てつけで受け入れてるわけでもないから。
「アタシは海斗に、満たされるってどういうことか教えてもらったから」
「……そう」
「心配してくれてアリガト、でもアタシは平気」
「そうみたいね」
むしろちょっとだけ持ち直してきてる感じもある。翔に対して不満をブチ撒けてやろうと思えるくらいの気概もある。
──まぁ、この間帰ってきた時はなんだかイチャイチャしたくなって、怒るより先に甘えちゃったんだけど。
「友希那、頼まれてもいい?」
「……なにかしら?」
「翔に、会ってほしい。アイツしばらく会えないから後でいいんだケド」
「ええ、いいわよ」
「……断られるかと思ってた」
「翔に、真意を聞いてこいと言うのでしょう?」
知ってたんだ。そう言うと、翔のことだものと返されてしまった。その顔にちょっとだけヤキモチを妬いてから、ありがととお礼を言った。きっとアタシと翔が話し合ってもお互いに言いたいことが言えなくなっちゃう。だったら、別の知り合いに頼るしかないよね。
「それに」
「なに?」
「夏祭り終わったら海斗と旅行なんだもん! 暗い気持ちでデートしたくないじゃん?」
「……そうね」
なんとビーチの傍のホテルの宿泊が取れたんだもん。恋人じゃないケド、デートなんだから恋人気分でいたいじゃん? それなのにアタシが翔のことばっか気にしたり、海斗がましろのことばっか気にしたりじゃ、やっぱり盛り上がらないから。
「リサは、そのヒトのことをちゃんと想っているのね」
「浮気者だもん」
「でも、そのおかげでリサは前に進もうとしているわ」
うん、友希那の言う通りだ。あの日、海斗を助けることなく突き落として、自分の都合で真っ黒に染めて以来、アタシの時は漸く動き始めた。四年の停滞を無理やり動かしてくれたのは、海斗とましろだから。
「アタシは海斗とましろのことも幸せにしてあげたいからさ」
「……その言い方」
「なに?」
「翔みたいね」
「アイツの幸せにしたいは……ちょっと考えなさすぎだから」
でも、思うこともある。翔、アタシさ──翔の恋人になれたから、翔のカノジョでいたからこそ、アタシはこうやって優しくなれるんだと思うんだ。翔がみんなを幸せにしてあげたいって無茶なことばっか言って、アタシを置き去りにするから、アタシは優しくなれた。せめて目の前で不幸になろうとしてる相手くらいは、幸せにできるようになりたいって。
海斗、アタシね──海斗が好き。無表情だけど心の中では笑ったり怒ったり、言葉で表してくれる優しさが好き。ましろのこと、カノジョのことを一番に考えてる目が好き。ましろの思い出を語る時に一度だけ崩れたあの笑顔が……アタシは大好きだから。
「リサさん」
「ましろ、ぐーぜんだね」
「そ、そうですね、ホントに偶然で、驚いちゃいました」
「まーたキョロキョロして、海斗んち?」
「いえ……リサさんに会いたくて……って場所は一緒ですよね」
「そっか、どしたの?」
「──お願いがあります」
だからこそ、ごめんね海斗、海斗が翔のことを敵だって認識するなら、アタシは海斗の味方にはなれそうにないや。ましろから発せられたその言葉を聞いて、アタシは頷くことにした。ましろの作戦に、まぁ色々と条件はつけさせてもらったケド、この居心地のいい関係は、どうやら夏が終わるまでみたいだね、海斗。
三対一になりました。あーかわいそーな海斗くん。やめないけどね。
次回が一番いじめになると思う。オリ主なんだからこのくらい頑張ってくれ。
☆9ひとつ、ありがとうございます!
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