ましろ、僕はね──   作:黒マメファナ

5 / 39
これが年内最後の投稿となりますね。
みんな巣ごもり需要と年末暇だーって方はぼくとオトモダチになれそうです。


⑤ボーカル/ベース

 僕は、引っ越してから一年で、バンドにすっかりいい印象を抱かなくなってしまった。だけれど、巷の流行りはガールズバンドらしく、中学からの知り合いの後輩、まぁ他人だけど、僕のことを先輩と呼ぶ男がわざわざ話しかけてきて、そんなことを教えてくれた。最初の方は対して聞いてなかったけど、先輩はこういうビジュアル寄りの方が好きそうですよねと画像を見せてきた。

 

「ろぜ……りあでいいの?」

「ハイ! Roseliaです」

「……まじか」

 

 なんでも薔薇(Rose)椿(Camellia)を組み合わせたオシャレな名前と、青薔薇を、かつて不可能とされ、やがて研究により夢かなうという花言葉を送られた花をイメージした衣装や流行しているガールズバンドたちの先駆け、王者としての世界観を現したバンドらしい。後輩の熱弁を右から左に受け流しながら、僕はその中の一人に焦点を当てていた。

 ──ベース、今井リサ。間違えようがない、あのヒトだ。アマチュアだよ、とは言っていたけど、アマチュアはアマチュアでもプロ顔負けじゃないか。

 

「ん、そだよ。アタシがRoseliaの今井リサ」

「……初耳なんですけど」

「言う必要ある?」

「ないですね」

「ないんじゃん」

 

 それを知って、余計にバンドにいい印象を抱かなくなってしまった。別に、今井さんのことを嫌ってるわけではないけど。でも、どうしてもあの久國さんの後ろ姿が目に焼き付いているから。

 

「嫌いじゃないんだ?」

「なんですか?」

「いや、アタシのこと嫌いじゃないんだなぁと思って」

「恋愛感情のハナシじゃないですよ」

「それはアタシもないから」

 

 恋愛感情はないけれど、ヒトとして嫌いではない。そもそも本当に人間的に嫌悪感があったら、セックスしようとすら思わなかった気がする。苦手ではあるけれど。

 そんな服を着なおしながら、時間、大丈夫? と問いかけられパっと壁掛け時計に目線を向ける。もう午後六時を回っていて、少しだけ急いで服を拾い集めていく。

 

「そのまま行くの?」

「まさか、着替えていきますよ」

「そだよね、あ、コインランドリー行くんだけど、ついでに海斗の分も洗濯しといてあげよっか?」

「別に、そこまでしてもらわなくても」

「なんで?」

 

 なんでって、僕と今井さんは他人でしょう? 恋愛感情があるわけでもない、少し身体の関係がある()()。好きでもないのになんでこんなことをしているのか、と問いかけたくなってしまうけれど、それは僕も同じだから。

 

「いいから、アタシに任せて」

「……突然久國さんが帰ってきても知りませんよ」

「そん時はうまくごまかしとく」

「信用してませんけど、ありがたいのは事実なので」

 

 必死な声だった。熱の籠った、それこそセックスをしている時以上で。火傷をしてしまいそうな瞳の色に僕は問答よりも早くましろに会うことを優先した。よろしくお願いしますと渡すと、今井さんは後ろ向いてと言ってくる。

 

「なんでですか?」

「髪、跳ねてる」

「……すいません」

「カノジョに会うんだから、身だしなみくらいはちゃんとしないとさ!」

「ですね」

 

 ましろの横に立って、向かいに座るのなら、できる限りカッコいい自分でいたい。髪を整えて、僕は改めて自分の隣の部屋を後にした。一瞬だけ振り返ってみるけど、行ってらっしゃいとも、それ以上なんの声も掛けられることもなかった。本来なら、そうあるべきだろう。僕と今井さんは、他人であるべき存在なのだから。

 

「──今井さん」

「ん、どしたー?」

「洗濯物は()()、受け取りに伺いますから」

 

 けれど、僕は彼女の感傷めいたものに土足で踏み入る。

 ──今井さんは、放っておくとある日突然に死んでしまいそうで。それは、とんでもなく不快だ。舌の上がザラつくような、雑味すら感じる。それが、なんと呼ぶ感情なのかはわからないけれど、それを見過ごすくらいなら僕は彼女の手を取って、その脈拍に安堵していたい。

 

「海斗ってさ」

「なんですか」

「……ううん。ホラ、遅刻するよ。行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 

 あのヒトの笑顔がどれだけ偽りだったとしても、無理に貼り付けたものだったとしても。それすら保つことなく死んでいくリサさんを見たくはない。この気持ちもきっと、ましろにも話すことができない秘密だ。

 

「お待たせましろ」

「もう、遅い!」

「……ごめん」

「なーんてね! わたしもちょっと支度に手間取っちゃって、さっき来たところ」

 

 小走りで向かうと既にましろは待ち合わせの場所にいて、なんだかいつもと雰囲気を変えていた。今日は彼女と食事の約束をしていた。食事の約束、といってもかしこまったものじゃない。高校生同士らしい、デートを兼ねて近くの飲食店でのディナーをすることになっていた。

 

「でも、ホントにビュッフェなんていいの?」

「高いところじゃなくてチェーン店だし」

「わたし、あんまり食べれないよ?」

「お腹いっぱい好きなもの食べてくれたらそれでいいよ」

「……甘やかしすぎだよ」

 

 そんなこと言われても、今日はそういう予定立てちゃったし。それに元を取るなんてよほどの大食漢でもないと無理だから。それに大概食べに行くと、ましろって苦手なもの入ってるし。ビュッフェの方が嬉しそうなましろが見られればそれでいいんだよ。

 

「そういえばね、言ってなかったけど」

「うん」

「わたし、やっと月ノ森で見つけたんだ! わたしにしかない、トクベツを!」

 

 食事の席での楽しそうなましろの報告に僕は()()()()()()嬉しく思いながら頷いた。ちょっと前まではみんな何かのコンクールで賞を取っただとか、大会で成績を収めただとかそういう話に着いていくことができずに落ち込んでいた。月ノ森は幼稚舎からある由緒正しいお嬢様学校であり、その上高等部までくるととんでもないお金持ちか何かの一芸を持っているかの二択だから。その中でなんにもないで外部から入ってきたましろにはやっぱり荷が重いかと思ってた。だから、そんなましろがあの学校に通うちゃんとした意味を見つけられてよかった。本気でそう安堵していた。

 

「これ見て!」

「……これ、バンド?」

「そ、バンド! わたしはボーカルなんだ」

 

 前から、落ち込んだことがあるとカラオケに行ってたしお世辞抜きに声が透き通ってて歌が上手だったから納得はした。だけど、どうしてよりにもよって……バンドなんだ。嫌でも重ねてしまう。赤いベースを部屋に飾るあのヒトを、背中にベースを背負うあの男を。

 

「確かに、流行りらしいけど……合唱部じゃ、ダメだったの?」

「え? うん、一回様子を見たんだけどね、やっぱりわたしじゃ勇気が出なくて……そんな時に声を掛けてくれたのがつくしちゃんなんだ。あえっと、こっちの黒髪のヒト」

「……そっか」

 

 動揺してしまう。運命のいたずら、とでもいうのだろうか。つい最近バンドに対する印象がよくない、と考えていたのに。と、そこでましろは僕の揺らぎに気づいたようで心配そうに首を傾げていた。

 

「どうしたのカイくん?」

「……いや」

「カイくん、独り暮らしにしてからますます表情がわかんなくなった」

「ごめん」

 

 そうじゃなくて、と言われるけれど僕には謝ることしかできなかった。ましろは悪くない。むしろまた一歩自分のために頑張っているんだ、誇らしく思うことはあっても嫌な顔なんてしてはいけない。いけないことはわかってるんだけど。

 

「ごめん、バンドに……いい印象がなくて」

「なにかあった?」

「隣の部屋のヒトが、バンドマンで」

「そうだったんだ……も、もしかして騒音とか?」

 

 久國さんは家じゃ弾かないみたいだし、今井さんもほんの時々しか部屋で触ってるのを見たことも聴いたこともない。たぶんヘッドホンか何かで対策をしているとは思う。だからうるさいってわけじゃないのに、なんで僕はこんなに毛嫌いしているのだろうか。

 

「……カイくんは」

「うん」

「バンド、やめてほしい?」

「そんなこと……」

 

 そんなことない、とすぐさま否定できなかった。もしかしたらバンドを始めてしまったら、ましろが久國さんのように僕の傍からいなくなってしまう、と考えたのかもしれない。いや実際、ましろはどんどん前に進んでいる。安寧から一歩外へ、冒険と挑戦の旅へと。

 ましろ、僕はね──もしかしたら、キミという船にとっての風には、なれないのかもしれない。それを感じてしまったのか、ましろはそこから先、バンドの話は一切しなくなって、必然的に学校の話を一切しなくなった。彼女にとってバンドは既に、学校生活の大半を占めていたから。

 

 

 




やったー、評価だー! ☆10ひとつ、☆9ひとつ、ありがとうございます! これにて評価バーが透明じゃなくなるまであと一名となりました!
あとあっという間に50お気に入りありがとうございました! これからも感想、評価、お気に入りは無限にお待ちしております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。