ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

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大団円!


㊲過去/未来

 僕は、ましろが待つ喫茶店へと足を運んだ。入り口前には青葉さんが、なにやら他の友達らしき人と話していて、横目に通り過ぎようとした瞬間に呼び止められた。どうやら翔さんの方はうまくいったらしいことを察するに余りある彼女の態度に、僕は驚きに満ちた。

 

「……おーさきさん、巻き込んで、ごめんなさい」

「青葉さんは、どうしたかったの?」

「あたしは……そんなにフクザツなものじゃない」

 

 ずっと一緒にいた幼馴染のこと、その幼馴染が翔さんの毒牙に……ってのは青葉さんの言葉そのままだけど。毒牙にかかってしまったこと、また、違うきっかけではあるけれどたくさんの変化があったこと。それが青葉モカが信じてきた環境を壊すものだと思ってしまったこと。

 

「ったく、モカはいつも通りを、ホントにいつも通りって認識してるんだからっ」

「でもそれが、モカの音だから」

「だな! アタシはもう気にしてないからな!」

 

 わいわいと姦しい会話に発展していく青葉さん以外の三人、というか主に二人だけど。そんな中で僕に向かって青葉さんは、じっと目線を合わせながら大丈夫? と言葉をかけてきた。憑き物が落ちたように透き通った目で……というか青葉さんと真面目に視線を合わせたのは、これが初めてだということに気づいた。

 

「大丈夫……になる予定」

「……そっか~」

「だから、終わったらご飯でも行こうか? リサと三人で」

「ん~、おーさきさんの奢りで~、食べ放題なら~いいよ~?」

「じゃあ楽しみにしてる」

 

 僕は本当に、何も見てこなかったんだなということがわかった。狭い世界のことしか考えてなかった。それじゃあきっと、またどこかでうまくいかなくなる。もしちゃんと視野を広く持っていたのなら、青葉さんのことにも気づけていたのかもしれないし。

 

「あーあ、あたしも恋してみよ~かな~?」

「いいじゃん! ほら、昔おっかけてた先生とかどう?」

「え~、あのヒト今日菜さんとラブラブだからな~」

「……センセイ、なんだよね?」

「うん」

「あー、英語の!」

「……え、アイツ?」

「蘭だって~、結構いいヒトとか言ってなかった~?」

「え、日菜さんと? え、でもセンセイで?」

 

 処理落ちしたように黒髪の子が顔を真っ赤にしているのを見て三人が笑う様子に、こういう幼馴染関係というのもいいなぁと思った。僕はましろ以外の幼馴染を大事にしてこれなかったし、なんならましろに誰かが近づくのすら嫌がっていたような記憶すらある。そんな風にナイト様を気取って、お姫様(プリンセス)を幽閉していなかったらどうなっていたんだろうか。そんなありもしないもしもを考えながら僕はお店に入っていった。

 

「カイくん」

「……ましろ」

「こっちだよ」

「うん」

 

 一ヶ月と少し振りのましろは、いつも通りのましろだった。僕の知っているましろのまま、それがほんの少しだけ迷いを生んでしまった。今更、あれだけリサに背中を押されてここまで来たのに、結局九月の焼き直しになるだけではないのかと不安に駆られた。

 

「コーヒー、ブラックで」

「かしこまりました!」

 

 注文したコーヒーが来るまで僕は水で喉を潤していく。そのまま次の言葉が出てこないまま、時間だけが経過していく。本当に、このまま仲直りで大団円なのか? そんな疑念が頭の中をぐるぐると駆け巡って、言えなくて。変わったつもりできたのに僕もなんにも変わっていないような気さえした。

 

「カイくん」

「ん?」

「リサさんと、またシたの?」

「……うん」

 

 口火を切ったのはましろの方だった。その問いかけは翔さんから訊いた話に当人からの確証がほしかったのだと判断し、素直に頷いた。でもましろの言葉がそれで始まってくれたのは逆によかったと思う。変わってない、ましろのまま? 僕だってそうじゃないか。性懲りもなくリサと浮気して、挙句に好きだなんて言い合って、保険をかけて。

 ──僕は、ましろに詰られて、捨てられてもおかしくないことをしている。

 

「気持ちよく……なかったよね、わたしとじゃ」

「……それは」

「いい、いいから……正直に答えて。嘘はだめ」

「思うほどじゃなかった。ううん、そもそも、僕とましろでは何もかもの歩幅があってない」

 

 だったらこの際だ、と僕は言いたいことを全て言うことにした。これでダメならきっと何があったってダメだったんだ。リサにも言われた通り、我慢したからダメだったのならもう僕は、僕の中にあった汚いものを駄々洩れにするしかない。

 

「……全部、言っていいよ」

「わかった」

「うん」

 

 僕は、息を吸って全ての感情を投げ捨てた。いつもならましろのためにと制限する言葉選びなども全て忘れて、僕はただただ思った言葉を全て並べていく。

 セックスで言うとまずそもそも体力の差がすごい。ましろは一回、多くて二回だけど僕は最高でリサと四回から五回……だったっけ。とにかくわけがわからないくらい一晩にセックスするし時間も夜ご飯を食べてから朝日が昇るくらいまでシてたこともある。そしてベッドだけっていうのは毎回毎回だと飽きてくるものだってリサの考えに引っ張られてるところもあるけど、僕もどうせなら場所を変えてみたいしそれで興奮が変わるのは事実だ。それに激しいのは求めるままの速度だから調整しようとするとどうしてもセックスに没頭できない。本能のまま求め合うようなものがしたいから。

 

「……そんなに、違った?」

「違った。ましろの理想のセックスはただイチャイチャしてるだけだって僕は思った」

「でも、だってさ、カイくんだって……わかったっていうじゃん」

「僕のせいなの? じゃあ嫌だって言ったら、僕の求めるセックスをするの?」

「……それは、怖かったし」

「怖いなら最初から平気だなんて言わなきゃよかったでしょう? 僕だってタイミングとか、ゆっくりがいいならいいで話し合うこともなく強引にいいからって誘ったのはましろでしょ?」

「カイくんだってわたしのせいにしてるじゃん! わたしはまだしょ……えっと、シたことなかったんだよ? なのにカイくんはとっくにハジメテを浮気で捨てて経験者みたいな顔してる最低男のくせに!」

「──っ! そんな風に思ってたんだ、ましろは」

「う、うん! わたしには守るから、とか手は出さなくても愛は伝わるなんてカッコつけといて、裏でリサさんとシてたんだから、事実でしょ」

 

 チラリと視線を感じるとめちゃくちゃ心配そうな顔をしてる翔さんが視界の端っこにいるのが見えた。そもそもそういえばここ喫茶店だった。声のトーンを落として、というかこのままだとお店にご迷惑になるので続きは翔さんのお部屋でもいいですか? と目で訴える。伝わらないよなぁと思っていたら、彼は突如立ち上がり僕とましろに手招きをしてくれた。伝わったの? すごくない? 

 

「……なんとなく伝わったよ」

「だったらなんでリサにそれができないんですか?」

「それは言わないで、本当に俺もそう思ってんだから」

 

 そして翔さんの部屋のリビングを借りて、リサと翔さん立ち合いのもと再び言いたいことを言い合っていく。歩いてる間に熱は冷めたかと思ったけど、全然そんなことなくて、いっそ殴られるんじゃないかってくらいの言葉だった。

 

「そもそも、わたしがふぇ……口でしようとしても、いいっていうじゃん」

「舐めた瞬間すごい顔しといてよく言うね」

「あれ苦いとかいう次元じゃないんだよ? なんだったらカイくんだって翔さんの舐めてみればいいよ!」

「……いやそれはどうかと思う」

 

 翔さんもそれはヤバいなと苦笑いで頷いていて、リサは……なんか想像してたのか顔を赤らめていた。ちょっとまってリサ、なんてもの想像してるの? でもましろだけが怒りでわけがわからなくなっているらしく、まだまだ言葉を増やしてくる。

 

「だいたいリサさんはカイくんを甘やかしすぎなんです!」

「あ、あれ~アタシに飛び火するの? ここで?」

「そうだそうだ。童貞に特殊なプレイばっかり望むから歪むんだからな」

「翔は黙ってて」

「確かにリサは特殊だよね、性癖とか」

「へぇ? よく言ったね海斗?」

「ごめんなさい」

「そもそも、ましろもましろなんだケドね? 経験がないならないなりに海斗のリードに従うとかそういうのあったでしょ?」

「……カイくん、しゃべったの?」

「え……うん」

 

 昨日の話なんだけど。それでさらにリサとましろが争ってて、翔さんと僕が怒られて、そんなわちゃわちゃした中というのがあんまりにもおかしくて、僕は、僕は笑った。リサにもらった笑顔を、僕はきちんとましろの前で見せることができた。

 

「笑いごとじゃないよカイくん……えっ! カイくんが笑った!」

「笑いごとじゃない、わかってる……わかってるけどさ、ましろ」

 

 この大喧嘩が、まさに僕とましろの、そしてリサと翔さんの、四人のこれからを現してるみたいだったから。もう二度と浮気はしなくても、僕らが別々になることはなくても、僕たちとリサたちのこれからは、繋がっているんだなって思えて、それが嬉しかった。

 ──僕たちは、とっくに許し合えているんだ。

 

「はは……ふふ、ましろ」

「な、なに?」

「きっとこれからもうまくいかないこと、たくさんあると思う。セックスだけじゃなくて、歩幅が合わなくて、モヤモヤすることもあると思う」

 

 だけど、そうなったらケンカしていけばいい。なんだったらお互いのカップル巻き込んで、こうやって今日みたいに、言葉の波に流していけばいいんだ。その中で僕はリサと、ましろは翔さんと歩幅が合ってることを想い出しちゃう時だってきっとある。お互いを入れ替えた方が幸せなんじゃないかって考えることもある。

 

「だけど、僕はましろと一緒にいたい。ましろのカレシでいたい」

「……カイくん」

「ましろ、僕はね──心の底からましろを愛してる。もう二度と、離れたくなんてない」

 

 ずっと、言葉にできなかった。僕のわがままな一言。僕はね──と先が言えなかった、僕の本当の言葉、本当の幸せ。

 ましろ、僕はね──これからもずっと、キミに伝えていきたい。結婚しても、子どもが生まれて家族ができても、おじいちゃんになっても、死んで……その先の世界があったとしても。僕はましろだけに伝えていきたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




――これで終わりじゃないぞ、もうちっとだけ続くんじゃ。

☆10評価ひとつ、ありがとうございます。
最後二話はエピローグとなっております。いつものやつね。
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