ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

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エピローグ/海斗&ましろです。そしてこれがちゃんとした最終話となります。


㊴恋愛/性欲

 あれから、半年とちょっとが経って、僕にとっては苦い経験をした花火大会の日から一年が経過していた。リサと浮気をし始めたのがその更に一年以上前だから、全ての始まりとも言えるあの日から二年が経過していることになる。時の流れは振り返るとあっという間で、僕は図書室の静寂と彼女の寝息に耳を傾けていた。

 

『じゃあ結局そのままぐっすりなんだ』

 

 スマホにはかつての浮気相手であり、今は交流のあるお隣さんであるリサから文字が苦笑いの顔文字と一緒に送られてくる。今頃飛行機に乗っているのだろう。愚痴ってみると思いの外レスポンスが早くてすっかり手は止まっていた。

 

『ってか、アタシも邪魔しちゃってるよね』

「大丈夫、休憩中だったし」

『そっか! ほどほどにね~』

 

 ほどほどに、どころか普段はましろを構いたくなって足りてないと思うくらいなんだから。その構いたい、の意味を知っているリサはもう一度だけほどほどにね、と送ってくる。

 ──あのくだらないケンカから僕はましろに僕の欲を余すことなく、伝え続けた。ましろはリサよりも受け身に近いから、誘われるんじゃなくて誘うかたちで。最初は恥ずかしがっていたましろだったけれど、今ではスイッチの入れ方までバッチリ把握している。

 

『海斗は普段のましろに見せてるのより数倍は強引だもん、最初はびっくりするに決まってるじゃん』

「うるさいな」

 

 こう、相手に自分の素直な性欲を知られているというのはなんだか恥ずかしさもある。ここが図書館でなければ顔を真っ赤にして叫びのたうち回っていることだろう。もしくはベッドにダイブして顔を埋めるだろう。

 

『いや無表情でしょ。海斗だし』

「これでもましろにすっごく表情がわかりやすくなったって評判なんだけど」

『ましろにはね』

 

 それならそれで、まぁいいかと思う自分がいる。そういう世界を狭めるのはよくないけれど、そういうのじゃなくて。僕のことを、ましろが見てくれているということがまぁいいかって思える原因なんだ。

 

『海斗はさ、これが本当に幸せのカタチだーって思う?』

「急にどうしたの?」

『んー、なんていうかさ、あの時なら逆にアタシと海斗、ましろと翔、みたいに歩幅が合う感じになれたんじゃないかなーって思う時があるんだよね』

 

 そんなこと……と入力してからそれを削除していく。青葉さんや他の子が納得するとは到底思えないけど、何かを追いかけるとか言いたいことが言えるという意味ではリサよりもましろの方が得意だろう。更にリサ曰く翔さんはましろの想像していた怖くないセックスの方が得意だとも。そうすると翔さんとましろの歩幅は合っていると言える。僕とリサの浮気が原因とはいえ、急速に交流を深めたのは一緒にいて安心できるからというのも一因だと感じる。

 それに加えてリサと僕はわざわざ語る必要がない。あの時間の中で僕たちはあまりにも歩幅が合いすぎていたことが、拗れる原因の一つなんだから。

 

「リサは後悔してるの?」

『してないよ。ただ、今朝のましろと海斗を見て、やっぱいいなともなるわけでさ』

「でもあの時のリサ、すごくウキウキしてるように見えた」

『そだね、今もしてる。翔に会えるって思うと胸が高鳴る』

 

 なら、わざわざそんなことを考える必要なんてないんじゃないかな? リサは翔さんや他のみんなに迷惑をかけてるとは言うけど、その迷惑を迷惑じゃないって思えることこそリサが誰かにずっと送り続けていた優しさとか世話焼きな部分なんだと思う。だから、僕は今の幸せに間違いなんてどこにもないって答えるよ。

 

「……どっちも間違いじゃないだろうけどね」

 

 僕とリサだけで言うならそうだろう。けどそうなった場合にましろと翔さんが巻き込まれる事態というのは僕たちから見れば別問題だ。それに二人なら案外なんとかなりそうな気もする。だから、僕たちがどの選択をしても決して、間違いなんてことにはならなかった。そんな気がする。

 

「……カイくん」

「おはよう、起きてたの?」

「……ん」

 

 それじゃあと連絡を打ち切ったタイミングで机に突っ伏していた顔がこちらを向き、頭を撫でようとすると払われてしまった。あれ、怒ってる? なんでかわからないけれど、わかっていることは、スキンシップを拒否するのは基本的に拗ねている時であるということだけ。

 

「ましろ?」

「ふん」

「おーい」

「ばか」

「えー……?」

 

 今度はくるりと後頭部を向けられ、僕は首を捻った。ひょっとして嫌な夢でも見たのだろうか、それとも図書館に来たはいいけれどつまらなくてわがままを言っているのだろうか。正解もわからずにどうしようかと悩んでいると、ましろはわざわざスマホで僕にメッセージを送ってきた。

 

『浮気してた』

「してないよ?」

『してた。リサさんと』

 

 そんなところから起きてたんだ。寝ているからと連絡を交わしてましろを不安にさせた内容を見せればいいんだろうけれど、それじゃあきっとましろは納得はするだろうけど。

 ましろは実感をほしがる。理屈とか納得よりも実感を。言葉や証拠で納得するんじゃなくて、自分の身で僕にはましろだけだよってことが伝わらないと、機嫌が直ることはない。

 

「出ようか」

「……うん」

 

 ましろがこういう手法を取ってしまうのは、最近あまり構えてないことが原因にある。受験期だから、と言ってもやっぱり根底に浮気をされたって事実がある。もしかしたら離れている間にまた浮気したくなるかもしれない。今度こそ別れてしまうかもしれない。そんな風に考えて、そんな風に信じられない自分が嫌になって、後ろばかりを向く。ましろの悪いクセであり、僕がましろに背負わせてしまった業とも呼ぶべきものだ。

 

「勉強……もういいの?」

「まぁ安心するためにやってるところあるし」

「……だよね、カイくん頭いいもん」

「日頃の努力だよ。ましろだって、月ノ森に入るのにすごい努力したでしょ?」

「わたしなんて……我慢できないし、すぐ漫画読むし、カイくんに会いたくなってしょうがないし」

 

 今目指している大学も、特に成績が大きく下がることがなければ問題がないと言われているくらいだ。去年のごたごたで夏期講習を丸っとサボったせいで推薦は受けられなくなっちゃったけど。そのぶん今年は大手を振ってましろに時間が使えたのは不幸中の幸いってところかな。

 

「わたしはリサさんの代替(かわり)?」

「そんなわけない」

「本当は、リサさんと一緒にいたかったんじゃないの?」

「そうだったら、ましろと一緒にいないよ」

 

 ましろと一緒にいるのは哀れみでも過去の恋でもなんでもない。それが僕にとって一番幸せだったからだ。ましろと一緒にいることが僕の安らぎだから。もうましろに触れることに汚いとか躊躇いはない。触れたい、セックスしたい。そんな風に思うことにも、もう僕は僕を傷付けたりはしないから。

 

「わたしはね、中学の時、カイくんと一緒にいてドキドキできなかった」

「そう言ってたね」

「一緒にいすぎて、当たりまえすぎて、わたしの思っていた恋じゃなかった」

「……うん」

「でも、今は……触られるとドキドキする。恥ずかしくて、でも気持ちいいってこと……知ってるから」

 

 ああ、今の僕は昔の僕に会えたならきっと、バカにするんだろう。なんて愚かなんだって。セックスなんてしなくても伝わる気持ちがある? 愛してるって気持ちは触れ合わなくてもわかる? そんなことはない。現にましろが求めていた恋愛はセックスの中にあった。トキメキを求めていたましろは僕の欲を受け入れる中でようやく、理想を叶えるものがなんなのかを知ったのだから。

 

「玄関で我慢できなかったら、ごめん」

「……意識しちゃうじゃん、ばか」

「嫌だったら、僕が先にドアを潜るから」

「……わかった」

 

 繋ぐ手すら、熱を感じてしまう。そういえば、最近は勉強したいと言って僕からましろに手を出すことは少なかったような気がする。勉強ばかりで少しだけ、淡泊になっていたのかも。そう考えると同時にましろが実は欲求不満を起こしているという事実が、僕の頭をよぎった。以前ならその可能性すら排除してしたのに。今では当たり前のように、ましろが触れられたがっていることを受け入れていた。

 

「……カイくん鍵、開けて」

「うん」

 

 鍵穴に差し込んで、捻る。ドアを開けるとましろが先に部屋に入っていく。チラリと僕を見ながら、まるで気づいていないとでも言うように、だが僅かに頬を紅く染めて。

 後から入り、鍵をかけた僕はましろ、と名前を呼ぶ。既に外気の熱と内側の熱を込めた指に嬌声を上げる彼女の耳許で囁くように。汗はもう、お風呂で流せばいいやと思いながら、僕はそのままましろに覆いかぶさる。それをましろは、ちょうだいと受けいれてくれる。

 

「花火大会さ」

「うん」

「浴衣着てこうかな、リサさんがせっかくだから浴衣でダブルデートしたいって」

「いいんじゃない? あの二人がいるかどうか知らないけど」

「わたしが浴衣だったらカイくんは甚平ね。あと流石に野外でえっちはしないから」

「しないよ。ヒト目があるところじゃ」

「なかったらするの?」

 

 ましろ、僕はね──もうましろに隠すことなんて何もないよ。それと今度こそ海やプールも行きたいなら行こうね、と言うとましろは去年までの言葉をひっくり返して、やだと言い出した。

 

「なんで?」

「カイくんに襲われるもん」

「襲わないよ、部屋じゃなきゃ」

「嘘、見えないところで触ってくる」

 

 それは……前科があるから信用してもらえなさそうだね。でも、僕にとってはその隠すことも嘘も必要のなくなったましろとの時間がなによりも嬉しい。僕がどれだけ煩悩に塗れていて、ましろとセックスすることしか考えていなかったとしても、ましろは僕を変わらない記号で呼び続けてくれるから。愛してくれるから。

 

「カイくん」

「ん?」

「大好き」

「僕も、ましろが大好きだよ」

「うん」

 

 ましろの言葉に、僕は笑顔で応えた。これからもこれからもずっと、僕はましろに言いたいことをもう我慢することなく、言葉や行動で伝えていこうと思うよ。大好きなましろに。

 ましろ、僕はね──

 

 THE END

 

 






 ぼくは二次創作というものを書き始めて四年半から五年ほどの月日が経ちますが、男女の恋愛に必ずと言っていいほどセックスという手段を用いて物語を構成します。付き合ってない過程だろうが付き合ってからの物語だろうがセックスします。しない作品の方が少ないです。
 でも、こういったライトノベル、オタクの界隈ではセックスの関与しない恋愛こそ「キレイな」恋愛と認知されていると、少なくともぼくはそう感じます。
そういった「性欲」を汚いものとして排除した恋愛がピュアで尊ばれるもの、故にこそそういった性に囚われない同一性による恋愛関係、所謂「百合」ものこそを正義として信じてやまない方もいるのでしょう。男女の愛とセックスは切り離せないからこそ。

 今回、ぼくの作品はそれを否定しました。それを鼻で笑い、足蹴にし、セックスのある恋愛を正義としてエンドマークを記しました。主人公である大崎海斗が目指していたキレイな恋愛を、完膚なきまでに否定してきました。それによって何を感じたのか、何を受け取ったのかは、読者様次第です。ですが、ぼくにとっての正義ですらなくて、そもそも善悪二元論に頓着しないということだけは知っておいてほしいです。

 長々と書きましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。ぼくはマーブル模様というものが好きです。パレオかわいいね。

――本醸醤油味の黒豆

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