ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

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ゆったり伸びているのを見るのが好きになってきた。楽しい。
ようやっとましろ回だ! メインヒロインなのにごめんねましろ。


④舞う/落ちる

 すっかり暖かくなったある日、僕はましろと公園に出かけていた。なんでも花見をしたいのだとかで、せっかくだからデートをしようと誘ってくれた。そこで、もう受験生じゃないんだから、会うのを我慢する必要がないことに気づいた。

 

「そうだよ。だから去年の分もいーっぱい、一緒にいてね!」

「うん」

「あ、うんって言った! 構ってくれないと怒るからね」

 

 もちろんだよ、ましろ。僕は愛しいひとの右手から与えられる体温を感じながらそう、呟いた。暖かくなったけれど、この手は夏だろうが冬だろうが離したくない。僕が繋ぐべきただ一つの手。だけど僕は、頭の隅っこで今井さんの温度を考えていた。あのヒトの手はひんやりとしている記憶がある。だけどシーツを握りしめる手に近づけた時に手の甲に食い込むほどに爪を立てられた時は、途轍もなく熱かった。

 

「カイくん?」

「……ん?」

「やっぱり、バイト疲れてる?」

「いいや、ついつい寝すぎちゃってることが多くて、そのせいかも」

「あるある。ついね」

「それで遅刻しちゃってない?」

「それはない! 大丈夫!」

 

 それをきっかけに、ましろから近況を訊ねられる。学校はどう? という問いかけだったため、嘘を吐かなくてよかったと安堵しながら答えていく。僕にあるましろには明かせない秘密はただ一つ、今井さんとの関係だけ。学校のことなんて、答えられないようなことは何一つとして存在しない。

 

「告白はされる?」

「中学の時ほどじゃないよ」

「そ、そっか」

「僕、グループとかそういうのに所属してないから」

 

 前は、それこそ中学の時はましろがいたこともあって彼女と同じ委員会を選んでみたり、なるべく会えるようにしてみたり、色んなことをしたけれど。その時ほどの社交性は持ち合わせていない。ましろがいないんだから、意味がない。そうすると、不思議なことに昔ほど呼び出しされることは減った。それは、いいことだと思う。

 

「よかった。カイくんカッコいいもん、他のヒトに取られちゃうんじゃないかって、時々思っちゃうんだ」

「うん大丈夫。僕にはましろがいる」

「……えへへ、なんか、恥ずかしいな」

 

 モテるとか、顔がいいとか背が高いとか、そんなのはどうでもいい。僕が見た目を気にするのはましろのため、ましろが褒めてくれるから僕は服を選ぶし、髪をセットする。ましろが褒めてくれるからなるべく体重を変えないように努力をする。僕はましろによって形作られているし、そうあるべきだとも考えている。

 

「でも、ちょーっと背は伸びすぎだよねっ」

「……そう?」

「だって、背伸びしてもキス、できないもん」

「その時は、言ってくれたら僕から迎えに行くよ」

「それは、それで嬉しいんだけどさ? こう、わたしからサっとしてみたいんだもん」

 

 僕とましろだと三十センチほど身長差があったはずだ。確かにそうなると僕が直立してしまっていたらましろが一生懸命に踵を上げても唇は重ならない。必然的に僕からが多くなることが、彼女としては不満なのかもしれない。

 

「カイくんのこと、ドキドキさせたい」

「なるほどね」

「ほら、カイくんってクールだし」

「クール」

 

 表情筋が死んでる、とはよく言われているため自覚がある。自覚があるというよりそう思われているということは理解している。だけどましろにはそう映っていたことを初めて知った。言われたことがないから、余計にじんわりと胸に広がった。

 

「普段は、氷とか雪みたいに、まっしろで冷たくて……でも、その下には暖かい花がある。そんな感じ」

「まっしろ、か……一緒だね」

「あ……そだね」

 

 ああでも、僕はましろのように無垢な白さを保っていられている気がしない。ましろに触れている指で、僕は今井さんの膣を撫でた。跳ねる腰を撫でながら彼女の愛液をこの手で受け止めた。ましろに好きだと語る舌でも。それが汚いというのなら、やはり僕はまっしろだなんて言葉は似合わない。同じ雪でも、新雪なんかじゃなくて踏み固められ、泥に汚されて溶けかけた、触れるのも躊躇うほどのものだ。でも、あのヒトに触れるのをやめられない。あのヒトの熱に溶かされることを。その手でましろに触れなくちゃいけないというのに。

 

「カイくん」

「……なに?」

「ほら見て?」

 

 ぐるぐると思考の渦に呑み込まれかけた時、そう言われてましろと同じ視線に目を向けると眩い日差しに踊るように桜の花びらが舞い散っているのが目に入った。ひらひらと光を浴びて、地面の緑や黒を桜色に染めようと足掻くその花びらたち。

 だけど、やっぱり地面に落ち、踏まれた花びらは黒く無残な姿になっていた。

 

「下じゃなくて上だよ」

「え?」

「わたしも、ううん前までのわたしだったらきっとカイくんみたいに下ばっかり見て、汚くなっちゃった桜見て、嫌だなぁって思ってたけど」

 

 だけど、ましろは変わろうとしていた。桜を見て、下ではなく上を見るようになった。地面に落ちた花びらではなく、舞い散る花びらに対して、素直な気持ちでキレイだと思えるようにと。

 

「だからさ、カイくんも上見てよ」

「……そうすると、ましろが見えなくなる」

「見て欲しい時は、わたしがちゃんと言うから、ね?」

 

 ましろの微笑みは、まさしく春の日差しのような優しさがあって、僕は思わず顔を綻ばせた。僕のそれがよっぽど驚きだったのか、ましろは目をまんまるに見開いて、それからとても幸せそうに顔を綻ばせてくた。

 

「やったぁ」

「なに?」

「カイくんが笑ってくれた。わたしを見て、笑ってくれた」

「それだけで?」

()()()()()、わたしはもっともっと、カイくんを好きになれちゃうんだ」

 

 ましろの笑顔の輝きは、僕の心にも春を招いてくれた。ドロドロに汚れた雪を全部溶かして、白と灰色だった僕という大地を、緑燃ゆる草原へと。冬から春へと季節を変えてくれる。僕は、その笑顔が何よりも大切だった。僕が何に代えても守りたいと願う、彼女の眩い輝きだった。

 

「ましろ」

「なに?」

「ありがとう、ましろが僕の恋人で本当によかった」

「へっ? あ、ああうん……あはは、照れちゃうよ……もう」

「さっきのましろのセリフの方が恥ずかしかった。顔が熱いよ」

「……全然、変わってないよ?」

 

 気分的には顔真っ赤でのたうち回ってるから、と僕はましろから目を逸らしながら前へ前へと歩き進めていく。どうやら屋台もあるらしく、ましろのためにとサイフの紐を緩めていく。自分で出すよとは言われるけれど、ましろは両親からバイトも止められているでしょう? お小遣いだけだとすぐになくなっちゃうよ。

 

「うっ、それは……その」

「遠慮しないで、僕がしてあげたいって思ったことなんだから」

「じゃあ、お言葉に甘えちゃうけど……わたしも、カイくんに奢ってあげたいって思ってる」

「そっか、期待せずに待ってるよ」

「もうっ、信じてない!」

 

 信じてるよ。ましろ、僕はね──キミに何かをあげるのも、もらうのも好きだよ。だって、全てがましろの笑顔でできたものだから。あげた時の笑顔も、もらった時に見せてくれる笑顔も。僕の大好きな笑顔だ。

 

「新生活」

「うん」

「何かあったら僕に教えて、僕が……絶対に守るから」

「……ありがとう、カイくん。カイくんも、だよ?」

「うん?」

「独り暮らし……前はわたし受験で全然、気付けてあげられなかったけど、何か変わったことがあったら全部、教えて?」

「……わかったよ」

 

 ──だけど、僕は一つだけ、キミにあげたくないものを渡している。それは、嘘だ。全部だなんてとても教えられない。だって、()()の唇が僕の心臓に刻んだ罪のアト。彼女の指や舌が僕に与えて、奪ってきた欲のアト。なによりも耳にこびりついた、熱を伴った僕を差す記号。果てる瞬間に一言だけもらったあの吐息。それを、まっしろなキミで拭うワケにはいかないから。僕はその日はキスをすることも抱きしめることもなく、桜を見つめる彼女の笑顔を記憶に焼きつけた。

 

 




ましろへの感情、リサへの感情、その違いは一体何なのか。というところで
☆10をもらいました。累計二人目です、わーい、うれしーなー。

感想も毎話もらえるし、おかげで今のところ年内の毎日更新が決まりました。明日も投稿されるよ。

モチベを保つ上でとても助かっております。それでは! また明日お会いしましょう!
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