ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

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いじめでもなんでもないいちゃいちゃ回でごわす。ぼくにだってちゃんとヒトの心はありますからね!


㉖回顧/幸福

 夏祭り当日、最後まで甚平にするかどうかと母に問われたものの、ましろが浴衣じゃないからということを理由になんとか普通の服装を勝ち取った。似合っても似合わなくても関係ない。そりゃましろが浴衣だって言うのなら、別だけど。

 

「カイくんお待たせっ」

「ましろ」

「えへへ、どうかな?」

 

 どう? と問い返す。普通の服装だけど、何故か服を見てほしそうな雰囲気を醸し出したましろに僕が首を傾げると、ましろは急に距離を詰めてきてわかってと頬を膨らませてきた。その反応からもしかして、とアタリをつけてみる。

 

「服、新しいの?」

「んっ!」

「……そっか、かわいいね」

「かわ……っ! も、もうカイくんってば、そういうこと真顔で言う──」

「服がね」

「──ばか!」

 

 ましろのことをかわいいというには、少し気恥ずかしい。だから服を褒めたという言い訳を積み重ねてその一言を絞り出した。耳まで真っ赤にして照れたと思ったらまた大福みたいに頬を膨らませて怒り出す。かわいらしい僕の、幼馴染。

 

「それにしてもましろ」

「なに?」

「怒らないでよ」

「ふん」

「……人混みなのに、平気?」

「無視した? 今わたしの怒りをスルーした?」

 

 ましろは賑やかなところを嫌う性格だ。静かなところで一人になって歌うことが好きな白い少女、みたいなそんなイメージ。でも僕と一緒にいる時だけはそんな静かな印象よりも騒がしくて甘えん坊といった雰囲気が増す。そういう違った一面を見られるのはやっぱり幼馴染として一緒に居続けた結果なのだろうか。

 

「……花火見たかったんだもん」

「もん、って。誰か他に行くひと……がいたらよかったね」

「カイくんしかいないもん」

「大崎先輩ね」

「今は学校じゃないからいいの! カイくんだってましろって呼んでた!」

「じゃあ倉田さん」

「イヤ、カイくん嫌い」

 

 胸に矢が刺さる感覚がした。片思い相手に明確に嫌いと言われるのは、思春期真っ只中の中二には厳しいものがある。けれど、後半はましろも冗談交じりだったようで口角が上がっていて、僕も嬉しくなってしまう。こういうのを正しく幸せと言うのだろう。

 

「もう、カイくんはいじわるだよ」

「そう?」

「うん、いじわる。無表情で冗談言うんだもん」

 

 僕は、ましろにしか冗談は言わないから、そう言われてしまうのかも。そんな言い合いをしながらもどこかで、心のどこかでましろが僕以外と夏祭りに行くような相手がいなくてよかったと思う自分と、ましろに誘われても問題ないくらい夏祭りに行くような相手がいなくてよかったと思う自分がいた。

 

「ん」

「……え?」

「手、繋ぐ? はぐれたら大変だし」

「……う、うん……つなぐ」

「どうしたの?」

「なんでもないっ……なんでそんな平気なの」

 

 平気じゃない。言わないけど、心臓が飛び出そうなくらいに緊張した。昔はどこか一緒に行く時は必ず繋いでいた手も、男女という要素が加わった今では、どうしても意識してしまう。今日だけは、愛想がないと言われる自分の表情筋が、ありがたく感じる。

 

「それで、結局部活入らないことにしたの?」

「え、だってもう二学期になっちゃうんだよ? もう色々部活のメンバー、みたいな雰囲気あるしさ……」

「だから最初の時に入ればって言ったのに」

「だ、だってぇ……」

 

 ましろは、中学生になってなにやら変化しようとしているらしい。肉体的な変化だけじゃなくて心の変化。今までは自分はなにやっても平凡だから、ってなんでもやる前から諦めていたのに、部活に入ろうとするなんて今までのましろでは考えられない成長だ。まぁ失敗してるんだけど。

 

「か、カイくんこそ……部活はいいの?」

「運動なら自分でしてるし」

「カイくん、スポーツも大体なんでもできるのに……もったいないよ」

「別に、そうでもないよ」

 

 できたって意味がないからね。勉強はましろに教えられるからやる意味はあるけど、スポーツ全般はそもそも怖がりなましろじゃ教えることすら遠慮しちゃうし。しかも一年で20センチ伸びたこの身長と、すっかり性差が生まれてしまった状態では、うっかりしたらましろにケガすらさせる可能性がある。そういう意味だったら、部活も文化部をましろと一緒にのんびりとするくらいなら、いいのかもしれない。

 

「わたしも、自慢できるものがほしいよー!」

「歌、上手だよ」

「カイくんに比べたら誰だって上手だよ」

「……ん?」

「わ、怒った?」

「別に」

 

 怒りはしない。だって僕の歌が潰滅的に下手だってのは事実だからね。だからましろの歌を褒めてるわけじゃないから、それについてはちょっとムカっとしたけど。いいんだ。ましろの透き通った声は、星空のような声は、いつかは誰かに認められるものだって信じてるから。

 

「いっぱい買っちゃったね……食べきれるかな?」

「大丈夫、僕が食べるから」

「本当に大丈夫?」

 

 成長期はまだ続いてるからね。中学入学時で今のましろと変わらなかったはずの身長は、もうそろそろ180センチになろうとしていて、この夏にも身体が痛くてしょうがなかったくらいだから。

 

「いーなー、わたしもスラっとなりたい」

「ましろはキレイ系じゃないでしょ」

「キレイ系じゃないなら……なに?」

「……かわいい系?」

「そういうの真顔で言わないでよ」

「めちゃくちゃ照れてるよ」

「変わんないじゃん!」

 

 いつものことだよ、と無意味なケンカのような言い合いをしているところでましろの顔が突如光に照らされた。大きな音と一緒にパっと咲いて散っていく花たち。さっきまでお互いを見つめ合っていたのに、もう空を見上げていた。

 

「……っ、えへへ……びっくりしちゃうね」

「ここまで近いと音も振動もすごいからね」

「うん……」

「……離れる?」

「ううん、カイくんの手があるから、平気」

 

 その言葉の通りに、ましろの手は花火の音に一瞬反応して僕に弱々しい握力を伝えてくる。それが堪らなく愛おしくて、愛らしくて、僕はましろごと抱きしめたいのを必死に我慢して手を握り返した。この先、ましろに怖いことが起こっても、こうやって手を握って二人で空を見上げられたらいいな。そんなロマンチックなことを考えてしまうくらいに、そんなまだ付き合ってもないのに先のことばかりを僕は考えていた。

 

「でもさ本当に一瞬で散ってしまうね、花火って」

「一瞬じゃないよ」

「……なにが?」

「わたしの思い出には、ずっとキラキラしてる。カイくんと見た花火、わたしは忘れないよ」

「……ましろ」

「これだけじゃない。カイくんと一緒に見たもの全部、わたしは忘れない。わたしは、この気持ちを絶対に忘れない」

「絶対?」

「うん、絶対」

 

 僕も、忘れない。ましろが好きって気持ちを忘れない。忘れたくなんてない。この日々を永遠にしたいんじゃなくて、この日々をいつか、いつかの未来で一緒に笑い合える日々がほしいっていうのが、僕がましろに向ける好きって気持ちなんだ。

 

「また、来ようね」

「来年は無理かな。流石に受験だし……そうすると再来年もか」

「それでもまた来るの! 来年と再来年が無理ならその次!」

「……わかった」

 

 その次、がいつかになるかわからないけれど、その時には、今度こそ恋人だったらいいな。もちろん片思いではあるんだけど。それでも、少なくともましろがいった次の時はお互い高校生だから、いい加減きちんと想いを伝えられたらな、とは思ってる。それで例えフラれてもきっと僕は次の時に、ましろと花火を見るのかな。

 

「わかったって言ったらわかったんだよ? その時になって無理ですって言われても知らないから!」

「他に恋人できても?」

「別に恋人ができても、浮気とかでケンカしてても!」

「浮気って、恋人になってる前提なんだ?」

 

 ましろは自分が言った内容が恥ずかしかったようでとにかく! と無理やり話題を仕切りなおしてくる。僕の幼馴染は、その時にはどういう顔で僕の隣にいるのだろうか。

 ましろ、僕はね──ましろのことが好きだ。今は言葉になんてできないけれど、いつかましろとこのくだらないやり取りを振り返って笑いながら夏祭りの喧騒から遠ざかっていきたい。でもその未来が訪れないかも、なんて不安は感じていないよ。

 

「カイくん」

「どしたの?」

「なーんでもない♪ 花火、楽しかった」

「うん、そうだね」

 

 僕にとって、ましろの傍にいることこそが幸せだから。そして、ましろの無邪気な笑みを向けてくれている相手が僕だから、信じてる。

 ──僕とましろが目指す幸せは、おんなじだってさ。僕はこの手の温もりが教えてくれている気がして、思わず笑った。

 

 

 

 




※内容は海斗がゲロ吐いて倒れた現在から三年前の夏祭りにあった無邪気でなんでもない二人のいちゃらぶです。両片思いの甘酸っぱい感じっていいですよね。それが幼馴染という気安さもあって、これがエモや尊みというやつですかね。(タイミングさえ見計らっていれば)

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