今回はマンネリ化防止のましろ視点だ!
カイくんは、優しい。普段はクールで表情が全然動かないけれど、いつだってわたしのことを考えてくれている。余裕があって、紳士で、カッコいいのにわたしなんかをずっと好きでいてくれるトクベツなヒト。でも、バンドを始めたってのを聴いた時のカイくんのリアクションは、今まで見たことがないものだった。お隣さんと何かあったのかわからないけれど、カイくんはバンドがあんまり好きじゃないみたいだった。
「はぁ」
「どうしたのましろちゃん?」
「あ、つくしちゃん……わたし、バンド辞めなきゃいけないかも」
「えっ! と、突然どうしたの?」
──月ノ森の空き教室にて、つくしちゃんとわたしがいて他のメンバー待ちをしている最中も、もしかしたらバンドを、Morfonicaを辞めた方がいいのかなと考えてみる。でも、嫌だよ。それでカイくんに嫌われちゃうのも嫌だけど、せっかく見つけたわたしにとっての真昼の月を失うのは……怖い。
「た、たたた、たっ大変だよ! 透子ちゃん!」
「どしたふーすけ? 今のリズム、練習してたやつ?」
「そうじゃなくて!」
「騒がしいわね」
「どーしたの~?」
結局、カイくんには悪いけどやっぱりバンドはやめられない、と考え事に結論をつけて周囲を見渡すと、いつの間にかみんな揃っていて神妙な顔で何かを話し合っていた。どうしたの? 何かあった?
「何かあったじゃねーよシロ! 今度は何があったんだよ!」
「へ?」
「辞めちゃうなんて言わないで!」
「そーだよ、せっかくこんなに楽しいのに」
辞める? あ、なんかさっきつくしちゃんにそんなことを訊かれたかもしれない。なんとか訂正をしようとするけれど、わたしはカイくんにもよく言われるようにあんまり嘘をつくのが得意じゃないから。色々バラしてしまった。カイくんのこととか、色々。
「え、マジ? シロ、カレシいんの?」
「うん、大崎海斗くん、小学校の頃から一緒なんだ」
「え、ええ!」
「カレシ、わ、私いないんだけど……いるのがフツー?」
「女子ばかりのこの環境ならば、いない方が
「つか写真ある? 見せて!」
うわぁ、すごい食いつき。女子校とかって恋バナが好きって本当なんだなぁ。わたしは、あんまり恋の話とか得意じゃない。そもそもわたしにとって恋はカイくんそのもの、みたいなところがあるから。ずっと昔から一緒にいて、一緒に大人になって、いつか結婚するのかなって漠然と考えてるくらいに他のヒトということを考えてなんていないから。ただモニカのみんなは友達、そうわたしは少なくとも友達だと思ってるからスマホを操作して別段加工とかもしてないけど、わたしが中学を卒業した時の写真が出てきた。
「え、カッコよ!」
「背高いねー」
「百八十……んっといくつだったっけ。確か九十に近かったと思う」
「でっか! ましろちゃんのカレシでっかくない?」
「……確かに、写真で見ても倉田さんとの身長差がすごいわね」
あれれ、なんかこういうのに興味なさそうなるいさんにまで食いつかれてる。やっぱりるいさんみたいなヒトも、恋愛事には興味があるんだろうか。気になったけれどただ単純に感想を言っただけなのかもと考えて言葉を口にすることはできなかった。
「でもさ、なんか顔が……無?」
「ちょ、透子ちゃん!」
「いやいやふーすけ、コレどう見たって無でしょ、ルイ並み! 証明写真じゃん!」
大丈夫、透子ちゃんなら絶対言うと思ったから。サラっとるいさんまで巻き込んだけど当の本人はただ単純に感情表現に表情筋を使う必要性を感じていないだけでしょうと言い放っていた。わたしも、最初にるいさんと話した時にカイくんとどっちが表情動かないかなぁって考えたくらいだもん。
「笑ってる写真とかねーの?」
「ん、ないよ。カイくんは基本この顔だから」
「やば」
「……じゃなくてさ、このカレシがバンドを辞めさせようとしてる、みたいな話じゃなかったっけ?」
「そうだよ! 目的忘れてた!」
まだ誤解されてる、どうしよ。なんとか色々説明をして……ごめんねカイくん。なんかいつの間にか独り暮らししてることとかお隣さんがバンドやってることとかも話しちゃったけど、それでバンドやってるのは嫌なのかなって悩んで、やっぱりわたしはモニカが大事だから辞めないってことをカイくんに伝えようとしてるってところまでで漸くわかってくれた。
「あーでもさ、なんで隣のバンドマン? の影響でモニカのバンド活動まで嫌な顔されなきゃいけないんだよ、そこはシロが文句言うところじゃね?」
「で、でも」
「けれど、私たちとその隣人のバンドが違う、という証明はできないわよ。そもそも倉田さんの話では隣人と何があったのかは言わなかったわけでしょう?」
「……うん」
「なにか事情があるかもーってるいるいは言いたいんだね」
「そもそも事情や理由のない嫌悪なんて、そうそう向けられることないわよ?」
それが虫や生理的に受け付けないものならまだしも、と付け加える。隣人の影響で苦手になったということは少なくとも隣人に関するなにかしらの理由や事情がある。だからわたしが悩むべきは辞めるか否かではなく、どうやってその隣人が起こしたトラブルとわたしの活動を違うと認めてくれるかだとるいさんは教えてくれた。
「あ、ありがとうるいさん」
「お礼を言われることでもないわよ。桐ヶ谷さんの憤りも、理解はできるから」
「だよね……」
わたしも、できればカイくんにバンドの話をしたい。それで笑ってほしい。わたしにとってモニカは、ずっと探していた
「んじゃーカンタンじゃね?」
「何が?」
「アレだよ、百聞は一見に如かずって言うじゃん? アタシらのチョークールな演奏聴かせれば、違いなんて一発っしょ!」
「技術でどうにかなるものなら、ね」
「うっ、じゃ、じゃあなんか案あんのルイは?」
「そうね……おそらく問題は技術ではなく素行、でしょうね。隣人トラブルというと相手の性格があまりに破滅的だとか、周囲を顧みないだとか、そういったものが楽器やバンドに紐づけられそうね」
「素行……つまり?」
「シロちゃんが悪い友達に付き合わされて不良になってるんじゃないかって心配してるかもってとこかな?」
すごい、るいさん探偵さんみたい。それにすぐさま理解を示してわかりやすく噛み砕いてくれる七深ちゃんもすごいけど。二人の言葉にようやく理解が追いついたところで透子ちゃんが、んならもっとラクショーじゃん! と笑った。
「え?」
「なんだよふーすけ」
「確かに、私も同じ懸念に思い当たったわ」
「あ?」
「あ、あはは……確かに透子ちゃんは見た感じ不良っぽいってのは、私にもわかるなぁ」
「うそ!」
自覚ないの? とつくしちゃんとるいさんに驚かれて、七深ちゃんは苦笑いをしている。そうなんだよね、不思議な雰囲気があるけどパッと見た感じは普通の七深ちゃん、クールでミステリアスだけど真面目で不良な雰囲気とは程遠いるいさん、同じく真面目なつくしちゃんに比べて、透子ちゃんは……イマドキというか、ギャルっぽいというか。
「なんでアタシめっちゃディスられてんの?」
「普段の行い、かしら?」
「ま、まぁまぁ……透子ちゃん、話せばいい子だーってわかるし」
「……話せばね」
「シロ?」
「なんでもない、なんでもないよ」
しかも中途半端に写真だけ見せちゃったせいで余計になんだけど、見た目印象だけで決められたらもうお手上げなんだよね。つまり話せばわかるのなら話してもらうしかない。これは完全に私事になっちゃうけど、透子ちゃんにはカイくんの説得というかカイくんが安心してくれるようにしてほしい。
「アタシが? まぁ……いいけどさ。どーなっても恨みっこなしなら」
「その時は私から話すから安心してちょうだい」
「ということは全員参加、ってことかな?」
「よ、よしっ、なら私もリーダーとして頑張るねましろちゃん!」
こうして、モニカ全員でカイくんにわたしは不良になったわけじゃないよって言いにいくことになった。問題はカイくんが意外と女のヒトが苦手ってことなんだけど。きっとそこは問題ない、はず。たぶん最初は目も合わせてくれない気がするけど。
カイくん、わたしね──モニカなら今度こそ本当にトクベツな何かを見つけられるんじゃないかなって思うんだ。香澄さんと出逢って、モニカに出逢って、自分の世界を表現することがこんなに楽しいんだって思った。わたしだけが歌う、わたしにしか歌えない歌を。
「わたしは大丈夫だからね、カイくん」
だからわたしはわたしの新しい挑戦のために、月ノ森へ進学したっていう冒険が無駄じゃなかった、よかったと思えるようにするために、カイくんに向かい合おうと思う。カイくんが大好きで大事だからこそ。わたしはもう、守ってもらうだけじゃないよってことをカイくんに伝えたいから。
評価者様が一気に増えまして四名から九名に、無事評価バーに赤色が点灯いたしました本当にありがとうございます。低評価は安心と信頼のテンプレ文章だったのでどうでもいいとして、☆10が5つ、☆9が3つとなりました。そして、もうすぐお気に入り登録者ももうすぐ百人行きそうなところで、五話でここまで伸びたことを嬉しく思います。
あと毎話感想書いていただいている方もありがとうございます。また時間のある時にお返事させていただきます。